人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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59 もっと覗いときゃ良かった!

 数日かけて、いや、たった数日でと言った方がいいか。俺は俺の持てる村を守る為の知識を全て本にまとめ、シターシュさんに託した。いくら少し前に一度やったからって、あの時1年かけたものを数日で終わらせるなんて、正気の沙汰じゃない。でも、やり遂げちゃった☆

 

「はぁ……つっかれたぁ」

「治癒のポーションあんだろ」

「身体の不調は治っても気持ちは晴れないんですー」

「ずっと拠点にこもって、指南書を書いてくれていたものな。ありがとう、ルゥパさん。これでより我々の生存率が上がるだろう」

「腕と手と腰を酷使した甲斐がありました」

「そのまま壊れちまえば良かったのに」

「治癒ポで治すだけだわ」

「治癒ポって略すのか」

 

 ヨシトさんがたった1日で建てた木造作りの仮拠点の前で、俺は努力の結晶をシターシュさんに手渡した。横穴拠点で夜も寝ずに書こうとしたのにヨシトさんに「寝ろ」って邪魔されたせいで、書くのに予定より3日伸びちゃった。おかげで雪玉ちゃんにお願いした採掘場は完成に近づいたし、毎食ヨシトさんの美味しくてあまり見かけない手料理をいただけたし、シターシュさんは畑も作れて畜産の為の動物も集めきっていた。「外仕事に慣れてるんですね」って言ったら、「家業だったんだ」ってニッコリ、だけど寂しそうに言われた。

 

『続けられて良かったですよね』

『そうだな』

 

 っていう、村の生き残り同士らしい会話をしたのが、ここ数日での印象的なやりとりだった。

 

 時間はもうすぐお昼どき。今日のお昼ご飯はシンプルにベイクドポテトと焼き魚だって。

 随分と平たい銅の鍋で海水を煮詰めて塩を作ってるヨシトさんの後ろで、俺は焚き火台でベイクドポテトを焼いて、シターシュさんは魚の処理をする。鱗も内蔵も俺は焼いちゃえば気になんないけど、食に強く感心を持っているヨシトさん的には許せないらしい。食感が悪いだとか苦いだとか。美食家め。確かにヨシトさんの料理は美味しかったから、国の売りにして人を呼び込めばいいんじゃないかな。

 ベイクドポテトが焼きあがったら、次は塩を振った半身の魚を端にセットした。焼けてくるといい香りが漂ってきて、ついヨダレが……!

 

「あぶら……種……カボチャ、スイカ……絞る……ヒマワリ!」

「あ、あの、ヨシトさん?」

「気にしないでくれ、いつものことだ」

 

 魚が焼けて油が浮いてくる様を眺めながら、ヨシトさんがブツブツ呟きだした。いうて付き合いが3ヶ月くらいしかないらしいシターシュさんが『いつものことだ』って言うってことは、結構頻繁に思考の海に潜っちゃうっぽい。俺を見てるようで気まずい。って思ってたら目を急にかっ開いたヨシトさんが畜舎の方を見た。

 

「牛脂! ラード! 鶏油!」

「なんの暗号?」

「突拍子がないところが、ヨシトのいいところだ」

 

 最後に「それならバターでやっちまえー!」って立って叫んだヨシトさんと、それを笑ったシターシュさん。分からず取り残された俺は、とりあえず魚の焼き具合を見た。うん、いい焼き目。ひっくり返そ。

 

 無事に焼きあがった魚とベイクドポテトで昼食をとる。ヨシトさんは相変わらずブツブツ何かを言ってたから、シターシュさんに話題を振った。

 

「シターシュさん、シターシュさんは、どんな国を作りたいですか?」

「おお、結構重要な話をするなぁ」

「こんな時しか聞けないかなって」

「確かに。これまでは各々別れて色々とやることがあったからな。そうか……、どんな国、かぁ!」

 

 溶けたバターが染みたベイクドポテトに齧り付いたシターシュさんは、彼女らの仮拠点である木の家を見上げた。この2階建ての仮拠点から始まる国の歴史は、何を目標にして、この土地に刻まれていくのだろう。なんか、ワクワクすんなぁ!

 考え込んでいたシターシュさんは形の良い顎を撫でて、ニッコリ笑みを浮かべる口を開けた。

 

「色々と飛ばして理想を言うならば……。誰もが個性を潰されない、否定されない、心の故郷のような居場所。……かな」

 

 言った後、彼女は少し照れくさそうに吹き出して笑った。個性、かぁ。

 

「それはまた、どうして?」

「……今の奇行を見て、ヨシトが変わり者であることは分かったと思う」

「初対面でカボチャ被ってた時点で知ってました」

「いや、あれはエンダーマン対策……まぁ、うん、そうだったな」

 

 やっべ、話の腰折っちゃったな。てか、あのカボチャマスクにはそんな役割背負わせてたのか。いつか……活用の機会なんて無いか。意識をシターシュさんに戻す。彼女は未だにブツブツと何かを呟いているヨシトさんに目をやって、ほんの少し俯いた。

 

「私は、奴の閃きやその情報を整理している最中の仕草が好きなんだが……。村の連中の大半は、あまり好意的では無かった。煩いのが、こちらが要領を得ないのが好ましくなかったんだろう。それはヨシトも理解していて、私という存在が無ければとっくに出て行っていたと語っていた」

「……だとすると、すごいですね。あまりいい思いをしていない村なのに、襲撃の際には第一線で戦って、守れなかったと言って泣いていたんですから」

「そうなんだよ。だから私はヨシトが好きなんだが」

「おっと、急な告白」

 

 だいたい察してたことをハッキリ言われて目を丸くする俺の横で、ヨシトさんが「グッ!?」とかやってた。なんだ? 純情かぁ? 両思いの癖に告ってねぇのかぁ? 居た堪れないらしいヨシトさんがそっぽを向いて焼き魚にかぶりつくのを、シターシュさんと2人でニヤニヤ見てた。耳まで真っ赤だぜぇ~?

 揶揄った後で、シターシュさんは微笑んだ。

 

「だから、理想は個性の開放が認められた国、というワケだ。勿論他者に迷惑をかけてはいけないから規制は設けるだろうが……。その決まり事を守っているうちは、自由であっていい。そんな国を作りたいな」

 

 風が、理想を語ったシターシュさんの短い金髪をなびかせる。陽の光が当たりキラキラしていて、まるで祝福を受けたようだった。「かっこいい」と、素直に感想が口から溢れた。

 

「プランが俺よりもしっかりしてる。シターシュさんの目標は必ず達成できますよ!」

「フフッ、ありがとう。努力を欠かさず人助けを当然とするルゥパさんの目標も、必ず達成される。私が保証しよう」

「! ありがとうございます!」

 

 シターシュさんに祝福されたら、絶対出来る気がしてくる。勇気が湧いてくる! ……。

 

「ヨシトさんは、どんな国にしたいです?」

「ついでにか……」

 

 実際ちょっと忘れてたっていうか、上手い渡し方が分かんなかった……。ちょっとだけ恨めしそうに睨んでから、ヨシトさんは空を軽く見上げて言った。

 

「俺には、そういった崇高な目標は無いな。あるとしたら、お嬢の理想だ」

「ヨシトさんらしいなぁ。……とは言いつつ~?」

「なんだそれ。あー、そうだなぁ」

 

 話を引き出そうと振ったら、彼は今度は手元のベイクドポテトを見て、顔から感情を無くした。

 

「人は、生物は、腹が減ると余裕が失くなる。複雑なことは考えられなくなって、どんな性根であろうと怒りっぽくなる。すると、争いを生みやすくなる。満たされている状態なら流せるモノに、なんでもなかったものに摩擦が生じて、ぶつかり合ってしまう。そして、互いに殺し合ってしまう。してしまった」

 

 自身も巻き込まれてしまった惨劇を思い出しているのだろうか。険しい顔をするヨシトさんは、少しだけ難しい言葉で真理を言っている。それから、顔を上げて力強い笑顔をしてみせた。

 

「争いを避けるなら、腹を満たしてやればいい。心まで満たされる食事を提供すればいい。労働を対価にな」

「なるほど。だからヨシトさんは常に考えて、魚の処理も普通の人より丁寧にしているんですね」

「あぁ。働いてもらうんだから、そいつが知っている食よりももっと美味い食事じゃないとな。──という訳でだ、ルゥパ。もう暫くここでやってかないか?」

「お前、今さっき俺がシターシュさんに祝福されてたの聞いてなかったのか?」

「ルゥパ自身はポーション作りの達人だし、雪玉ちゃんは労働力として理想的だ! ラードで揚げたトンカツ食わせてやるから!!」

らーどとんかつも聞いたこと無いんだけど……こわ……」

 

 ……でも、ヨシトさん美味しいものしか作んないし、それを食べるまではもう少し、ここで協力してあげてもいいかな。明日には出て行くつもりだって今言おうとしてたのに、無意識に嗅ぎつけてんのかな、やっぱこっわ。

 

「まぁまぁ、ルゥパさんにはルゥパさんの果たさねばならない目標がある。力になってくれるなら確かに心強いが、無理に引き止めてはいけない」

「……お嬢が言うなら」

「料理を餌にここに定住させる気満々だったのかよ」

「でもまぁ、ソースも千切りキャベツもまだ無いし、完成したらまた食べてもらう、みたいなんでもいいかもなぁ」

きゃべつ……。またなんかよく分かんないこと言ってる……」

 

 あ、分かんない繋がりで言ったら。

 

「そうだヨシトさん。参考になるかは分かりませんが、いつか防衛面の強化の話で言ったハナハタ村では“パンケーキ”とか“プリン”とか“フレンチトースト”とか、俺はあんまり聞いたことの無い料理が結構あったんで、この作業が落ち着いたら見に行ってみるのもいいんじゃないですかね」

 

 提案したら、ヨシトさんは目を限界までかっ開いてガバッと立ち上がった。こっちもビックリしたけど、声も出ないヨシトさんはもっと衝撃を受けてるようだった。やがて息の仕方を思い出したヨシトさんはゆっくりと座った。

 

「……その、フレンチトーストを作った人は、どんな人だった?」

「え? あー、俺がハナハタ村に着いた時点でその人は5年前に旅立ってたんで、面と向かっては会ってないんすよね。でもその人、ハナコさんが残していったものは多くて、防衛面の強化の他にも服のデザインとかスイーツとか、そう、ハニカムから石鹸作ったり、巨大なホテル建ててレッドストーン回路で明かりをつけたり消したりってやつ開発したり、でっかい風呂を温める装置とかも作ってましたね。本当、俺が見てきた中で一番豊かな村でしたし、その基盤を作ったハナコさんは偉大だと思います」

「そうか。ヨシト、行ってこい。これは投資だ、エメラルドは惜しみなく使っていい。私はウシたちの世話があるから残る」

「分かりました。トロッコの線路引いてきます」

「海の上に!?」

「鉄が足りんだろ。足で行け」

「指摘するところソコ?」

「ルゥパ、道案内に雪玉ちゃんを借りてっていいか? お嬢1人をまさかここに置いていけない」

「えっ、え。い、いいですけど……」

「恩に着る」

 

 え? 俺変じゃないよな? 多数決的に俺の方が変なこと言ってるみたいな感じになってる。

 

 

 フットワークの軽いヨシトさんは、昼食を平らげたら直ぐ準備して行っちゃった。元々1人旅してたらしいから、サバイバルの心得があるんだろう。だとしても3日で戻ってくると豪語するとは思わなかった。往復の移動で2日かけるとして、見るの1日で済ますの? それとも食事関係だけ? いや、1回で済ますワケじゃないんだろうな。線路引くって言ったってことは、交流を持とうとしてるってことだろうし。資材どんだけ溶けるんだろうか……。でも行き来が楽になるのは良い事だしなぁ。もう1つ鉱脈見つけてくるか。

 

 雪玉ちゃんとトンカツっていう未知の料理を人質に取られて、滞在期間が伸びた国づくり。午前はウシやニワトリにヒツジ、ブタといった動物たちの世話と畜舎の掃除をして、午後は会議してそれぞれこなす事をする。ヨシトさんが居た時とさほど変わらない作業を行っていた。

 今日は土地の整地と拡張も兼ねて木を伐採して倉庫のチェストにせっせと運んでた。対してシターシュさんは平たくした土地を一直線に、ちょっとだけ掘って道を作ってた。仮拠点を中心にした区画整理とのこと。商売する所、人が住む所、農畜産するところに分けて、人の移動を楽にするんだって。畜産する所が大きく取られているのは、動物たちが作物ほど成長が早くないからだろう。狭いところに押し込んだら病気になりかねないし、そもそも肉が不味くなりそうだ。だから国の半分は畜舎になりそうだな。それでも、いつの間にか出来た村じゃなくて1から計画して作るんだから、こういう区切りのある村が、違った、国がこの世に1つくらいあってもいいよな。

 

 原木がそこそこインベントリに溜まったから倉庫に向かおうと顔を上げたら、日が傾いてきてるのに気が付いた。……まだ、ヨシトさんは戻ってきてない。倉庫のチェストに原木を突っ込みながら、左目を瞑った。ヨシトさんを道案内している雪玉ちゃんの目を借りる為に。

 

「!」

 

 左目を通して雪玉ちゃんの見ている世界を覗いたら、ヨシトさんが走ってるのが見えた。ただダッシュしてるんじゃない。絶えず幅跳びをしながらだ! めっちゃ個性的な走り方だけど、不思議と速度は悪くない。ポーション使わないで長距離を走る俺よりスピード乗ってるかもしれない。そのおかげか、たまたま遭遇してこちらに気付いたクリーパーのことも振り切ってた。……景色はこの辺りのものだったから、もうすぐ帰ってきそうだな。

 チェストに木材をしまい終わったら、夕飯を作って2人の帰りを待った。今日は帰ってくるお祝いにちょっと豪勢だ。バタートーストにマッシュポテト、ニンジンのバター煮込み? にメインはステーキだ。

 ……ははっ、別れて一ヶ月経ったか経たないかくらいで、雪玉ちゃんだけでも戻ってきちゃうなんて、ハナハタ村の皆、笑ったろうなぁ。あいつ、意外とまだ近くにいるぞ! って!

 

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