人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
何も、俺だけが元に戻す方法を探してるって訳でも無いはず。悲劇の数だけ、俺みたいな奴が居ても、可笑しな話じゃないじゃん?
ゾンビ化した人間を元に戻す方法を、もう既に他の誰かが発見してるかもしれない。方法が確立してなくても、誰かが研究してるかもしれない。俺が旅立つのは自分が開発するだけじゃなく、その情報を掴む為でもあった。
神父さんと一緒に修行兼冒険してた時期があるから、割と近くの村がどの辺にあるかとかは知ってる。まずはそこから情報を集めることにした。
近くっつっても山を1つ越えた先にあるそこは、俺たちと同じようなことにはなってなかった。しっかり防衛できてて羨ましいなぁ……。てか遠くからでも分かる人の活気が懐かしくて、切なくて、なんか泣けてきたわ。まぁ、そんなヒデェ顔じゃ情報収集どころじゃねぇから、村の敷地に入る前にしっかり取り繕った。
食堂のおばちゃんから聞き出して、この村で本の多い家に事情を話して上がらせてもらった。けど、あるのは植物・動物・魚・鉱物の図鑑とか料理本とか冒険譚とか、そんなんばっか。そんな中での『モンスターの倒し方』ってタイトルの本には期待したけど、純粋にゾンビと戦う時の心構えしか書いてなくて、期待した情報は何も無かった。
ゾンビになった人間は絶対に戻らないから、とにかく心を殺して頭を潰せ、首を撥ねろってさ。んなの、知ってるっつの。俺が知りたいのは“人間への戻し方”なんだよ。なんなら、“ゾンビはどこから来るのか”って根本が書いてくれててもいいのによ。
気を落としつつも、生きてる情報と考え方と意見交換できる場所を求めて、夜の酒場に乗り込んだ。ヘムスタッド村でもこの村でも15歳から酒飲んでいいから、18歳の俺は誰にも咎められることなく飲める。だからって酒そんなに得意じゃないけど。
そしたらなんか、よそ者が珍しかったのか、酒が入って陽気になった野郎共に囲まれた。まず聞かれたのが「なんでそんな目立つ白いコート着てんだ」だったのは笑った。協力してほしいから、包み隠さず言ってやったわ。
「ゾンビになっちゃった恋人の家にあった革のケープを、コートにしたんだ。俺が旅する理由を、絶対に、忘れない為に」
って。この言い方、めっちゃキモい奴だってゼッテー誤解されたわー! 俺も酔っ払ってるわー!
サータちゃん家で散髪する時に使ってた、服に切った髪の毛が付かないようにする為に被ってた白い革のケープ。目立つからモンスターと勘違いするのを防いで攻撃されないとも思ったし、何より、簡単に持ち出せた思い出の物だったから。
「この髪も、彼女が切って格好良くしてくれたんすよ。このコートは、そんときにケープとして使って、て……。みんな、も……っ!」
言いながら、この革のケープを村の皆も使ってたって思い出して、泣いた。
その翌日。なんで、どうやってウチの村が滅びたのかをこの村の村長に伝えてから、また懲りずにゾンビの話を出した。けどやっぱ俺の知ってる以上の情報は引き出せなかった。まぁ、近くの村ならこの結果で当然だよな。知ってたら神父さんがいち早く取り入れてたはずだもん。
1つ山を越えたくらいじゃ、生えてる植物も住んでる動物も魚も変わんないから、素材になるものが一緒。つまりこの辺りに留まる理由は無い。ここから近い村のことを聞いてから、そこを目指してまた旅立った。
久しぶりに人に接してからまた別れたからか、夜にはメッチャ人肌が恋しくなって、また泣いた。
そんなんだからなのかなぁ。見たこと無いのが、見え始めた。
月が夜空の天辺に登った頃。たまたま見つけた洞穴の中で乾燥させたオークの樹皮でポーションを実験してたら、そいつはいきなり現れた。
タンポポの綿毛のような、ちぎれ流れる白い雲のようなそれ。丸くて白くほんのり光って、手のひらサイズのそれは、触れたらきっとあったかい。移動するたびに光の尾を引くそれには、スイカの種みたいな小さくつぶらな黒い瞳が一対あった。なんだ、なんだよ、この愛らしい生き物は!?
急に現れた驚きと、それを許せるくらいの可愛さの2つの衝撃で固まってたけど、醸造台の丸底瓶に抽出液が落ちたトプトプトプって音で意識が戻ってきた。
「え、だ、誰ぇ……?」
情けない声で質問すれば、オークの樹皮を乾燥させたヤツの上でふわふわクルクル回ってたコイツが、こっちを見上げて、あったらしい小さい突起みたいな手で俺を示した。
「え?」
後ろを見ても、月明かりに照らされる見晴らしの良い林しか見えない。魑魅魍魎すら居ない。小さな白いコイツに向き直っても、変わらず、腕を上げていた。
『俺はお前だ』と、言わんばかりに。
え、何この子、超怖いんだけど。めっちゃ可愛いのに、めっちゃ怖いじゃん。
怖かったからとりあえず、差し出された手を摘んで「よろしく」って言っといた。なんも表情変わってないのに、口なんて無いのに「よろしくね」って言われた気がした。え、何この子、超可愛いんだけど~! も~俺の子にする~! ねぇ君何食べて動いてるのー??? 俺ー? ポーション~!
この白の子を肩に乗せて次の村に行ったら、めっちゃ女性と子供から人気者になった。白の子が。俺よりモテる小憎たらしいコイツは、あげくに“雪玉ちゃん”、なんて可愛い名前を子供たちから貰って、気に入ってやがった。チクショウ、確かにタンポポの綿毛とか雲とかより、雪玉が一番近い表現じゃねぇか。思いつかなかったの悔しい。てか、なんだよ、お前そんなんがいいのぉ? 俺の名前から取って、“ルーちゃん”でもいいじゃん、ねぇ? だめぇ?
地味に“俺にしか見えない存在”じゃなかったの、なんか、変な感じする。いくら俺が触れられたとしても、人肌恋しすぎる俺の脳が苦肉の策で生み出した、幻覚だと思ってたのに。そうじゃないならコイツ、どっから湧いてきた? とか考えても、また訊いてみても、コイツはきっとまた俺を指差すと思うけど。
でも、これで俺は、ひとりじゃ、なくなった。
故郷から近くの村じゃゾンビについての情報なんて1つも無くて、歩いて行ける距離をちまちま情報探すのがなんかダルくなってきた。いっそ遠くに行った方が変化があって楽しそうだから、ポーション売った金で小さいボート買ったわ。建前上1人でしか乗らないから、作業台で作れるヤツの方がずっと安いけど、帆が付いててなんかオシャレだったし、経済回した方が良いからね。
……神父さんが「この村以外でこのポーションを他の人に委ねてはいけませんよ。緊急事態を想定したレシピですから、市場に出回っているものより3倍は効果が強いんですから」って言ってたけど。でもそれってスプラッシュの方の話じゃん? 耐火と水中呼吸のポーションは飲むタイプで配る時に薄めてるし、だ、大丈夫っしょ!
不安も今は捨て置いて、心機一転! 海を渡るぜ! 大陸変えりゃ、新しいもん、見たこと無いもんがあるだろ! 情報も、素材も!
動力源は風とオール。意外と力持ちな雪玉ちゃんたちに舵もオールも任せて、いざ、大海原へ! 潮風が気持ちよくて、青い海が太陽の光を弾き返してキラキラ輝いて、眩しかった。
初めて見た魚とか海藻とかに胸がときめいて、ゾンビが水の中に居るのなんて見た事無かったからメッチャ驚いて、ソイツがなんか槍っぽいのを持ってたから悲鳴上げて逃げて、沈没船を見かけて気を引き締めた。
1つ目の魚っぽいモンスターがイカにビーム撃ってたから巻き添えが怖くて逃げて、海底に明らかに人が作っただろって建築物があるのが信じられなくて、ワクワクして、探検したくなってしょうがなくなった。
も、もしかしたらさ! もしかしたら! あの沈没船の中にヒントがあるかもじゃん!? あの海藻が意外な効果を発揮するかもじゃん!? あの魚のモンスターから取れる素材で新しいポーション出来るかもじゃん!? あの神殿っぽいとこでお祈りしたら、戻るかもじゃん!? だからちょっと寄り道したって、無駄にならねぇよな! いや俺誰に言い訳してんだ?
喉が渇いたからって上陸したトコは暑い日差しの砂漠地帯だったけど、構わず拠点を構えた。だって俺多分、モンスターに襲われねぇもん。今まで襲われてこなかったんだから、この新しい大陸でも多分、変わらず襲われねぇだろ。だって、俺が俺のままなんだから。
持ってて良かった1人用テント。それをパッパと立てて、ポーション用と普通に飲む為の水の確保に乗り出した。
雪玉ちゃんと一緒に醸造台で海水を煮沸して、出来た蒸留水を別の丸底瓶に回収してたら、当たり前みたいな顔して増殖してる別の雪玉ちゃんがあたふた慌てて俺を呼んだ。周りに人里が無いか探しに行ってもらってたけど、なんか、緊急事態っぽいな。
無表情なのに感情表現が器用だな~って、かわいいな~って場違いにもデレデレしながら手招きする雪玉ちゃんを追いかけてたら、砂漠の向こうから、小さな人影がこっちに向かって駆け寄ってきた。
えっ!? こ、子供!? 子供が1人で、このクソ暑い砂漠を走ってる!?
俺に気付いた子供は、目深に被ったフードをとっぱらって、転んで、叫んだ。
「たすけてください!!」