人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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未来の国王視点


61 再出発に心強い味方

 フライドポテトとトンカツという、素晴らしい発明をいただいた翌日。空は青く晴れ渡っていた。ルゥパにとっては良い出発日和だな。……雪玉ちゃんも居なくなってしまうのは、だいぶ寂しいが。

 しかし、これも仕方の無いこと。彼が彼の目標を果たさんとする限り、ルゥパはここにはいられない。だから、私は餞に言葉を送らせてもらおう。

 

 わざわざ拠点まで挨拶に来てくれたルゥパの笑みは、やはりいつもと違って寂しげだった。出会って1ヶ月経つか経たないかでも、我々は確かに深い交流を果たしたものな。あぁ、やっぱり惜しいよ。

 

「世話になったな、ルゥパ。本当に、何から何まで。おかげで私とヨシトはこんな立派な拠点を、安全地帯を設けることが出来た。感謝する。ありがとう、ルゥパ」

「ゾンビのことから、拠点づくりや伝手まで、本当に助かった。後は俺たちでやっていく。安心して旅してこい。……ありがとうな」

「ふふっ、どういたしまして。……なんか、改めて言われると、別れって感じが強くなりますね」

「正真正銘、お別れだからな」

「実感湧いてきて、若干鬱だよ」

「さっきまでの言葉は頼もしかったのに!」

 

 少し下に目線をやっているルゥパははにかんでいる。笑って茶化しているのは、照れているからか。やはり、可愛らしいな。叫び声は情けないし。そこが親しみを覚えさせてくれる。

 気持ちを切り替えたのか、顔を上げたルゥパはパッと明るい笑顔を見せた。

 

「俺の協力があったからというのは否定しませんが、それよりもお2人の努力があったから、こんな立派な、あの、その、農場になりましたよ」

「ハハハ! 確かに、今はまだ国どころか村でもなく、農場だな!」

 

 骨粉やコンポスターを使えば縮小できるとしても、育てる作物の種類を増やせば畑の面積は広くなる。そして作物に比べれば当然育成日数の多いウシやブタといった家畜の為には囲いを広くしなければならない。そしてそれらの世話をする人間はたったの2人。村とすら名乗れないな!

 ヨシトが「言ってくれんな……」と苦言を呈すが、的を射た例え故か、語気は弱かった。肩を震わせて笑いつつ謝ったルゥパは、ニッコリと力強く笑みを浮かべた。

 

「この農場から、お2人から始まる国がどんな姿になるのか、楽しみにしてます」

「! ハハハッ、あぁ、あなたの期待に応えられるような、立派な国にしてみせよう! ……だからな、ルゥパ。お前に渡したいものがある。ヨシト」

「はい」

「え?」

 

 ヨシトから手渡されたものを見て、ルゥパは目を丸くした。

 

「これは、地図?」

「あぁ。この拠点を中心とした地図だ。いつでもこれを見て帰ってこいとの、お嬢の思し召しだ」

「言い方仰々しっ。……そうっすか。それじゃあありがたく貰っていきますね!」

「是非そうしてくれ」

 

 受け取ってくれたルゥパはまだまだ白いところが多い地図を一瞥してから、大事なものを扱うようにその手に持ってくれた。自分の足で歩いて埋めてくれ。地図の範囲から出たら新しく作って、繋げるのを忘れてくれるなよ?

 さて、仕上げだ。

 

「ルゥパ。私がここをどんな国にしたいかと語ったことを、覚えているか?」

「? ええ、はい。“誰しもが個性を潰されない、否定されない、心の故郷のような居場所”。でしたね」

 

 私からの問いかけにキョトンとしつつ、ルゥパは完璧に答えてみせた。ちゃんと覚えてくれているなんて、嬉しくなるな。フフッ。

 

「その通りだ。……だからな、ルゥパ。目的を果たした末に、居場所を求めることがあるなら。その時はこの国を第一候補にしてくれ」

「え?」

「共に故郷を失った者だろう? そのよしみだ」

 

 私にはヨシトが、ルゥパには雪玉ちゃんが居る。だからといって、かけがえのないものが突然奪われ失ってしまった痛みは計り知れないし、今笑っていようとも、辛くなかったわけがない。衝撃はいつまでも精神を蝕んでいき、心がまっさらに癒される事なんてありゃしない。一度歪んだものは、どれだけ直しても歪んだままだ。

 だから。

 

「ここを、あなたの心の故郷にしてほしい。何か辛いことがあった時、逃げ込める場所として思い出して欲しい」

 

 そしてその想いこそが、ルゥパの心の支えにして欲しい。力を込めた声で語れば、ルゥパは目を見開き、やがてエメラルド色の瞳を揺らめかせた。

 

「ありがとうございます! ゾンビから人間に戻す方法を見つけたら、ここに戻ってきます!」

 

 濡れたエメラルドの瞳は笑顔の際に細まり、煌めいた。

 

 

 

 見た事の無い新たな素材を求めて、探索しながら進むらしい。わざわざ林へ入って行った白い背中は目立っていた。それが見えなくなるまで見送ったら、振っていた手を下ろした。

 

「行ったな」

「行きましたね」

「まるで、嵐のような男だったな」

「そうですか? 俺は台風の目みたいな奴だなって思いましたよ」

「ほう、その心は」

「これからが大変だってことです」

「なるほど」

 

 確かに、村を襲撃で失ってからは怒涛のように苦労したが、ルゥパに出会うと途端に土地や知識にコネまで恵まれ、穏やかな生活を手に入れた。しかしこれからは労働力を一気に失う。サプライズプレゼントの鉱山を掘ってくれる雪玉ちゃんもいなくなってしまったから、ヨシトの言う通りだな。さて、どこから勧誘するか。その前に法整備も行わねば。ひとまず『盗むな・騙すな・殺すな。破れば処罰する』の精神だが、どう文章にしようか。

 

 色々考えながら、畜舎の清掃作業に入る。質の良い肉や素材の為には手を抜いてはいられない。まずは羊舎から取り掛かろう。

 

「そうだ、ヨシト。羊毛から布を新調したいから、水を流したら毛刈りしといてくれ。2匹分で十分だ」

「かしこまりました」

 

 丸石の床に敷き詰められた藁を糞尿ごと鋤でかき集め、コンポスターに入れる。出てきた骨粉は小麦畑に蒔けばまた飼料になり、畜舎に敷く藁になる。循環しているな。ヒツジの畜舎から手をつけ、一通り終えて奥の壁から水を流していると、ヨシトが口を開いた。

 

「それにしても、急な旅立ちでしたね。奴からすれば俺らに引き止められていただけで、急でもなんでもなかったんでしょうけど」

「……なんだ、バレたくなかったんじゃないのか」

「え? あ、もしかして、促しちゃったんです?」

「お前には探られると痛い腹があるからな」

「別にルゥパになら、というか、これから人を集めて国を作るんですし、明かしても良かったですね」

「それならそうと言ってくれ」

 

 ルゥパがヨシトの過去を探ろうとした時、思わず遮ってしまったじゃないか。あぁ、申し訳ないことをした。

 

「す、すみません。今、思い至ったもので……」

 

 謝りながら、ヨシトは水をバケツに回収して、ハサミを手に持ちヒツジのいる草原へ向かった。のんびり草を食んだり日向ぼっこしたり駆け回ったりと、自由なヒツジたち。その中でも気持ちよさそうに寝ているヒツジにハサミを翳すと、1度刃をシャキンと重ね合わせた。するとどうだ。横たわっているヒツジの毛が禿げ、すぐそばに羊毛ブロックが数個転がった。……私たち人間とヨシトの、数少ないが大きな違いだ。

 

「そろそろ、ヨシトが()()()()に来て、5ヶ月か。どうだ、慣れたか?」

「はぁ、何をもって慣れたと言ったらいいか分からないですが……。仕様の違いは、ある程度理解してきたと思います」

「……理解はしても、隠す気は相変わらず無さそうだが」

「今は俺とお嬢しかいませんし」

「これから人を増やすと計画しているのに、なんだその意識の低さは」

「あっ。……以後、改めます」

「そうしてくれ」

 

 まったくこいつは、私に降りかかる脅威からは守ろうとするのに、自分の事となると、てんで無頓着だ。

 

「これからは運命共同体になるのだから、心してくれ」

「!! は、はい!」

 

 発破をかければ、ヨシトは先ほどの個体の横で同じように眠っているヒツジを毛刈りしやすいように横にした。……扱いやすいなぁ。だから、ヨシトのことは私が守らねば。

 

 ヨシトの力は我々と似通っているようで違っている。ヒツジにハサミを翳せば毛刈りが、ウシにバケツを翳せば搾乳が出来る。木こりも採掘も我々より少しだけだが手早く、後ろを向きながらの作業は躊躇いが無い。つまり、作業効率がとてつもなく良いのだ。

 これだけでも利用価値があるのに、マグマで燃えても水に入って栄養を取れば直ぐになんともなくなる頑丈な身体や、崖などの高い場所から躊躇なく飛び降りられたり、クリーパーなどのモンスターに斬りかかれる胆力には目を見張るものがある。

 

 ここまでは我々の中にも、ルゥパやネザーへ素材集めへ赴く聖職者たちのようにその強さを得ている人間がいるだろう。……が、ならず者どもの襲撃の際に判明した、不死の性質。あれには酷く驚かされた。

 確かに急所を突かれ欠損すれば力尽きる。しかし、死体は一部モンスターのように煙となって消え、最後に横になったベッドから復活する。それは不死と何が異なっているだろう。少なくとも私という他者からすれば、何も変わらない。いくらヨシトが否定したとて、他者はヨシトにエメラルド(かね)を見出すだろう。

 

 そして何より。ヨシトのもたらす知識と概念は、この世界を大きく変えるものだ。

 ヨシトは、この世界よりも上の概念の世界から堕ちてきたと言っていた。そしてそれを裏付けるこの世界への深い理解と、私を納得させるだけの知識量を携えていた。まるで自身を『神』だと言わんばかりのそれを『世迷い事だ』と切り捨てることも出来るだろうし、変化を好まない者も中にはいるだろう。あぁやはり、ヨシトのことは私が守らねば。教育により一層力を入れよう。

 

 羊舎の水を掃け終えたら、隣の牛舎の清掃に取り掛かる。ヨシトも十分な量の羊毛ブロックを手に入れたらこちらに駆けつけ、羊舎の時と同じ手順で掃除していった。ヨシトたっての希望で一際大きい牛舎は掃除のしがいがある。

 

「でも、案外大丈夫そうですけどね」

「何がだ」

「俺の記憶だと、このゲームに玉ねぎやトマトは無かったはずなんです。つまりそれを何らかの方法で取り入れたのは先人のプレイヤーだと俺は思います。ハナハタ村に6年前まで居たハナコという女性も色々と知恵やデザイン、グルメのアイディアを残していったみたいですし。案外俺以外にも沢山、昔からプレイヤー、マインクラフターはこの世界に迷い込んでいるみたいです。それで今更俺が、しかもただの水泳インストラクターでしかなかった俺が持ち込んだものなんて、そんなに価値は……」

 

 「改めます」と言ったその舌の根も乾かぬ間に、一体何を言い出すのかと思えば、こいつ。

 

「そんな意識だから、私に目をつけられ、今まさに搾取されているのだぞ」

「搾取って、お嬢……。苦労を分かち合っている最中じゃないですか」

「お前な、死を恐れない無限の命を持つ肉体なんて、我々はいくら努力しようと手に入らんのだぞ」

 

 そこまでハッキリ言ってやっと、ヨシトは顔を青ざめさせた。ヨシトがクラフターであると知っているのはまだ私しかいないが、クラフターという存在を知っている人間は私以外にもいるに違いないのだ。

 

「お前の見解では、クラフターとは気ままに旅をして、建築、創造して、時に破壊を楽しむ者のことなのだろう? クラフターの根源とは恐らく、“自由”だ。今のお前は私とともにあることが幸福であり、それが可能な自由を謳歌している。命令してくる相手が私という存在だからお前は素直に従って幸福なのだろう。しかしそれが、全くの別人なら? お前が敬う価値を見い出せない人間から命令を受けたら? それに逆らえない状況にされたら?」

「……」

「自由を求めるクラフターであるお前には、苦痛でしかないだろうよ」

「……まったく、その通りです」

「己の価値と、それに伴う危険性を理解したら、もうそんな甘っちょろいことを言うんじゃないぞ」

 

 ヨシトが前世の進んだ知識を持っていようと、この世界に造詣が深かろうと。知恵は我々現地人も持っているんだよ。いくら排除しようと、悪いことを考える人間は湧いてくる。自分と周りの身を守る為には、無闇に力を使ってはいけない。あの襲撃で証明されたように、我々に比べて身体能力が多少高く、復活する肉体を持っていようとも、守れるものは少ないのだから。

 きつく言ってやったから反省するだろう。と思ったが、ヨシトは何故か私に不満げな顔を見せつけてきた。

 

「なんだ?」

「……お嬢が作りたい国は、そんな俺を自由にしてくれるものなんじゃないんですか?」

「う゛っ……」

 

 そ、そう言われると、自分の力不足を痛感せざるを得ない。私が教育すると決心したものの裏を返せば、ヨシトに不自由を強制するものだから。ヨシトを本当に自由にするなら、考えうる脅威から守れるように対策を、私が、しなければならない。ぐぅ……。

 たった一言で私を黙らせたヨシトは作業を再開させつつ、少し気まずげに口を開いた。

 

「自由には、力には責任が伴う。ですから、お嬢からのご指摘やお叱りの言葉は真摯に受け入れます。言ってしまえば俺はまだガキですからね。でも、愛を跳ね除けるほど馬鹿でもないです。……自由と無秩序は違う。教育してくださるのはありがたいです。なので、そのお返しとして、俺はお嬢を時々初心に返らせますね!」

「……フフッ、任せたぞ」

 

 「かしこまりました!」と元気に返事するヨシトは少年のようだった。

 片や知らないのに国を作ろうとしていて、片やこの世界に現れて5ヶ月。半人前同士、高め合って行かないとな。

 

 

 

 牛舎、豚舎、ウサギ小屋と清掃を済ませたら、養鶏場の作業に取り掛かった。石床に敷き詰めた藁をかき集める前に、小屋の中を練り歩く。藁の上に産み落とされた卵をインベントリに回収する為だ。

 

「ホッパー……チェスト付きトロッコ……。歩く方が回収コストは結局いいか。ロストしないし」

「なんだ、作って構わんぞ。効率が良くなるんだろう? 人手が無いんだ、導入するといい」

「鉄とレッドストーンが大量に必要なはずなんです。作ったことも無いんで、試してからにします」

「そうか」

 

 資材は恐らく足りている。だが、人手が圧倒的に足りていない。どうしたものか。ハナハタ村に依頼して来てもらうか? しかしそうすると衣食住を賄うだけの設備が必要だし、そもそも往来の為のトロッコと線路が必要になるし……だーー! 人手を得る為の人手が足らん! ……急いては事を仕損じる、と言う。暫くはゆっくり、ヨシトと2人きりで頑張るか。

 

「お、やっぱり来てくれたか」

「え?」

 

 オイちょっと待て誰が来たって? 私とヨシトののんびりラブラブ生活を邪魔しようというなら誰であろうと許さな、い……。

 

「雪玉、ちゃん?」

 

 養鶏場の小屋の中にポツポツと現れ浮かぶのは、雪玉ちゃんだ。ルゥパの家族で、もうここから旅立った彼に確かに皆ついて行ったはずなのに。

 水面に漂うようにふわふわしていた雪玉ちゃんはやがて地面に降りると、卵を拾い始めた。

 

「どういう、事だ? 君らはルゥパと共に旅立ったはずじゃ……」

「実は、ハナハタ村でも同じようなことが起こってるみたいなんですよね」

「同じようなこと?」

「どうやら一部の雪玉ちゃんたちは、ルゥパが去った後で気に入った土地に戻ってくることがあるみたいです」

 

 去った後で? 言い回しが気になるな。

 

「しかし、ルゥパはここに雪玉ちゃんを残していくことを拒んでいたはずだ。ハナハタ村では許していたってことか?」

「それがどうも違うらしくて。別れの時に子供たちが雪玉ちゃんを強請ったら、はっきりと拒んだそうで。なので村の大人たちも若干困惑していました」

「そうか……」

 

 それでは、舞い戻ってきた雪玉ちゃんは、自らの意思でここに留まってくれている、ということか。

 

「ハナハタ村に居た雪玉ちゃんたちの事をルゥパに報告しなかったのはなぜだ?」

「伝えないでくれ、とジェスチャーされたので」

「なるほどな」

 

 はてさて、この子達の生態も気になってきたな。そして、家族であるルゥパに隠してまでこの場に留まるということは、随分働くことが好きなようだ。ならば、自由にさせてやろうじゃないか!

 

「雪玉ちゃんたち! 諸君らが今この農場、及び建国予定地に舞い戻って来てくれたということは、この土地を盛り上げようとしてくれているのだと受け取った。私とヨシトはそれを全面的に受け入れよう。さぁ! 頑張ってくれたまえ! ルゥパの心の故郷として恥にならないよう、私たちで力を合わせ、立派な国にしていこう!」

「報酬で旨いもん食わせてやるからなー」

 

 私たちの演説を聞いた雪玉ちゃんたちはその場でクルンクルンと回って、喜びを全身で表していた。……ヨシトが報酬の話をした後が1番盛り上がった気がするが、きっとタイミングの問題だよな? いやまぁ、構わないけれど。……君らって、口あるのか?

 




2023/10/19 1.21アップデートで「クラフター」というブロックが追加されますが、面倒くさい(!?)ので作品内での表現の変更はありません。ご了承ください。
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