人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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65 俺にとっては未知の技術

 一頻りわぁわぁ泣き喚いて、気が済んだら2人して笑った。清々しい青空の下、ガラスブロックの囲いの中でギチギチになってるモンスター共の前で。なんだこのギャップは。ゾンビに見られてるって思い出して涙引いたわ。

 自分のハンカチで涙を拭ったラクさんは、赤くなった顔でふんわり笑った。

 

「へへっ、一緒に泣いてくれてありがとうね~。シンちゃんが居なくなってから、ずっと1人だったからさぁ。意識して笑顔作って気分上げてたけど、やっぱり、晴れてなかったね」

「こちらこそ、ありがとうございました。俺は旅の中で何度か話してましたけど、こうやって泣き“喚く”ことは無かったので、スッキリしました」

「ふへへ~、僕も~」

 

 見た目18歳の俺より大人な男性なのに、ラクさんにデレデレ笑顔はよく似合ってた。

 泣いてる間に溜まってたモンスター共をラクさんが例の剣で屠ったら、ラクさんの拠点にお邪魔することになった。経験値が溜まったから、エンチャントテーブルを使うところを見せてくれるんだって。あの森の洋館では話に出ただけで、見る間も無く逃げ出したから、どんなものなのか見るのはこれが初めてなんだよね。

 

 ラクさんの拠点は経験値トラップタワーからちょっと離れたところにあった。数匹のニワトリとウシ以外に飼ってる動物は居なくて、畑もそんなに大きくも種類もなかった。あぁ、骨粉はトラップでいくらでも手に入るから、小さくてもいいんだ。

 そして肝心の家は、丸石でガラス窓以外全面が作られていた。でも中に入ると、板材の壁と床で暖かみと爽やかさがあった。白っぽいからシラカバの木で作ったらしい。明るいなぁ。天井は丸石むき出しだけど。

 

「壁を丸石と板材で2重にしてるんですね」

「木材だけじゃクリーパーに襲われた時に爆破されちゃうから、丸石で固めてるんだぁ」

「なるほどなぁ」

 

 この人はしっかり人間らしい。俺に見えないものを見てるし不思議な言動するから、若干疑ってたんだけど、モンスターから狙われるんなら間違い無いよな。

 入ってすぐのリビングを超えて奥の空間に向かう。仕切りなんて無いから、樽の上に本棚がいっぱい置いてあるのが見えた。……ん? なんか、白いのが浮かんでない? えっえ、何あれ?

 

「ここがエンチャントする場所だよ~。真ん中にある、本が浮いてる黒い台が、エンチャントテーブル。その周りに1マス開けて本棚を置くと、レベルの高いエンチャントを付けれる可能性が高くなるんだぁ」

「ほ、本からなんか出てますけど!? 文字っぽいけど、え、なんで吸い込まれてんの!?」

「ねー、本から出てるんだから僕らも読める字であってほしいよね~」

 

 違う、そうじゃないラクさん。……文字については、魔女の文字なのか普通の文字なのか判別付かないから、辞めとこう。なんだよこの自動切替可能な俺の脳。逆に厄介。

 ニッコニコでご機嫌なラクさんは、このエンチャント空間の解説をマイペースに続ける。

 

「この本棚から吸い込んでるパワーがエンチャントテーブルの力を高めてくれてるらしくてね~。あるのと無いのとじゃ結果が全然違うんだぁ。その分、経験値を多く要求されるんだけどさ」

「それなら、もうテーブルに本棚をくっつけちゃったり、もっともっと増やしたりは?」

「試したんだけどね、テーブルと本棚はこのくらい離してないと却ってパワーを吸収しなくなっちゃうし、15個以上は置いても意味なかったんだ~。多分、飽和しちゃったんだね」

 

 つまり、エンチャントテーブルを囲うように本棚を並べてるこの形が、効率的ってわけか。本棚の下に樽が置いてあるのは、ラピスラズリやいらないエンチャント本を仕舞っとく為かな。近くにある方が便利だし、ラージチェストじゃ上に空間が無いと開けられないもんな。……かっこいいな、これ。

 機能美をこの空間に覚え始め、他に魅力的なモノがないかと辺りを見渡すと、金床と砥石が目に入った。

 

「あれ? なんでここに砥石が?」

「ん~? 砥石はね、エンチャントをアイテムから除去できるんだよ~」

「え!? 勿体無い!」

「確かにね~。でも道具は修復できるし、経験値も少し返ってくるから、たまに使ってるよ~」

「メリット無いと置かないですよね」

「部屋が狭くなっちゃうからね~」

 

 あはは~、と朗らかに笑ったあと、ラクさんは「よし!」と掛け声して手を打ち鳴らした。

 

「それじゃあ早速、僕がエンチャントするところ見てて~! その後ルゥパさんも体験しよ!」

「いいんですか?」

「勿論! 一緒に泣いてくれたお礼だよ~!」

 

 なんだっそら。でも、森の洋館の時とは違ってほぼタダで技術を見せてもらえるなら、お得な話だよな。お礼を言ったら、ラクさんが動き出した。

 エンチャントテーブルの間にラクさんが立つと、赤い布が被せられた黒い台の上で浮かぶ本が、誰も触ってないのに開いた。いや、閉じた状態だったとしても浮かんでるのは変な気がするんだけどね?

 勝手に開く本の前に、インベントリのような見慣れないスロットが出てきた。大きなマスが2つ。ラクさんは左のマスに木の剣を置いて、右のマスにラピスラズリを1スタック丸々置いた。すると本がパラパラめくられて、何も書かれていなかったはずなのに急に文字列が現れた。ラクさんから許可を頂いて、本の中を覗き込む。

 

「上から、耐久力Ⅱ・ノックバックⅡ・耐久力Ⅲ……。3つ選択肢があるけど、それぞれ1つ以外ぼかされてるんですね。1つは必ず能力付与されて、後は運、ってことですかね」

「……」

「ラクさん?」

「あっ、うん、そうなんだぁ。でね、今はこっちに木の剣を置いてるでしょ? ここにダイヤの剣を置くと、あら不思議!」

「え、変わんないですか?」

「そうなの~。でも、木のスコップを置くと~?」

「あ、内容変わった」

 

 再び勝手にパラパラめくられた本には上から『耐久力Ⅱ・効率強化Ⅰ・幸運Ⅱ』と文字が並んでいた。よく見るとそれぞれの文字の左横には黄緑色の丸があって、上から1・2・3と数字が振られていた。もしかして、これ、ラクさんが言ってた、経験値の光の数か? 数字は消費する数か。だとすると右の6・13・30って数字は? てか幸運って?

 

「どんなに素材が変わってもそれが同じアイテムならエンチャントの内容は変わらないけど、素材が同じでも違うアイテムなら内容は変わっちゃうんだ~。それに、全てのアイテムにエンチャントが付与されるワケじゃないし、そもそもこのエンチャントテーブルじゃ付与出来ないエンチャントもあるんだよ~! それを僕らは“トレジャーエンチャント”って呼んでて、だから、冒険してたんだ」

「そうだったんですね……」

「──ひとまず、今回はあまり良いエンチャントが出なかったから、適当にやっちゃうね」

 

 変な時に思い出させてしまったな。ラクさんもやっちゃったなって感じで肩を竦めて苦笑した後で、セットしていた木のシャベルに職人魂を付与した。手順としては、ラピスラズリ1個を手にして、1の選択肢を表示している場所を手で3回叩いただけ。ラピスラズリはラクさんの手から消えて、青い光が散ったと思ったら木のシャベルが職人魂の煌きを纏った。

 

「おおっ!」

「……あっ、耐久力Ⅱと効率強化Ⅰ付いた。うーん、砥石行き」

「悪く無さそうですけど……」

「ダイヤでもっと良いエンチャントを持ってるからなぁ。ルゥパさんも、流石に木のシャベルは欲しくないでしょ~?」

「まぁ、確かに」

「じゃ、次はルゥパさんやってみよ~! 効果を見る為の木のツールは左の一番手前の樽の中に入ってるから、じっくり試してみて! あ、どれも要らないな~ってなったら本か木のシャベルに付けたら抽選がリセットされるからね~」

「わ、分かりました」

 

 何が分かったのか、自分でもよく分かってないけど。まず、まずは! やってみよう!

 ラクさんのお言葉に甘えて、木のツールや弓を貸してもらう。その中から1つ、剣をマスにセットした。

 

「おおおっ!」

 

 するとやはり、浮いてる本がパラパラと勝手にページが捲られて、とあるページで止まって文字が浮かび上がった。

 さっき見て知ってたけど、自分の手でやったのがメッチャ楽しい! 楽しくてつい、次から次へとツールを、終わったら自分の防具とか色々セットしちゃった。その中で、エンチャントはアイテムの種類で色々変わるってのが判明した。

 

「ブーツ以外には落下耐性は付かなかったな。足装備にだけって当たり前っちゃ当たり前だけど。でも火炎耐性は頭から足まで行けるのか。でも武器には付かない。このテーブルはちゃんとアイテムの種類を認識した上で抽選してるんだ。てか釣竿にもハサミにも職人魂付くのか。弓は予想できたけど、フレイムねぇ。燃えて追加ダメージ食らわせられるのか。パンチは意味がよく分からなかったな。遠距離武器でなんで近接攻撃するんだ」

「あ、弓につくパンチはね~、放った矢が当たった時のノックバックが強くなるんだ~」

「へー! ……あの、ラクさん。俺、今見てもらった通り、エンチャントに全然詳しくなくって。なので、オススメのエンチャントがあれば教えていただきたいのですが……」

「も~、そんなに畏まらなくてもいいよ~。ん~、そうだなぁ」

 

 敬語をお望みではないラクさんが俺の頼みに頭を捻らせる。左頬を人差し指で支えて思案した後、俺に顔を向けた。

 

「やっぱり、目的によって違うからね~。ルゥパさんは今、何に困ってる?」

「困ってる、か……。っ、あ! し、“シルクタッチ”が欲しいです! ここに来るまでにでっかいキノコがあって、でも普通に掘ると小さい普通のキノコになっちゃって。あのままが欲しいんです!」

「シルクタッチ! いいね、素材系か。なら“幸運”もオススメだよ。レベルが高い程、例えばダイヤモンド鉱石からは1つにつき最大4個手に入るんだ~。シルクタッチと幸運は競合しちゃって1つのアイテムに同時に付かないから、何回かエンチャントしよっか~」

「はい!」

 

 思い出せて良かった。これでエンチャントって技術の入口に立てるぞ。

 “シルクタッチ”、“幸運”のエンチャントが付与されるのは道具系。ツルハシ・シャベル・斧・クワの4つに付く可能性があるんだって。ひとまず、フレイムのエンチャントが付くと予告されている弓を確定させる。ラピスラズリ由来の青い光が散ると、職人魂の煌きを纏った弓の完成だ。最大レベルでやったおかげか、フレイムの他に射撃ダメージⅢと耐久力Ⅲが付いた。ラクさんはなんだか微妙な顔してたから、彼的にはあまり良くなかったっぽい。でも。

 

「これが、エンチャント……!」

 

 噂にしか聞かなかった技術を、こうして目の当たりにして、体験出来たことは何ものにも代え難い喜びだ。

 

 今すぐ威力を試したい逸る気持ちを抑えて、抽選が変わったエンチャントテーブルのマスにツールを置いてって、シルクタッチと幸運の職人魂を付与できるか試していった。……結果としては、抽選の確定枠にその2つの文字は現れなかったし、意を決してやってみても付かなかった。……ポーションから浮気すんなってことなのかなぁ。いや、ポーションの為にエンチャントにも興味持ってんだから、許してよ!?

 

 ショックを受ける俺をよそに、1人の雪玉ちゃんが強く興味を惹かれたらしい。試させたら、『効率強化Ⅴ・耐久力Ⅲ・シルクタッチ』の最強ツルハシを引いた。ラクさん曰く、「全部最大レベルだ!?」とのこと。うおーーーーーーっ!!! エンチャントは、君に任せたぁあっ!!! あと幸運Ⅲのツルハシお願いしまーす!!!

 

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