人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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エンチャント狂いの男視点


66 この幸運は偶然か、導かれたものか

 雪玉ちゃんって、いったいどんな生き物なんだろ~。てっきり、エンチャントって人間にしか出来ないと思い込んでたよ~。

 

「まさか、ここまで強いエンチャントを引けるなんてね~」

「ですよね!! ウチの子、メチャクチャ運良いですよね!! も~最高! ありがとうね~!!!」

 

 興奮しきったルゥパさんは左手に乗せた白い玉、雪玉ちゃんを優しく撫でた。スリスリ撫でられる雪玉ちゃんもフンッ! と胸を張ってドヤッてた。ふふ、かわいいね~。……でも、引いたエンチャントのギャップはエグいんだよね~。

 別の雪玉ちゃんが置いたチェストを開けて、エンチャントの結果をまた覗き見る。

 幸運Ⅲ・耐久力Ⅲのツルハシ。

 耐久力Ⅲ・射撃ダメージ増加Ⅴ・無限の弓。

 宝釣りⅢ・入れ食いⅢ・耐久力Ⅲの釣竿。

 

「チートかよ……」

 

 これを連続で引き当てるとか、どんな豪運してんの、雪玉ちゃん。全部最大レベルとか、むしろおぞましいよ。なんか霊的な干渉してんじゃないの?

 

「ラクさん?」

 

 チェストの中を覗き込んでムッス~ってしてたら、ルゥパさんに不思議そうに呼ばれた。

 

「なんか、ダメだった?」

「う、ううん? ただ、僕が良いアイテムをプレゼントしよ~って思ってたのにさ~。これ以上ないのを出されちゃったな~って」

「あぁ……」

 

 間違ってない事を言い訳に使えば、僕がしかめっ面した理由にルゥパさんは納得してくれた。そりゃ、嘘じゃないもん。

 雪玉ちゃんを撫でる手を止めたルゥパさんは、眉尻を下げた。

 

「エンチャントテーブルやラピスラズリなどを使わせていただいてるだけでも有り難いのに、そこまでして頂いてたら申し訳なさが勝っちゃってましたよ。なので、お気持ちだけ頂きます!」

「いや! 意地でも貰ってってもらうから! 武器は、防具は困ってない~?」

「え~? あっ、そろそろ壊れそうなので、虫特攻の剣が欲しいですね」

「む、虫特攻!?」

 

 マイクラの世界で敵になる虫なんて、クモと洞窟グモとシルバーフィッシュくらいじゃん。あとエンダーマイト? でもあれ滅多にスポーンしないし、ミツバチにも効くけど、確か焚き火があれば刺激する必要無かったはず。つまり、ゴミエンチャントじゃん。

 

「一応あるけど……本当に欲しいの~?」

「はい! 俺、ポーション研究家なんですけど、デバフと透明化ポーションを作る時にクモの目が素材として必須なんですよ。目を潰さず回収するにはやっぱり一撃で仕留めるのが確実なので、ある方が良いですね」

「ポーション!」

 

 欲しかったのに、諦めたやつじゃん! えっ、ってことは、ルゥパさんって意外とめちゃ強? だって、研究家を名乗るくらいだから、何度も作ってるはずでしょ? つまりネザーに何度も行って、素材集めして、生きて帰って来れてるってことで……。マジか!

 

「それなら、すぐに用意するね~。他に付けたいのある? 今なら耐久力も火属性も付けられるよ~」

「火属性? 弓のフレイムと同じ効果なら、クモの目の劣化を防ぐ為に遠慮したいです」

「あ、そうだね、おっけ~。あと、素材集めが目的だから、ノックバックも要らないね~。じゃあ、ドロップ増加? 範囲ダメージ増加も付けちゃお~」

「そ、そんなにいっぱい付けられるんですか?」

「金床でなら最大6ついけるよ~」

「じゃ、じゃあ、攻撃力が高くなるエンチャントを追加できます?」

「あ~、ごめんね~。ダメージ増加は虫特攻と競合しちゃうから、付けられないよ~」

「そ、そうなんだ……」

 

 えっと、結局剣に付けるエンチャントは、虫特攻・耐久力・ドロップ増加・範囲ダメージ増加の4つか~。経験値多めに回収しといて良かった~。

 レベルは高いけど価値が低いエンチャントが付いた本は、エンチャントテーブルを囲う本棚の下に仕舞ってある。光ってるから本棚に入れると目に優しくないんだよね~。……あっ、マズイな~。シンちゃんがいなくなってから、樽の中を全然整理してなかったから、直ぐに出せなさそう。どこに仕舞ったっけかな……あ、ドロップ増加Ⅲみっけ。うーん、こういう時は質問で場を繋ぐが吉かな~。

 

「ねールゥパさ~ん」

「はい、なんでしょう?」

「ポーション研究家って、具体的にはどんなことしてるの~?」

「活動内容ってこと? そうっすね、俺は自分でも色々試しつつ、旅の中で未知のポーションレシピを探してるって感じっすね」

「へ~、それなんか楽しそうだね~。ね、良かった発見と、こりゃダメだって発見って、ある~?」

 

 って、出来ないポーションは、なんだっけ? ポーション作り台が反応しないから作れないか~。

 

「良かったは、透明化ですかね。あとこれは情報だけですが、再生のポーションなるもののレシピも発見しました」

「回復系はロマンあるよね~」

「悪い発見は、ウィザースケルトンの頭の削り粉で作ったポーションっすかね」

「!?」

 

 レアなドロップ品で何してんの!? てか、削り粉って、え!? ルゥパさんの発想こっわ!?

 

「飲んだら衰弱状態になったんで、本当に意味無かったっすね。あとゾンビ肉をポーションにしたらひたすら臭かったっすね」

「何してんの……。なんで、そんなにメチャクチャな事するの~?」

 

 だって、明らかに良い効果になるわけないって分かってる素材じゃん。そんなのでまで作るなんて、ポーションを作ったその先に目的があるみたい。……エンチャントする事が、生き続けていく為の償いの僕みたいに。

 ……そういえは、ルゥパさん、『俺も大切な人を苦しめて死なせた』って。

 

 ある可能性が頭に浮かんで、思わずルゥパさんの方を見る。彼は困った笑顔で右下に目線をやっていた。僕の予想が当たってるって、ことかな。……やだなぁ。

 

 ルゥパさんは自分の心の傷を簡潔に語ってくれた。

 村の外れの採掘場の奥深くで素材集めに夢中になっていた。外が激しい雷雨だったから騒ぎに気付かなかった。帰ってきた時には、村がクリーパーとゾンビによって滅んでしまっていた。生存者を探して、想いが通じたばかりの恋人に治癒のポーションをかけた。だけど恋人は既にゾンビになっていて、治癒のポーションが却ってその進行を急激に早めてしまい、それで恋人を苦しめて殺してしまった。育ての親でポーション作りの師匠でもある聖職者も、頼まれたとは言え、ゾンビ化を進行させて殺してしまった。その聖職者から『ゾンビから人間に戻る方法を探してくれ』と頼まれたから、旅をしている。……と。

 

 エンチャントの本を探す手はすっかり止まっていた。ルゥパさんに降りかかった悲劇が辛すぎて、話を聞いただけなのに涙が溢れちゃう。

 

「……泣いてくださって、ありがとうございます。皆が救われます」

「そりゃ、そりゃ泣いちゃうって~。ルゥパさん、僕より失くしたものが多いじゃ~ん。自分以外が、たくさんの大切な人が一夜で居なくなったなんて、僕より辛い思いしてんじゃんか~!」

「──それは、違います」

「え?」

 

 な、何かダメな事言っちゃった? 僕、ルゥパさんの地雷踏んじゃった?

 声を固くしたルゥパさんが僕のところまで来て、わざわざしゃがんで肩に触れてきた。服越しに伝わる熱は生きてる証だと分かるのに、知ってる体温より妙に冷たくて、場違いにも少しだけゾワッとした。

 

「違うって……?」

「ラクさん。大切な人を永遠に失ってしまった悲しみは、誰かと比べるものではありません」

「!」

「共感してくださって、ありがとうございます。でも、『この人の悲しみの方が辛いから、自分なんてまだまだ』みたいなことは、決して考えないでください。そんなところを比べて、誰が幸せになるんですか。あなたが悲しいんだから、悲しめばいいんです。彼女のことを思って泣けばいいんです。……ね?」

 

 慰めの強い言葉を語っていたルゥパさんだけど、最後に首を傾げて同意を求めてきた。我に返っちゃったのかな。恥ずかしがらなくても良かったのに。かっこよかったんだから。一度深く頷いて見せたら、安心したように微笑んでくれた。

 いいな~、『あなただけが、彼女のことを思って泣けるんだから』か~。……僕、生きてて良かった、シンちゃんの事を想えるんだから。

 

 ルゥパさんにも手伝ってもらって、必要なエンチャントの本を集めたら、金床に行って、ルゥパさんお手製の出来立てほやほやダイヤ剣を上に置く。左手に虫特攻Ⅴのエンチャントの本、右手にハンマーを持つ。エンチャントの本をダイヤ剣に翳してハンマーで叩けば、あら不思議~! エンチャントの本は砕け散って、舞い散ったキラキラがダイヤ剣に吸い込まれて、ダイヤ剣がエンチャントの本と同じ光り方をしだした!

 

「なるほど、エンチャントの本でもこうするんですね……」

「やってみる?」

「は、はい!」

 

 僕のやり方をじっくり見てたルゥパさんなら、直ぐに真似できるはず。って、そういえば、この世界に元々住んでる人たちって、金床どんな風に使ってるんだろ。いやでも、さっき『エンチャントの本でも~』って言ってたから、違わないのかな?

 耐久力Ⅲ・範囲ダメージ増加Ⅲが一緒になってるエンチャントの本をまたダイヤの剣に翳して、3回ハンマーでノックするように叩いた。するとやっぱり本は砕けて消えて、キラキラを吸い込んだダイヤの剣はまた一際綺麗に輝いた。最後のドロップ増加Ⅲもルゥパさんにさせよ~っと。

 

 無事に金床でのエンチャントを済ませて、出来上がった剣をルゥパさんと一緒に眺めた。対クモだったらかなり強めなダイヤ剣。僕には必要ないけれど、ルゥパさんならよく使ってくれるでしょ。へへ~、エンチャンター? として嬉しいなぁ。今までシンちゃんと2人でしか使ったこと無かったからな~。

 

「あの、ラクさん」

「なぁに~?」

「ラクさんって、拠点にしている村とか、あるんですか?」

「え? 何急に~。無いよ~。せっかく経験値トラップタワー作ったから、もう暫くはここに居るつもりだしね~」

「そうですか……」

 

 でも、水中呼吸Ⅲのヘルメットをゲットしたら、そろそろトライデントを探しに行こうかな~。

 剣をインベントリに仕舞ったルゥパさんが、なんかチラチラこっちを見てくる。拠点の話かな~?

 

「拠点がどうしたの~?」

「もし、ラクさんがよければ、この技術をより活躍させられるかもしれない場所を紹介したくて」

「へ~? エンチャントはちょっと腕に覚えがあれば誰でも出来ると思うけど~?」

「プロの言う“誰でも出来る”は信用されないって知ってました?」

「まさかココで言われるなんて……」

 

 あ~でも、ルゥパさん、ポーション作れるのにエンチャントテーブル知らなかったもんなぁ。知ってるのはプレイヤーだけかな。だとすると、乗っちゃうのは悪くはない? ずっと1人も寂しいしね~。

 

「どんなところなの~?」

「向こうの暗い森を抜けた先にある広い平原で、今のところは農耕が中心ですかね。彼女らもまた村を、俺とは違う形で滅ぼされて、そことは違う土地で村を起こしているんです。最初を手伝ったので安全性は高いと思いますが、2人しか居ないので、人手が絶対的に欲しいはずなんですよ」

「2人? しかも、彼女らって……」

「あ、男女2人です。シターシュさんとヨシトさんって名前で、シターシュさんが上の立場の人です」

「そっか~」

 

 ヨシトって。名前の響き的に絶対日本人のプレイヤーじゃん。シターシュって人の方は分かんないけど、わざわざ村を作るなら、現地の人かもね~。ん? でも、2人なら他の村に移住するだけでも良さそうだけど。

 疑問をそのまま口にしたら、自分たちで1から建てることに意味があるんだって。そもそもシターシュって女性の村が滅んだのは、罪があるとはいえ感情任せに村から追放してたら、変な力付けて復讐されたからだって。だから、罪と罰にちゃんとした定義付けをした村を、“国”を作りたいらしい。もうこれ確定でしょ。絶対ヨシトって人、プレイヤーだよ。だってマイクラに“国”なんてなかったもん。アップデートされてるかもしんないけど!

 

 でも、国かぁ。ちょっと、面白いかも。うん、行ってみよう!

 

「力になるかは別として、ちょっと行ってみたいかも~」

「本当?! なら早速地図を複製……あれ?」

「おお~、雪玉ちゃん、アクロバティック~」

 

 インベントリから何か地図を取り出そうとしたルゥパさんの目の前で、いきなり雪玉ちゃんがぐるんぐるんドーナツみたいに横回転しだしちゃった。盛大なアピールだなぁって僕は微笑ましく見てたんだけど、ルゥパさんはちょっと困り顔で、「いいの?」って訊いてた。言ってること分かるのかな~。

 

「……じゃあ、お願いね? 送り届けたら、俺のとこに帰ってきてよ?」

 

 縋るような目でそうお願いしたルゥパさんに返事をするように、雪玉ちゃんは今度は縦にぐるんぐるん回りだした。ジェスチャーしてるのかわいいね~。

 

「な~に? 雪玉ちゃんが僕をその国まで案内してくれるの~?」

「はい、そうしたいみたいです。準備が出来たらこの子に呼びかけをお願いします。あ、雪玉ちゃん、暗い森は木の上を歩いて抜けるか、通らないようにしてね。危ないから」

 

 ルゥパさんから注意事項を聞いた雪玉ちゃんはビシッと、ちっちゃな手を上げて勇ましく承知してみせた。ふふ~、よろしくね、新しい旅のお供さん!

 

 その後直ぐに、ルゥパさんは旅に出てっちゃった。1泊くらいしてけばいいのにね。すっごい濃い数時間だったなぁ。

 

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