人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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68 終わりの場所で死闘を

 エンチャントテーブルでセンバさん用のダイヤの防具に職人魂を込めまくった。ポーションは普通のもスプラッシュのも作れる種類を大量に作って、必要になれば雪玉ちゃんに投下してもらうようにお願いした。食料も肉を中心に大量に用意したし、金のリンゴも1人5つづつ用意した。明るさ確保の松明も持ったし、防護壁として使う丸石も4スタック分持った。それらを保存しとくチェストも2つ、持っていく。

 

「心の準備、出来ました?」

「おん、ええで」

「それじゃあ、填めていきますか」

 

 緊張する俺らの目の前には、あの時見つけたままの未完成のポータル。それにキラキラと中で光をきらめかせるエンダーアイを11個、2人で填めていく。填めるたびに鳴る小気味のいい音が、俺の心臓を早打ちさせる。

 

 最後の1つをフレームに填めたら、フレームの中に星空が現れた。俺が知っているそれよりも異常な速さで過ぎる星の流れが、美しくも不気味で冷や汗が流れる。平たいはずなのに、どこまでも深みがあるように見える。それこそ、二度と足がつかないような。

 身体の震えは、強く握った掌の中に閉じ込めた。

 

 目と口の部分を開けたカボチャを被る。そして最後に、センバさんに問いかける。

 

「もう、戻れないかもしれませんよ」

「しつこいなぁ? 怖気付いたん?」

「そりゃあ、未知には怯えるでしょ。これから知っていくんだけど」

「は~、探究心の塊やなぁ。……なら。戻れへんのなら、戻る方法見っけるんも、探求やろ」

「ははっ、なるほどなぁ!」

 

 未知のモンスターがいるかもしれない。それに殺されるかもしれない。逃げ場なんて、無いかもしれない。それでも、俺はこの地下の星の海に飛び込むって決めている。センバさんは俺についてくるって決めてる。なら、何を迷う?

 

 覚悟を、決めた。

 

 

 

 星の海に飛び込んだら、一瞬の浮遊感の後、足が地についた。カボチャマスク越しに目に映る景色は、俺が知ってる世のものとは思えなかった。

 

 空は夜より果てなく暗い。

 薄く黄色い地面は緩い砂岩みたいに柔らかく崩れやすい。

 足を踏み外せば光の無い奈落に落ちる。

 そんな地面を闊歩するモンスターは、エンダーマンしか居ない。

 今立ってる島の中心には黒曜石で作られた、デカくて高さにバラつきのある柱?がある。

 その柱の上には光る何かがふわふわ浮いている。

 その島の上で、黒曜石の輝きを持った巨大な、巨大な“ドラゴン”が、悠々と飛んでいた。

 

 ……息が出来るだけ、救いか?

 

「な、んだよ、ここ……! まるで、終わった後の世界、みてぇじゃん……!」

「ほーん……。なら、ここは“ジ・エンド”って名前付けよか」

「なんでそんなに落ち着いてんだ……?」

「こういう時ほど、平常心が大事やで」

「そ、それもそうっすね……。ヒヘッ!?」

「い、言ったそばからなん?」

 

 センバさんの方を向いた流れで背後を見たら、黒曜石で出来た足場があった。違う、()()()()()()()()

 

「帰り道、ホントに、無いわ……!」

「!?」

 

 センバさんに確認してもらっても、結果は同じ。何処を向いても、あの星空のゲートは無かった。……つまり、後戻りは出来ない。……やっべぇな。言った通りになっちまったよ。取り返しが、つかねぇ。あぁほら、センバさんも怖くて震えて──

 

「クッ、ハハッ!」

「えっ?」

「なんや、いよいよオモロなってきたやん!」

「え!?」

「マジで帰れへんのなら、もう突っ切るしかないやろ! それにな、ルゥパの兄貴! 希望が無いわけやないで!」

「希望が……?」

「おん。ファンタじ、やなくって、ほら、冒険譚! 冒険譚とかでも定番やろ? こういう時の、突破法は……!」

 

 笑って武者震いするセンバさんの視線の先には、紫色のブレスを吐いてるドラゴンがいる。

 

「あの羽根付きトカゲを、ぶっ殺すんや……!!」

「──! アハハハッ! 俺たち、冒険譚の主人公みたいっすね!」

「みたいやなく、なるんやで!」

「アハハハッ! 違いねぇ!」

 

 誰かと一緒に戦うなんて、いつぶりだろ。あああああっ!

 

「楽しく、なってきたじゃァん!?」

 

 

 エンダーマン対策として役立つカボチャマスク。ただし視野が狭くなるから、一長一短って感じ。だから、集中しないと、なっ!! あっ、外した!

 

「ちくしょう、アイツ、図体デカいくせに意外と小回りきくぞ!?」

「エンダードラゴン、器用やな! 無限弓で良かったわ!」

「ほんと!」

 

 センバさんとやかましく愚痴りながら、飛び回る奴に狙い澄まして矢を放つ。だけど羽ばたく翼の風圧で阻まれたり、旋回で避けられたり、距離が遠くて届かなかったりした。

 けど、センバさん命名のエンダードラゴンもずっと飛んではいられないらしくて、たまに柱の真ん中にある岩盤の台みたいなとこで止まって休む。止まり木かな? 休むその隙を突いて、ダイヤ剣で切りつける。黒曜石はダイヤピッケルで削れるからな。思った通り、エンドラは痛がって、紫色のブレスを吐いてきやがった。

 

「くっせぇ!!! はぁっ!? くっさ!!? 臭すぎてダメージ受けるんですけどぉっ!? くっさ!!!」

「兄貴! 一旦下がって、治癒のポーション浴びるで!」

「内臓痛いってヤバいこのブレス!! ──でも、これがポーションの素材になるかもか?」

「ココでそのポーションフリークさ出さんでエエから!」

 

 センバさんに怒られつつ滞留するブレスの範囲から逃げたら、雪玉ちゃんが治癒のスプラッシュポーションを落としてくれた。あ~生き返るぅ~。でもやっぱり気になってるからさっき飲んだ力と俊敏のポーションの空瓶に入れよっ! くっせ! でも溜まるぞ!?

 

「る、ルゥパの兄貴! エンドラ、もしかしたら回復しとるかもしれん!」

「はっ!? 何がアイツを!?」

「あのっ、柱の上からビームが出とる! でも痛がらんってことは、そういうことや!」

「意味がないワケ無いもんな!」

 

 センバさんが指差す先を見てみれば、近い黒曜石の柱の上から、エンドラに向かってうっすいビームみたいのが伸びてた。センバさんの言う通り、エンドラが痛がってないってことは、あれ絶対、エンドラになんか良い方の影響与えてやがる!

 

「……登って、上の何かを壊すしかあらへんな」

「でも、そんなことしたらエンドラに絶対邪魔されるでしょ」

「弓矢で壊せる分は撃ち壊せばええんやろうけど、届かへんものは登って直接叩くしかあらへん!」

 

 揉めてる間にもセンバさんは矢を放ち、黒曜石の柱の上の何かに当てた。ば、爆発しやがった!? ドゴンッて音したし、なんか散ってるし!

 爆発に驚いて柱の上をよく見てたら、嫌なものが目に入った。

 

「……よく見たら、鉄格子で囲われてるやつありません?」

「あ、あんなぁ……」

 

 センバさんにも見えてるから、俺の目の錯覚じゃないみたい。うわぁ、アレ、矢が貫通できる?

 

「くっそ、やっぱ直接行かんとアカンか……!」

「……」

 

 登ってる最中にエンドラに体当たりされたら、衝撃で圧迫死するかもしれないし、足場から落とされて転落死するかもしれない。そんなことを、ただの人間のセンバさんにさせるわけには、いかない。どうせ、生きるか死ぬかなんだ。

 決めたんだろ、覚悟。

 

「センバさん、俺実は、人間じゃないんすよ」

「え? ……えっ!?」

「多分種族的には魔女なんすけど、雪玉ちゃんの力を借りると、テレポート出来るんすよ」

「え゛っ!?」

「だから、アレの破壊は俺に任せてくれ!」

「は、話が急展開すぎんねん!!!」

 

 話の流れから察した雪玉ちゃんが既に柱の上まで飛んでくれている。その子に向かってテレポートしたら、下からセンバさんの「な、なんやねんっ、もーーー!?」って叫び声が聞こえてきた。こういう時ほど、平常心が大事なんじゃないのー? とか言ってる場合じゃねぇ! さっさと壊さねぇと!

 目的のものは、柱の上の岩盤の上でふわふわ浮かんでいる赤紫色のクリスタルらしい。あの爆発は脅威だけど、やるしかねぇよな! 止めんな、下からなんか叫んでるセンバさん! クリスタルを思いっきり叩いてやる!

 

「っ、脆っ、ダァアアッ!!?」

 

 案外簡単にヒビが入って驚いてたら、爆発に対して反応が遅れて吹き飛ばされちまった! しっかり踏ん張ってなかったから衝撃をモロに受けちゃって、足場から落ちた。背中から落ちる感覚にゾワリとするが、地面にいる雪玉ちゃんにテレポートすればなんて事はない!

 無事に地面に着地出来たら、雪玉ちゃんが治癒のスプラッシュポーションを落としてくれた。おかげで爆破で傷ついた身体が癒された!

 

「ありがと雪玉ちゃん!」

「こンの、アホ! そんないちいち近くで爆発喰らわんでも、柱の上から別の柱に弓矢で狙えばエエやろ!」

「ハッ! 頭良いっすねセンバさん!」

「命かかってるんやから、もっと考えてや!」

「スミマセン!」

 

 そりゃそうだ! 俺だって痛いのはヤだもん!

 

 柱の上にテレポートして、隣の柱のクリスタルを狙撃する。鉄格子で阻まれてる奴は鉄格子だけ壊して、離れてからまたクリスタルを狙撃した。

 エンダードラゴンはセンバさんから狙撃されるわ、俺に回復源を壊されるわで慌てふためいて、どっちから殺すか迷ってるらしい。カボチャ越しでもちゃんと矢を当てられるようになってるし、そこそこの攻撃力乗ってるからね。でもクリスタルを壊されれば後はダメージを受ける一方だ。なのに、俺が殺せないねぇ! テレポートウザいねぇ! 俺らだってお前を殺せなきゃ、多分帰れずに死ぬんだよ! 結局、生き残る為に殺し合うしかないなぁ!!

 

「最後の、1個!」

 

 エンドラが下の岩盤の止まり場で休んでる間に、最後のエンドクリスタルを狙撃し、破壊した。忌まわしい爆発音が、なんだか祝福の花火にすら思えた。

 そんな驕りが、俺の反応を鈍らせた。

 

「ルゥパっっっ!!!」

 

 センバさんの叫びにも似た呼び声と共に、一段と強烈な羽ばたきの音が聞こえた。

 カボチャマスク越しの俺の目はエンダードラゴンの憤怒の相に囚われ、すぐさま赤黒い世界に覆われた。何かが俺の全身に当たって、そのまま身体が後ろに持ってかれて、足が宙に浮いた。

 身体を埋め尽くしたのは衝撃と、灼熱と、激痛。

 それは、雷に撃たれた時とよく似ていた。

 

 

 

 次に目を開けた時、俺はセンバさんの目の前に居た。

 

「……え?」

「だ、大丈夫なんっ、ルゥパの兄貴!」

「……俺、どう、なった?」

 

 何がどうなって、俺は柱の上から脆い地面の上に居る? 倒れているならまだしも、センバさんの目の前に、()()()()()

 俺の疑問の声にセンバさんは息を飲んだ。かと思えば、カボチャマスクを被ってるのに器用に顔を伏せて、それから直ぐに顔を上げて「あ、あんなぁ!」と高い声で言った。

 

「ゆ、雪玉ちゃんが、ルゥパの兄貴を自分のとこにテレポートさせたっぽいわ! 緊急回避やな! 知らんけど!」

「そ、そんなこと、一度も……」

「と、とにかく! もう、ヤツは待ってくれへんで!」

「!!」

 

 元に戻った視界の広さで捉えた、エンダードラゴンの接敵。助走をつけた滑空は余裕のなさの現れか。確かに、もう他の事を考えてる余裕はない! 体当たりは避けて、矢でチマチマとでもダメージ蓄積させてくぞ!

 

 雪玉ちゃんが総動員で島の際に壁を立ててくれたから、足を踏み外す心配をしなくて済んだ。飛んでるエンドラを狙ってひたすら上を向いてればいいから、闊歩するエンダーマンと目を合わせなくてよくなった。いつの間にかカボチャマスクが無くなったから、しっかり狙いを定めてエンドラを狙撃した。

 エンドラの体当たりやブレスで一斉にやられないようにってセンバさんと離れて狙撃してたし、傷ついても狙われてもフォローを雪玉ちゃんがしてくれた。俊敏のスプラッシュポーションがあんなにセンバさんを助けるなんてな。なんか、俺が下に降りてからのエンドラのヘイトが殆どずっとセンバさんに向いてんだよね。そのおかげで俺は集中出来てるんだけど!

 

 金のリンゴやポーションで強化されたセンバさんの身体能力は、この終わった世界の覇者すら翻弄した。回復する魔法の術を失ったエンダードラゴンはもはや地面に降りて羽を休めるしか体力を復活させる術はないらしい。それが、お前の命の終わりだとしてもなぁ!!

 

「ぶっ叩けぇええぇえっ!!!」

「うおぉおおおぉお!!!」

 

 剣が届くようになったから、ポーションとエンチャントで威力を増した斬撃でエンダードラゴンをひたすら叩き切る!

 内臓まで痛くなるくらい臭いブレスを吐かれたり、羽ばたきの風圧やそのまま羽で叩かれたり、噛み付かれたり。結構洒落にならない怪我もいくつかしたけど、流石再生のポーション。いざという時の為に作ってた最高級品が、ココで役に立った! グロウストーンダストで強化しといてホントに良かった!

 

 そして、その時が来た。センバさんが渾身の一撃を加えた途端、エンドラが固まって動かなくなった。そして、ヒビが入って、光が漏れ出た。

 

「!? 光った!?」

「離れろ、ルゥパの兄貴!!」

 

 ボロボロの体でも見事なバックステップで下がったセンバさんが俺の腕を引いてエンドラから離した。石像みたいに固まったエンドラからは、広がるヒビの隙間から光が溢れて、そして──

 

「うわぁああああっ!!」

 

 凄まじい衝撃を伴って、エンダードラゴンは、爆散した。

 

「かっ……た?」

「……そう、みたい、やな」

 

 長い、長い戦いで体がボロボロの俺たちは、ただ、呆然としていた。

 

「……あ、アレ!」

 

 エンダードラゴンを倒したら、さっきまで奴が止まり木にしていた岩盤の小さい柱の周りに、ゲートが現れた。こちらの世界に入ってきた時に潜った、あの星の海とよく似ていた。つ、つまり! これに入れば、帰れる!!

 

「も、もう行きましょ! こんなところ、もう懲り懲りっすよ!」

「せ、せやな! もう、腕も足も辛いわ!」

「雪玉ちゃん、俺の中に全員戻ってきて!」

 

 ゲートは何をきっかけに、いつ閉じるか分かんない。だからさっさと帰んなきゃ! こんなところじゃ畑も出来やしねぇ!

 雪玉ちゃんが皆俺の中に戻ってきたと目視で確認したら、星の海に飛び込んだ!

 

 入ってきた時と同じように、一瞬の浮遊感の後、足が地についた。テレポートしてきた場所は俺の表の方の拠点で、確かに帰ってこれたに違いないんだけど、なんか、不思議な気分だった。

 なんで、最初に入ったゲートの方に出てこなくて、離れたここに飛ばされたんだろう。もしかして、全部夢だったのかな。そう思ってしまいそうだった。

 

 でも、隣には確かに俺と同じように呆然としたセンバさんが居たし、俺たち揃って装備も身体もボロボロだった。それに、俺の手持ちには、あのくっさいブレス入りの瓶がある。……って、事は。

 

「帰って、来れた……?」

「そう、みたい、やな……」

 

 俺たちは、あの世界から、センバさん命名『ジ・エンド』から帰って来れた。俺の背丈の何倍もありそうな、真っ黒な身体のエンダードラゴンを、倒せたから。

 ……あの、くっせぇブレスを吐くアイツを! でかい図体の割に旋回が上手いアイツを! 自動回復の手段があったアイツを! 俺が戦った中で、一番手ごわかった、アイツを!

 

 俺、雪玉ちゃんとセンバさんと一緒に、エンダードラゴンを倒したんだ!

 

「俺たち、なんか、スッゲェことしたんじゃないっすか……!?」

「そうやな、うん、そうやんな!!」

 

 ふたり揃って飛び跳ねて、きゃいきゃい言ってた。

 遅れてやってきた達成感は、もうホントに、相当なもんだったわ! 俺らスゲー!!

 

 

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