人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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69 異なる世界についての話

 ジ・エンドから生還した、次の日。

 

「さーて! ポーション作りに取り掛かりますか!」

「取り掛かるでー!」

 

 エンダードラゴン討伐で消費しまくったポーションを、センバさんと雪玉ちゃんと一緒に醸造することにした。利用者が2人だったとは到底思えないくらい、とんでもない数が消費されたからな。新しい素材のエンドストーン(センバさん命名)とドラゴンブレスで実験するのは、最後のお楽しみにしよう!

 

 手順はこう!

①素材を細かく切る。

②醸造台の下に溶媒(水とか)の入った瓶を、上に溶質(素材やダスト)を入れた漏斗をセットする。

③醸造台の土台にブレイズパウダーをセットして起動する。

④漏斗の中に溶媒が昇ってきたら、成分が出やすいようにヘラでかき混ぜる。

⑤暫くしたら溶媒が勝手に瓶の中に落ちるから、粗熱が取れるまで放置。

⑥粗熱が取れたら、②から繰り返すか、水流に浸して熱を取る。

⑦色が落ち着いたら完成!

 

 ここからスプラッシュ瓶に移し替えたりって追加で作業があったりもするかもだけど、普通の飲むポーションならこの7つの手順で十分だ。

 

「センバさんは素材のみじん切りをお願いします」

「任せてや!」

 

 センバさんもジ・エンドに突入する準備でポーション作りを手伝ってくれたことがあったから、手順は分かってるはず。ひとまずネザーウォートを刻んでもらって~と。

 ポーションを使ったのは実質雪玉ちゃんだから、何を消費したのか分かってるらしい。この子らもインベントリから素材を取り出してナイフで刻んだり、ちぎったりしてくれてた。俺は俺でまず奇妙なポーションを醸造台5台フル稼働させて作ってこう。

 

 暫くは俺が漏斗のお世話で忙しなく動いてたからか、センバさんも静かに素材を刻んでた。雪玉ちゃん達が発酵したクモの目を刻んでるって気付いた時は小さく悲鳴をあげてたけど、それ以外はいたって平和だった。

 空気が変わったのは、第一陣のポーションが出来上がった後だった。

 

「なぁ、ルゥパの兄貴」

 

 粗熱を取る木箱に移すのも躊躇うくらい熱い出来立ては仕方なく醸造台に放置する。だから次の分のネザーウォートを小皿に出してたら、センバさんに声をかけられた。……もう、慣れた空気だ。

 

「なに?」

「あ、あんなぁ……? え、エンドで言うとった、実は人間じゃないって話……、ホンマなん?」

「本当だよ。あの場で嘘つくメリット無いじゃん」

「そりゃ、そうなんやけどな? 正直それだけなら、なんか、雪玉ちゃんと何かで契約しとって、テレポートの力を得とる人間、とも受け取れるやん?」

「あ~」

 

 なるほどな~。そういう考え方もできるのか。次からはそれを言い訳にしよ! そしたら目の前で普通にテレポート出来るし、雪玉ちゃんと堂々と過ごせるもん!

 

「って、そうや! ルゥパの兄貴って、人間やないならなんなん? ポーション作っとるから、魔女、とか……?」

「正解。元は村人だったけど、雷に撃たれてモンスターになったんだよ」

「そ、そうなんや……」

 

 今のってものすごい告白だったと思うんだけど、あっさり言っちゃったからか、センバさんの反応もあっさりになっちゃった。自分でも引くくらいの熱量の低さだったもんな。雷に撃たれたら普通死ぬところを、モンスターになるって。実質死んだようなもんだけど。

 素材を刻む手を再開させたセンバさんだったけど、なんかブツブツ言ってるし、最初より刻む手の動きは鈍かった。

 

「……他の村人さんたちは、その事をどう……?」

「あー、言ってなかったっけ? 俺以外、皆、ゾンビの襲撃で居なくなったんだよ」

 

 センバさんが息を呑む音がした。そういえば俺、旅の目的しか言ってなかったか。

 

「襲撃が起こったのは俺が雷で撃たれた直後だったし、魔女になるまで時間が空いたから、最後まで生き残ってた神父さん以外、誰も俺が魔女になったなんて知らないし、ゾンビになった皆は俺をモンスター仲間だと思って殺意を向けてくることは無かったよ」

「……言ってて、辛くないんか」

「まぁ、それなりに。でも、こないだ全力で泣いたから、ちょっと吹っ切れたっぽい。悪いことばっかりじゃなかったしね。俺、実はエンダーマンと目ェ合わせても、攻撃しなかったらし返されないんだぜ」

「同じモンスターやから、か……」

 

 せっかく復活していたセンバさんの素材を切る手は、またゆったりになっちゃった。俺が絶望した体験だもん。話だけでも辛くさせちゃうか。

 

「そ。だから素材集めもすっごい楽になったし、ポーションの開発も人間だった頃より冒険しやすくなったわ」

「ネザーのモンスターにも敵対されんから?」

「そういうこと」

「……そっか」

 

 センバさんは包丁を置いた。

 

「なら、もっかい、エンドに行ってみぃひん?」

「え? えっ、なんで?」

 

 脈絡の無い話の展開に、頭の中が疑問符でいっぱいになっちゃった。でもセンバさんの顔はいたって真面目で、俺のことを真っ直ぐに見据えてくる茶色の瞳が、真剣なお誘いだと物語っていた。

 

「エンダードラゴンを討伐したんや。今なら、落ち着いて探索が出来るやろ」

「そうだけど……。でも、あの世界にあれ以上めぼしい素材があるようには見えなかったよ?」

「出口のゲートはエンドラを倒してから現れた。そんなら、また別で現れたモノがあっても可笑しくないやろ?」

「た、たしかに……!」

 

 あんなに苦労して、メチャクチャ痛い思いしてやっと倒したエンダードラゴン。それなのに、手に入ったのはあそこでしか見たことのない石と、奴のくっさい息の2つだけ。ネザーと比較したってリターンが少なすぎるんだから、改めて探索したいのは山々だ。でもそれは、ネザーみたいに行き来が容易いことが前提だ。

 

「センバさんの言うことは尤もだけど、入口が消える世界にまた入るなんて、俺はそこまで覚悟決まってねぇよ。また出口ゲートを作る為にエンドラを倒さなきゃいけなくなるかも知れない。まだこっちの世界で探索してない場所の所の方が多いんだし、後回しにできるならさせてくれよ。命は1つなんだからさ」

「っ! で、でも……!」

「でもって」

 

 慎重になって何が悪いのか。俺に返されて気付いたっぽいセンバさんは、決まりが悪そうに背中を丸めた。それから視線を彷徨わせたり、首の後ろを掻いたりしながら言葉を探しているみたいだった。

 そして、両手で頬を強く叩いた。迷っていた瞳にまた力が宿った。

 

「ルゥパの兄貴が、自分の秘密も過去も話したんや。ワイも、隠し事はせぇへん」

「えっ、嘘、なんか隠し事してたの?」

 

 別にあってもどうでもいいし、探ったり怪しんだりも俺しなかったから、変な動きしてても嗅ぎつけなかっただろうけど! う、上手かったな取り繕うの!?

 唇を軽く噛んでいたセンバさんは深呼吸して肩を落ち着かせたら、「落ち着いて聞いてな?」と口火を切った。

 

「ワイは、元はこの世界の人間や無かった。そして、この世界を、ゲームとして、遊びとして、別の世界から見て知っとる」

「……ハァン?」

 

 げーむって、何だ? 遊びって、どういうこと?

 不思議で不可解な話に思わず変な声が出ちゃったけど、センバさんは「無理もない」とでも言うように、緩く頭を振った。

 

「荒唐無稽で、信じられんくて当然や。でも、それが事実なんや! ワイのこの訛りやって、他で聞いたこと無いやろ? 村の外を好んで出歩いて、モンスターを遊び感覚で楽しそうに倒しとる奴なんて、異常やろ!?」

「なんだその自覚」

「この世界をゲームやと思っとるから、そんな馬鹿な真似をしとるって話や」

 

 ……なるほど? 俺が頭の中、妄想の世界で暴れまわるように。この人にとってはこの世界は遊び場で、自制なんてしなくていい場所だと。……だから?

 

「それで? それを告白して、センバさんは何が言いたいの?」

「外の世界から見とったから、知っとるんや。エンドには、まだ旅に役立つ要素がある」

 

 だ、断言!? この人だって実際には見た事無いくせに!? こ、言葉の強さに惑わされるな。入口が無くなるのは変わらない。

 

「その中に、俺の目標を果たせそうなものは?」

「無い!」

「無いの!?」

「やけど、絶対役に立つものはある。ルゥパの兄貴、テレポートは出来ても、飛べはしないやろ?」

「と、飛ぶ……?」

「エンドの先の場所で手に入る『エリトラ』は鳥みたいに自分で飛べるワケやないけれど、滞空時間を増やして滑空で移動も出来る。空から広く世界を見て初めて発見できるものも、あるかもしれへんで?」

「……大空を、飛べる、のか」

 

 雪玉ちゃんの力を借りてテレポート出来ると分かったあの日から、俺は欲深くも、『空を飛んでみたい』と強く思っていた。高い位置にテレポート出来ても、落下するだけで飛べはしない。低速落下のポーションを飲んで同じことをしたって、落ちているだけで飛んではいない。

 でも、センバさんの口車に乗れば、あの空を飛べる! 風を感じられる! 自由に! 伸びやかに! 雪玉ちゃんと同じ世界を、この身体で見られる!

 あぁ、なんて魅力的なんだ!

 

「お、俺、飛びたい!」

「おお! 兄貴も男やな! やったら話は決まりや!」

「さっさとポーション補充して、色々手入れしたら、また突入するぞ!」

「後、花火も作らな!」

「はなび? なんで?」

「エリトラで飛ぶ時の加速装置? になるんよ! 勢いあるからな!」

「そ、そーなんだー? センバさん頼めます?」

「おう! 任せとけぇ!」

 

 やる気漲るセンバさんは、いつかカボチャを取りに行った時みたいに拠点を飛び出してった。花火ってことは、火薬の為にクリーパー倒しに行ったんだろなぁ。加速装置って、パワードレールみたいなことなのかなぁ。

 

 ……。

 

「いや待てぇええっ!!!」

 

 今ある新素材での実験もまだだし、結局無条件に帰れるかどうかも聞いてねぇ! 今勢いだけで行こうとしたけど、危険なのは変わらないんだから、覚悟決めないと! ひ、ひとまず、順番をセンバさんに守ってもらわないと!

 えっと? 通常ポーションをたくさん作って。スプラッシュ瓶もたくさん作って。新素材で実験して。

 

「センバさん、この世界を知ってるって言ってた……。本当なら、これの正しい使い道を知ってるはず。っ、そうだよ! “ゾンビから人間に戻す方法”も、知ってるかもしれない!」

 

 準備することも、センバさんに聞きたいこともたんまりだ!

 

 

 

「ん?」

 

 スプラッシュ瓶を作業台で大量に作ってたら、拠点の寝室の方から、何か音が聞こえた。雪玉ちゃんが珍しく何かイタズラでもしてんのかなって思ってたら、()()が聞こえて、思わず剣を手に取った。

 

「ただいまー!」

「オワーーーーッ?!!?」

 

 勢いよく現れたのは、センバさんだった! なんでっ!? 外に素材集めに行ってたはずなのに!? 派手にドアを鳴らして入ってきたから、めっちゃビックリした!

 

「なっ、ど、どこから帰ってきてんだよ!?」

「やー! 大事なこと言い忘れとったから、実践して見せびらかせよかな~って!」

「じ、実践?」

「せやで! ワイな、死んでもベッドからリスポーンするんよ!」

「……ハァン?」

「今さっきもクリーパーに爆殺されて戻ってきたんやで!」

「…………ハァン?」

 

 りすぽーん? 何それ、テレポート? でも今、『死んでも』って、言った? 爆殺されたって言った?

 

「まー、ややこしい事省いて言うんならな? ワイが死ぬことは無いってことや」

「……………………ハァン???」

 

 せ、センバさんも、人外ってこと?

 

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