人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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少女視点


7 お父さんよりも!

 砂の上は走りづらい。ご機嫌ナナメなお日さまが、わたしをピカピカ照らして、すごくあつい。砂まであつくて、休めるとこもない。

 喉はもうカラカラ。でも、ずっと走っても、村も、人も、全然見えない……! もう、もう、やだよぉ!

 

「アッ!」

 

 疲れて、足と足がぶつかって、転んじゃった。やだよぉ、痛いよぉ。体中砂まみれだよぉ。口の中にも、入っちゃったぁ。

 

「いたいよぉ」

 

 泣いたらダメ、干からびるから。ママに言われて今まで我慢してたけど、泣いちゃった。だって、だってぇ……!

 

『アエデ! 行け! 村に行って、助けを呼べ!』

 

 「村と村の間を行き来する行商は、いっつも危ないのと隣り合わせだ」って言い聞かされてた。だから、いつかモンスターに囲まれちゃうこともあるんだろうなって、思ってた。

 でもわたし、思ってただけで、なんにも考えてなかった!

 ハスクに囲まれるのって、あんなに怖いの!? いくらフラフラ歩くのろまさんでも、こっちもラマが怪我しちゃって、動けないから逃げらんない!

 いくら強いお兄ちゃんたちが多くたって、ずっとは相手してられない! だからお兄ちゃんはわたしに、この先の村に走って、助けを呼ぶように言いつけた!

 だから、行かなきゃ。でも、でもぉ……!

 

「わぁ!」

 

 いきなり、強い風が吹いて、砂も一緒になってわたしの身体を叩いた。フードのおかげで目に入らなかったけど、バラバラ音立てて当たって、痛かった。

 ……庇ってくれるお兄ちゃんも、心配してくれるお父さんも、慰めてくれるお母さんも、今は、いない。どうしよう、こわい、こわいよぉ!

 どこを見ても砂、砂! 砂!! あんなに走ったのに、全然、村が見えないよぉ! ……どこ? そういえば、ここって、どこなの? わ、わたし、迷子になっちゃった!?

 どうしよう、どうしよう!? わたし、村にいけなかったら、みんなを助けられない! ……それどころか、わたしも、干からびちゃう?

 

「い、いかなきゃ! わっ、うわぁあっ!」

 

 怖くなって立ったら、強く吹いた風にまた転ばされた。やだ、こんなとこで、死にたくない! 死にたくない!!

 

「……あれ?」

 

 ふわっと、白く光る玉が、砂漠の向こうからやってきた。……なんだろう、お迎えかなぁ? やだよ、わたし、まだ生きてたいよ。

 ハァハァ息を整えてたら、ふわふわしたのはあっという間にこっちに来て、わたしの上をクルクル泳いだ。なんだか、かわいいなぁ……。ちがう! そうじゃない! わたしは、村に行かなくちゃ!

 ……あ、そうだ!

 

「ねぇ、シロちゃん! 私を村まで連れてって!」

 

 浮いてるんだもん、上から見て案内できるでしょ? お迎えに来たんだったら、役に立ってよ!

 

「おねがい、助けて! 家族がハスクに襲われてるの! 村から人を呼ばなきゃ、みんなが、みんなが!!」

 

 おねがい、聞いて!

 わたしの言うことを分かってくれたっぽいシロちゃんは、急にプルプル震えて、ポンッて音させて、ふたりになった。え、そんな事できるんだ……。なんて思ってたら、ひとりはピューンッて来た道戻ってって、もうひとりはわたしの背中を押してきた。あ、手がある、かわいい。

 

「……向こう、なの?」

 

 聞いたら、ちっちゃい黒い目のあるシロちゃんは、コクッと体で頷いた。うん、分かった。分かれたあの子を追っかければいいんだね!

 

 走って、走って、走った。足が熱い砂に埋まっても。砂と一緒になった風に叩かれても。ご機嫌ナナメなお日さまに焼かれても。村を目指して、必死で走った。ハスクに囲まれたみんなを思い出したら、止まれない!

 シロちゃんに背中を押されて、頑張って前に進んでたら、向こうにおっきいシロちゃんが見えた。ちっちゃいシロちゃんを追っかけてるおっきいシロちゃんはわたしを見てビックリしてた。……あれ? おっきいの、シロちゃんじゃない? 人……? お、大人の人だ!

 

「たすけてください!」

 

 気づいたら出ちゃってたお願い。聞こえたかどうか分かんないけど、すぐに近くに来てくれたおっきいシロちゃんは、ポーション瓶に入ったお水を飲ませてくれて、全部飲んだらわたしの話を聞いてくれた。

 助けて欲しいのはわたしの家族で、ラマが怪我しちゃって動けなくなっちゃってること。襲ってきてるのはハスクっていう、お日さまに当たっても大丈夫なゾンビってことも、ちゃんとお話した。ハスクの話したらビックリしてたけど、だからって、やめないで!

 

「シロちゃんのお兄ちゃん! お願い、みんなを助けて!」

「ああ、勿論。必ず、助けるからな!」

 

 お願いを頼もしく聞いてくれたシロちゃんのお兄ちゃんは、シロちゃんに「上空から村と、襲われてる人たちを探してくれ!」ってお願いして、たくさんになってたシロちゃんたちはみんなバラバラに飛んでった。

 

「君も、ご家族がどこにいるか、案内してね」

「うん!」

「よしっ。じゃあ抱えるよ!」

「え?」

 

 手を繋ぐんじゃないの? って言おうと思ったのに、その前にひとつの腕で抱っこして、わたしの腕を自分の首に回させた。うわぁ、細そうなのに、太いや。強そうだなぁ……! お兄ちゃんたちと、どっちが強いのかなぁ?

 シロお兄ちゃんは空気に手を入れてインベントリから何か、エメラルド色のお水が入った変な形のポーション瓶を取り出して、地面に向かって思いっきり投げた!

 ボスンッ!

 

「……」

「……」

 

 口部分が斜めになってるポーション瓶が、砂に埋まっちゃった。

 

「……はっず、そりゃそうじゃん!」

 

 なんか失敗しちゃったっぽいシロお兄ちゃんは埋めた瓶を拾って、栓を口で抜いて、ゴキュゴキュ音立てて全部飲んじゃった。ちょっと零れて首にまで垂れた色つきのお水が、お日さまの光でキラキラしてた。

 そういえば、この人、お兄ちゃんたちと同じ黒い髪だけど、おめめは緑色だし、お肌は黒くないなぁ。白くもないけど。見たことないから、村の人じゃないかも。でも、シロちゃんが連れてきてくれた人だもん。きっと大丈夫!

 栓も瓶もインベントリにポイしたら、「それじゃ、行こうか!」って言ってわたしをギュッと抱きしめてくれた。あっ、やっぱり、強い人の腕だぁ。

 

「お嬢ちゃん、俺、今からめっっっっちゃ高くジャンプするから、舌噛まないように、よく歯ァ食いしばってね!」

「え?」

「いいね? いくよ!」

「へっ、うわっ、わーーっ!!?」

 

 シロお兄ちゃんがわたしを抱っこしたまま立ったと思ったら、体に重たさがかかって、景色がグングン変わってった!

 砂漠がどんどん遠くになって、風が強くなって、海まで見えた! って思ったら、ひゅーんってまた落ちて、地面に着いたと思ったら、またピョーンって跳ねた!

 キャーーーッ! ナニコレ、たのしーーーっ!!!

 

 跳ねて、落ちて、また跳ねて。すっごく楽しくて、頼りになるお兄ちゃんを抱きしめてた。けど、お母さんが『人から優しくされる時は、どうして優しくしてくれるのかを一度立ち止まって考えるのよ』ってよく言ってた。考えてもよく分かんないから、シロお兄ちゃんに聞いてみよ。

 

「ねえ、シロちゃんのお兄ちゃん」

「ん~? なーに?」

「どうして、たすけてくれるの?」

 

 わたし、ポーションがとっても高いって知ってるよ。なのにシロお兄ちゃんは何でもないみたいに使っちゃってる。どうしてそこまでして、わたしをたすけてくれるの?

 わたしをギュッと抱きしめ直したシロお兄ちゃんは、真面目な目をしてた。

 

「俺は、人を助ける為に、旅をしてるから」

「え……?」

「……人は、支えあって生きていく生き物だろ? だから、俺は君を、君たちを助けたいんだ」

 

 それだけ?

 それだけで、たすけてくれるの? というか、『人を助ける為に旅をしてる』って、どういうこと?

 

 それからはなんにも言ってくれなかった。でも、背中を支えてくれる大きな手が「安心して」って言ってくれてるみたいだった。……そうだよね。こんなに綺麗なおめめしてるお兄ちゃんが、嘘つくわけないもんね!

 

「ありがとう、シロお兄ちゃん」

「お礼は、助かってからがいいかな」

「分かった!」

 

 大丈夫! きっとシロお兄ちゃんはみんなをたすけてくれる!

 

 わたしがあんなに走った長さを跳んで超えてったシロお兄ちゃんは、案内しなくってもあっという間にみんなのことを見つけてくれた。まだみんな、ハスクと戦って、ラマちゃんたちを守ってた。

 

「みんなぁー! 連れてきたよー!!」

 

 そのまま飛び込んでくと思ったら、シロお兄ちゃんはその手前でわたしを下ろした。ブワァって出てきたシロちゃんたちにビックリしてたら、シロお兄ちゃんはわたしを置いて跳んで、カチンッて硬い音を鳴らしてから、お空の上からハスクたちに向かって何かを振り下ろした!

 

「あっ!」

 

 キラッって光ったふたつの何か、それがあの変な形のポーション瓶だって分かった。高いところから投げたってまた埋まるだけだよ! そう思ったのに、砂の上に落ちた瓶はパリンッて割れて、明るいピンク色のお水が周りに飛び散った!

 

「「「ギャァアアァアッ!!!」」」

 

 ピンク色のお水がハスクにかかったら、すごい声を上げて砂になってった。そ、そんな危ないお水が、みんなにもかかっちゃった!?

 

「お父さん! お母さん! お兄ちゃん! みんな、大丈夫!?」

 

 10体よりたくさんいたハスクが全部砂になっちゃったのを見てから、みんなのところに走った。ら、足に何かが引っかかって、転んだ。引っかかったと思ったそれは、わたしの右足を掴んでるみたいだった。

 

「アエデ!!!」

「姫ぇっ!!」

 

 お兄ちゃんたちの焦る声がする。後ろから居なくなったはずのハスクの唸り声がして、誰かが砂を蹴った音がした。

 右足を掴んでるのが誰か見ようとしたら、見える前にグイッ! って痛いくらいに抱きしめられて、顔が人の体に押し付けられてなんにも見えなくなっちゃった。それから、何かが溢れるドボドボって音と、『ア゛ア゛ア゛ッ!!』って苦しそうな声が、聞こえた。や、やっぱり、わたし……! ハスクに足、掴まれて……!

 

「大丈夫、大丈夫だから、ね?」

 

 シロお兄ちゃんの優しい声がして、背中ポンポンされた。顔を上げたらシロお兄ちゃんがキラキラ笑ってて、なんだかとっても、ホッとしちゃった。

 

「今かけたのは、“治癒のポーション”。ゾンビとかハスクみたいなアンデット系には劇薬だけど……」

 

 お話してくれるシロお兄ちゃんがわたしの、ハスクに捕まってた右足の上でポーション瓶をひっくり返した。ちょっとだけ残ってたピンク色のお水がかかって、ビックリしちゃった。

 

「本当の効果は、生きてる人の傷を治したり、元気にするお薬なんだよ」

 

 ピンクのお水はスゥーってお肌に染みてって、痛いのがなくなっちゃった! えっ、す、すごぉい! かかってなかった手のひらも、転んで擦りむいてたのに、綺麗になっちゃってる!

 

「ビックリ、させちゃったよな。ゴメンな?」

 

 うん! すっごくビックリした! でもね、でもね、それよりさ!

 

「ありがとう! シロお兄ちゃん!」

 

 シロお兄ちゃんに向かって、バッて飛んでギュ~ってした! そしたら、「ホアアッ!?」って変な声でビックリされちゃった。ヘヘヘッ、おもしろ~い!

 

 わたし、シロお兄ちゃんのこと、大好き!

 

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