人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
「はえ~、雪玉ちゃん有能~」
「最っ高だよな~!!!」
「めっちゃニッコニコやん」
各地に散らばっている雪玉ちゃんが新たなエンドシティとエンドシップを見つけているから、そこまで行こうと提案したら雪玉ちゃんを褒められた。から、メッチャ気分いいね! 雪玉ちゃんたちも褒められて自慢げにふんぞり返ってますわ! 可愛い!
金床でエリトラを修繕した後、エンドシティの上に居るセンバさんにまでお届けした。そのまま飛び立ってもらえばいいかなって。エリトラを背負ったセンバさんは自分の背中を見て満足気だった。
「つまり、雪玉ちゃんが見つけてくれたその場所まで、ワイはエリトラで、ルゥパの兄貴はテレポートで向かうんやね。流石、目が繋がっとるだけあって、一人ひとりの居場所分かるんやな」
「うんにゃ? 知らないけど」
「知らへんの?!」
「感覚は共有できても、どこに居るかは目視じゃないと分かんないし。ただ、雪玉ちゃん同士は分かるみたいで、ほら、道案内してくれるみたいよ」
「はー、不思議生物」
お喋りはここまで。未探索のエンドシップまでの道を体を張って点々と示してくれる雪玉ちゃんたちの献身を無碍には出来ない。食料も体力も限りがあるんだから、宛があるならポンポンやってかないとね。
センバさんがエリトラで上手く飛び立てたのを確認してから、俺も望遠鏡を片手に雪玉ちゃんへテレポートした。センバさんと高さを合わせる為か、わざわざコーラスの木の上にテレポートさせてくれてた。雪玉ちゃんたち、俺のフィジカル信頼しすぎ~。普通に足場1マスは怖いからね~?
次のエンドシップは隣のそのまた隣の浮島にあるらしい。奈落を2つ挟んでたけど、そこは望遠鏡で雪玉ちゃん見つけて遠距離テレポートで凌いだ。センバさんは花火で1回上に飛ぶことで切り抜けたっぽい。
「花火、往復分足りそう?」
「3スタック分作っとるから大丈夫やろ!」
「いったい何匹のクリーパーの犠牲があったことか」
「ファントムにも犠牲者の会建てられそうやわ」
「何それ」
お互いの距離が近くなった時にそんな会話をした。そして、そんなこんな言ってる内にも、次のエンドシップが見えてきた。お宝とそれを守るシュルカーがたくさんいるエンドシティはもはや無視して、直接エンドシップに乗り込んだ。こっちのエンドシップも造りは変わらないらしく、ポーションが2つ放置されたままの醸造台や2つの宝箱も、シュルカーも、エンドラの頭が祀られてる位置も変わらなかった。そんな事ある?
センバさんがまたも軽い調子で額縁からエリトラを取ると、俺に押し付けるように手渡してきた。
「これで、ルゥパの兄貴と並んで飛べるな!」
「可愛いかよ」
ルンルン気分のセンバさんに誘われたら、断れないわな~。さっき飛んでる時からそんな事考えてたんすか? 可愛いな~この成人男性!
雪玉ちゃんに次のエンドシップの場所を探してもらってる間は、センバさんのエリトラを金床で直したり、ポーション用にエンドラの頭を回収したり、腹を満たしたり、たわいもないお喋りしたりと、のんびり休憩してた。
「センバさんって、好きな食べ物なんなの?」
「んー、やっぱリンゴやなー。この世界でいっちゃん最初に食べたもんやし」
「え、意外。お肉とか好きそうなのに。さっきもステーキ食べてたし」
「まぁ、お腹壊さずに食えるんなら、なんでも好きやけどさ。でもやっぱ、前々から親しんどるものは、安心するんよな」
「あー、それは分かる気がするわ。初めての味に最初は興奮するけど、やっぱりシチューが良かったりするんだよな」
「ルゥパの兄貴って、割とスープ系とか煮込み料理好きやんな」
「ほら、水を沸騰させたり素材を煮出したりとか、工程がポーションに似てるじゃん?」
「こんなところでもポーションフリークさ出さんでええって!」
「まぁ実際は、俺がお世話になった神父さんがその系統が好きだから、自然と俺も好きになったって感じなんだけどさ。ポトフとか、ビートルートスープとか、アクアパッツァとかね」
「お、おっしゃれ~!」
うん、神父さんはイケオジのオシャレさんだった。なんて話をしてたら、左目に何か違和感を覚えた。閉じればエンドシップが見えた。
「センバさん、雪玉ちゃんが次のエンドシップ見つけたみたい」
「おお! そんなら、早速飛びますか!」
既に準備万端な俺たちは、さっとエリトラを背負うと、エンドシティの天辺から飛び立った。これ下手な人がやったら、風を受け止めきれずにそのまま落下死するらしいよ。怖いな。
「わー! 雪玉ちゃんに囲まれて飛ぶん、メッチャ楽しいやーん!」
「でしょー!? キラキラしてるし可愛いし、まるで夢の景色なんだよー!」
左にセンバさん、その他の周りと先導してくれる雪玉ちゃん。仲間と一緒にこの寂しい世界を賑やかしてんの、すっげぇワクワクしちゃう!
……最初は、楽しかった。雪玉ちゃんともセンバさんとも並んで飛べて、大げさに回転するように飛んで面白かった。でも、推進力となるロケット花火を5つ消費した辺りから疲れてきた。
コーラスの木の密集地帯から抜けた時に分かったことだけど、ロケット花火って結構体への負担が大きいんだよ。熱いし、掴まってる手も肩も外れそうになる。上に向けるだけとはいえ、コントロールを失わないように体勢を維持するのも案外大変だ。
「次の浮島で! 一旦! エリトラ修繕しようぜ!」
「分かったー!」
おまけに、エリトラの損傷具合も気にしないといけないから、結構ピリピリする。浮島じゃない場所で耐久値がなくなったら奈落に真っ逆さまだから、それも自然なことなんだけどね。センバさんだって、死んでもベッドから生き返るとしても、またこの距離を飛ぶのは大変だろうし。
休憩の為に降り立った小さな浮島で、言った通りエリトラを金床で修繕した。2人揃ってファントムの皮膜3つ分ずつ。ボディランゲージで残りの距離を教えてくれた雪玉ちゃんによれば、次のエンドシップまでは後半分の距離があるらしい。つまり? 2つ目の船から往復で消費するファントムの皮膜が12枚。そこからの皮膜の消費はあまりないけど、14枚以上くらいでしょ? この為にファントムの皮膜を大量に収集したからって、うーん、これは。
4つ目のエリトラを取りに行くか悩んでたら、雪玉ちゃんが俺とセンバさんに向かって治癒のスプラッシュポーションをかけてくれた。あ~、痛んだ肩が癒される~! こんな気遣いされたら、残りの旅路も一気に飛び抜けるしかないわなぁ!
やっと見えたエンドシップの甲板に降り立った。
「「だぁああっ……!」」
と同時に、同時に倒れこんだ。いくら治癒のポーションでダメージを解消したところで、疲労は身体を横にしないと流石に取れない。ネザーで鍛えられた俺と同じくらい体力化けもんらしいセンバさんでさえ、この有様って……。
「センバさん、俺、エリトラ直すから、ここのエリトラ取ってきてくれね?」
「分かった~」
お互いフラフラになってるけど、やることさっさと済ませないとな。足取りがおぼつかないセンバさんはリンゴを囓りながら船内に入ってった。雪玉ちゃんも付いてったから、シュルカーにやられる事は無いだろう。……にしても。
「あれだけ飛んで、時間もかかってんのに、次のエンドシップ、まだ見つかんないか」
最初のエンドシップからこの世界全体を雪玉ちゃんに探索してもらってる。レアって言ってたし、しょうがないのかもしれないけど。だからそもそも、俺たちこれでエリトラ取り尽くしたのかもしれないな。うわー、先人の知恵がいとも簡単に消耗されてらー。作れたら一番だから、ポータルのあったあの要塞に戻ってもう一回図書館で文献調べようかな。
……だから、うん。
「……皆、エンドシップ探しは切り上げて。お疲れ様。戻っておいで」
まるで畑からジャガイモを数個だけ収穫してきた、くらいのテンションでエリトラを取ってきたセンバさんは、金床を使ってる俺の横でベイクドポテトをモサモサ食べてた。少しでも身体を休めたいんだろう、インベントリから取り出した羊毛ブロックに腰掛けてるセンバさんの顔は疲れ切ってて、ここから更に進む人間には見えなかった。……切り出すなら、ここしかないか。
「疲れてきたな、流石に」
「せやな~……。まさか、花火を使って飛ぶんがこんなに疲れるとは思わんかったわ」
「ベッドも使えないから満足に休めないしな。だからさ、センバさん。俺の分のエリトラは取りに行かなくてもいいから」
「えっ!?」
驚かれるのは想定内。その中に喜びの色が見えたのも、想定内。だって気付いてたでしょ。俺がそこまでエリトラを使うことは無いって。
「普段の移動は徒歩だし、いざとなったら雪玉ちゃんテレポート使うと思う。エリトラの推進力になるロケット花火は火薬をたくさん使うから、スプラッシュ瓶にも使いたいのにそこまで火薬は割けない。だから、使用頻度は低いんだよ」
「や、やけど……!」
「第一、そこまで疲れきってる人を連れ回そうと思えるほど、俺人でなしになってないんで」
脳内で勝手に「魔女だけどな」って付け加えて、自分で自分がウザかった。
対面するセンバさんは、喉元にベイクドポテトを持った手を添えて狼狽えてた。でも自分の残り体力とこの先を進むリスクとを比べたんだろう、やがて肩を落とした。
「すまん……」
「いいんだよ。俺も帰りたいし」
「ありがとうな」
撤退するのも大事な戦略。無駄をそぎ落とすのは大事。だから、ココで帰るのが正解なんだ。さて、しっかり休んだら、あの1マスポータルまでまた飛ばないとな。雪玉ちゃんに見張りをお願いして、センバさんとお喋りしてリラックスしよっかな。
「ねーセンバさん、センバさんは帰ったらこの先どこを旅するとか決めてるの?」
「んー? いやー、最初にこの世界にスポーンした時から特に目標らしい目標は立ててこんかったからなー。せっかく憧れの世界に来れて自由に歩けるんやし、適当に世界を見て回ってみよーって感じやなー」
「そんな感じだったら、エリトラがあると世界旅行が捗るって感じだな」
「そうなんよー! だから欲しくってなー! でも、あんまりずっと飛び回れんのは誤算やったなぁ」
「体力の消耗激しいもんな」
ふーん、ほーん。なら、“国”をオススメしても悪くない流れかなー? とか企んでたら、センバさんが急に手を打ち鳴らして「あ、せや!」って閃いた。
「ルゥパの兄貴が決めてや! 兄貴、旅でいろんな所行ってきたんやろ? やったら、オモロイところあったんやない?」
「お、おもろい……。そ、そうだなー、俺が出会った中で一番面白い人は、“国”を作ってる人たちかな」
「く、国やと!?」
疲れきってるはずなのに、驚いたセンバさんがこっちに勢いよく身を乗り出した。ってことはやっぱり、ヨシトさんは、センバさんと一緒なんだ。どうりで不思議なことをずっと言ってたわけだ。
「そう、国。興そうと頑張ってるのはシターシュさんとヨシトさんの2人。シターシュさんの故郷の村がならず者、かつて重罪を犯した故にその村を追放された人たちに滅ぼされたから、新しく居場所を作ろうとしてるんだ。俺も整地したり畑作ったりって協力して、俺が旅立つ頃には立派な、それは立派な! 農場になりました~!」
「国ちゃうんかい!」
「法律が出来てないのと、国民が居ないからだって」
「あー、話見えてきたで。ワイにその国に住んで欲しいんやろ」
「バレたか」
「あからさま過ぎやもん」
話が早くて助かるなぁ。身を乗り出してたセンバさんは今度は羊毛に後ろ手をついて仰け反ると、苦笑いした。
「言っとくけどワイ、一箇所に留まるん苦手やで?」
「ふっふっふ。いつまでそれを言えるかな? ヨシトさんの料理を食べたら、そんな事言ってられないっすよ?」
「りょ、料理?」
「旅に強い目標のある俺ですらも後ろ髪を盛大に惹かれつつ、やっとの思いで離れたって感じだから、センバさんには難しいだろうなぁ」
「料理って、いったい、どんな?」
おお、食いついた。食に素材と効率を求めるセンバさんが興味を持ってくれたなら、もう勝ったも同然だな。
「俺が惚れた料理は、“フライドポテト”に、“トンカツ”だ」
「な、なんやって!? 揚げ物!? そんなんこの世界でも出来るんか!?」
「豚の脂からラードを抽出して、それで揚げてたよ。これがもー美味しいの! しかもな、ヨシトさんにはまだまだアイディアがあるから、今頃もっとラインナップが増えてるはずだぜ。コロッケだとか、うどんとか、白醤油とか色々呟いてたから今頃実現してるかもな」
「わ、わ~~~……!」
目を輝かせ、口元を両手で覆い隠したセンバさんは、料理の名前を聞いただけで生唾をゴクリと飲んでいた。「行ってみたくなったろ?」と促せば、センバさんは首を縦に何度も振った。さぁ、最後のひと押しだ!
「ここに、今の拠点からその場所にまで繋がる地図がある。欲しい?」
「欲しい!! い、今すぐ複製しようや!!」
「“国”の発展の力になるって、約束してくれる?」
「な、何すればエエかよく分からんけど、頑張る! 約束する!」
「よし! なら複製するか!」
戦闘力バグってるセンバさんがシターシュさんの国に力を貸してくれるなら、モンスターからも、恨みを買ってしまった人間からも守れるはず。つまり、向かうところ敵なしになるってこった!
4回くらい休憩を挟んでエリトラで帰りのポータルまで飛んで帰った。で、センバさんが「前忘れてた」って言って、巨大な卵を回収した。エンダードラゴンの卵って話だけでも驚いたのに、回収しようとしたらテレポートしたのにもっと驚いた。卵が着地した石の下を掘って松明の上に落下させたら回収できるようになったのは、もうワケが分から無さ過ぎた。
その最後の戦利品を持ってポータルに入って、拠点に帰ってきた俺たちがまずしたことは、ベッドで寝ることだった。センバさんはともかく、睡眠がいらない魔女の俺でも流石に疲れ果てちまったよ……。