人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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戦場を生きる場所にしようとしていた男視点


73 別れも出会いもさっぱりと

 「いいか、センバさん」

 

 ワイの肩に手を置いてそう前置きしたルゥパの兄貴。エメラルド色の綺麗な瞳はすごく真剣にワイを見据えてくる。

 

「頼むから、俺が魔女ってことは“国”にいる人たちには絶対! 絶対!! 言わないでよ!?」

「えっ、言ってないん?」

「見破られてないんならわざわざ言わねぇよ! 危険な橋は渡らないタイプなの俺は!」

「ルゥパの兄貴って怖がりやもんな」

「そうだよ。悪いか?」

「うんにゃ?」

 

 その危機感が今まで兄貴を守ってきたんやろうから、悪いことやまったくあらへんよ。

 キープインベントリのチートがONになっとるからって、簡単に死ぬワイよりずっと立派や。あと兄貴は“ゾンビから人間に戻す方法”を探すっていう目標があって、それの特性上、どこかで村人と交流せなアカンやろうからな。なんかいざこざがあったら困るやろし、どこかで誰かがうっかりルゥパの兄貴の秘密を話してしまうかもしれん。

 

「……ん? “国”の人たちには? なんで限定するん?」

「あぁ、国のあるとこの近くにハナハタ村っていう、花畑とミツバチが名物の鉄格子に囲まれた村があるんだけどさ」

「なにその自然豊かな監獄」

「花畑を作った旅人のハナコさんが、クリーパーに巣箱を爆破されないように鉄格子を張り巡らせたんだと」

「絶対そいつもクラフターやんけ!」

「あ、そうなの?」

 

 なんか思ってたより、この世界に転生した人多いんか? ルゥパの兄貴の話に出てきたのだけでも2人は確実に居るぞ。って、話逸らしてもうたな。

 

「そ、それで、その隣村がなんや?」

「あ、それでな、その村は村の子供に俺が弟子入りされて1年滞在した村なんだけど、世話になった聖職者のヘイリグさんに正体見破られたんだよ。だからヘイリグさん、聖職者さんと村長さん、自警団の団長・副団長と、俺の弟子のカヌプとパーデの6人は知ってるよ」

「案外多いやんけ」

「隠し事するなら偉い人を抱き込むのが大事だし」

「汚い大人やでホンマ」

 

 確かに知っとる人ら、村長とか自警団の団長とか、偉そうな人たちばっかりやな。なるほど、こうやって隠蔽は成立していくんやろな。まぁ、隠さなアカンと思っとるんなら、事故みたいなもんで知ってもうたワイはその通りにするんが義務ってもんよな。ルゥパの兄貴の頼み、ちゃんと承らせてもらいます。

 てか、兄貴がお師匠になっとったってのも驚きの話なんやけど、村人がこんな人間擬態完璧な兄貴の正体を見破れるって事実もヤバい。ゲームの世界みたいやけどそうやないって分かっとるのに、未だにココで驚くのはやっぱりまだワイの中に偏見があるからなんやろうな。

 

「一先ず、分かったわ。えっと、共有してエエのは聖職者と村長と、自警団団長と副団長?」

「うん、覚えとくのは大人だけでいいんじゃない? カヌプは村長の息子だし、パーデは団長の弟だから直ぐに分かるとか思うけど」

「権力者に近い人らしか知らんのな」

「そうね」

 

 『覚えとくのは大人だけ』って事は、その2人は子供なんやろか。息子、弟。もしかして野郎しか知らない? 兄貴って女の子苦手なんかな?

 

「あ、ただちょっと気をつけて欲しい事があって」

「えっ、何なに?」

「ヘイリグさん、ポーション制作の普及に力を入れてるんだよ。だからセンバさんの実力を見抜いて色々と教えようとしてくるだろうから、嫌ならちゃんとフッてな?」

「ルゥパの兄貴とベクトルの違うフリークが居る……」

「あー、確かに」

 

 なんやろう、ポーションに関わる人間って、フリークになりやすいんやろうか。「やとしたら、上手く逃げれるように醸造台の使い方をおさらいしときたいな」って言ったら、丁度エンドシップから回収したからって、それでルゥパの兄貴からポーションの作り方を習った。兄貴のやり方見とって知っとったけど、ゲームと仕様変わりすぎとるよな。放置できへんの割と不自由やし、素材刻まなアカンし。そもそも形が3つくっついたコーヒーを淹れるヤツやしで。コーヒー飲んだこと無いんに、それに似た道具使う方がデビュー早いって、オモロい話やな。

 

 

 

 ルゥパの兄貴にポーションの作り方とか素材の加工の仕方とか教えてもらったり、魔女にしか開けんらしい異空間を見せてもらって目がおかしくなったり、兄貴とお喋りしたり雪玉ちゃんたちと戯れたりして、存分に夜更かしライフを満喫した。その結果3日寝てなくて、ワイに引き寄せられたファントムを良いカモとして狩りまくった。これが今回諸々世話になったお礼や言うたら、「なんか企んでると思ったら」って笑われた。勿論「ありがとう」も言われたで!

 

 そんなこんなで、エンド攻略が終わってからもなんやかんや一緒に過ごしとった。けどずっとここに留まるワケにはイカン。やから、別れはいきなり、ワイから切り出した。

 

「ルゥパの兄貴! ワイそろそろトンカツ食いに行きたいからサヨナラ!」

「え、突然すぎん?」

「そうでもないとワイ、いつまでもルゥパの兄貴と一緒に居そうやから! それじゃ!」

「え、ちょっと待って、ホントに今サヨナラすんの!? センバさんっ、センバさーん!?」

 

 拠点から扉バンッってやって飛び出して、エリトラで晴れ渡る大空へ飛び立った。ちらっと後ろを見ればまだルゥパの兄貴がポカンっと大口開けて呆けてた。イタズラが成功したみたいでオモロイな!

 

「また、どっかでなーーー!!!」

「もーーっ!! じゃあなーー!!」

 

 体勢変えて大きく両腕を振ってサヨナラ言ったら、兄貴も片腕やったけど大きく振ってサヨナラしてくれた。

 ワイも兄貴も冒険者。きっとまたどこかで会えるはずや! やから、湿っぽい別れより、こんなあっさりがエエやろ!

 

 

 

 1日、2日、3日。2つのエリトラを交互に使って修繕しながら飛ぶけれど、あっという間に消耗して、あっという間に時間も溶けてった。陸路やないからモンスターにエンカウントせんし、休憩にさほど時間かけてないにも関わらず、や。緊急時にしかロケット花火を使ってない節約飛行やとしても、ここまでかかるもんかね。ルゥパの兄貴、どんだけ旅してきてるんやろ。エンドのことばっかやなくって、もっと話聞いとけば良かったなぁ。

 夕焼けが眩しい。そろそろ4日目が終わるんやね。道案内として付いてきてくれた雪玉ちゃんにそう話しかけたら、何も言わずにワイに頬ずりしてくれた。あ~、存在も心遣いもあったかいんじゃ~。

 

「これも、トンカツのため! もうひと踏ん張りや!」

 

 左手に持つ地図を顔の正面に持ってくる。目指す村、いや“国”、という名の農場まで、地図上ではあと少し。このままエリトラで飛ばしてくで~!

 

 

 先導してくれる雪玉ちゃんの後を付いて飛んで、深い森の上を飛ぶ。途中で視界の端に洋館が見えたから手土産を調達しに行こか思ったけど、雪玉ちゃんに全力拒否されたからエヴォーカーたちを殲滅するんは諦めた。確かにこんな暗さやとゾンビ沸くもんな。そんな森の上を通り抜けると、だだっ広い農園が見えてきた。

 ウシ・ブタ・ニワトリとかの色々な動物の住むところやったり、だだっ広い畑があったりって広く、一次産業って言うんやっけ? が出来るところが取られとって、その大まかな敷地の周りには鉄格子が4段分くらい積み上げられとった。あれ? こっちハナハタ村? いや、でも。

 

「人が住むトコ、あんま無いから、こっちが国やんな?」

 

 発展途中っぽいとこ見ても、多分間違い無いやろ。そう判断してちょっとある建物の中でもいっちゃん大きい建物のそばに降り立ったら、いっぱいの雪玉ちゃんと村人さん3人に出迎えられた。いや、ヨシトって奴はクラフターやったな。さて、それは誰やろう。ピンク色の髪の毛でいかにもキャラメイクしました! って感じの糸目の男か。黒髪赤目の騎士感漂わせとる男か。その騎士に庇われとる金髪赤目美女か。ヨシトって女の人の名前の響きちゃうし、野郎のどっちかか。

 1人だけメッチャ警戒しとる中、ワイは意識して笑顔を作った。

 

「どうも~! 初めまして、センバっていいます~! ルゥパの兄貴の紹介で来ました!」

「あっ、関西弁なんだね~! 雪玉ちゃんも一緒にいるし、疑いようが無いね~! 僕はラクだよ~」

「なんだ、お前たちの同胞か。私はシターシュ。この農園の最高責任者で、未来の国の王だ」

「……ヨシトだ」

「おぉ! アンタが噂のヨシトさんな! トンカツ食べさせてください!」

「えっ、あ、あぁ……」

「よっしゃあ!」

 

 素直にオネダリしてみるもんやな! ヨシトって人、この中で一番無愛想やったけど、簡単に受け入れてくれたわ!

 

 農場の拠点兼ヨシトとシターシュ姐さんの愛の巣にて、ヨシトがトンカツを揚げてくれるのをテーブル席に着いて大人しく待つ。ジュワ~パチパチパチって音をBGMにして体左右に揺らして待ってたら、ラクっていう薄い桃色頭の男の人がワイの隣に座った。

 

「ね~センバくん。君がここに来た時に着けてたのって、エリトラだよね? よかったら、見せてくれない?」

「ええで! 使っとったから、ちょっとボロいけど……」

「気にしないよ!」

 

 ふんわり微笑んどるラクに、比較的無事な方のエリトラを渡した。インベントリから取り出した途端、細い目が微かに開いてキラッキラ輝きだしたから、初めて見たんかな。受け取って早々、立ち上がって自分の体の前に広げて眺めるラクは、「すごい、すごいね!」ってだんだん興奮しだしよった。んふふ! すごいよなぁ! あ、シターシュ姐さんも、ここの雪玉ちゃんたちも見てええで! どうぞどうぞ、ワイのお宝見て! ルゥパの兄貴と探し回ったこのお宝を!

 鼻高々になっとったら、エリトラ観察に夢中やったラクがワイの方を向いてきた。

 

「エリトラを持ってるってことは、エンドに行ってきたってことだよね? ど、どんな感じだったの?」

「どんな感じ~? ゲームとさほど変わられへんかったと思うで? 奈落は奈落やし、エンダーマンは大量に居るし、エンダードラゴンは柱の上のクリスタルで回復しとったよ。なんとか倒したけど、まー、ゲームと違って体力消耗激しかったな~」

「おまっ、いくらここに3人しか居ないからって……!」

「いいじゃんヨシト~。みんな事情知ってるっというか当事者なんだしさ。そっか~、そっちの仕様は変わんないか~! まだエリトラあるかな?」

「ワイらで3つ取ったから、確率は低なっとるとは思うけど」

「もしかして予備まで取ったの? 欲張り~!」

 

 文句言いながら、ラクは勝手にエリトラを羽織って自分の背中振り返っとった。あ、それワイもやったわ~。楽しそうなラクを眺めとったら、その奥のシターシュ姐さんに「聞いてもいいか?」って話しかけられた。

 

「センバ。君はどうしてルゥパと共に冒険を?」

「どうしてって言われたら、目的が一緒やったからやな。同時期にエンドポータル見っけたから、それを起動するんにエンダーアイが必要で、集めてたら雪玉ちゃんがやってきて、この子がワイらの縁を結んでくれたんや! な!」

 

 ワイの胸元に収まっとる雪玉ちゃんに同意求めたら、飛び出てクルクル縦回転してくれたわ。あーかわええー!

 

「なるほどな。君たちの冒険譚はまた後々聞くとして。……センバ、君は、クラフターなんだよな?」

「せやで。シターシュの姐さん以外の野郎どももそうやろ?」

「あぁ、そうとも」

 

 ワイの指摘に頷いたシターシュ姐さんは、なぜかすぐに眉を困らせて、顔を少し俯かせてもうた。それからラクも、次のトンカツを揚げだしたヨシトもなんか、なんか空気硬くなったような。

 

「ど、どうしたん?」

「……君がここに居て、ルゥパが居ないってことは、だ。君も、ルゥパの求める知識を、希望を、知らないという事なんだよな」

「!」

 

 う、わぁ……。き、気まず……。確かにその通りやけど、真正面から指摘されるとは思わんかったわ。自分でも分かりやすってなるくらい背中丸めてショック受け取ったら、シターシュ姐さんに「あぁ、気を悪くさせてしまってすまない」って謝られた。

 

「実はな、彼がその目標を達成した暁にはこの国に帰ってくるように誘っていてね。建築にしても戦力にしても生産能力にしても、あれほど優れた人材はいないだろう? だから、来るなら早く来て欲しいんだよ」

「確かに、兄貴なんでも自分で作れるし、メッチャ強かったもんなぁ。……スマンな?」

「謝らないでくれ。それはヨシトもラクも同じだし、ルゥパが君を責めなかったのにどうして私が責められよう。本当に気にしないでくれ」

「え、なんでワイが何も言われんかったって知ってるん?」

 

 確かに、ワイとヨシトがクラフターやろうって知ったルゥパの兄貴にその事聞かれて、知らないって言ってもそんな怒られんかった。でも、なんでそれ知っとるん?

 ワイの疑問に答えてくれたんは、ヨシトやった。

 

「アイツ、俺がその話を聞いたことがある、ってしかないうっすい情報でもスゴイ喜んでたからな。なんなら、誰も知らないなら俺が見つけ出してやる! くらいの意気込みだろうよ。ウィザースケルトンの頭蓋骨をポーションにした伝説は未だにハナハタ村に語り継がれてるぞ」

「ほんとね!」

「あー! 兄貴頑張ってシュルカーの玉回収しようしてたし、殻をすり潰してポーションにしてたわ! 何も出来とらんかったけど」

「変わんないなぁ」

 

 懐かしそうに笑うヨシトが、いいキツネ色に揚がったトンカツを銅鍋から油きり網に移した。箸に付いた油を銅鍋のフチを叩いて落としたから、キンッキンッっていい音が鳴ってた。

 

「だからこそ、ろくに協力できなかったのが心残りなんだ……」

 

 丸くなった背中から悲壮感が漂っとった。

 

「雪玉ちゃんに手伝ってもらうたびに、後悔が深まるんだ。なんでちゃんとプレイしてなかったんだって。実況動画見てるだけ、配布ワールドプレイしたり視聴者参加型イベントに参加するだけじゃなくて、ちゃんと冒険してりゃ良かったって」

「あはは、そんな事言いだしたら僕だって、シンちゃんと遊ぶ時にもっと村人を大切にしとけばよかったって後悔しちゃうよ。エンチャントとか、トラップタワーばっかりじゃなくてね。……知ろうと思えば、知れたのに」

 

 2人とも、ワイと同じくらい、村人を無視した自由な冒険やったり遊び方してたんやな。こんなことになるなんて、微塵も思わんから。

 

「ワイも、ずっとクリエイティブで建築したり、新要素追いかけてばっかやったから……。飽きたらすぐワールド変えとったし、殆ど村人とも交易したことなかったなぁ」

「君らにとっては遊びだものな。私も同じ状況なら放っておくかもしれない」

 

 クラフター組で傷を舐め合ってたら、シターシュ姐さんにまで慰められてもうた。情けへん気持ちがもっと膨れたわ……。

 過去の自分を殴ってやりたい、なんて自分が使うとは思っとらんかった気持ちになっとったら、ザクッ! ていう、小気味いい音がした。

 

「だがまぁ、もう過ぎたことだ。俺らは俺らで出来ることをするだけだ」

 

 いい音は、ヨシトが揚がったカツを切った音やった。おわ~、ええ香り~!

 半分に切られたトンカツは丸っこいバンズや焼き玉ねぎと生トマト、トロっとしたチーズと一緒に挟まれた。こ、これって!

 

「と、トンカツサンドや! すご~!!」

「お気に召すのは食べてからな。すぐ出来上がるから、座って待ってろ」

「はーい!」

「ふふふ……」

 

 素直に言うこと聞いて返事しただけやのに、なんか笑われたんやけど~! あんなん、少なくともバニラのマイクラ内で見たこと無いから、ビックリするん当たり前やん!

 文句を言う暇もなく、全員分のカツサンドが出来上がった。わ~、誰かとテーブル囲って食べるとか、給食以来やんけ~!

 

「いっただっきま~す! んっ、わっ、うま~!!」

「食べてから感想言うまで早いな~」

「美味しいからな。当然だ」

 

 かぶりついて直ぐに口を満たすトンカツの肉汁! トマトでスッキリして焼き玉ねぎも甘くて美味い~! パンもフカフカや~! なんやこれ、おいしー!!!

 

 

 

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