人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
空はグロウベリーで地面はライラック、水はタンポポで太陽と月はイカスミ色。そんな色がハチャメチャな魔女の異空間で、俺は身体を揺らして鼻歌を歌っちゃってた。
「さぁて今回は何が集まったかなー?」
ウキウキしてる俺の目の前には、雪玉ちゃんが並べてくれたジャングルで集めた素材があった。は~、そんなに長く探索してないのに、こんなにいっぱい!
ジャングル特有の木の原木・木の皮・苗木・葉っぱ。
原木にくっついて生ってた大・中・小の果実。
サトウキビに似て異なる、中が空洞な植物。
レッドストーン関連で石版・粘着押し引き装置・人の顔した発射装置。
レッドストーン関連は俺がそれに詳しくないからどうしようも無いけど、他は俺がいじれるものばっかりだな!
「それじゃあコート修復班! 俺が実験してる間によろしくね!」
後ろへ振り返ってそう声をかける。ビシィッ! と小さい手を突き上げて応えてくれた雪玉ちゃんの前には、くり返し使われて欠けた金床。その上には俺がヘマして穴を開けちゃった白い革コートが広げられていた。血はさっさと流したけど、やっぱちょっとシミになってるかな。
本当だったらあのコートは俺が直すはずだった。だってサータちゃんやヘムスタッド村の皆との繋がりの印だもん。俺が直したかった。でも、それをなぜか今修理班に任命されてる雪玉ちゃんたちに止められちゃったんだ。どうしてか聞いても、お喋り出来る口の無いこの子らから詳しい話は聞けなくて……。それでも一応、俺の想いは伝えたんだ。
『このコートは俺の気持ちで、覚悟なんだ。それに普段から着てるのも俺だから、責任持って俺に直させて?』
この子らの中でも一際直したそうな雪玉ちゃんに正面からこの気持ちをぶつけた。俺の気持ちを受け取ってくれた雪玉ちゃんはまるで胸に手を当てるように自分の前で手を合わせて、つぶらな黒い瞳を潤ませて──俺の鼻っ柱を折る勢いで体当たりしてきた!
『パッ!? なんでっ!?』
それはそれ、これはこれ。らしい。なんかよく分かんないけど、そこまで行動に出られたら、任せるしかないよな! その間に俺もポーションの実験しとかなきゃな。
素材を刻んで、奇妙なポーションで煮出して、醸造台で冷めるまで待つ。何度も何度も作業を繰り返した結果は!
「全✩滅!」
効果のあるポーションは1つも! 作れませんでしたぁ!
飲んで確かめたから間違い無い。一応、ゾンビに引っ掛けるように保管するけれど、正直期待はできないわな。経験上、出た色が素材そのままだったり沈殿してたら失敗だったから。まぁいつもこんなもんだから、そんなに気にしてないけどね。
果実とサトウキビ似の植物にはちゃんと金塊とか金インゴットを掛け合わせようとしたよ。でも、どっちもダメだった。万事休す。こりゃあもう1回、ジャングルの奥地に向かわなきゃだな。
「金といえば、金のリンゴの木はどうなったかな」
確かジ・エンドに行く前に金ブロックの上にオークの木を植えたんだった。あれから結構時間経ったし、立派なのが生ったんじゃない?
他の木と見分けが付くようにすぐそばに看板を立てて、周囲に松明まで置いて目立たせてる。そこまでして期待してる木は、だけれど他のオークの木と見た目が変わらなかった。でも、鉄のクワで葉っぱを破壊してたら出てくるっしょ。
雪玉ちゃんがアシストして置いてくれた土の足場に登りつつ、サクサクっとクワで葉っぱを壊していく。そんなに高い頻度でリンゴも落ちるわけじゃないから、ぶっちゃけ不安だけど……。
「あっ!」
サクッと葉っぱを刈ったら、キラッと光る何かがドロップした! ポンッと飛び出たそれを下で待ってた雪玉ちゃんがナイスキャッチしてくれて、こっちまで運んできてくれた。掲げてくれてる雪玉ちゃんより大きいそれはツヤツヤと、そしてギラギラと黄金に輝くリンゴだった。これは間違い無く、金のリンゴだ!
「本当に出来るんだ! やっべ、ロマンあるぅ!」
これで何個も金のリンゴが出来たら最強じゃん! ウオオオオッ! せめてもう1個出て! これ以上はもう骨粉を蒔いても葉っぱ復活しないから! あれっじゃあダメじゃね?
「あっ出た! ……あ?」
確率低いのに1つの木からもう1個リンゴが! って喜んだのに、ドロップしたのは真っ赤なリンゴだった。……ちょっと待て!?
「き、金ブロックの上にオークの木をやっても、金のリンゴは1個しか出来ないの!? ちょっ、だとしたら、金インゴット1個分どこ行った?!」
だって作業台で作ったら真ん中にリンゴと、金インゴット8個でいいもん! ブロックはインゴット9個無いと出来ない! でもこれは、インゴット9個使って金リンゴが1個! 魔法がかかってるようにも見えないし、うわっ!!! 木に栄養吸われた!
オークの原木を全部回収して、地面を掘る。土を1ブロック挟んで金ブロックを埋めたから、そこにまだ金ブロックがあれば望みあるけれど……!
「あーあっ!! 無くなってらぁー!!」
金ブロックあった所がぽっかり穴空いてますわー! はー! やってらんねー!
金インゴット1個分無駄にして不貞腐れてたら、背中に何か羽織られた。重めなそれは俺がいつも着けてる、革の白コートだった。
「あ、直したんだ。ありがとね、雪玉ちゃん」
修理班が一生懸命金床で直してくれた白コートは、継ぎ目がどこだか分からなくなるくらい完璧な仕上がりだった。なにこの技術力。矢で確かに穴が空いてたのに、まるで新品じゃん。染色し直してもくれたのかな? 眩しいくらい白いや。
「君らに任せて良かった! 本当にありがとう!」
お礼を言ったら、修理班の雪玉ちゃん皆がくるっくる縦横無尽に回りだした。ありがとね~!
新調してもらった白コートを羽織って、魔女の異空間から出る。ジャングルの中にある湖から入ったから相変わらず濡れるけど、もう気にしてられないよね。ジャバジャバ鳴らしながら湖から出た。日はすっかり暮れていて、見かけた白黒獣はいなくなってた。ちょっと寂しいね。
そしてまた、ジャングルで素材集めに出る。偵察という名の散歩に出てた雪玉ちゃんによると、もうそんなにめぼしい物はなかったみたい。でも、冒険はしたいよね。てか最近雪玉ちゃん、自由行動しすぎじゃない? 君らが楽しいならそれが一番だよ。
暗視のポーションを飲んで、暗闇に包まれたジャングルの中を進んでいく。光る素材があるといいなぁ。それは夜にしか目立たないから。
なんて思いながら気にせず細長い植物の中を歩いてたけど、日中には微塵も覚えていなかった不穏な雰囲気を察知していた。鬱蒼としているから、これがジャングルでは当たり前なんだろうか。でもやっぱり、クリーパーの意識は俺に向いてない。じゃあ、誰が俺に敵意を向けている?
いくら歩いても、ずっとずっと俺以外の足音が付いてくる。素材集めのフリして気配のする方を見ても、人影はなかった。でも、灰色のパーティクルがぼんやり見えたから、間違い無く誰かいる。俺を追跡している人間が、いる。
撒いてやろうかと、ジャングル特有の巨木に登る。モンスターなら登れないだろう。……まぁ、当然のように登ってきてるんだけどさ。
巨木の葉っぱの上は平たくなっていて、ここにベッド置いて寝てもスペースあまりそう。星空やジャングルを眺めていると、俺を追っかけてきてる奴らが追いついてきたらしい。俺と同じ木に登ってきた奴が、チャキッと、剣をインベントリから取り出した音がした。
跳躍のポーション飲んでて良かった。
誰もいない巨木の上にジャンプして、振り返る。敵意、殺意に満ちた彼らはもはや隠す気なんて無いんだろう。爛々と鉄の剣を月明かりの下に晒していた。
1、2、3……。5人、そこに居るのか。
「どなたですか?」
「! ……はっはっは」
逃げずに問いかければ、予想外だったらしくて笑われた。その笑い声を皮切りに、全員が牛乳を飲んだ。透明化を解除して現れたのは、明らかにまともな生産者じゃない、荒くれ者たちだった。下卑た笑みがお似合いすぎる。
「俺たちゃ、名乗るほどのもんじゃねぇよ。ただただ、お前さんを殺すように依頼された人間なだけさぁ」
「……誰から?」
「そいつぁ、シュヒ義務って奴だなぁ」
畜生、誰が、俺を殺そうとしてるんだ? 俺が何か悪いことしたか?
「なんの理由で、私はあなた方に狙われているんです?」
「それもまた、シュヒ義務ってやつだ。……悪いなぁ、“白い魔女”、さんよぉ」
「!?」
「アンタに恨みは無いがァ……、死んでもらうぜぇ!!」
鉄の剣を構え直した荒くれども達が跳躍のスプラッシュ瓶を自分で浴びて、俺の立つ場所までジャンプしてきた!
せっかく、雪玉ちゃんたちが白コートを新品同様にしてくれたんだ。ここで血まみれにする訳にはいかない。
「ハッハー! 馬鹿だぜ、自分から飛び降りやがった!」
「転落死の魔女なんて、笑わせるぜぇ!」
あぁ、ちゃんと手入れしてたっけなぁ、エリトラ。
「っ!? ハァッ!? 何だアイツ、飛んでやがるぞ!」
「やっぱりモンスターじゃねぇか!」
「おい、何してる! 撃ち落とせ!!」
あ、弓矢も持ってんのか。じゃあ、花火でさっさと飛んでくか。
誰だ。誰が、俺を狙っている。なんの理由で狙ってる。どこの誰だ。分からねぇと、もしかしたら俺、そこに飛び込むことになるかも知れないのに。……やっぱり、さっきの奴らとっ捕まえて、聞き出した方が。
「ま、待ちやがれ! 白い魔女ぉおおっ!!!」
「……このまま、空の旅を楽しもっか、雪玉ちゃんたち」
かわいいかわいい雪玉ちゃん達に、そんな場面、見せられない。今はこの混乱を落ち着かせる為にも、逃げなきゃ。
手の震えが、止まらない。