人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
服屋のおかあさんから教えてもらった宿屋から、朝一でクツサリさんたちの宿まで挨拶しに行った。
「お世話になりました」
「いやだっ、もう出て行っちゃうの?」
「もう少し滞在すればいいのに」
「ははは……」
いや、良くないでしょ。どこで
別にあれからそのまま彼女らの宿に間借りしたわけじゃない。だってこの2人、明らかに恋人同士なんだもん。お互いを見る目が甘すぎるんだよ。そんな間に俺が入る? 耐えられないよ。服屋のおかあさんにせっかく宿屋を教えてもらったしね。
そして、それ以上に。
「たった1日だけど、俺が知りたかった“何故命が狙われているのか”ってことも知れたし、故に長くここに居たら危険だとも気付いたんだよ」
「えー? どうして?」
「ケーキ屋に寄る前に服屋に立ち寄ったんだけど、その時にゾンビ関連の話をしちゃって。ここにクツサリさん以外の聖職者さんが聞き込みに来て、俺がこの村に来たのがバレたら大変じゃん。俺を匿うお2人もタダじゃ済まないかもしれないし」
「そういうこと……。まったく、嫌な話ね」
「本当」
お2人揃って嫌な顔をさせてしまった。申し訳ないけど、俺もそう思ってるから許してほしい。
「たった1日だけだったけど、お2人と出会えたのは幸運だったよ」
「ふふふっ、そう言って貰えたのなら、この心も救われるわぁ」
「私たちも、君がどんな人となりか知れて良かったよ」
「こっちこそ、中央教会の人間が皆俺を狙ってるわけじゃないって分かって安心したよ」
「アタシみたいなのは滅多にいないんだから、警戒するに越したことは無いわよ!」
「分かってるって!」
最後に旅の安寧を互いに祈って、別れた。……時間は短かったけど、濃い内容だったから、やっぱり寂しいね。
さて、反省点のくり返しだ。
村に潜入する度、白コートは脱いで雪玉ちゃんも俺の中に戻ってもらう。ポーションを売る時はその前にその村のポーションを飲んで濃さを確かめてからにする。反省点はこの2つかな。ゾンビ関係の聞き込みはどうしたってやんなきゃいけないし。
だけど、いくら俺が反省したところで、組織的に吹っ掛けられた喧嘩なんてそうそう取り消されない。だから、暫く人里から離れることにした。
どんなに高額な懸賞金がかかってたとしても、ほとぼりが冷めるまで暫くこの裏の世界に雲隠れしてりゃ、俺には何の被害もないんだわ! 入口も海の中、海底神殿の中にしたから、奴らが待ち伏せすることも出来ねぇだろ。俺にはブアおばあちゃんに褒められた、水中呼吸のポーションがあるんだからな! エルダーガーディアンさん、お部屋を一つ間借りさせていただきます~。
「ん? なにこの黄色いの」
貸してもらった部屋から気まぐれで、もう少し奥に進んでみた。ここの主が壁にぶつかって壊してたから、それを直してあげるついでに。そんで中を覗き込んでみたら、他と比べて低い天井に、黄色い穴ボコブロックが引っ付いてた。触ってみるとふにふにしてて、握ってもすぐに元の形に戻った。握った時になんかシュワ~ッと水が出て、形が戻る時にスーッと水を吸った気がする。俺自身が海の中に居るから、本当に水が出てるかどうかは分からないけれど。
「エルダーさん、コレなーに?」
数日一緒に過ごしてすっかり仲良くなった、一つ目巨大魚のエルダーガーディアンに聞いたら、エルダーさんが震えだした。そんで口というか顎というか、顔の下部分から同じものがポンッと吐き出された。……え、この黄色いブロック、エルダーさんの体から生成されてんの? 体のどこで作ってんの?
エルダーさんはたった今吐き出されたそれを差し出してきた上に、尾っぽで叩いて黄色いブロックを10個くらい俺に渡してくれた。
「あ、ありがとう。気前がいいね」
床に転がったそれを回収し終わったら、目の前に幻覚が見え始めた。初対面の時これで挨拶してもらって色々お名前もお伺いしたけど、今回はなんだろう。
え~っと? これは“スポンジ”って名前のブロックで? かまどとかで乾燥させたらまた水を吸えるようになると? 海を開拓しようとこれを求める人間は結構いるから、宣伝して、無謀な人間を誘き寄せろ。と……。
「ほ、本当、人間の肉が好きだね……」
その食い意地の為に、他にも色々光る素材頂いてるからな。シーランタンとか、プリズマリンクリスタル、プリズマリンの欠片。シーランタン以外は前に試したことあるね。脱皮する時にも出るらしい素材と、それから出来る光るブロックは一部の人間からよく狙われるものらしい。それを逆手に取って、愚かな獲物を喰らうと。なんで俺は食われないのかってのは、1回雷で焦げてるから、肉が不味そうって嗅ぎ取ったらしい。1回丸焦げになってて良かった……!
扉は無いけどいくつも部屋がある、海底の巨大な遺跡。美しく対象になっているから、きっと神殿としての役割を持っているんだろう。果たして誰が、どんな目的でこの神殿を建てたのか。それについてはエルダーさん本人たちも知らないらしい。君らは何を守る為に、その一直線に伸びる攻撃魔法を持っているんだろう。何の害も無いイカに撃ってる場合じゃ無いと思うんだけどなぁ。
ん? いや、もしかして、エルダーさんたちの為の神殿だったり、するのか? 文献か証拠が欲しいなぁ。
ポーションの素材を取りにネザーに行く時は1度表の世界に行かないといけなかった。だけど、その度にネザーゲートを一々取り壊したり場所を変えたりしたから、中央教会の追っ手が俺の居場所を捉えるのはかなり難航したと思う。てかしてるわ。俺あれから見つかってねーもん!
そういう訳で、人里が近くにありつつ、人の手が入ってなさそうな林の中で、どこかから湧いてくるゾンビに向かって試作ポーションをぶっかける事にした。勿論、半ば拠点になってる海底神殿からは結構離れたところから。
アンデットはいつでも暗闇から現れる。だから俺が動くのも空の主役が月になってから。人里に近いから警戒して、身に付ける革コートは白じゃなく、こないだ買った無染色の茶色のコートにした。……コソコソしてるとモンスターの魔女と見間違われそうだから、周辺の気配には気を付けないとな。雪玉ちゃん達も光度は落としてるとはいえ、見つからないように気をつけてね。
今回ゾンビにぶっかける試作ポーションは、ジャングルで見つけた素材から作ったやつと、こないだクリーパーに爆破されて死んでたウミガメから取った素材で作ったやつ。
別に敵対対象でも無いはずなのにな。カメさんが事故で死んじゃって可哀想だなって気持ちと、自分じゃ罪悪感で殺せなかったからクリーパーよくやったって気持ちでごっちゃごちゃ。そのまま持ち帰って素材にしたら、カメの甲羅から力は増すけど動きが亀さんになるポーションが出来た。久しぶりにちゃんと効果のあるポーションになって、魔女の異空間で雪玉ちゃんたちと大はしゃぎしちゃった! モンスター共を殲滅できても逃げることは難しくなるから、使いどころはあんまり無さそうだけどね。
フードを深く被って、林の中に紛れるように佇む。時たま現れるクリーパーもスケルトンも、素材目的ですれ違いざまに討伐する。そんな中で現れたゾンビにも勿論、試作ポーションの入ったスプラッシュ瓶を投げつけた。
ゾンビの足元で割れて、中身が辺りに散る。当然ゾンビにもかかって、だけど鬱陶しそうなだけで特に身体に変化はなさそうだった。茶色の実の種はダメだったか。じゃあ次は中が空洞の植物で。
何度も何度も効果の無いポーションを投げつける。もはや俺からの嫌がらせみたいになってる実験に痺れを切らしたゾンビが襲いかかってきたけど、特に俺の敵でもない。すぐに土に還ってもらった。実際には煙だけど。……悪いな。
「ん? ファントムの滑空音?」
自分のスプラッシュ瓶割る音とか、モンスターを殺戮する音とかで聞いてなかったけど、ちょっと遠くからファントムの滑空してる、ビュウウウッって音が聞こえてきた。意識して聞いてみりゃ、それが1匹じゃないと気付いた。ファントムが数匹集まって滑空するなんて、そこに人間が居ますよって言ってるようなもんだ。
ファントムが集ってる場所に駆けつけてみると、どうやら被害者は木の上に居るっぽかった。なるほど、クモとエンダーマン以外の徒歩系モンスターを木の上でやり過ごそうとしたか。そう推理して木の上に登ったら、木の上に更に土を積み上げて、そのまま土で仮拠点を作ってるみたいだった。クモが登れないように出っ張りまで付けて。でも、流石に空を飛ぶファントムには効果はないっぽいな。てか、ここまでするなら、さっさとベットで寝ればいいのに。
「……いつまで誘き寄せるつもりなんだろ」
仮に素材集めの為に寝不足になってるって考えても、いつまでも出てこないのは効率悪くない? もう6体集まってるぞ。今でも危ないのに、これ以上集まったら、自分が一方的に狩られるぞ。
「あれ? 雪玉ちゃん?」
いつの間にか探りに行ってくれてたらしい雪玉ちゃんが、俺と目を共有してきた。松明1本で全て照らせるほど小さな空間は全面土で、床には、1人の青年が横たわっていた。グロウベリー色の少し長めの前髪の奥に隠れた顔は苦しげに歪められていて、息は荒く、額には脂汗が滲んでいた。
「ちゃんとピンチなんじゃん!」
慌ててファントムを全部撃ち落として、救助に駆けつけた。
土壁を壊して、力尽きてる青年の息を確かめる。呼吸はちゃんとしてたけど、意識は無さそうだった。一先ずベッドに移そう。
「ありがとう、雪玉ちゃん」
俺が開けた土壁を塞いでくれたり、素早く置いたベッドの上にカーペットを敷いてくれた雪玉ちゃんに礼を言って、小柄な青年を抱えてベッドに寝させた。
小柄な青年は見た目通り軽くて、付けてる鉄装備の壊れ具合からしても、戦力としての頼りがいは無い。どうしてこの人は1人でこんなところに。
首を振って、そんな考えを振り払う。今は目の前の命を救うことだけを考えろ。
意識が無いから、何かを飲ませたり食べさせたりってのは危険か。だからまずは強化済み治癒のスプラッシュポーションを2つぶっかけとこう。“再生”は……飲めるようになったらでいいか。
でも、ポーションだけじゃ応急処置にしかならない。体力をしっかり回復させるには食べるのが1番だ。何を食べさせる? 今インベントリに入ってんのって、フグとウサギの足……、クッソ、1回魔女の異空間に行かねぇと、ロクなのがねぇ! 普段何も食べないから!
「ん? 雪玉ちゃん、それは……」
ウサギの足を焼くしかねぇ! ってかまどを出そうとしたら、雪玉ちゃんがキンキラリンな金のリンゴを差し出してきた。金インゴットを8個使う贅沢品だから一瞬躊躇ったけど、ここで出し惜しみすんのは人でなしだ。
「ん……あれ……?」
「あ、気がつきました?」
丁度金のリンゴを小さめにカットしてたから、萎びる前に起きてくれて良かった。グロウベリー色の髪色した青年が目を覚ました。彼からしたらすぐそばに見知らぬ人間が居たからビックリしたろうけど、気にしてられないよね。雪玉ちゃんたち、まだこの人の目が開ききらない内に俺の中に戻って来てね!
「だ、れ……?」
「通りすがりのポーション研究家です。治癒のポーションをかけたので体の痛みは引いたと思いますが、どうでしょう?」
「え? ……あれ、痛く、ない……!」
「効果がちゃんと出てて良かったです。お腹もすいてるんじゃないですか? こちらをどうぞ」
「あ、ありがと。……え? なんか皮、金色なんだけど」
「栄養満点になると金色になるらしいですよ。ほら、どうぞ」
「そうなんだ……? いただきます」
コストかかってる事を言ったら受け取って貰えなさそうだったから、咄嗟に嘘ついちゃったわ。まぁ、栄養満点なのは本当だし。走り回りたくなるくらい元気でるし。ベッドから身体を起こした青年はカットされた金のリンゴを1つ食べると、目を見開いて笑顔になってくれた。止まらず食べ続けてるから、気に入ってくれたかな。
とはいえ、あんまり腹が膨れるものでもない。お天道様が登ったら、海沿いに仮拠点作って釣りして焼き魚食おう。それまで、ちょっとお喋りしとこっかな。
「あ、ありがとうございました。えっと……」
「改めまして、ルゥパって言います」
「ルゥパ、さんな。オレはタック。……敬語苦手だから、そっちも止めてくれたら嬉しいんだけど……」
「了解。タックな」
グロウベリー色の髪をした青年は喋るともう少し幼く見えた。なんだか、ちょっと無理して大人になろうとしてる、みたいな感じ? どことなく、カヌプとパーデを彷彿とさせる人だな。