人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
夜明けまで見張りしたり、スプラッシュ瓶作ったり、別に又聞きの人間から聖職者たちの話を聞き出さなくてもいっかって思い直したりして過ごした。タックが起きてきたら雪玉ちゃんが建ててくれた仮拠点へ向かう。海で魚を釣って食べる予定だったけど、タックが自分でブタを狩ったから、焼き豚に変更だな。俺にもくれたし。
おかげで素潜りに見せかけて魔女の異空間に行けなくなったなーって若干焦ってたら、タックに「行ってこいよ」って勧められた。どうしても魚が食べたかったのかと勘違いされたっぽくて、自分ももう少し狩りしてくるからって。……こんな気遣い出来るいい人に、『エルダーさんの生贄になって』とは、言えないよなぁ……。おかげで無事に魔女の異空間から色々持ってこれたわ。
出会ったのも何かの縁だろうと、鉱石掘りに誘った。着けてる防具がボロボロだから、それの修繕と訓練を兼ねて。洞窟ならモンスターとの戦いも夜まで待たなくていいから、いい訓練になるでしょ。善は急げと準備して、タックが動物狩りの中で見つけてた洞窟に潜った。
入口はさほど広くないけど、垂直に穴が空いてる洞窟。慎重に1マス1マスずつ下って、たまに掘ったり足場を置いたりして、順調に降りてった。いかにもやってるように言ってるけど、先導してくれてんのはタック。あー楽チン。
お天道様の光が届かなくなった頃、洞窟の角度も道の険しさもなだらかになってきた。一々掘ったり削ったりって整備をしなくて済んで、たまに松明を置くだけになって暇なのか、タックが「なぁルゥパ」って話しかけてきた。
「なーに?」
「あのよ、あのチョーウメェ、金ピカのリンゴってどこで見つけたんだよ?」
「金のリンゴ? あれはねぇ、ちょっと危ない人たちから教えてもらったんだよ」
「あ、危ない奴ら?」
「そう」
おっと。危ないって思ったのは雪玉ちゃん関係だったや。うっかりした。言葉選ばねぇと。えーっと、えーっと!
「彼らは、力を、求めてる人たちでね」
「ちからぁ?」
「力の素は鉱石だって言って崇めてて、それがある地下に神殿を作ってたんだ。たんだけど、更に地下に居た化け物に追い出されたんだって」
「は? はぁ?」
「その神殿に戻る為に力が欲しくて色々試行錯誤してる中で、たまたま金のリンゴを見つけたんだって」
「お、おう……」
驚いてたせいか、タックの松明を置く手が遅くなってた。惑わされるなよな、まったく。
「なんか話の内容が濃すぎてよく分かんなかったけどよ……。たまたま見つけたってもよ、教えてもらったってことは、作れるってことだよな?」
「どうして?」
「だって、リンゴって栽培ラクじゃねぇじゃん? 金ピカリンゴが作れないなら、とんでもねぇ貴重品じゃん? なら、よそ者に教えねぇよな?」
「いい着眼点じゃん」
「あっ待って! 鉄っ!」
「お前さぁ……」
新たに刺した松明でタックが鉄鉱石の集団を見つけたせいで、話がぶった切られた。いや、呆れた理由はそこじゃないんだけどさ。
「タックって、採掘場以外で鉱石掘りした事ある?」
「え? ……あ、あんまり」
「そっか。じゃあ言っとくわ」
素早く弓の弦を引いて、タックの背後へ迫るクリーパーに矢を2撃、浴びせた。
「未探索の洞窟で鉱石掘りをする時は、周囲の安全確保を最優先に。目先の宝の為に命を散らしてちゃ、もったいないからな」
クリーパーが砂と火薬の山になった後で、タックが「お、おう……」と、弱々しく返事した。そうそう、ツルハシから松明に持ち替えて。
軽快に俺も協力して、鉱石掘りを進める。さほど深い場所じゃないけれど鉄の原石はそこそこ集まって、早速精錬して装備を直そうと、洞窟の中に仮拠点を設けた。周りの石でパッと作ったかまどで鉄の原石を焼くけれど、溶鉱炉じゃないからインゴットが出来るまでそこそこ時間かかるし、冷めるまで待たないと扱えないね。
「そういや、タックって金床持ってんの?」
「んな高級品、持ってるかよ。大体、インベントリ圧迫されんだから要らねぇだろ」
「でも1から鉄の全身装備作るのと金床作るのとじゃ、さほど使うインゴットの数違わないぜ? 俺がついてる間に金床作れるくらい鉄集めとけば?」
「……そこまで付き合ってくれんの?」
「旅は道連れ、世は情けって言うしな。その代わり、俺の目的にも付き合ってもらうから」
変に気を使われないように悪い笑顔をしてやれば、タックに心底嫌そうな顔されて、「お前の用事って面倒くさそう」って言われた。よく分かってんじゃん。でもネザーじゃ無いし、大丈夫っしょ。
「あ、それはそうとしてよ。金のリンゴの話、途中だったよな」
「あ、その話する?」
「作れるかって話で終わってたよな。で? そこんところどうなんだよ」
「……知りたい?」
「もったいぶってんじゃねぇよぉ!」
焦らしたら肘でドつかれた。……フハハッ、その調子づいた笑顔が凍りつく様が楽しみだなぁ?
「作業台で作れんの? それとも燻製器? あ、もしかして金床作らせようとしてんのって、そういうことか!?」
「いや、作業台で作れるよ」
「お、時間かかんねぇし簡単じゃん!」
「じゃあその材料はなんだと思う? ヒントは、材料は2つ」
「そこまで言ったらお前よぉ! んなの、リンゴと金塊だろ!」
「フフフ……!」
思った通りの、一昔前の俺と同じ勘違いを、してくれんねぇ! 笑う俺を奇妙に思ってる感じのその、「ちげぇの?」って不満顔もいいねぇ!
実際に見た方が納得するよな? って作業台をタックから借りて、インベントリからまずは真っ赤なリンゴを取り出した。「リンゴは間違いねぇのな」と呟くタックに頷いて、それを作業台の9マスのど真ん中に置いた。そして、金のインゴットを恭しく取り出したら、タックが息を飲んだ。
「う、嘘だろ、インゴットかよ!」
「これを、どうすると思う?」
「……おいおい、止めてくれよ!」
「これを、こうしたらな……」
何が起きるのか察して顔を青ざめさせるタック。けれど俺は容赦なく、金のインゴットを空いてるマスに全部載せた。仰け反るタックの悲鳴をガン無視して、セットが終わったことを告げるように作業台の縁を3回叩いた。9マスに置かれた素材はスッと吸い込まれて、蓋を開けるとアラ不思議☆
「金のリンゴの、完成だぁ……」
「ぎゃーーーっ! 贅沢にも程があんだろー!」
いい反応してくれるの、楽しいなぁ!
思った以上の反響にホクホクしてたら、目を見開いて更に何かに気づいたらしいタックが苦々しい表情を浮かべた。
「まさか、さっき、“俺の目的に付き合え”って言ったのって……!」
「そう、そのまさか。……作り方まで教えたんだ。自分で、今から、俺への報酬、掘りに行こうぜ」
「とんでもねぇクジ引いたー!」
今よりずーっとずっと、地下に、マグマがあるところまで行こうな! ……途中で見つけたダイヤモンドは、お前にやるからさ。俺はレッドストーンダストとラピスラズリ貰うけど。
「お、おい! ルゥパ! あそこ、明るくなってるぜ!」
「ここら辺熱いし、あれマグマだろうね。金もダイヤモンドもあるはず」
「だ、ダイヤモンド!」
基本タックに先陣を切らせた洞窟探索。どうやら当たりの洞窟みたいで、あんまり迷路っぽくならないまま、小さな鍾乳洞を経由して、マグマまで到達した。鍾乳洞で色々採掘して待たせたのは悪かったから、報酬の金インゴットの数、ちょっと減らしとこうかな。それとも他に何か出来るのあるかな。
「あ! あそこ! このマグマの池の奥に!」
「確かにあんね。このままじゃダイヤを掘っても落としちゃいそうだし、コレ黒曜石にしてもいい?」
「いいぜ! 松明の準備も出来てる!」
「それなら早速、水ぶちまけるぜ」
「おう!」
水バケツを溶岩湖にぶちまけて黒曜石にしてから、その上を歩いた。黒々しいけど艶やかな黒曜石。その上を松明を置きつつ楽しげに歩いてるタックに「めちゃめちゃ硬いから心配いらないけど、固まってるのは表面だけだからあんまり調子乗るなよ」って忠告しつつ、表面に現れてるダイヤモンド鉱石の前に立つ。
「こ、これが、ダイヤモンド鉱石……!」
「まだ掘るなよ」
「分ぁかってるって! 村でも心得だけは教わってんだ! こういう時は、周りの石から掘ってくんだろ。ダイヤ鉱石を掘った下がマグマじゃ溶けちまうからな!」
「大正解! じゃあ、コレ貸してやるよ」
「? こ、これ、職人魂込もって……っ!?」
タックに手渡したのは、幸運Ⅲの職人魂が付いたダイヤツルハシ。これで1鉱石から1以上ダイヤモンド取っていけ。このくらいのご褒美あった方が楽しいでしょ?
「い、いいのか!?」
「貸すだけだから。俺が他の鉱石取ってる間だけだからな。……耐久力も強いから、装備分集めるつもりで取り組めよ」
「あ、ありがとー!!」
あー、素直なやつには親切したくなっちゃうな! ……後で俺が“白い魔女”だってバレても、匿ってもらうネタにする為なんだけど、さ。
ある程度素材集めして、最大の目当てだった金も大量にゲットした。だから早々に洞窟から出て、戦利品を仮拠点で整理する事にした。えっとぉ?
タックがダイヤモンド14個と、俺に払わない分の金インゴットが10個。
俺がラピスラズリ153個、レッドストーンダストが89個、金インゴットが47個に、鍾乳石3つと鍾乳石ブロック3つ。後半2つはどんなポーションになってくれんのかな。
「あ、そうだ。タック、もっかい聞いといていい?」
「何をだよ」
「弱った状態で金のリンゴを食べた感想」
「あー、まぁ、いいけど」
俺が前に食べた時は元気ハツラツだったからな。食べる前も後も。違う状態で、
「あれ、まずメチャクチャ美味くて食べるの止まらねえんだけどさ。食べきったらみるみる内に体力が湧いてくるっていうか、疲れが吹っ飛ぶっていうかさ。ルゥパが治癒のポーションかけてくれたからあんまり分かんねぇけど、食べたら腹から不思議と『俺って最強!』って感じと、生きる気力が湧いてくるって感じだったぜ」
「……生きる気力、ね」
力尽きかけの人間が食べて、そこまで効果をもたらすのか。やっぱり強いな、金のリンゴ。
「な、なぁ、ルゥパ」
「ん?」
顎に手を当てて考え込んでたら、なんか不安げな表情をしたタックが俺の顔を覗き込んできていた。
「それでお前は、何をするんだ? ルゥパは、何をしたいんだ?」
……聞かれたからには、正直に答えなきゃか。あーあ。
「俺は、“ゾンビから人間に戻す方法”を探して、旅をしてんだよ」
タックは目を見開いて、せっかくのダイヤを1つ、手からこぼした。動揺させちゃったよな。ごめんな。もう分かっちゃったよな。俺が、お前の兄貴が探してる、殺害対象だって。
まぁ、いっぱい旨みは渡したろ。もうここには用は、無い、はず。だから、ここを出ていこう。
「いい実験体になってくれて、ありがとな」
「ま、待てよ、何も今すぐ離れるこたぁねえだろ!」
「タックお前、討伐対象のモンスターと、そうだと知った上で仲良くしとくなんて、お兄さんに顔向け出来んのか?」
「!!」
『敵を騙すならまず味方から』って言葉があるくらいだ。裏返したら、秘密をずっと隠して過ごすのは大変ってこと。俺はそれを何度も味わってきた。だから、ここで今すぐ別れるのが1番いいんだ。見破られたから、白い魔女は逃げ出した。そういう形にするんだ。
「……助けてくれて、ありがとな、ルゥパ」
「優しいヤツぅ。くれぐれも俺を追ってるお兄さんや聖職者に『“白い魔女”はイイやつだった』なんて言うなよ。お前が殺されるからな。気が触れたって」
「……分かってる」
外にとっとと出た俺を追いかけて見送りに出てくれたタックは、今までと違う様子で顔を青ざめさせてた。ずっとごめんなぁ、ビビらせてばっかでさ。
そんな、ちょっと具合悪そうになっちゃったタックだけど、一度でっかく深呼吸して、グロウベリー色の綺麗な目で俺を見据えてきた。
「ルゥパ! オレ、応援してるから!」
「!」
「相手、ヤベェ奴らだけどよ……。絶対に、負けんなよ!」
「あんがとよ!」
協力してくれたタックに応援されたなら、やってやるしかねぇじゃんかよ! さぁ、夜が待ち遠しいぜ!