人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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82 どっちがモンスターか分かったもんじゃない

 村人がゾンビ化した村で実験を繰り返していた俺の前に現れたのは、聖職者とその弟子、合計3人。俺を殺そうとしてるタイプの聖職者たちだった。それらしくない命乞いをしてみるけれど、効果は無いどころか、笑われただけだった。あったまにキタ~!!

 

「俺が何をしたってんだ? 誰に迷惑をかけたんだよ。言ってみろよ!」

 

 言えるもんならな! ただお前らがポーション売却の利益を減らされたから邪魔になっただけなんだろ! そんな恥、晒せるもんなら晒してみろ!

 命乞いを笑うとんでもない聖職者は、首から下げた十字架に合わない嘲顔を崩さなかった。

 

「モンスターを討伐するのに、そんな大義名分など必要ないでしょう」

「……こうして会話出来てるのに?」

「出来ているからこそ、危険でしょう?」

「なんでだよ!」

 

 会話できるなら、話し合いができるだろ! 話し合いができれば、分かり合えることが、妥協案を見つけることが出来るはずだ! なのに、どうして危険だって決め付けんだよ!

 

「それだけの知力があるのなら、人間を騙すことも容易いからですよ」

「!!?」

「知力があり、ポーションを自作できるほどの戦闘能力もある。白い玉を使役し、更にテレポートを行い、空を飛ぶ。これを脅威と呼ばず、なんと言いましょう?」

 

 な、何だその言い分!? てか思ったより結構知られてるし! 飛ぶことも知られてるってことは、コイツがあの荒くれ者どもを雇った聖職者か! ホントに俺を殺す気満々だ!

 でも確かに、魔女になってからの俺はそれを隠す為にいっぱい嘘をついてきた。誤魔化してきた。って、それじゃあ俺、まるでヤベェモンスターみてぇじゃねぇか! 畜生、流石、知能がある生物は言い訳がお上手ですねぇ!

 

「──さあ、お喋りはおしまいです」

 

 聖職者は体の前で組んでいた腕を解くと、ダイヤ剣を右手に装備した。左右の弟子も構えた。殺気が、俺の身体を刺す。

 

「私の名前はスニッシェン。上級聖職者の位を持つ私に浄化され、生まれ変われることを、誇りに思いなさい」

「生憎、生まれ変わるにはまだやりたい事が残ってんでな。お断りだ!」

 

 ちゃんと理解してくれるゾンビも居るのに、こっちは話が通じないタイプの人間かよ!

 

 さー、どうしたもんか。

 モンスター相手ならいくらでも戦ったし殺したけど、人間を殺したことなんて勿論無い。なのに、いきなり3人を相手しろって? しかも、相手は聖職者とその弟子の3人。俺と同じ位の実力者が相手とか、真面目に戦って勝ち目ねぇぞ。……一先ず、俺が死なないように、しとかなきゃ。

 こちらもダイヤの全身装備を身につけて、村から離れるように走る。彼らを罪深いゾンビにしない為に。

 俺のそんな狙いを理解してるのか知らないけど、聖職者の弟子たちはとりあえず俺に付いてくる気らしい。奴らが放つ矢は光を纏っていて、あれが当たったところを見ると眩しく光っている。どこまでも追ってくる気満々らしいなぁ。そんなもんに当たってやるものか。俊敏と跳躍のポーションで機動力を上げて、あの山まで飛んでってやる!

 

 しかし、俺の勝利条件はなんだ? この襲撃を乗り切るって、なんだ?

 俺がこの2人を引き連れてる間に、雪玉ちゃんがゾンビから人間に戻す方法を発見することか? そんな時間がかかる事、雪玉ちゃんたちに任せるなんて不安だぞ。だからといって俺が戻るわけにもいかない。聖職者たちを放置も出来ない。そもそも肝心の聖職者はあの村の近くにいるし、あの村の人たちを見捨てることも出来ない。……は? 俺、何したらいいの?

 

「逃げるだけか! 臆病者!」

「戦ってみたらどうだぁ魔女ォ!」

「テメェら殺して何の利点あんだゴラ!」

 

 いくら俺自身に迫る脅威だからって、人に手を出すなんて、そんなおぞましいこと、出来やしない。どうして人の血を見ないといけないんだ。雲の合間からお天道様が顔を出して暖かくなってきたのに、俺の胸は怯えてひどく寒い──お、お天道様?

 

「ちょっと待てっ!!!」

 

 まずいマズイまずい不味いっ!! 一応屋内に誘導したり、雪玉ちゃんに簡易的な建築をしてもらって日陰を作ったけど、まだまだ屋外の村人たちが居る! それなのにこの曇りが晴れたら、晴れちゃったら……!

 

 雪玉ちゃんテレポートを活用して戻ってきたけれど、一部の村人は、既に燃えてた。家畜を食い散らかしてた人たちだ。くっそ、くっそ! どうしてこんな時にあんな奴らが襲いかかってくるんだよ!

 

「あらあら、せっかくの実験体が、燃えちゃってますねぇ」

「! アンタ、聖職者のクセに、人の心は無いのか!」

「人の心を、魔女が語りますか。笑わせますねぇ」

 

 ……俺を追うのを弟子だけに任せて、自分は呑気に燃えるゾンビ鑑賞ってか? 聞くまでもない。コイツ、外道だ。

 

「雪玉ちゃん、この水バケツをぶちまけて、あの人たちの火を消してあげて……!」

「ご自身では火を消してあげないのですか?」

「黙ってろ!! お前はあの人たちを見捨ててるくせに!!」

 

 確かに、生きた人が迂闊にゾンビに近づくのは危なすぎる。ここには結構な数がいるから尚更だ。だからって、聖職者が! 救助行為を否定するなんておかしいだろ!!

 

「大体なぁ! 俺がモンスターにしては知能高いからって、何なんだ!! お前らが集めた情報の中で、俺が人間に敵対したってのがあったのか!? 無いだろ!! した事ねぇもん!!」

「だから、見逃せと? モンスターを?」

「そうやって俺を魔女だ魔女だってモンスターに括るけどなぁ! アンタだって、俺みたいになる可能性は十分あるんだぞ!!」

「はぁ、何を根拠に」

「俺だって前は普通の村人だったんだ! 雷に撃たれて、気がついたら、魔女になってたんだ!! ──!?」

 

 怒りに任せてずっと叫んでたから、気配を察知するのが遅れた。だから、気付いても反応が遅れて、胸を矢で貫かれた。しかも、2本。

 

「がっ……アッ!」

「フフフッ、2人とも狙撃力が上がっているようで何よりです」

 

 場に似合わず微笑ましそうに笑いやがった聖職者は、おまけとばかりに俺に毒のスプラッシュポーションを投げつけた。く、クソッ、吐き気がする、気持ち悪い……! 目が、グワングワンする! 立てない! 雪玉ちゃんたちが俺の胸の矢を抜いたり、治癒のスプラッシュ瓶を投げてくれるけど、牛乳を飲まなきゃ、解毒できない! こんな状況で飲ませてくれる訳ない! もうダイヤ剣構えてるし!!

 

「ただ、己の研究に没頭していれば良かったものを。我々の領域に不用意に踏み込んだが最後、貴方の運命を決めてしまいましたねぇ」

 

 勝ちを確信した聖職者は愉悦を含んだ嘲笑を、剣の切っ先と同時に俺に向けてくる。

 

 ……見捨てるのは、とても辛い。だけど……殺されるのは、ゴメンだ。

 

「さあ、最期に言い残したことはありますか、白い魔女」

「……学校の校舎に、生き残りの少女が居る」

「は?」

「彼女は、人間だ。アンタ、人間相手なら、優しいんだろ?」

「……ええ、まぁ」

「なら、保護してくれ。手荒にはしてくれるなよ……!」

 

 油断してたのかな。それとも俺の最後の言葉が予想外過ぎたか。聖職者は俺がテレポートできるのを忘れていたらしく、易々と逃がしてくれた。

 

 

 

 後で雪玉ちゃんが目を通して教えてくれた。いつの間にか生き残りの少女に張り付いてたその子によれば、俺を襲ったスニッシェンって聖職者は少女もそうだし、あの先生さんも保護してくれたらしい。

 

 性悪聖職者が中央教会ってところに報告した内容は、こんな感じだった。

 ゾンビの襲撃があったことを村を見て察知して、駆けつけたけど一足遅かった。手遅れの村人たちに襲われないように遠くから見ていたら、村の中を歩き回る人影を見つけた。望遠鏡で様子を見て、コイツもモンスターだと、それも以前から追っていた“白い魔女”だと判断して、油断しているところを弓矢で襲撃して撃退した。

 

 やっぱ知能あるから、帳尻合わせが上手いねぇ。細かい部分は違うにしても、奴らからしたらその通りの説明ばっかりでホント感心しちゃったよ。俺が元人間なことなんてまるで言ってないし、自分たちに都合のいいことしか口にしてない。は~性悪~!

 

 しかもコイツらヤベェのがさ、俺の手柄全部持ってった。

 あの先生さん、結局助かったんだ。ちょっと後遺症あるっぽいけど、とりあえずゾンビから人間には戻ってこれた。

 どうやって戻ってこれたのか、中央教会にまで移動する中であの女の子から一部始終を聞き出して、その話の主人公を自分にすり替えて世間に発表しやがった。その方法と一緒に。

 そして俺のことは、自分の実験の為に村人をゾンビに変えた恐ろしい魔女ってことにした。

 

 なんでテメェらに俺の成果を奪われねぇといけねぇんだよ! テメェで研究してないくせに、苦労してないくせに、何がっぽり稼いでんだよ! なんで俺が悪役に仕立てあげられなきゃいけねぇんだよ!!

 

 ……とは怒ったけどさ。広めてくれるんなら、なんでもいいやってなった。だって俺が、“魔女”が何言っても人間は信じてくれねーじゃん。

 

 神父さん、ちょっと後味悪いけどさ。俺、見つけたよ。希望、見つけたよ。

 

 

 だから、そっちに行っても、いいですか?

 

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