人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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あらすじ:ゾンビ村で蘇生術を開発したルゥパだったが、性悪聖職者にその功績を横取りされてしまう。人間に襲われたことで傷心していたルゥパは、それでも目標は達成できただろうと、神父に向けて『そっちに行っても、いいですか』と弱音を吐いた。


86 生きて、旅しなきゃな

 ダメって言われた。

 夢に出てきた神父さんに、「まだこっちに来てはダメですよ」って窘められた。「まだあなたにはやるべき事がある」ってー。

 

「一度の奇跡で終わらせないでください。私があなたに求めた奇跡は、『再現性の高い奇跡』、ですので。見届けなさい。誤って広まらないように、正しい奇跡を広めなさい」

 

 だってさ。だから、もうちょっとだけ、この世に居残ることにした。

 

 居残るったって、俺の居場所はもう無いようなもんじゃん。神父さんも酷いや。

 

 でももっと酷ェのは、あのクソ聖職者共だよ。あの子と先生さんを保護したのは良かったけど、それ以外ヤベェよ。アイツ、記憶がちょっと飛んでて瞳の色が真っ赤になっちゃった先生さんを広告塔にして、冒険譚書いて本出してた。『全て真実です』って嘘吐いて。金のリンゴも弱化のポーションと一緒に売り出してた。

 でも、それ読んで書かれてた方法を命懸けで、ゾンビになってしまった大切な人に対して真似た信者たちから「全然効果無いじゃないか!」って騒がれた。真実の証拠を出そうにもその頃には2人の証言者に逃げられてて、自分じゃ再現できなくて自滅したんだって。ざまぁみろー!!

 

 世界に衝撃を与えた、聖職者による大嘘劇。彼はどんな幻覚を見ていたのやら。()()()はこんな感じの終わり方してたわ。

 

 

 なんで俺がこの流れを知ってるかって、『再現性のある奇跡』の為に検証を続けなくちゃいけなくて、表の世界に居る時間が長くなったから。

 通りすがりのゾンビに金のリンゴを食べさせながら、通りすがりに廃村を見る。いくら時が経っても、モンスターは脅威に違いない。だから一見すると立派な村も、あちらこちらから腐臭が漂ってくる廃村なことがある。そこで情報で、あのクソ聖職者の近況を知ることになったって訳だ。

 バッカでー! 混乱招いた犯人が世界に教えを説いてブイブイ言わせてる教会の偉い人なもんだから、事件の内容本にまとめられて売られちゃってんの、本気で笑けてくるんですけどー!

 まぁ、俺もついさっきやっと、確実性のある方法を見つけることが出来たんだけど。

 

 

 村の中だと割と被害がマシだった家に連れ込んだ2人の寝顔を見る。

 夜空みたいな髪色の女性と、ダイヤモンドみたいな色の髪の女性。どっちも弱化のポーションで弱らせてから、くし切りにした金リンゴを食べさせたゾンビだった。

 そして、どっちも食べた後にのたうち回って、死んだように眠って、ちょっと前に息を吹き返した。あの先生と同じ感じで。

 

 この2人の間で違う点は、ゾンビ化進行具合か。肌の変色具合から見ても夜空よりダイヤモンドの方が進行が浅くて、金リンゴへの反応も違った。夜空の方は俺が無理やり口に入れたりしてたけど、ダイヤモンドの方は一口食べたらもっと欲しがった。そして俺から金リンゴ奪ったかと思ったら、夜空に食べさせた。夜空の方もダイヤモンドからなら(ちょっと嫌そうだったけど)自分から食べに行った。仲良しさん。なんなら、口移ししてたっていうか。不覚にも、ゾンビのやり取りにドキドキしちゃった。いやまぁ人間みたいなもんだし、多少はね? 雪玉ちゃんに目を塞がれたときはなんで? ってなったけど。俺が君らの目を塞ぎたいよ。最後らへん完全にチューしてたし。

 だからなんとなく、ダイヤモンドの方は戻ってもそんな変化はないけど、夜空の方は目の色が変わっちゃう後遺症が出ちゃうんじゃないかって思っちゃうね。

 

 弱化のポーションで弱らせないと、まず食べてくれない。肌が溶け出してるゾンビには食べさせたら絶命する。ってことは、弱化のポーションは絶対に必要で、進行度の浅い(遅くても肌が溶け出してはいないくらいまでの)ゾンビにしか効果はない。金リンゴのポーションは失敗作。弱化のポーションをかけた後にぶっかけても意味なかった。

 

 助けられなかった事例を簡単に書き起こして、まだ寝てる二人に当てて書き置きを残す。

 

 俺が来た時には村は壊滅してて、村人も皆ゾンビになってた事。

 ゾンビから人に戻す実験をここの人らで行った事、その方法の一覧。

 もし人間に戻れたなら、近くの村に助けを求めること。

 そして最後に、この村で一番でかい家から金品を貰っていくこと。

 

 これらを書いて、俺が作れるポーションを全種、4つづつ奮発してやって、効果時間を伸ばした透明化のポーションを2人にぶちまけて、村から出た。

 金策の為にポーションを売りに出さなくなって結構経ってるけど、ずっと俺狙われてっからな。教会側がもう飽きてたとしても、懸賞金の話が出ちゃってるからもう止まんない。いつか一緒にお茶会した聖職者、クツサリさんの言う通りだったわ。

 

 あーあ、ホントに俺、この世に居場所ねーじゃん。

 

 だけどせっかく再現できたし、この方法もっと広めたいよなぁ。暴露本にある感じ、教会から売り出してた金のリンゴも表面に金を塗っただけのヤベェ偽モンだったみてぇだし。金のリンゴの作り方とか、弱化のポーションの作り方、あーあと、クモの目の発酵のさせ方も広げないとだしなぁ。てか待って? ポーション作る為のいろんなことを教えるのが先? 身体鍛えさせるのが先? いや、まずは俺がモノを売って、“治せる方法はあるんだ”っていう希望を広げるのが先か! うん!

 

 だから、正しい奇跡を広げるって事するなら、魔女の異空間じゃなくてここで育てて、方法を人間に広めないと。その為に表の世界に大きい拠点も、協力者も必要じゃん。でも俺には居場所も味方もいない。あれ? これ詰んだんじゃね? 俺、詰んだくさくね?

 肉体は完全に魔女だけど、心は人間! の精神でやってきたけど、結局独りだし、やってることまんま魔女だし、誰とも協力してないし、利用してるし利用されて、功績も奪われた。あ? やっぱ俺って人間じゃなくなってね? 神父さん基準なら、やっぱ俺は自分の欲の為に動くモンスターだよな。とっくの昔からモンスターだよな。あーあ、詰んだわぁ。

 

 

 

 

 

 

 父さんと母さんが、ゾンビになって、死んだ。

 

 「仕方なかったんだ」って大人は言う。この村ではどれだけ気を付けていても起こることだからって。

 仕方ないって、何? 俺を一人ぼっちにするのは、仕方ない事なの? もう母さんのご飯が食べられないのも、父さんに抱っこしてもらえないのも、皆で一緒に眠れなくなったのも、全部、ぜんぶ、仕方ない事なの?

 どうして?

 

「ルゥパ、楽しいね!」

「うん、楽しいね、サータちゃん」

「明日もいっぱい遊ぼうね!」

「うん」

 

 父さんと母さんが居なくなった次の日から、大好きなサータちゃんと一緒の家に住むことになった。楽しい。楽しいけど、けど。なんだか、寂しい。サータちゃんもサータちゃんのパパさんママさんも好きだけど、やっぱり、違うから。でもそんな事言えなくて。外で遊んでないと泣いちゃいそうで。

 帰りたい。帰りたい。でも家には誰も居ないし、見てたら、サータちゃんのママさんが泣いちゃったから、もう見ないって決めた。

 

 そんな頃、神父さんが何か作ってるって知った。父さんと母さんが飲んだりしてた、あの丸い瓶の飲み物。飲むと力が湧いてくるって言ってた、ポーションだった。

 作り方は、「熱いから遠くから見ててくださいね」って言われて、遠くからじーっと見てた。水が上の漏斗に登ってくのが面白いし、漏斗の中の素材がグツグツ煮えてくのも、お湯がどんどん色づいてくのも綺麗で、音も楽しかった。どうやって作ってるのかずっと見て、どんなところから素材採ってきてるのかお話聞いたり、実際に畑から収穫したりって体験してた。金ピカ野菜はキラキラ綺麗だし、絵本で教えてくれたネザーって世界は怖いけど、ワクワクした! だから遊びと勉強以外でずっと教会でポーションの本を読んだりしてたら、「やっぱり、あの2人のお子さんですね」って神父さんに笑われた。すっごく嬉しかった! 父さんも母さんも、ポーションが大好きだったって! そんなの、もっと知りたくなっちゃうじゃん!

 

 知るのが楽しくて、ずっと見てたり、身体を鍛えてたら、教会でおはようする事がちょっとずつ増えた。疲れて、いつの間にか眠っちゃうみたい。でもサータちゃんも好きだから、そっちの家にもちゃんと帰ってた。

 そんな生活をしてたら、サータちゃんがパパさんに言ったんだ。

 

「ルゥパって、いつまでこのお家にいるのー?」

 

 嫌だったのは、俺だけじゃなかった。そうだよね、そうだよね。ずっとなんて、嫌だよね。

 家族以外が、俺がこの家にいるのなんて、嫌だよね!!!!!

 

 

 気付いたら、神父さんから近付かないように言われてた、ネザーゲートまで来てた。村の外れにあるけれど、日中だから襲われずに来れたんだって気付いたくらいには落ち着いてたハズなのに、迷わず紫色のゲートを潜ったのは、寂しかったからなのかな。

 ネザーって、死んだ人が行くところだって、ネザーの本に書いてあったから。

 

 初めて入ったネザーは、いるだけで焼けそうなくらい暑かった。何かが焦げる匂いがして、聞いた事の無い暗い音がして、身体をいろんなところから掴めない何かが押しつぶしてくる。なんて怖くて、ひどいところなんだろう。ゾンビになって死んで、死んでも父さんと母さんは苦しんでるの?

 それでも、会いたいよ。連れて帰ろう。父さんと母さんを、ここから! 元に戻るんだ!

 

「う、わぁ……!」

 

 決めたのに、マグマの海が怖くて、足が竦んじゃった。だって、そこから真っ白な四角い、雲みたいにデカい何かが、ぬっと出てきたんだもん。燃えずに!

 怖い、怖いよ! なんだよこれ!! こんな怖いトコで、父さんと母さんを探しに行かないとなんて!

 

「ハァ、ハァ、ハァ……! ……行くぞ」

 

 怖いけど、行かなくちゃ、迷子の2人を家に連れて帰るぞ! い、行くぞーー!!!

 

「ッ────!?」

 

 気合入れて歩き出そうとしたら、後ろから捕まった! 口を大きな手で塞がれて、身体持ち上げられて、ネザーゲートまで戻された。

 誰っ、誰なのっ!? 誰が、俺を、抱えてっ!

 

 ぐわんぐわん目が回って、ネザーから戻されてきた。目が慣れて、吐き気が収まったら、泣けてきた。どうして、どうして!! 神父さん!!

 

「はなせよっ!! はなせぇ!! 俺のこと置いてったっ、父さんと母さん探すんだァ!! 父さん母さんっ向こうにいるからっ、だからっ! はなせぇええぇえッ!!!!!」

 

 離してっ、離して神父さん! どうせサータちゃん家にはもう帰れないんだもん! いやだっ、嫌だっ! もうやだよ!!

 

「父さんと母さんのトコに、帰りたいのーーー!!」

 

 だから、行かなきゃ! ネザーに行かなきゃ! だから離せ! 離せーーっ!!

 

「イヤァアアァアァァーーーーッ!!!!!」

「ルゥパ……」

 

 掴んでくる腕を掻き毟って、神父さんの腹とか足を蹴り上げてた。それなのに神父さんは痛いって言わないで、泣いてた。俺よりも、すごく泣いてた。

 それが不思議で、なんだか悪いことしちゃった気になって、神父さんを抱きしめた。ごめんなさい。蹴って、殴って、ごめんなさい。言いつけ破って、ごめんなさい。

 

「ごべん、なざい……」

「いいえ、いいえ……。君のその気持ちは、抱えて当然のものです。どうして、気付いてあげられなかったのでしょう。……ごめんなさい」

 

 泣いてる神父さんはもっと俺を抱きしめて、謝ってきた。

 

「皆、君のことを大切に思ってますよ。ですから、村に帰ってきてくれませんか?」

「……」

 

 ネザーゲートに顔を向けたら、またギュッてされた。「あちらに、君のご両親は居ませんよ」って言われた。だから、村に帰るって言った。本より、神父さんの言ってることの方が信じられるもん。

 

 村に戻ってきたら、大人たちに怒られて頭ポンポン叩かれたり、「良かった良かった!」って笑い飛ばされたりした。それから、泣いてるサータちゃんに謝られた。

 

 サータちゃんが言ってた、『いつまでこのお家にいるの?』ってのは、この頃教会に寝泊まりすることが多くなってきたから、もしかしたら自分に秘密でルゥパが教会に引っ越す準備をしてるのかもしれないと思ったから、だって。……最後まで聞いてれば、あんな騒ぎ起こさなくて良かったのに。ホント俺、バカなことした。俺も謝って、怖がらせちゃったことを許してもらった。

 

「これからも、仲良くしてくれる?」

「いいよ! 今から遊ぼ!」

「うん!」

 

 サータちゃんと繋いだ手は、あったかくて、幸せな気持ちになった。

 帰ってきて、よかったぁ!

 

 

 

 

 

 

「夢、か」

 

 って事は俺、仮拠点作ってから、いつの間にか寝てたのか。ベッドは雪玉ちゃんが置いてくれたのかな。睡眠いらないのに。

 その上、ロクな事考えてなかったから、ちょっと嫌な夢見ちゃったじゃん。小さい頃の、サータちゃんを疑って泣かせた、あの酷い事件。そしてあの時は自覚しなかった、最悪の願いをした日。

 

 確かにあの頃のチビな俺は、精神的に参ってたよ。父さんと母さんが死んだばっかりで、寂しくて寂しくて堪らなかった。だから、サータちゃんの一言は暴走のきっかけでしかない。アレがなくても、近いうちにネザーに飛び込んでた。だってあの時の俺は、

 

「死にたかったんだから」

 

 ……あぁ、ごめんね、雪玉ちゃんたち。心配かけて。今もそう思ってるけど、大丈夫。君たちがいるから。それに、神父さんとの約束を破るわけには、いかないからね。

 

 さーて、どうしようか。あの悪名高き中央教会の聖職者どもの目を掻い潜りながら、どうゾンビ復活術の方法を広めようか。どうせ人間たちの方でも方法見つけ出して広めそうなもんだけど、まぁ、情報源は1つじゃなくてもいいよな。えっと、どっかの村を拠点にするって考えてたんだっけなー。

 

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