人間に戻る手がかりを掴むまでの話 作:佐川野
神父さんとの約束を果たす為に、既に“白い魔女”として有名になっちまった俺でも受け入れてくれそうな人間の村を探して歩き回った。そんな理想的な村を見つけた時の手土産に農場も作りたいから、同時進行で土地も探してた。
荒らされるのも嫌だし、結構山の中の方がいいなぁ。でも人里から離れすぎてると人間が来づらいよなぁ。とか考えながら表の世界を放浪してたら、めっちゃいい感じの所見つけた!
海に面してて、ちょっと高い山に囲まれた土地。なだらかな傾斜を経て平地になってるそこには、人の賑わいがあった。
遠くからじゃ人の様子はよく見えないけれど、キラキラしてた。いい空気が流れてた。まだまだ発展途中だって感じで、家とか他の建物を作ったりしてて、これからもっと大きくなりそうな村だった。そして、山は割と手付かずだった。
「発展途中なら、あの教会もまだ無いんじゃね? じゃあ、ポーションを今のうちに売りつけて、教会関係者を追い出すのも不可能じゃない!? 俺が追われることが無い!?」
よっしゃ、ここを拠点とする! まずは視察だな!
雪玉ちゃんに隠れてもらうようお願いしてから、染色してない革のコートを羽織って、山を下る。村には「旅人です」って言っただけなのに簡単に入れちゃった。俺が警戒しすぎなのか、知ってて通してるのか。俺以外にも旅人さんが居るらしい。その中に聖職者がまだ居ないことを祈る。
そうそう、この村に辿り着くまで彷徨ってる内に、思い出したんだよね。何も俺にはポーションと戦闘力しか無いワケじゃないってさ。国でヨシトさんに教わった揚げ物たちをここで作れば、いい滞在理由になるじゃん。メチャクチャ感動した揚げ物たちの事をずっと忘れてたなんて、失礼なやつだよホント。エルダーガーディアンから貰ったスポンジも全然広めてないし。いやこっちは広めたら人が死ぬから、オススメする相手は選ばないとなんだけど。って、関係ないこと考えちゃった。
つまり、畜舎の掃除をする代わりに貸してもらった土地で揚げ物をして、土地主にご機嫌取りするってことよ。いや~! ヨシト様ゝだぜ! フライドポテトは地主のご子息の胃袋を掴んで、信頼まで勝ち取ったぜ。まーた子供から取り入っちゃったよ。この不審者め。その子達から大人たちに影響が広まって、奥様方に揚げ物講習会を開くまでになったし。
そこから更に村のいろんなお料理を頂いて、是非ともヨシトさんに持ち帰りたいものも出来ちゃった。お米も餅も味噌も醤油も美味しいね。初めての穀物と味だけど、美味しかったぁ。なんでも、米と大豆はこの場所に村を移す前に仲良くしてた旅人が置いてったものらしい。彼らが居なくなるのと同時だったみたいだから、再会したらいっぱいお礼したいって。だから村の名前も彼らから取って『トウヤ・マイコ村』にしたんだって。そうした方が俺もいいと思うよ。豆乳美味しい~!
しかもここの人たち、“白い魔女”関連の騒動の事知らないみたいで、俺が聖職者でもないのにポーションを作ってる事を聞いても、「へ~、じゃあ腕っ節いいんだ~!」位の反応だった! 居心地が良いこと、この上ないぜ! この土地で見つけた新素材、尽くポーションにならなかったけどな!
食を中心とした楽しい滞在28日目の夜。鐘が、鳴った。カンカンカンッ! カンカンカンッ! と村に響き渡る、甲高い焦りの音は、俺を村の外へと駆り立てた。
無闇に接敵するとこの村の自警団の邪魔をしかねないから、まずは人が集まってるところに向かって、情報収集からにしよう。だから中央の噴水広場に来たけど、怪我人もいるな。傷だけじゃない。あの顔色の悪さは毒も受けてる。毒、か。全身ダイヤ装備の一番偉そうな人、スングスドさんに聞いてみるか。
「大丈夫ですか? 何があったんですか?」
「る、ルゥパ……! 実は採掘場で、クモが大量発生してるらしいんだ。しかも、ヤツら毒を持ってやがる!」
「洞窟グモっすか……。牛乳の用意は?」
「今、女子供に頼んで用意してもらってるところだ」
「それなら、準備が出来たら、突入っすね」
「あぁ」
クモ相手なら虫特攻か。クモの目が沢山手に入る機会だけど、まずは村の防衛を考えろ。……にしても、ゾンビならいざ知らず、クモが大量発生するなんて、不自然だな。
「洞窟グモが大量発生したのって、何か心当たりありますか?」
「い、いや……。そもそもあそこは探索途中で、何が埋まってるかまだ分かってないんだ。誰かが、何かを刺激したって事しか、な……」
「なるほど」
……どこかで、見たことのある特徴だ。でもアレは、ネザーにしか無いはず。神父さんがそう言ってたんだから、俺の勘違いか。
リーダーに交渉して、自警団の先頭集団に加えてもらうことになった。「なんで旅人がそこまで協力してくれんのか」って不思議がられたけど、村を守ることに理由なんて、いらなくない? 強いて言えば、新素材を俺が1番最初に見つけたいから、かな!
ポーションでも解毒は出来ないから、俺も十分な量の牛乳持たせてもらって、突入した。洞窟の中は結構くねくねとしてるみたいだけど、分かれ道がある度に1つ除いて塞がれてたから、実質1本道だった。そこから洞窟グモが湧いてくる。切っても切っても、無限にワラワラと。正直見飽きた。今はクモの目剥ぎ取れないし。
突入する前に情報を整理した時に聞いた話では、クモの巣が大量に張り巡らされた中に、蠢く何かがあったらしい。より見ようと近づくと蠢く何かが小さく火を噴き、同時にクモが大量発生したとのこと。蠢く何かって何だ。悍ましくて怖いんですけど。
一旦怯えず冷静に考えると、やっぱり、覚えがある。近づいたら増えるなんて、アレしか。もしそうなら。そうでなくても、同じモンスターの俺が行くのが安全だ。よし、無理矢理行ってこよう。
「リーダー、この先をまっすぐですよね、そのクモの巣って」
「そうだな。気を付けろよ、いくらその剣が強いからって、毒を受けたら意味が無いからな」
「なら、剣を使わず、様子だけ見に行ってもいいですか?」
「何がなら、なんだ???」
慌てすぎて、何の脈絡もなくスングスドさんに許可取りしちゃった。しかも返事も聞かずに透明化のポーション飲んで浴びちゃったし。いきなり俺の姿が見えなくなって皆驚いちゃってたけど、もう透明化しちゃったから、さっさと見てこよう。……この不安が、杞憂なら最高なんだけど。
湧き潰しの松明に沿って、まだ均されてない洞窟まんまの道をクモの巣を掻い潜りながら行く。途中で見かける洞窟グモたちは俺が見えないからか、それとも魔女だからか。襲って来る気配はない。だからついでによーく観察してると、思ってたより小さいなとか、色が黒をベースに緑がかってんなとか、色々気付いた。小さいのは暮らしてるのが洞窟だからか? 色は毒を持ってるからか? いつもは出会ってもクモの目を回収しようとすぐさま殺してたから、ちょっと楽しかった。
さて、そろそろ気合を入れて仕事しよう。
「ここか……」
松明がギリギリ照らしている先に、夥しい量のクモの巣が張り巡らされているのが見えた。俺も結構洞窟を探索してきた自負があるけど、こんなの見たことないな。気持ち悪い。
たしか、このクモの巣の中に、蠢いて小さな火を吹く変な物体があるんだよな。改めて言葉にするとヤバイな。でもそれ、透明化した俺にも反応するのか? ……実験よりも何よりも、まずは脅威を取り除くのが先決だ。要するに、その物体をぶっ壊しゃあ良いって事だ!
勢い付けて、景気づけに松明を無駄に3本置いてやった。そうして灯りの下に晒されて現れたのは、見覚えのありすぎる、けれど、この世界には存在しないはずのブロックだった。
「そ、んな、まさか……!」
ブロックになるよう鉄格子を組み合わせたような見た目。各面の中央には知らないモンスターの顔が施され、それの中で何かがクルクル回っていた。一見滑稽な回るそれは、小さい洞窟グモだった。
心臓が強く跳ね上がり、全身が熱くなって、すぐに嫌な寒気に支配された。息が上がって、おとなしく隠れてくれていた雪玉ちゃんたちが心配して出てきてしまった。ダメだ。狼狽えてる場合じゃない。俺はこれを壊さなくちゃ。
ダイヤのツルハシでガツンガツンやっちまえば、はじめて壊したけど案外、少なくとも黒曜石よりは簡単に掘れた。黒い鉄格子みたいなブロック、スポナーは跡形残らず砕け散って、中のチビグモも消えていた。残ったのは、黒い破片のみ。見覚えのあるそれを摘んでみると、最初は硬かったそれは徐々に砕けて、サラサラになって、俺の手から消え去った。この感覚にも覚えがある。
どこでだ? そうだ、ハナハタ村でだ。ハナハタ村、あそこのハナコさんが掘った採掘場で、不自然な丸石の空間があって、そこに脆い黒い破片があったんだ。あの時のも、コレだった? コレだったとしたら、何が入ってたんだ? ハナハタ村のモンスターでおかしかったところは? そうだ、
だとしたら、俺の、村は
「ぁぁあア゛ァアアアァァアアアッ!!!!!」
「オイ! ルゥパ!? 何があった!!」
遠くから、リーダーが俺を呼ぶ声がした。そうだった。
複数人の走り出す音が聞こえてきたから、「無事だ! 俺がそっちに行く!」って大声で牽制して引き止めて、宣言通り向かった。ソワソワしてる洞窟グモたちを無視して戻れば、こちらもソワソワしてる自警団。牛乳を飲んで姿が見えるようにすると、クリーパーでも現れたかのように驚かれた。気にしてられるか。
「詳しい話は一旦外に出てから」って言って、皆を外に出した。外で作戦会議を開始して、俺が見たものを、スポナーの存在を共有。鉄格子っぽいブロックだし近づくと小さく火を吹くっていう特徴があるから分かりやすいけど、危険なのは変わらない。だから湧き潰しの為に松明をすぐさま設置して、瞬時にツルハシで壊すように指導した。破壊する時にどうしても近づくから、絶対に集団で処理に当たるようにも強く言った。
自警団さんたちが俺を除いて作戦会議を始めた裏で、俺と同じように力を貸す旅人がさっきの俺の叫びの理由を聞いてきた。洞窟の岩で反響した声は入口近くに待機してた彼女、カァドゥさんにも聞こえていたらしい。誤魔化す必要も無いし、ちゃんと言ったよ。
「俺の村って、ずっとずっと、ゾンビの襲撃が絶えない場所だったんだよ。その原因が、今見たブロックなら……。俺が見つけられなかったせいで、村は滅んだんだって思ったら、ムリだった」
カァドゥさんは「そう……」とだけ言って、俺を優しく抱きしめてくれた。身体を支配した絶望は涙に溶け出して、彼女の服に染み込んでいく。頭を撫でられればもう、嗚咽は止まらなかった。
それでも、俺は衝動を抑えきれないみたいだった。
騒動の翌日。借りた土地に建てた拠点を壊した俺は、軽く挨拶回りをしてから村を出た。スポナーについて警戒してもらえるよう、言えることは全部言ったし、後は自分たちでもなんとか出来るだろう。自分たちで村を一から開拓しようとしてる人たちなんだし。だから、緩く引き止める声を無碍にして、最後にゾンビから人間に戻す方法や必要なものをチェストに置いて、新しい発見が多かった村を出た。
帰るんだ。ヘムスタッド村に。
壊すんだ。ゾンビが入ったスポナーを。
「許さない」
やっぱり俺は、この世で一番、ゾンビが嫌いだ。