人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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92 帰る理由がもう1つ出来た

 故郷のヘムスタッド村へゾンビのスポナーを壊す為に帰ると決めて、早数日。どこへ向かえば良いか分からなくなっていた。

 

 そもそも当ての無い旅だった。あの頃は村に帰るつもりがなかったから地図なんて作ってなかったし、今居るここがヘムスタッド村からどれだけ離れてんのかも分かんない。だから帰れるかどうかは完全に運次第。

 それでも皆のとこに帰りてぇ。帰りてぇから、歩いた。たまにエリトラも使った。移動は人間に見つかりにくい夜の間にした。

 

 ただ歩くだけじゃ当てが無さ過ぎる。暇すぎる。だから、昼、ポーション作る合間に記録本を書くことにした。

 

 サトウキビで作った紙と、フグを釣った時に取れちゃったイカの墨を使って、ゾンビから人間に戻した一部始終とかポーションの作り方、ネザーゲートの作り方とか、ネザーのモンスターの倒し方とか、金の作物の作り方とか。思いついた順に書いた。満足したら順番を整えて紐で括って本の形にして、わざわざ人気の無い場所に置いた。

 

 書いた本を仕舞ったチェストの中には一緒に金のリンゴと弱化のポーションをセットで数個置いた。それを正しく使うか悪いように使うかは、見つけた人間の倫理観に任せた。前の村は作りたてで聖職者がいなかったから例外だったけど、基本的に人里に出るのは恐ろしい。てか、どうせ布教しようにも聖職者じゃ無い俺がゾンビから人間に戻す方法を広めようもんなら、“白い魔女”ってバレて殺されるだけ。書いといてなんだけど、もう人間のことなんてどうでも良かった。この情報が捨てられようが金儲けに使われようが、どうにでもすればいい。もう好きにされてるしな。入れ忘れしてないか一回戻ってきたら、方法を書いた本だけしか残ってないって事あったし。悔しい。

 

 ……人間なんて、とか思うのに。本を書くのも、金のリンゴや弱化のポーションを作るのも、止められなかった。

 俺がコレを探すことに苦労したからってのもあったけど、……冒険の中で関わった皆が苦しんだり悲しんだりするの、想像でも見たくなかった。だから俺はこれを止められないんだと思う。縋れるものがあるのと無いのでは違うから。だから、続けてた。自分が苦しくなるくせに。

 まぁでも。村に帰れるかどうか分かんないし、暇が潰せるなら、うん。

 

 

 

 当ても無く歩いて、気まぐれに洞窟に潜って、金のリンゴとポーション作って本纏めて、チェストに入れて置いた。人に会うことを嫌ってたから、いつの間にか殆ど喋ることが無くなってた。そう自覚したのは、本を複製してる時に雪玉ちゃんがワチャワチャしだした時だった。

 

 俺しか居ない色がおかしい世界で、透明化とか負傷、弱化のポーションを作って冷ましてる間に紙を作って本を複製してた。

 何度も繰り返してきた製本作業。ページが多いからそこそこ時間はかかるが、考えることは殆どしない。そんな中、ワチャワチャと動くものが目に入った。

 

 見ればそれは雪玉ちゃんで、どこから取ってきたのか、色とりどりの花を束にして俺に対して掲げてて。

 あぁ、励ましたいんだなぁ。笑ってほしいんだなぁ。眠りもしない俺に人間らしさを取り戻してほしいんだなぁ。

 俺は花束を掲げる雪玉ちゃんを、引っ掴んだ。

 

 いきなり握りしめられた雪玉ちゃんは驚いて花を手放し、俺の手を外そうと抵抗を見せた。

 分からない。分からない。どうしてお前は、俺と違う行動を取る?

 丸い体をプルプル震わせて、突起みたいな手で俺の指を剥がそうとしている雪玉ちゃんを顔の前にまで持ってきて、久しぶりに口を開く。

 

「お前は誰だ」

 

 俺から出ているくせに、俺と違う行動を取るのは何故? 俺の言うことを聞かないのは何故? 俺を慰めようとするのは何故? 俺とお前は同じ個体じゃないのか? まるで俺とは違う、ひとつの命みたいじゃないか。

 

「お前は何なんだ」

 

 そもそも、だ。

 

「なんで俺が知らない情報を、お前が知っている」

 

 雪玉ちゃんが、固まった。

 俺から生まれてんなら、俺が知ってることしかお前は知らねぇハズだ。お前が最初に言ったように、俺はお前で、お前は俺のハズだろ。だから俺はお前にテレポート出来るし、感覚共有出来るんだ。なぁ、そうだよなぁ?

 

「雪玉ちゃん。お前は、誰だ」

 

 鼻を付けて、雪玉ちゃんを凝視する。スイカの種みたいな黒い粒2つで出来た無表情は、全身をガタブル言わせることで恐怖を表した。

 

「……ハァ」

 

 元々こいつ喋んねぇんだよ。いくら聞いてもボディーランゲージしか出来ねぇんだ。怖がらせ損だった。

 てか、感覚共有出来るって事は、俺がそれをやってない時も雪玉ちゃんは情報収集してるってわけで。それなら俺が知らない事も知ってるのは当たり前。本当に酷い事した。

 

「ごめん。それと、花、ありがとう」

 

 机の上には雪玉ちゃんが落とした花が散らばってた。青、赤、白、黄色、桃色。色とりどりで、ホント、可愛いチョイス。それを俺から解放された雪玉ちゃんは拾い集めて、また俺に差し出してきた。もう、健気。かわいい。お前今俺に握り潰されてたんだぞ。なんですぐ俺に懐くかな。

 

「ありがとう」

 

 小さな花束を受け取って、雪玉ちゃんのことも、今度は優しく抱き上げた。

 久しぶりに、笑った。

 

 

 

 

 

 当ての無い帰り旅の中、知らない村にやって来てしまった。

 

 来るつもりなんて無かった、山の中の村。周りを木に囲まれて、どこからでもモンスターとかから襲撃がありそうな悪い立地。これで村として成り立ってたってのが驚きなくらいだった。まぁ、ゾンビ化してる村人が闊歩してる時点でもう成り立ってないんですけど。

 まだここにゾンビたちが居るのは、ここ数日空に雲が居座っていたから。浄化し、導きである太陽光が無いから、なんだろうな。

 

 来ちまったからにはしょうがない。見過ごすのもアレだったから、一体一体誘い出して、弱化のポーションかけて金のリンゴを食べさせた。もっと効率的な方法もあるんだろうけど、実験すんの面倒だったから確実な方法を取った。

 ゾンビたちは金のリンゴ食べさせたらあの先生みたいにのたうち回って倒れるか、そもそも金リンゴを食べないか、弱化のポーション浴びさせて倒れた時に体がバラバラになって動かなくなるか、そんな感じだった。

 

「あーあ」

 

 食べさせる前に殺しちゃっても、特に何の感情も湧かなくなった。あーやっぱ俺は人間じゃねぇんだな。あーあ。まぁ、それでも、俺が見つけた方法で戻って来られる人間が居るなら、もうそれでイイじゃん。

 

 村に居るゾンビに軒並み金のリンゴあげて、動いてるゾンビは居なくなった。太陽も沈んで、辺りは暗くなってた。暗いおかげで屋内に運ぶ間も燃え出さなくて済むな、ゾンビは居るのにゾンビの声がしないって珍しいな、とか考えながら周りの音に耳を傾けてたら、足音が聞こえた。

 スケルトンでも、クリーパーでも、エンダーマンでも、クモでもない。もちろんゾンビでもない。一歩一歩確かに、一定のリズムで。地面を踏みしめて歩いていた。生き残りか? にしてはずっと気配を感じさせなかったじゃ……あれ? この足音、村の敷地の外から聞こえねぇか……?

 暗視のポーション飲んでからまた辺りを見渡したら、ランタンの光が見えた。それを持つ手には肉があって、健康的な色で、生きていた。

 

「どうして……?」

 

 聞こえた声は高くて女性のものだった。一体どこに居たんだ。逃げてた? たまたま村の外に用事があった? 1人で?

 

「どうして、みんな倒れて……?」

 

 まだ状況を受け止めきれていない女性に話しかけた。彼女は俺の存在にメッチャ驚いてたけど、ここの村人たちは皆ゾンビになってしまっている事、その村人ゾンビが倒れてる理由を言ったら、信じられなさそうにしながらも落ち着いてはくれた。

 

「そんな、ゾンビから人間に戻すなんてことが……」

「まだ数回しか成功してないから、これで本当に大丈夫か分かんねぇけど。──でも、ほら。あちらでひとり息を吹き返しt」

 

 ビュンッて何か刃物が風を切る音が聞こえて、背中が割れた。

 

「ァ────ッ!!??」

 

 生命の危機を感じる激痛と灼熱。刃物が抜けたら命が流れ出ていくのが分かって、全身が途端に冷たくなって、膝が折れて地面に倒れた。なんとか顔を動かして見上げた彼女は、俺を恨みのこもった恐ろしい顔で見下ろしてた。

 

「よくも、やってくれたわね……!」

「ゴホッ……ナ゛ッ、ンデ……?」

「こいつらをゾンビにしたのは、私なのよ」

 

 彼女は語った。彼女は他の村から拉致同然で嫁いで来たよそ者だった。排他的な人間性をしていたこの村の人間たちは、そちらが拉致したにも関わらず、彼女を理解し受け入れようとは全くしなかったらしい。だから、ゾンビを連れて来て、村人たちを襲わせた。

 

「アハッ! ハッ! ヒャハ! ヒャハッ!!」

 

 笑いながら、彼女は斧を掲げては振り下ろしていた。叩っ斬っていたのは、金リンゴ食って倒れた、ゾンビたちの首。

 

「心が! 腐って! んだから! 体も! 腐らせて! やろうと! 思った! けど! これも! 悪く! ない! わね!」

 

 ゴロリと転がった男の首を森の方へ蹴飛ばした彼女は、ひときわ大きく高笑いした。

 

「心も体も腐った奴らを、この手で! 殺せるんだから! まぁだから、そういった意味だったら、お礼、言わなくっちゃねぇ、君ぃ」

 

 耳鳴りがひどい。体がそろそろ、生命活動をやめたがっていた。怖い、こわい。

 

「ねぇ君ぃ。君でしょ? この本書いたの」

 

 彼女が近づいてきた。膝をついて、何か俺の目の前に置いた。倒れた横目でなんとか認識したそれは、俺がまとめた本もどきだった。

 

「震えたわぁ。そんなことが出来てしまったら、私の計画が壊れちゃうって」

 

 ここの近くに置いたのは、たった1日前。それなのに、もうそれを持ってるってことは……。彼女は、この村人ゾンビ達が太陽に浄化されるのを、そこで待っていた……?

 

「悪い予感がして来てみれば……! あとちょっと遅かったら、私がこいつらに殺されてたわ!!!」

 

 目の前で、本もどきが引き裂かれた。笑って発狂する彼女の手によって、俺が時間かけて作った本が、散り散りの、何の意味も無い紙切れにされた。

 

「アハハハ……ハァ……。何様のつもりか知らないけど、本当、人様の命を何だと思ってるわけ? 死ぬなら死ぬ。ゾンビになったら助からない。これが世の中の常識なのよ? 壊されちゃ、困んのよ」

 

 何を言われてんのか、分かんねぇ。助けたいって思っちゃ、ダメなのか?

 

「望まれても無いのに助けようとしてんじゃないわよ。本当は死にたいかもしれないでしょう? 生きてたってしょうがないって思ってるかもしれないでしょう? それなのに勝手に助けて、恩着せがましく感謝しろって言われたら、ムカついちゃうわぁ?」

 

 んなの、分かるか。不可抗力なもんとか、分かるか。望んで、ゾンビになる人間なんて、いねぇだろ。ここなんて、お前が……!

 

「だから、メイワクなの。こんなバカみたいな事、広められちゃ困るのよ」

 

 金儲けに使うどころか、存在すら、嫌がんの……? なんで、なんで……! お前、コレを、俺が、どんなに時間かけて、どんだけ犠牲払って見つけたか、分かって言ってんのか……!?

 

「だから、早く死んでよ。偽物の神様」

 

 赤黒く濡れた鉄の斧が、高く高く、振り上げられた。

 

 

 振り上がった斧の奥に雪玉ちゃんが見えた。だからそこにテレポートして、花火とエリトラで飛んで逃げた。

 

 

 

 

 

 俺しかいない世界で、グロウベリー色の空に向かって投げかけた。

 

 俺は、何の為に、“冒険”したんだ。

 悪意に襲われて、努力を嘲笑われて、手柄を奪われて。必死で掴んだ情報もいらないって言われて、本を紙くずにされて。聖職者でもない人間に殺されかけて。

 死んだ奴の為に、本当に、何してんだ俺は。

 

 何が希望だ! 何が革命だ! そんなの、世界は望んでない! あーあ、ご苦労なこった!

 

「そんなことない! 応援してくれる人が居る!!」

 

 はぁっ!?

 そいつらは俺に何してくれた!? それで俺は前に進めたか!?

 

「進めた! 魔女にポーションを教わった!」

 

 人間に! 何か利益をもらったか!?

 

「生きる希望を、理由をより深めてくれた!!」

 

 んなの呪いと変わんねえだろうがァッ!! 生きろって圧力かけられてるだけじゃねぇか!! こちとら目的なきゃさっさとサータちゃんたちのところに行きたいのに、生きろってなんだよぉ!!!

 

「い、一緒に戦ってくれた人が居た! 俺に協力してくれた人が居た!!」

 

 それが何か役に立ったかぁっ!? 結果、今俺は、この世に居場所がねぇじゃねえかよ!!!

 

「ある!!!」

 

 どこに!!!

 

「国を作るって言ったアイツのとこ!!」

 

 ヘムスタッド村に帰らねぇといけねぇのに、今そっち行ってどうすんだよ!!

 

「じゃあ賭けよう!!」

 

 何を!!

 

「村に帰れるのが先か、国を見つけるのが先か! 死ぬか生きるか! 俺の足に賭けよう!!」

 

 それに何の意味があるってんだよ!! 今の旅と何も変わんねぇだろうが!!

 ……あぁ、変わんないんだ。……ハハッ、いいぜ、乗ってやるよ。俺は、帰るんだ。

 

「……俺の冒険は、無意味じゃない」

 

 俺って誰だ。今この口を動かしてんのは誰だよ。考えも正反対じゃねぇか。……どーでもいっかー。俺はモンスター。頭が2つあったって、おかしな話じゃねぇよなぁ。

 

「フヒッ……!」

 

 そうだ。俺はモンスターなんだ。人間じゃあないんだよなぁ!!

 

「ヒッヒッヒ……!! ヒィーヒッヒッヒ!!」

 

 あー、死にてー。

 

「ねぇねぇ雪玉ちゃん。魔女らしい死に方って、なんだろうね。やっぱ、ポーションで死ぬのが一番かなー?」

 

 条件を一緒にする為に、国までの地図はマグマ溜まりに放り込んで焼却した。

 

 国に戻って、悶々と生きるか。村に帰って、スポナー壊して死ぬか。俺の未来はどっちだろうなぁ?

 

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