人間に戻る手がかりを掴むまでの話   作:佐川野

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国王視点

エンチャント狂いの男視点


98 準備は楽しく、着々と

 チューリップにタンポポ、ポピーなどの色とりどりの花が咲き誇るハナハタ村。敷かれた石レンガに沿って歩くだけで気分まで華やかになるこの村にも、新しい住人がやってきた。鉄の巨人、アイアンゴーレムだ。

 T字に建てた鉄ブロックの上にくり抜かれたカボチャを置くことで生まれる命。ベス村にいたのと同じ守護生物だな。クラフターのハナコの話ではハナハタ村ほどの規模の村ならば自然と生まれるはずだそうだ。『ここもゲームとの違いかも知れない』とも言っていたな。

 村の子供達、ミツバチたちと戯れて、登られているゴーレムを微笑ましく思い眺めながら横を抜け、教会へ向かった。

 

 石造りの教会。入口の扉がわりに掲げられている暖簾は紫色の布地に白で十字架が描かれている。染色が甘く境目の白が若干滲んでいるが、『つい先日、服飾職人を目指す半人前たちに新調してもらったんです』と語るヘイリグの照れくさそうな顔を思い出せば、微笑ましい味だと言える。そんな暖簾を潜って、礼拝室と石の十字架モニュメントを抜けて、奥の部屋に足を進める。

 

 奥のポーション醸造部屋は、扉が設置されているのに日中で閉じられている所を見たことが無い。そんな木の扉を一応ノックして、部屋の主に来訪を伝える。

 

「こんにちは、ヘイリグ」

「おや。いらっしゃい、シターシュさん。視察お疲れ様です」

「気分転換のついでさ」

 

 「弟子の皆さんも、こんにちは」と挨拶すれば、3人いる自警団のポーション醸造班も明るく返してくれた。こちらはピリピリしているウチとは違って空気まで平和だな。

 醸造部屋は窓が開いているにも関わらず熱気が凄かった。よく見れば醸造台が10台も稼働しているようだ。会議から一夜明けたばかりなのに、仕事が早いことだ。

 

「すみません、暑いでしょう」

「そういうものだろう? 気にしないし、気にかけないでくれ。それでなんだが、なんのポーションを醸造しているんだ?」

「今は指導も兼ねていますので、全員で暗視を。これから治癒のポーションを指導しようとしていて、残りの2台ではそれぞれ俊敏と跳躍を」

「4種類も。ふふっ、確かにそれらはいくらあっても困らないからな」

 

 ポーションは自らの生存確率を高めてくれる、優れたもの。しかしその製造には一度死ぬような危険な思いをして素材を集めてこなければならないのは周知のこと。そんな貴重品が一斉に製造されていること、それをほぼタダ同然で扱えることは垂涎の的だ。まぁ、カツヤへの報復が終わるまでの間であるし、無駄遣いや着服は自分を含め誰にも許しはしないのだが。

 

「ヘイリグ、ルゥパの現状についてはハナハタ村の民に話してあるのか?」

「はい。最終確認の後すぐさま集会を行い、情報を共有しました。中央教会からの襲撃もありましたから、皆今回の計画に協力的です」

「そうでなくては。ところで、自警団の姿が少ないように見えたが、既に遠征へ?」

「ええ。ドゥンが団員14名を引き連れて砂漠へ、スタークが団員2人と共にネザーへ。それぞれ素材集めに向かってくれています」

「おお、ネザーへ行ける自警団員が増えたんだな。例えネザーウォートの回収だけだとしてもプレッシャーは凄いと聞いている」

「そうです。彼らは常に頑張ってくれていますよ。何より今回は、いつもの目標量以上にマグマクリームとブレイズロッドを回収してくると私に宣言していきましたからね」

「向上心が有ることは素晴らしいことだ」

 

 素材集め班と醸造班とで役割分担できていて、効率が大変よろしい。中央教会以上のポーション製造基地になる日も近いだろう。中央教会がどれほど体力がある組織なのかはまだ把握してないがな。

 

「そうそう、ハナコさんが使用していたあのハチミツブロックを活用した移動装置なんですが、ドゥンが再現しましてね。量産・巨大化にも成功して、今回の遠征ではそれを使って砂漠まで向かったんですよ」

「あの稼動音が喧しいアレか! 素晴らしい。これで一回の遠征でより多くの資材を運搬する事が出来るようになったのだな!」

「そうなんです! 個人のインベントリでは限界がありますからね!」

「それに移動には労力がいる。馬やロバ移動でも両者に体力の消費がある一方、機械仕掛けならその心配は無い。楽をする為に技術開発を行う。うむ、素晴らしいことだ!」

 

 ハナハタ村の民たちのやる気に感心して、ちょっとした世間話をもう少ししていき、教会から引き上げる際にはおまけで土産でポーションをいくつか持たせてもらった。

 その足で食堂へ向かう。こちらへも顔見せだ。

 

「いらっしゃいませ~! あっ、シターシュさん!」

「こんにちは、ティエ。顔を見に来たよ。調子はどうだい?」

「ふふんっ! 今日もバッチリよ!」

 

 ヒスイラン色のエプロンのフリルをひらひらさせながらカウンターから出てきたティエは、私の前でふんぞり返ってみせた。自信に満ちた振る舞いは元気を貰えてとても好ましい。

 ティエは数年前にセンバが“フォンチャ”という男性と共に連れてきた少女だ。彼女たちの村もゾンビの襲撃によって滅びてしまったが、彼女は生き残り、フォンチャはゾンビ化したものの偶然訪れたルゥパのおかげで復活出来たのだという。その功績を横取りしたスニッシェン達も国にたどり着いたのは、不思議な巡り合わせだな。

 

 元気な顔を見るだけで切り上げようと思っていたのだが、当然のように店内席に案内された。ならば、とイチゴジャムが添えられた花茶を持ってきてくれたティエをそのまま捕まえさせてもらった。朝というには遅く、昼というには早い時間帯故に、店内には今私しか客が居ないのでね。

 イチゴジャムを溶かし入れた花茶は香りも甘さも向上して、とても飲みやすくなった。

 

「ヘイリグから聞いたぞ。遠征に出る自警団員への携帯食は、最近では君が全てを任されていると」

「えへへっ! 実はそうなのよ! 忙しい中で片手でも食べられるようにサンドイッチとかオニギリとか、パンプキンパイとか!」

「ふふっ、携帯食の中にヨシトのアイディアも使って貰えて嬉しいよ」

「美味しいもん、お米!」

 

 ハナハタ村でも重要なポジションに着いた彼女は、ウチで保護を受けた直後からこちらの村に修行に出ていた。料理と服飾を主にこちらで学ぶためだ。全ては年上で教師のフォンチャの花嫁になるため。隣に立って恥ずかしくないようにと、自らに課した花嫁修業というわけだ。恋する乙女の健気な努力は見てる側も応援したくなるな。まあその努力の理由はつい先日まで秘められていたのだが。

 

 なんせ、ゾンビから復活した人間であるフォンチャだったが、なかなか太陽を克服できなかったのだ。

 元は青色だったらしい瞳は血のように赤くなり、太陽どころか光全てに過敏になってしまっていた。土色の髪は伸びるそばから白くなっていた。弱くなってしまった肌は日光で焼けやすくなり、目覚めていられる時間が短いために体力も落ちていき、保護した直後よりも後の方が健康状態が宜しくなくなっていった。こんな状態で『彼はルゥパが救った、“ゾンビから復活した人間だ”!』などと紹介するのはフォンチャに大きな負担を強いてしまうし、見た目が大きく変わってしまうのかと落胆させることになる。故に国から出さず、療養してもらっていた。法律を、罪と罰のバランスを共に考えてもらえたのは良い機会だったな。

 

 そんな彼もだいぶ回復してきて、短時間なら日中で肌を晒しても行動出来るようになった。いつまでも隠しておけるものでもない為、先日フォンチャをハナハタ村の民達にも紹介したという訳だ。彼もティエ同様すぐに受け入れられ、体調が良い時にはこちらへ渡ってきて、子供たちに読み書きと計算を教えている。今日もそうだった。

 溶けきらず、カップの底に沈んだイチゴジャムを掬って食べる。旨いな。

 

「そういえば、その色のエプロンは初めて見たな。もしやそのエプロンは」

「そうよ! 自分で裁断から染色、フリルの縫い付けまで全部やったの! 可愛いでしょ!」

「とても可愛らしいぞ。フリル部分が白なために雲のようで、空の清々しさを身にまとっているかのようだ」

「えへへっそうでしょ! シターシュさんとヨシトさんにもお揃いで作ってあげるね!」

「おお! それは嬉しい。落ち着いた緑色とリクエストしていていいかな?」

「落ち着いた緑色ね。了解! 目の赤と対比して綺麗かも! シターシュさんのはフリルいっぱいにしておくね!」

「き、気持ちは嬉しいが、普段から着やすいもので頼むぞ」

「も~! ヨシトさんともっとイチャイチャ出来るように、うんと可愛くしとかないと!」

 

 ……照れくさいが、彼女の技術向上の為だ。一肌脱いでみせよう。

 全身を測定した後、解放された私は国へ戻ることにした。途中窓から中を覗いた学校では、室内でも目以外の顔を布で緩く覆ったフォンチャが子供達に授業を行っているようだった。耐性が付いてきたとは言え、まだ無防備になるには早いものな。早く、彼女の祈りが届きますように。

 たまたま横を通ったゴーレムからポピーを1輪プレゼントされながら(何か返そうと考える間に立ち去っていった)、いよいよ帰路についた。

 

 雪玉ちゃんたちも大いに協力して採掘を行う採掘場を横に抜け、地下へと続く階段を降りる。この先にあるのは、ハナハタ村と国を繋ぐ、海底トンネルだ。わざわざ石レンガで囲った巨大なそれの中は2階建てとなっており、上下どちらも6つずつトロッコ線路が引かれている。緊急でないなら上が人間用、下が貨物用だ。一旦トロッコに乗り込めば後は身を任せればいいのが、本当に楽で便利だ。

 

「コンジットパワーとスポンジの力は、本当に素晴らしい」

 

 この巨大建設に大きく貢献してくれたのは、センバが旅の中で見つけてくれたコンジット(海洋の心というものとオウムガイの殻を掛け合わせたもの)とルゥパが見つけて雪玉ちゃんが我々に貸してくれたスポンジだ。コンジットは特定のブロックをある形に組み合わせると開眼し、効果が及ぶ範囲では海中で溺れることもなく、作業がほぼ地上と変わらぬ速さで出来るのだという。そしてスポンジは驚異的な吸水力で水を破壊するように吸収し、空気の層を生み出してくれる。これらがあったおかげで夜でも行き来できるこのトンネルが建築出来たのだ。

 つくづく、私の周りには素晴らしいものしかないな!

 

「後は、カツヤを滅し、ルゥパが目を覚ますのを期待するだけ」

 

 難しい話だ。だが、それを達成するために今準備を行っているのだ。さてまずは、ゴーレムから受け取ったポピーをルゥパにプレゼントしていこう。

 

 トロッコで国まで戻ってきた私は、ほんの少し空気が緊張しているのに気がついた。その発生源は、高い位置に立てた監視塔から望遠鏡で海方向を覗いているヨシトだ。

 

「どうした、ヨシト」

「お嬢! いや、敵襲ってわけではなさそうなんですが、遭難者が向こうにいるみたいで」

「そうか。保護しに行くか」

「了解」

 

 一刻も早く向かうべきだと判断したのか、ヨシトはハシゴを使わずエンダーパールで降りてきた。

 ヨシトによると遭難者は2人。海から打ち上がって動けなくなっているらしい。移送の為のボートをインベントリに入れ、我々自身はエンダーパールを飛ばしてテレポートした。急いで駆けつけた海辺では、全身を布で覆った人影が2つ、横たわっていた。ほのかに膨らんだりしぼんだりを繰り返しているから、生きている。まだアンデッドではない。

 

「大丈夫か。意識はあるか」

「う゛っ……!」

 

 顔を見る為に布をペラッと開けたら、嫌そうな声を挙げられた。強く目を瞑っているから、意識が無いわけではなさそうだが。布を下ろしてから、ヨシトが建てる簡易避暑場の範囲を広げ、影を増やした。

 

「これで眩しくないだろう。何か欲しいものはあるか?」

「……ご、ごはんを……」

「空腹か」

 

 水分があるものの方が飲み込みやすいだろう。トマトか、スイカか、イチゴか。どれも赤いな。

 影を作ったから顔を覗かせてもらう。そして、驚いた。鮮やかなダイヤモンド色の髪色にも少し気を取られたが、それ以上に、肌が赤くなっていることにだ。なぜ? 先ほど布を捲った際には浅黒いだけでさほど問題はなさそうだったのに。まさか、あのたった一瞬で肌が焼けてしまったのか?

 イチゴを食べてくれたからスイートベリージャムを塗り挟んだパンへ移行させつつ、私はヨシトと顔を見合わせた。

 

「ヨシト、もしかしたら、彼女たちは……」

「間違いない。この2人はフォンチャと同じです」

 

 あんな一瞬で日光に肌が焼けれてしまうのは、アンデッドか、それから戻った人間だけ。そして、もしも中央教会の聖職者が治療したのなら、自らの権威を確固たるものにするために逃がすはずはない。故に、だ。

 

「ああ。彼女らもまた、ルゥパに救われたんだ」

 

 彼女がどうして移動に海を選んだのか、なぜ旅をしているのか。ここでも不思議なめぐり合わせが起きている。……もしかしたら、雪玉ちゃんが無意識下で呼んでいたのかもしれないな。

 

「なぁ、ヨシト。私は思うのだが」

「何でしょう」

「ルゥパにとって人間がダメなら、元ゾンビはどうなんだろうか」

「……アイツもモンスターに片足突っ込んでますから、ね」

 

 もしかしたら、一度人ならざるものになってしまった者相手なら、ルゥパは発狂せずに済むのかもしれない。しかも相手は自らが助けた者共だ。

 人が考えつくものには全て可能性がある。試さないのは愚かであると、私は、私たちはルゥパから教わっている。ふふっ、彼女たちも回復したら、協力してもらおうじゃないか。

 

「今から君たちを私たちの拠点に保護をする。暫く地下暮らしだろうが、君たちの体の為だ。了承してくれ」

 

 あまり理解できないか、意識がそこまではっきりしていないのか。ぽかんとするダイヤモンドの髪色と夜空の髪色の女性2人。そんな彼女たちをひとまずもう1枚布で重ねてくるんで、それからボートに乗せて、ゆっくり移動した。このやり方だと馬やロバと違って振動が少なくていいな。

 

「あ、話がかなり変わるが、ヨシト。ラクは今どうしている?」

「あー、あいつなら、今頃エンドの下見してるんじゃないですか。この間エンダーアイがやっと集まってましたから。エンダードラゴンがいるのか確かめに行ってましたよ」

「アイツ、よっぽど運が悪いのか知らないが、エンダーアイを投げると5分の1の確率で壊れると嘆いていたからな」

「エンドラ、居てくれるとブレスを回収できて助かるんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったね」

 

 念願叶ったエンド到達! 全然見つからない上に壊れやすいから、ここまで来るのに苦労しちゃった!

 それにしても嬉しいな! 見つけたエンドポータルが新品だったからか、エンドラもいる~! これで残留ポーションが作れるね! エンダーパールの為のトラップタワーも作れるし、うん、最高! エンドラって何匹も居たんだね!

 

「それじゃ、下見も済んだことだし」

 

 インベントリにも何も持たずに来たからね。奈落に落ちてもなんの損も無いよ! あー、でも、死ぬのはやっぱ痛いな~。あでっ。

 

 

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