俺の名前はピーター・ペティグリュー。   作:八重歯

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03 俺は受け入れなかった。

 

1974.1.22

 

今日(橘花翔)は初めてジェームズとシリウスの悪戯を見た。よくわからない呪文を2人で唱え、廊下の床や天井まで鏡にしていた。

女子生徒が真っ赤な顔をしてスカートを押さえていたな。うん、床が鏡になってパンツ丸見えだったし。…似たようなギリギリアウトなカフェ…昔あったよな…。

 

ジェームズとシリウスの2人も、まさかパンツを見る羽目になるとは思わなかったのか年頃の男子らしく顔を赤く染めて狼狽てたのには笑った。いつもすました顔してるのに、やっぱまだまだお子ちゃまだな。

 

ちなみに鏡張の廊下はジェームズとシリウスが「こんなつもりは無かったんだ!本当に!」とか言って大慌てで元に戻していた。周りにいた男子生徒はちょっと残念そうにしていたな。うん、どの世界でも男子は男子で安心した。

 

 

 

 

 

 

1974.1.26

 

ジェームズとシリウスは酷すぎる!

流石にあの悪戯は…悪戯ではない、どう見ても虐めだ。

リーマスは見て見ぬふりをしてた。止める事が出来ないんだろう、彼にとって…初めての居場所だから。

 

でも流石に俺は止めた、ジェームズとシリウスはめちゃくちゃ驚いてたし、なんか嫌そうな顔してた。

 

セブルスは、怪我をした腕を押さえ、呪いの言葉を吐きながら逃げていった。

 

 

 

 

1974.1.28

 

図書館でセブルスと遭遇。

ジェームズとシリウスの代わりに謝ったら嫌そうな顔をされて無視された。

呪われなかっただけましなのかもしれない。

 

 

 

 

1974.2.1

 

リーマスがいない日、ジェームズとシリウスから、リーマスの秘密の事も忘れたのか?と聞かれた。

知ってはいるが、知っていたら可笑しいだろう。

俺はとりあえず、「覚えていないけど、満月の日に毎回消える理由は…なんとなく分かるよ」と答えといた。

人狼なのかって明日帰ってきたら聞こう。…あ、そういえばアニメーガスにはまだなってない…よな?

図書館にアニメーガスの本が無いか探してみよう、もう2人なら見た後かも知れないけど。

 

 

 

1974.2.5

 

アニメーガスの本は禁書らしい。

ええー…禁書って先生に許可もらわないと借りれないじゃん。めんどくせ。

リーマスの為だ、なんとかしてあげたいけどなぁ。

そうそう、帰ってきたリーマスに「人狼だから肉食なんだな」って言ったら目が飛び出るんじゃ無いかってほど驚いていた。

 

 

 

 

1974.3.7

 

最近、俺を見る周りの目が変わってきたのだと、思う。

はじめは馬鹿にしていた奴らも、笑っていた女子達も、ちらちらと俺を見る。

見た目は間違いなくかわった。もう腹筋も割れたし余計な贅肉はついていない。顔の浮腫みと脂肪も取れて、整形したんじゃないかというくらいスッキリした。目もぱっちり二重になったし…。うん、ピーター、お前やっぱそこそこ美形じゃん。

日本人の俺からしたら、外国人なんてみんな美形だからそう思うのかもしれないが。

 

 

そうそう、一応書いておく。

このあとダンブルドアに呼び出されてる。

何の用事だろうか。…ちょっと嫌な予感。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

校長室。

立ち並ぶガーゴイル。そして立ちすくむ俺。

夕食時に時間を指定され、ここにきたものの合言葉は書かれてなかった。確か…菓子の名前だったよな?

 

 

「…レモンキャンデー?」

 

 

無音。残念ながら今はこの合言葉では無いらしい。あと…何だっけなぁ…レモンキャンデーが衝撃的すぎて、思い出せない。

 

だが、何も言ってないのにガーゴイルは開き静かにおれへ道を開けた。…招かれているって、事だよな?入って良いよな?不法侵入にならないよな??

 

 

「おじゃましまーす」

 

 

とりあえず、声をかけながらそっと扉をくぐる、おお…映画で見た事があるセットのまんまだ…あーあれが組み分け帽子…。フォークスも居る、歴代の校長達は寝ているようだ。

 

しかし、校長室の中にはそこに居るべき本人が不在だった。人を呼び出しておいて何で居ないのか。まぁ、ちょっとくらい部屋を見て回っても怒られないだろう。

 

俺は棚の上からそっと組み分け帽子を手に取るとまじまじとそれを見る。古ぼけた帽子は…なんかおばあちゃんの家に来たような、そんな匂いがした。

 

 

ーー被ってみたい。

 

 

ハリポタ好きな人間なら、一度はもしハリポタの世界に行けるのなら、ホグワーツに行けるのなら…どこの寮に配属されるかと妄想をするだろう。ユニバに行って蛇寮のコスプレをしてクソ甘いバタービールを飲んだのはもう…何年前だろうか。

 

 

辺りを見渡す。

うん、ダンブルドアはいない、ちょっとだけかぶろう。

 

 

俺はそっと組み分け帽子を被った。

 

 

「ーーーおや」

 

 

頭の中に老人の声が響く、その声はどこか眠そうだった。…さっきまで寝てたのか?ってか1年の初めに組み分けした後は眠ってるのか?

 

 

「やあ組み分け帽子さん。俺に相応しい寮はどこかな?」

「君は何年か前に組み分けを終えた筈だがーーううむ…君は、誰かな?姿形には覚えがあるが、心の形は最早別人だ…」

「ああ、まぁね。記憶喪失になったから変わったんじゃねーの?…んで?何処の寮が相応しい?」

「…一度決めた寮は変更することは無い。君の心の形が変わったとしても…グリフィンドールだ」

「へー?ーーまぁいいや、寝てたのにごめんな、ありがとう!」

 

 

俺は帽子を脱ぎさっきと同じ棚の上に置いた。

帽子はむにゃむにゃと裂け目を動かしていたが、すぐにまた眠ってしまったようで沈黙した。

 

 

「待たせてしまって悪かったのう」

「うわっ!ーーあー、いえ、全然…」

 

 

ビビった。

音もなくダンブルドアが後ろに立っていて、キラキラとした目で俺を見つめていた。

…何となく、悪戯が教師にバレたような居心地の悪さを感じる。

 

 

「さて、君の名前を聞こうかのぅ」

「え?…俺はピーター、ーー」

「いいや、君は違うじゃろう」

 

 

きらり、と半月メガネの奥の瞳が鋭さを増し、俺を見据えた。

一度口を閉じ、肩をすくめる。この人には俺が俺じゃ無いって、バレていたようだ。

 

 

 

「…俺は橘花翔。日本人だ、ちなみに歳は30歳。この世界でいう平凡な、何処にでもいるマグルの男だよ」

「…ほぅ…それは証明出来るかね?」

「証明しろって言われても…」

 

 

ダンブルドアは俺の事を警戒している。…もしかして、俺がヴォルデモートに関わりがあるとでも思っているのだろうか?まぁ、今ヴォルデモートは魔法界において脅威を拡大しているようだし、疑われても仕方がないか。

 

 

「うーん…俺は海で溺れて、目が覚めたときにはこのピーター・ペティグリューの精神に入り込んでいた。ピーターと俺が入れ替わったのか、それともこれは俺の長い夢なのか…俺にはわからないし、証明のしようもない」

 

 

この世界の未来を知ってます、と言うとさらに余計な疑いをかけられかねない、それは黙っていよう。…ハリポタによく似たパラレルワールドかも知れないし。

 

ダンブルドアはまだ訝しげな、探るような眼差しで俺を見ていたが、突然長い顎髭を触りながら杖をゆっくりと俺に向けた。

 

 

「…君の記憶を見ても良いかな?」

「えー…女の子と一緒にいる所はみないでくれよ?」

 

 

ちょっとしたジョークだったが、ダンブルドアに俺の高度なジョークは通用しなかったようでニコリともせず俺のこめかみあたりに杖を突きつけた。頭から何か、冷たいものが取り出されるような感覚に少し体が震えた。

 

 

「ーー何」

「お主の記憶じゃ」

 

 

ああ、憂の篩で俺の記憶を見るつもりか。ダンブルドア本人が引き抜いた記憶ならば、手の加えようがない。ダンブルドアは杖先に輝く銀色の絹糸のような俺の記憶を、篩の中にそっと垂らした。

 

 

途端に水面が揺れ、映像がぼんやりと浮かび上がる。ダンブルドアは身体を突っ込みそうな程顔を水面に近づけ、じっと真剣な眼差しで見ていた。

どの記憶を抜かれたのだろうか、ーーハリポタの本を読んでる場面だと、ちょっとややこしくなるなぁ。

 

俺も篩に近付き、隣から覗き込んだ。

 

そこには海パンを履き友人と女の子をナンパしている俺が写っている。…懐かしい、本当の俺の姿だ。この記憶は、ここに来る少し前のものだな。あー海の家の焼きそばって何であんなに美味いんだろう。ビールも最高だったなぁ、…高かったけど。

 

俺は友人と海に飛び込み、どちらが早く遊泳エリアと禁止エリアとを分けるブイまで辿り着けるか競争しだした。

30の大人になっても勝負事には本気で取り組む、そんな馬鹿騒ぎが大好きな友人は今何をしているんだろうか。俺の体はどうなっているんだろう。…長い夢なら、昏睡状態なのかな。変に責任を感じてなければいいけど…。

 

 

「ーーうわっー!」

「翔、何ふざけてーー翔?…おい!翔!!」

 

 

俺が叫びを浴びて海に沈んだ、友人は初めは悪ふざけだと思ったのか、笑っていたが、もがく俺に気付くと慌てて近づいてきた、だが波が高く、上手くこちらに来れないようだ。…この波はなんだか可笑しい。渦を巻くように、俺を下に引き込もうとしている。

 

溺れている(橘花翔)を、俺は俯瞰して見ていた。

海の底、暗いところから巨大なイカの脚が伸び、俺の足に巻き付いている。がぼっと俺の口から酸素が溢れる、目は大きく見開き、もがく、そして苦しげに顔をしかめ、喘ぐように、喉を掻いた。

 

 

「ーー嫌なもん見た…」

 

 

篩から離れて、吐き捨てる。自分が溺れて死にそうなところなんてーー二度と見たく無い。

 

ダンブルドアはそこで突如黒く終わってしまった水面を暫く見つめていたが身体を起こすと髭を撫でながら唸っていた。

 

 

「うむ…嘘は無いようじゃ」

「嘘なんてつかない。何があったのかは…本当にわからない。ピーターにこの身体を返したいとは、思ってる」

「全く不可解な状態じゃ。…こんな事例は初めてじゃろう。悪魔に取り憑かれてしまう者はいても…完璧に乗り移られたものはおらん。…今、その体にかつてピーター・ペティグリューという少年の魂の面影はない」

「…ピーター・ペティグリューは死んだのか?俺が…(橘花翔)の魂が乗り移ってるのか?」

「それはーーわしにも本当のところはわからんよ。…ただ、君はこれからピーター・ペティグリューとして生きていくのか、それとも橘花翔として、生きていくのか選ばねばならん」 

 

 

何とも、難しい選択を迫られた。

その言葉は、きっと望むのであれば俺は俺のまま生きる事ができる未来を暗喩していた。まあ、でも。

 

ーーこれって夢、だろ?

 

 

「俺はピーター・ペティグリューとして生きるよ。いつかピーターの魂が帰ってくるかもしれないし。魔法使えるの楽しいし!若い体って最高!」

「…ふむ。…本当に良いのかね?日本に残した者が気にならんのか?」

 

 

ダンブルドアは、俺がまさか違う世界から来たとは思っていないようだ。

日本で死んだ魂がイギリスで死んだ(?)ピーターの身体に入り込んだと思っているのだろう。

 

 

「こんな姿で戻っても説明出来ないから、いいんだよ。友達に会えないのは…残念だけどな」

 

 

それは、本心だ。

もう20年以上になるツレと会えないのは正直しんどい。けれどいつかはーー会える。俺が、向こうで目覚めれば、きっと。

 

俺はそう自分に言い聞かせ、笑った。

 

 

 

 

これは夢だ。そうに決まってる。ーーそうであってくれ。

何の変哲もない普通の男だった俺がまさか、成り代わり異世界トリップだなんて、そんなのあってたまるか!

 

 

 

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