1974.11.02
またしてもアニメーガスになれなかった。
1か月マンドレイクを口に含み続ける事は慣れてきたが、その後の満月の夜に曇りだったらまた初めからやり直し。それが難しい、流石のジェームズとシリウスでも、天候まではどうする事も出来ない。今回も失敗だった。
困った事が一つ。
マンドレイクの葉は品切れ状態らしい。
どうにかして輸入している薬草店を探さないといけない。俺にはツテがないから、どうする事もできない…。
1974.11.24
フィニアンの実家がマンドレイクの栽培をしているらしい。
ジェームズが葉を少し分けてほしいと頼めばフィニアンはすぐに了承した。ただ、何故マンドレイクの葉が必要なのかと聞かれ──ジェームズは、アニメーガスになりたいのだと、伝えたらしい。
勿論誰にも言わないで、と約束したらしいが。
フィニアンはジェームズに陶酔している、まぁ、憧れてるんだろう。ファンだとかシリウスが言ってたもんな。
約束は守るって言ってたみたいだけど少し心配だ。
1974.11.28
フィニアンがアニメーガスの事を言わないために。他の者に喋ったらわかるように
秘密を第三者言おうとすれば、すぐにその口は強制的に閉ざされ、ジェームズが解かない限り一生話せないのだとか。
…相変わらず凄い魔法を知ってるな。
1975.12.06
フィニアンからマンドレイクの葉が届いた!
ようやくやり直す事が出来る。
今回はどうか成功しますように。
友情価格だと言って破格の安さ──とはいえ、中々高額である事に変わりはない。俺の借金が積み重ならないように、どうか天が味方をしますように…!
1975.01.08
よし!!
なんとか、なんとか次に進む事が出来た!!
必要な材料は全て入れたし、あとは雷雨になるまで呪文を唱え続けるだけだ!
リーマス!あと少しだからな!
1975.02.17
アマト アニモ アニマート アニメーガス
アマト アニモ アニマート アニメーガス
アマト アニモ アニマート アニメーガス
アマト アニモ アニマート アニメーガス
早く雷雨になってくれ。
1975.03.27
アニメーガスになれた。
成功だ!
ただ──喜んでいいのかどうか、俺にはわからない。何故、こうなったんだ?
…いや、考えても無駄だろう。
俺は、
ーーーー
待ちに待った雷雨の日。
昨夜から分厚い雲が立ち込み、生徒達の間で明日はかなり天候が荒れるらしいと嫌そうに囁かれていた中、俺たちは密かに心を躍らせていた。
朝早くに目覚めて真っ先に窓の外を確認した俺たちは、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が窓を叩きつけ、遠くから雷鳴の音が響いているのを聞いた。その途端ジェームズは「よしっ!」と叫び小さくガッツポーズをしていた。
運も味方したのか、たまたま休日だった為まだ眠っているリーマスを起こさないよう俺たちは顔を見合わせ、ベッド下の奥に隠していた木箱をそっと引っ張り出すと透明マントを被り部屋を抜け出し、酷く冷える廊下を進んだ。
「ここにしよう」
先頭を歩いていたジェームズが1番近い空き教室を指差し、俺とシリウスは頷いた。
そっと扉を開け注意深く教室内を見るが、こんな早朝に空き教室に用がある者などいる訳もなく、無人だった。
教室内に入り扉を閉め、しっかりと魔法を使い施錠する。万が一でも誰かにこれを見られたら大変な事になる。──未登録のアニメーガスなんて、それがバレてしまったらかなり面倒な事になりかねない。
俺たちは透明マントを脱ぐと教室の中にある少し埃の被った机と椅子を浮遊させ部屋の端に集め、広い空間をつくった。
中央に木箱を置き、顔を見合わせる。
「…開けるぞ?」
俺の言葉に、ジェームズとシリウスは目を輝かせ待ちきれないと言うように何度も頷いた。
そっと蓋を開け、3人で中を覗き込む。
それぞれの名前が書かれた透明の瓶の中には──真っ赤な液体が入っていた。
「成功だ!」
「やったな!」
「ここまで長かったな…」
ジェームズとシリウスは歓声を上げ抱き合って喜ぶ、俺は真っ赤な魔法薬を手に取りほっと安堵の息を吐いた。
成功して本当によかった。もしここまで期待させて失敗だったら──きっとシリウスは手がつけられないほど荒れ狂っていただろう。
「ピーター!」
シリウスが明るく笑い、手を出す。
俺はニヤリと笑ってその掌を叩き、ハイタッチをした。じん、と掌が熱く痺れ、ぐっと手を握れば同じように──成功の喜びを噛み締めるように、シリウスもまた、手を強く握っていた。
「さ、早く飲もうよ!どんな動物になるんだろうね」
「ああ、楽しみだ!」
「どんな動物になるのかわからないから…離れないか?」
わくわくとしながら瓶を手に取り早速蓋を開けたジェームズとシリウスに言えば、2人はそれもそうかと少し離れる。
まあ、ジェームズは牡鹿に、シリウスは黒犬になるんだろう。そして
「ここまで、本当に長かった…!乾杯!」
「「乾杯」」
ジェームズは瓶を掲げ、高らかに言う。俺とシリウスもそれに続き瓶を上げ、同時にその薬を飲み干した。
なんとも言えぬ不味い味に、ぐっと吐き気が込み上げるのをなんとか堪える──鳩尾からひゅっと縮こまる感覚。手足を冷水に浸したかのような冷たさが身体中に広がったかと思うと、次の瞬間には燃えるような熱さが内臓から指先まで一気に走った。
鼓動が動物の物に変わり、早く、激しく脈打つ。激しい苦痛と不快感に、一瞬我を忘れそうになったが──ここにいるのは1人ではない。それを思い出しなんとか理性を保つ事が出来た。
ぎゅっと目を閉じ、暫くして目を開けた時。
今までの視野とは全く変わっていた。
一気に視野が下がり、見渡せば不思議そうにお互いを見る巨大な黒犬と牡鹿が見えた。
──成功だ。
「やった!成功…だよね?」
「ああ…ジェームズ…だよな?」
「うん、そうだよ!はじめは…なかなかの衝撃だったね。…その声はシリウスだよね?黒犬かぁ…名前そのものだとはね!僕は…なんだろ、馬かな?鏡のある場所で変身すればよかったなぁ…」
アニメーガスになっても、お互いの話す言葉はわかるらしい。動物、だからだろうか?
少し言葉にノイズが走っていたが、聞き取る分には問題無いだろう。きっと周りから見れば動物達が鳴いているようにしか聞こえない筈だ。
「ジェームズは鹿…だな。角があるし牡鹿だろ」
「…その声はピーターだね?…ははっ!君だけ何だか可愛くなったね?」
まぁ、鹿と犬ときて、俺はネズミだもんなぁ。
そう思い自分の体を見下ろした。
───ん?
「…ジェームズ、シリウス。…俺は何の動物だ?」
「何って…」
「どう見ても、猫だな」
「うん、スコティッシュフォールドかな?耳が垂れてるし」
鏡が無いから全貌は見えない。
だが、視界に映る前足は、ネズミのものでは無い、2人の言うように猫の前足だった。
毛色は
魂が──別人だから?
俺が愕然とし言葉を無くしているのを見て、シリウスとジェームズは1人だけ可愛らしい動物に変身した事を嘆いているのだと勘違いしたのか、何も聞かず動物の姿で教室中を歩き回っていた。
俺はそろそろと一歩を踏み出し、冷たい床を踏み締める。
間違いなく、──この瞬間。未来は変わった。