俺の名前はピーター・ペティグリュー。   作:八重歯

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09 俺は決めた。

 

 

1975.06.01

 

俺たちは満月の度にアニメーガスになり、リーマスと共に過ごしていた。

まだ叫びの屋敷からは出てないけど、ジェームズとシリウスはこんなところで過ごすんじゃなくて、森の中でも行かないかって話してた。

リーマスは流石に断ってたが…どう見ても行きたそうだった。多分、後数回満月の夜が来れば俺たちは外に出るだろう。

 

 

 

 

1975.06.28

 

また長い夏休みが始まる。

手紙で(ピーター)の父さんの体調が良くないって書いてあったから少し心配だな。

ピーターの親って…どうなったっけ?欠けた指を受け取ったのは母親だけだったから…もしかしたら、ピーターの父親は…。

 

 

 

 

1975.07.15

 

父親の体調は、想像以上に悪い。

魔法界特有の病気らしく、中々完治も難しいようだ。

聖マンゴに入院した父親は、日に日にやつれてる。母親も、目の下に隈が出来て…憔悴してる。見ていて痛々しい。

 

俺の両親じゃなくても、流石に体調の悪くて…死にそうな人を見るのは辛い。

俺の親じゃなくても…この体にとっての両親は紛れもなく、あの2人だからな。

 

 

 

1975.09.01

 

ホグワーツ5年目だ!

休暇中は、ずっと聖マンゴにお見舞いに行っていたし、家は…どうしても暗くなって、居た堪れなかった。

 

ピーターの父親は、母親がいない時に「ピーター。母さんを頼む」と疲れた顔で少し笑って、小さな声で言った。

 

 

俺は、ピーター・ペティグリューじゃない。

けど、あの人にとって俺は息子なんだ。

頷けば、父親は嬉しそうに笑った。

 

騙してるのは、本当に胸が痛い。

 

 

 

 

1975.09.04

 

 

ジェームズがホグワーツの地図を作らないかと提案してきた。

どこに誰がいるのか、ホグワーツの隠し部屋や隠し通路が書かれた精密な地図。

面白そうだ!とシリウスはすぐに頷いたし、リーマスも乗り気だった。

俺も勿論作ってみたい!だってこれ、忍びの地図だろ?いやー!いつ作るのかなって思ってたけど、今か!

 

 

ひとつ気になったのは、地図制作メンバーにフィニアンをいれる、とジェームズが提案した事だ。利用価値があるから、って言ってたな。

フィニアンは相変わらずジェームズの金魚の糞みたいにストーカーをし続けてる。つか、年々その視線がねちっこくてやばくなってる気がする。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

ホグワーツ全てを網羅した地図を作ると決めてからのジェームズの熱意は半端なかった。

どうやって作るかは何となく考えてはいるようで、複数の魔法を掛けるつもりらしい。

談話室では誰かに聞かれるかもしれないから、という理由でこの地図の話をするのはもっぱらグリフィンドール寮の俺たちの部屋だ。

 

 

「でも、フィニアン…何であいつもいれるんだ?」

 

 

シリウスは机に向かい何やら忙しく羽ペンを動かすジェームズに少し不満そうに言う。

まぁ今まで4人で色んな事をやってきて、急に1人増えるのはなんだか嫌なのはわかる。

俺は別の意味でなんか…嫌な予感がするけど。

 

ジェームズは羊皮紙から視線を上げ、にやりと悪戯っぽく笑った。

 

 

「僕たち、まだホグワーツ全てを知らないだろう?ある程度の隠し通路は知ってるけど…後2年で全て探すのは難しい。授業も多いし、ホグワーツを捜索できるのは夜か休日だけだ。…人間ならね」

「…?どういう事?」

「フィニアン…彼は、アニメーガスなんだ」

「えっ…そうなんだ」

 

 

リーマスとシリウスは驚き目を見張る。

俺は…体の奥からじわじわとした焦燥感が広がり、喉の奥がきゅっとなった。

 

原作を読んだ時から気にはなっていた。どうやって広大なホグワーツ中を彼らが捜索できたのか。抜けは少しあるとはいえ、かなり精密な地図だ。日中授業がある子どもだけで、果たして作れるのか?と思っていたが、まさか──。

 

ジェームズはサプライズプレゼントを披露するような楽しげな表情でニヤリと笑った。

 

 

「──ネズミのね」

 

 

やっぱりそうなのか!!

世界は、なるべく原作通り動こうとしているのかも、しれない。

俺はネズミにはなれなかった。それならそのかわりにネズミとして世界に設定されたのが──きっと、フィニアンなんだ。

 

夜しか自由時間のない俺たち、それに、透明マントを使って夜中に捜索するにしても、結局一人で行動するのと同じだ、マントはひとつしかない。

限られた時間の中で、マントを使わず捜索するには、ホグワーツの生徒は不都合すぎる。

それに──それに、アニメーガスになったからと言って、猫や黒犬や牡鹿では意味がない。

 

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「…なんで、ネズミだからって入れるんだ?」

「ホグワーツにはネズミが多いだろう?ネズミのアニメーガスになれば、ホグワーツ中にいるネズミから抜け道を聞き出す事ができるんだよ!これ、この前僕とフィニアンで検証済みさ!」

「あー…猫と犬は、ここにはいないしなぁ…牡鹿なんて論外だな」

「そうそう!この地図を作るには、どうしても人間じゃない数多くの協力者が必要だからね!」

「なるほどね…」

 

 

リーマスとシリウスは納得して頷いている。

やっぱり、そうか。

原作でもピーターはネズミからヴォルデモートの居場所を聞いて突き止めたとか言ってたから、そんな使い方ができるなら…と想像していた。

 

多分、原作ではピーターがネズミになり、ジェームズが言ったようにホグワーツ中の野生のネズミと話して沢山の抜け道や隠し通路を聞き出したんだろう。

だが、今俺はそれが出来ない。俺はピーターであり、ピーターじゃないから。

 

 

「まぁ、フィニアンには道を聞いてもらって僕らでそれを確認する。最後にいくつか魔法をかけるのは僕たちで、だ」

「うーん…なら、まぁ仕方ねぇか…」

「そうだね」

「……フィニアンが、誰かに言う危険性は無いか?」

 

 

俺の声は、震えてなかっただろうか。

脳の奥でフィニアンをこれ以上ジェームズ達と近づけてはならないと警告が発している。ダメだ、この流れは良く無い。

 

 

「大丈夫!フィニアンは僕にゾッコンだからね!」

 

 

ジェームズは自信ありげに笑う。

たしかに、フィニアンはジェームズに心酔している。何が二人の間にあったのか俺は知らないけれど、ジェームズを神様かヒーローかのように崇め憧れている。

 

 

「大丈夫さ、キンケッドテイル!僕が今まで間違った事はあるかい?」

 

 

キンケッドテイル、とはアニメーガスになった俺の渾名であり、彼らは俺をその名前で呼ぶようになった。

不安げな俺をみて、ジェームズはぽんぽんと背中を叩く。

 

 

「…や、まぁ…。…わりとあるだろ。模範生ぶるな」

「酷い!」

 

 

ジェームズはわざとらしく嘆き、リーマスとシリウスは可笑しそうに笑った。

笑えないのは、彼らの未来を知っている俺だけだ。

 

フィニアンの事、しっかりと注意して見とかねぇとだめだな。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

1975.09.28

 

昨夜は満月だった。

初めて叫びの屋敷から出て森に入ってみた!

人狼(リーマス)牡鹿(ジェームズ)黒犬(シリウス)と楽しそうに森の中を駆け回っていた。

俺は小さな猫なので、とりあえずシリウスの背にしがみついていたけどテンション上がったシリウスに五回くらい振り落とされた。

 

 

 

 

 

1975.10.14

 

ピーター・ペティグリューの父さんが亡くなった。

俺は死に目に、なんとか会えた。けど…ダメだ、言葉に表せない。

ごめんな、ピーター。お前があの場に立つべきだったんだ。俺じゃない。

 

本当に、ごめん。

 

 

 

 

ーーー

 

 

夜にグリフィンドール寮でジェームズ達と魔法チェスをしていると、窓をコンコンと叩く音が聞こえて、時間外のフクロウ便が届いた。

それはペティグリュー家のフクロウであり、嫌な予感がしてすぐに立ち上がりそのフクロウの足につけられていた短い羊皮紙をすぐに取る。

 

 

「……ああ…」

 

 

中には、ピーターの父親が危篤だと言う事、すぐに聖マンゴへ来るように、震える文字で書かれていた。

 

俺が手紙を握り締めていると肖像画が開き、深刻な顔をしてマクゴナガル先生が現れ、俺に気がつくとすぐに近寄り──手に持っていた手紙と、俺の表情を見て唇を強く噛んだ。

 

 

「ペティグリュー、手紙は届いたようですね。すぐに行きますよ」

「はい、お願いします」

「…どうしたの?」

 

 

俺とマクゴナガル先生の雰囲気から只事では無いと察したジェームズが眉を顰め俺に聞く。シリウスとリーマスも、困惑している。

 

 

「…俺の父さん、病気で…危篤だって」

「えっ…」

「何をしているのですか!早く行きますよ!」

 

 

ジェームズ達はショックを受けたような顔をしていた。まさかそんな事になってるとは思わなかったんだろう、俺も、親のことは一切言わず今まで通り過ごしてきたし。

肖像画へ向かっていたマクゴナガルに急かされ、俺はすぐに寮を飛び出した。

 

 

 

 

 

聖マンゴの父親の病室には、ベッドの周りに沢山のヒーラーが居て、ピーターの母親が父親の手を握り、辛そうに眉を寄せていた。

 

 

「っ──父さん!」

 

 

俺はそばに駆け寄り、母親の隣にしゃがみ込み、土気色の、カサカサとした皮膚の父親の顔を覗き込む。

閉じられていた瞼が震え、少しだけ開き──ぼんやりと俺と母親を見た。

 

 

「……ピーター…エミリー…」

「っ…なぁに?私はここにいるわ…」

「……とう、さん」

 

 

俺はこの人の息子では無い。

この人が大切にして、愛している息子の皮を被った別人だ。

だけど、この人は──俺がピーターだとは、疑っていない。

 

 

 

「…ピーター…エミリーを──母さんを、…頼んだぞ…」

「…うん、父さん。大丈夫、母さんは俺が守るから」

 

 

父親は微かに微笑む。

力のない、微笑みだ。意識を保つのも辛いのかもしれない。

ああ、どうかこの人に痛みや苦しみが無かったらいい。ただ、眠るように──そう、心から願った。

 

 

「…エミリー…愛して…いる」

「ええ…私もよ、ずっと愛してるわ」

 

 

母親は、父親のかさついた唇にそっと口付けを落とし、優しく頬を撫でる。

父親は安心したように笑い、「ふぅ、」と長く細い息を吐いて──目を閉じた。

 

 

 

ーーー

 

 

1975.10.16

 

 

父親の葬儀があった。

 

ジェームズ、シリウス、リーマスがきてくれた。

何も言わずに、俺の頭を撫でたり背中を叩いてくれた。

 

 

俺は、ピーターの父親が亡くなって、初めて泣いた。

 

悲しみと、辛さと、──罪の重さにどうしようもなく、心が苦しい。

 

もう、本当のピーターは帰ってこない、んだと思う。

俺は──俺は、これが夢でもなんでもなく、現実であり、元に帰る事は出来ないと…そろそろ、認めないといけない。

 

俺は、ピーター・ペティグリューだとして、生きていかなきゃならない。

 

この世界で生きる、人間(ピーター)として。

 

 

 

 

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