異食だきます!入間くん   作:K/K

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長くなった割にはクロス要素は薄い感じです。


第6話

 入間は一人広い更地に立っている。草木などが生えておらず、そのせいで民家も一軒も無い荒れた土地。

 しかし、周りに何も無いことが彼にとっては好都合であった。

 

「アリさん?」

 

 入間が誰かに喋り掛ける。すると、彼の指輪から何かが飛び出す。

 

「俺ちんを呼び出すのひっさしぶりじゃない? イル坊? 俺ちんのことすっかり忘れちゃったと思ってひやひやしたよん」

 

 二又に分かれた頭部。単眼。紫がかったタキシード。入間が嘗て手に入れた周囲の魔力を吸い取る『悪食の指輪』から飛び出す影の様なものが具現化した存在であり、アリクレッドと名乗ったことから入間はアリさんの愛称で呼んでいる。

 色々と謎めいた存在だが、アリクレッドが魔力を吸い込むことで入間はそれを使用して魔術が使え、入間の位が上がる毎にアリクレッドも自我を得るなど成長をしていることから互いの存在無くしては魔界で生きていけない相棒である。

 

「いや、その、色々とあったから……」

「色々ねぇ……滅茶苦茶美味いもんたらふく食ってたの知ってんぞイル坊!」

 

 単眼を限界まで見開いて入間に詰め寄る。

 

「み、見てたんだ」

「当たり前だろう! あんだけ美味そうな匂いさせてたら嫌でも見るわっ! こっちがひもじい思いしているのに、イル坊ったら幸せそうな顔してガツガツと──」

「ご、ごめん! アリさん! 今度テーブルクロスを使った時はアリさんの分も取っておくから!」

「約束だぞ~? んでこんな広い場所で何するつもりなんだイル坊?」

「ちょっと休み過ぎちゃったし、練習をしようかなって」

 

 入間の手には羽根。そして傍らには大量の空き缶が置かれてある。

 

「練習? 真面目だね~イル坊は」

「いやぁ、真面目っていうか──クワルツ・クワルツ!」

 

 入間は呪文を唱えて羽根に魔力を込める。羽根を核として入間のイメージを反映された黒い弓が入間の手に握られる。

 

「弓矢の練習してないと何か落ち着かなくって」

 

 楽しそうに言う入間にアリクレッドは呆れた様な表情となる。

 

「あーあー。あのちっこいのにすっかり調教されちゃったなぁ? イル坊」

「ちょ、調教って……」

 

 そんなつもりは一切無い入間はアリクレッドの言葉に困ってしまう。

 

「まあいいや。気が済むまでおやんなさいよ」

「うん! じゃあ行くよ!」

 

 入間は指輪が嵌っている手を空き缶へ向ける。

 

「『重量操作(フラクタル)』」

 

 重さの調節魔術により空き缶が重力から解き放たれた様に一斉に浮き上がる。

 浮き上がった空き缶はその場で留まらず、微風によって左右に揺れ動く。この不安定な動きを入間は望んでいた。

 ステップその1踏み込む。入間は右足を前に出す。

 ステップその2構える。弓の弦を指先で摘まみ、引き絞ると弓に魔力の矢が番えられる。

 ステップその3放つ。的を射るイメージを弓矢へと伝え、一気に解き放つ。

 風切り音を鳴らしながら飛ぶ矢は、フヨフヨと不安に動いている空き缶の真ん中を見事に射抜いた。

 

「──ううん」

 

 しかし、射抜いた入間は少し不満そうな声を洩らす。矢は間違いなく空き缶に命中したのだが、別の者が見ればど真ん中に命中したと思われる痕は、入間からすれば狙った位置よりもやや右側にずれていた。

 

「ちょっと鈍ってるかな~」

 

 入間は後ろ髪を縛り、気合いを入れ直すと弓を構えて射る。今度は一射だけでなく二射、三射と続けて射る。

 十の矢を射った所で入間は一旦止める。

 射られた重量操作が解除された空き缶が地面に転がっており、一つ一つ穴の位置を確認する。

 

「うーん……」

 

 回数を重ねる毎に修正されていくものの入間はまだ納得していない様子であった。

 

「何々? まだまだ頑張っちゃう? イル坊」

「うん。まだ全然。こんな所を師匠に見られたら怒られちゃうよ」

「あっチがどうしたって?」

「え゛っ!?」

 

 まさかの人物の声が聞こえ、入間は慌てて声の方を見る。アリクレッドの方は姿が見られない様に指輪の中へ引っ込んだ。

 大きなリボンとフリルが付けられたピンク色の可愛らしいゴスロリ調の服。ピンクの髪を矢羽型のアクセサリーで括り、ツインテールにしている。

 入間よりも背が低い小柄な体系だが、その目付きは鋭く、猛禽類を彷彿させる。口の端にはココアシガレットの様な菓子を咥えており、それにより歯並びの良い白い歯を常に見せている。

 

「師匠!?」

 

 彼女こそが入間の弓矢の師匠であり、魔界三英雄の血筋を持つ悪魔──バルバトス・バチコである。

 

「どうしてここに!?」

「おう。なーんか暇でよー。良い暇潰しになるもんがねえか気紛れでここに来たんだが、まさかお前が自主練してるとはなぁ。こいつは予想外だったぜ」

 

 少女の様な見た目だが、その口調はかなり荒っぽい。

 

「感心感心……って言いてぇところだがなぁ」

 

 バチコの目が鋭さを増す。その目付きで全てを察し、入間の顔色が悪くなる。

 

「ちっとあっチが面倒見て無かったからって、鈍らせてんじゃねぇぞ! 一日でも練習怠ったら腕なんかすぐに鈍るんだよ!」

「はい! すみませんでした!」

 

 空き缶の穴のずれを即座に見抜き、腕が落ちた入間を叱り付ける。入間も当然の反応と思っているので勢い良く頭を下げた。

 

「いい機会だ! 今日はあッチがとことんしごいてやるぜ!」

 

 悪い笑みを浮かべながら凄むバチコに対し、入間は──

 

「良いんですか!? お願いします!」

 

 ──寧ろ目をキラキラさせてバチコの特訓を受けられることを喜ぶ。

 バチコはそんな入間の反応を見ても驚かない。期待通りだと言わんばかりに少しだけ笑みを柔らかくした。

 

「よっしゃ行くぞ! ──ところでだ」

 

 いざ特訓開始と思いきや、何故かバチコは一旦止まる。

 

「その爺さんは誰だ?」

「え? うわっ!?」

 

 バチコが指差す方向──入間は背後を振り返り、そこに一龍が立っていることに初めて気付いて驚く。全く気配など感じられなかった。

 

「一龍さん!?」

「知り合いか?」

「知り合いというか……」

 

 入間とは月越しの挨拶で出会った後、つい先日再会したのだが──

 

『イルマ君! 彼、今日から暫く家に泊まるから』

『よろしくのう』

『ええっ!?』

 

 ──と言った具合に特に説明も無く何故か一つ屋根の下で一緒に生活することとなった。正直、名前以外は全く詳細を知らない。あの白いテーブルクロスのことも今も聞けれずにいた。

 

「サリバン様の客人だと……!?」

 

 サリバンを敬愛しているバチコは値踏みをする様に一龍を視る。

 

「よろしくのぅ。バチコちゃんや」

(この爺さん……)

 

 バチコの弓矢の腕は言葉通り百発百中。如何に小さな的であろうと集中力が続く限り必ず当たる。

 しかし、一龍を前にしてバチコは彼に矢が命中するイメージが一つも湧かない。それは紛れもなく異常な事であった。

 

(只もんじゃねぇな……)

 

 サリバンのお墨付きではあるが、警戒を怠ることはしないバチコ。

 

「よろしくな、爺さん」

 

 

 × ×

 

 

 そして、始まる入間の特訓。空中に漂う空き缶を射抜くよりもハイレベルな特訓を課せられる。

 汗水垂らして必死に特訓を挑み続け入間。その一方でバチコと一龍はというと──

 

「んでよぉ、爺さん。そこであッチは思った訳よ。こいつ超ッ絶にアホなんだな、って」

「はっはっは。でも、だからこそ必死に喰らい付い来る入間君が可愛いいんじゃろ? バチコちゃんは?」

「か、可愛いって……別にあッチはそんなんじゃ」

「相手に教えることはなかなかに難しいからのぅ。言語化出来る範疇ならばいいが、感覚的な事や実戦でしか感じ取れず、学べないこともあるからなぁ」

「分かる」

 

 あっさりと打ち解けて仲良く談笑をしていた。他者との付き合い方にかなり差のあるバチコであったが、一龍のフレンドリーさや包容力、年季による存在感の御陰かバチコも一定の敬意を示しつつ祖父と孫の様な会話をしている。

 入間を余所に話に夢中になっていると思いきや──

 

「うぉらっ! また肩に無駄な力入ってんぞ! 射ることに集中しろ! 集中することに集中したら本末転倒だろうがっ!」

 

 ──ちゃんと入間の方も見ており、怒声と共に指摘を飛ばす。

 談笑、特訓、指摘の三つが繰り返されること数時間。

 

「おい。射るのを止めろ」

「は、はい……」

 

 一度も休憩無しに特訓を続けてきた入間はヘトヘトの状態だった。数え切れない程矢を射ったせいで酷使された腕が震えている。体力も尽き掛け集中力も殆ど無い状態であった。

 そんな疲労困憊状態の入間に対しバチコは言う。

 

「今日、最後のテストだ」

「テ、テストですか?」

 

 バチコは足元に転がっている空き缶を拾い上げる。

 

「今からあッチがこれを投げる。お前はそれを射ろ」

 

 テスト内容事態は至ってシンプルなもの。しかし、限界に近い入間にとっては酷なテストであった。

 

「疲れてるとか集中力が切れてるとか言い訳にならねぇ。どんなに理不尽な状況でも弓使いは射って当てなきゃなんねぇんだ」

 

 限界に近い今だからこそそれを克服する術を知る必要がある。

 

「ほれっ」

 

 特に前触れもなくバチコは空き缶を放り投げた。入間はすぐに構え、矢を射る──が、矢は空き缶から大きく外れてしまった。

 

「──言っておくが」

 

 バチコは再び空き缶を拾い上げる。

 

「当たるまでテストは終わらねぇぞ」

 

 心を折る様な絶望的な事を告げる。

 

「──はいっ!」

 

 だが、入間は疲れ果てていても目は死んでおらず、不敵とも言える笑みを浮かべていた。バチコはその笑みを少し嬉しそうに眺める。

 入間がこの程度で折れる訳が無いという信頼がそこには込められていた。

 バチコの期待に応える為にも何度も何度も矢を放ち続ける入間。だが、気持ちとは裏腹に矢は目標に命中しない。

 

「集中しろ! お前は極限まで集中力を高める感覚を知っている筈だぜ! 疲れた状態で如何にそこまで持って行くかが鍵だ!」

 

 バチコの激が飛ぶ。入間も何としても成功させたい。しかし、蓄積した疲労が高めようとする集中の妨げとなる。

 

「入間君」

 

 落ち着いた、それでいて耳にしっかりと届く一龍の声。

 

「きっと君はその弓矢でここぞという場面を決めて来た筈じゃ。その時、君は何をしていたんじゃ? 動作でも掛け声でも心の中で思っていたことでも何でも良い。それを思い出すんじゃ。それが君にとっての成功へと繋がる」

「ここぞという時にやっていたこと……」

 

 一龍からのアドバイスに入間は考える。答えはすぐに見つかった。

 そのすぐ後にバチコは空き缶を放り投げる。

 弓矢を構える。ここぞという時に決めるとしたらこれしかない。

 

「ばちっ」

 

 疲れを忘れる。高まった集中でもうターゲットしか気にならない。

 

「こん!」

 

 放たれた矢は、見事に空き缶のど真ん中に命中。射抜かれた空き缶が地面へと落ち、転がって行くのを見た後、入間はバチコを見る。

 

「やりゃあ出来るじゃねぇか──ってかあッチの台詞をパクんじゃねぇ!」

「いやあ、あれが一番気持ちが乗るんです」

 

 褒めつつも最後は怒鳴るバチコ。頬が赤いのを見ると照れ隠しであった。

 

「一龍さん! ありがとうございます! アドバイスのお陰で上手く出来ました!」

「ワシは大したことはしとらんよ。ああいうのは土台が出来とらんと意味がないからのぅ。入間君にはその土台がちゃーんとあっただけじゃ。良い師匠のお陰じゃのぅ?」

「はいっ!」

「うっせーぞっ! そこの二人っ! あッチをおだてても何にも出ねぇぞっ!」

 

 ますます顔を赤くして照れるバチコ。入間におぶさりペチペチと頭を小突く。一龍はそれを微笑ましそうに見ていた。

 

「はぁ……長いこと付き合ってたせいで腹が減ったぜ。スウィーツでも食いたい気分だ」

「それなら良いのがありますよ! 師匠!」

 

 入間はそう言い、白いテーブルクロスを取り出す。

 

「何だそれ?」

「何かリクエストを言って下さい。そしたら、このテーブルクロスが出してくれます」

「あん? そういう魔具なのか? 面白れぇじゃねぇか。ならあッチのリクエストに応えてもらおうか」

 

 半信半疑であるがテーブルクロスに注文する。

 

「あッチの為にとびきりのスウィーツを用意しなっ!」

 

 大声で注文した瞬間、テーブルクロスから眩い光が放たれる。

 光の強さに目を閉じてしまう入間とバチコ。次に目を開けた時、目の前の光景に啞然とさせられた。

 ショートケーキのスポンジの様な白いクリームの付いた段差。その先には光沢を放つ扉。

 全体の一部でしかないその光景。

 

『……』

 

 入間とバチコは無言で下がり、見上げる。

 多種多様なデコレーションを施された外見。彩るのは大きなドーナツ、クッキー、ソフトクリーム、チョコレートと数え切れない。

 非現実的に思えるかもしれないが、肺に満たしてくる甘い匂いが現実であり作り物でないことを教えてくれる。

 

『お菓子の城だぁぁぁぁ!』

 

 二人は子供の様に目をキラキラとさせて叫んでいた。

 

「師匠! 師匠! これ全部お菓子ですよ! 本物ですよ! お菓子の家を通り越して城ですよ! 早く入りましょう!」

「お、落ち着けこの馬鹿! ガキみてぇに目ん玉輝かせてんじゃねぇ!」

「師匠も目がキラキラしてますよ!」

 

 予想外にスケールの大きなものが出され、二人共動揺してしまう。

 

「ったく! ここで驚いていても仕方ねぇ! イルマ! 行くぞ! 付いて来いっ!」

「はい!」

 

 ジェリービーンズとキャンディーで飾られた扉を開け、中に入る。

 

『うわあああああああっ!』

 

 中に入って二人のテンションは一層上がる。

 チョコレートで出来た柱にドーナツとクッキーがタイル代わりに張られた壁。人の背丈よりも大きなチョコバナナ。マシュマロやスポンジで出来たソファーが挟むのは焼き菓子のテーブ。

 上から下まで右も左も全てがスウィーツで出来ている。

 

「……イルマ」

「……はい」

「食うぞ!」

「はいっ!」

 

 二人の理性はそこで限界であった。目に映る全てのお菓子を食べ始める。

 

「おいおい! クレープが壁から生えてんぞ!」

「凄い! 組み合わせが一杯ある!」

「この壁のクッキー、うまっ!」

「サクサクで香ばしくて最高ですね!」

「うおっ! キノコが生えてやがる……ってこのキノコ、プリンじゃねぇか!?」

「すぐに食べましょう! 師匠!」

「蛇口からミルクにチョコ、炭酸飲料まで出てくんぞ! しかも温かい、冷たい選べられる!」

「いただきます! ……あれ? 師匠! このコップ、食べられます!」

「どんだけ食いしん坊なんだよ、この城造った奴は!」

 

 終始ハイテンションでお菓子の家を堪能していく入間とバチコ。

 師匠と弟子のおやつの時間は、二人が食い倒れるまで続くのであった。

 




意外とトリコってお菓子系の食材って少ないですね。
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