「あ~………暇だな」
プロトレーナーとしてのデビュー戦である横浜カップを無事に優勝した翌日俺は自宅で暇を持て余していた。普段なら暇な時間はポケモンたちとトレーニングをするか幼馴染みの誰かと遊んだりするけど……
『休息を取るのも大事な仕事だぞ。大会が終わったばっかりなんだから丈一郎もポケモンたちもちゃんと休んでくれ!』
プロデューサーにそんな事を言われてしまったのでトレーニングはなし。幼馴染みは皆、私用で家族と出かけたらしい。
こういう暇なときに遊べる友達が少ないと本当にやることがない。
「……………………買い物でもしに行くか」
何時までも部屋にいてもしょうがないしな。大会で活躍してくれたポケモンたちにも何かご褒美を買ってあげるのも悪くないかもしれない。
そう決めると部屋着から私服に着替えて外にでた。
***
多摩デパート
今日の俺の目的地だ。ここは東京にある関東最大の大型デパートで、ここでは一般的なデパートと同じように食品、日用品、家具などの他にもトレーナーズ・ショップが存在し、そこではモンスターボールや体力回復の薬、状態異常を治す道具、技マシンなんかも売られてる。
だけど今回はトレーナーズ・ショップには行かなくてもいいな。あそこはトレーナーの為の店でポケモンへのご褒美を買うには向いてない。
取りあえず地下一階の食品売場でも見に行くか。ポケモンたち用の木の実や他の地方で売られているお菓子なんかも仕入れてたはずだから、取り敢えずその辺から見てみるか。
「あれ?丈くん?」
聞き覚えのある声振り返ると、笑顔で手を振りながら近づいてくる小糸がいた。
「おー小糸、奇遇だな」
「うん!丈くんも来てたんだ」
「ああ、ポケモンたちに何かご褒美でも買おうと思ってね。小糸は?」
「あ!……えと…その……」
「どうした?」
「…今日は妹と来てるの」
「お!小咲ちゃんもいるの!」
「…う、うん」
福丸小咲
今年中学生になった小糸の妹だ。昔から俺の事をお兄ちゃんと言って慕ってくれている俺にとっても妹みたいな存在だ。
最後に小糸の家に遊びに行って以来だからもう何ヶ月も会ってない……やばい、めっちゃ会いたい!
「あーーーーお兄ちゃん!」
お!この声は
「小咲ちゃ「どーーーーーーーん!」んんん!」
飛び込んでくる小咲ちゃんをなんとか正面から受け止めることに成功する。小咲ちゃんの声に反応して咄嗟に振り返ってなかったらちょっと危なかったな。
……あれ?なんか前にもこんなことがあったような気もするな。
「さすがお兄ちゃん!ナイスキャッチ!」
「…お、おう」
こ、この子は見た目は小糸とあんまり変わんないのに本当に小糸の妹なのかと思わせるほどにやんちゃ…というか雛奈に似てる
「小咲!」
「うん?お姉ちゃん?何?」
「何?…じゃない!こんなところで危ないよ!」
「平気だよ~お兄ちゃんなら雛菜ちゃん直伝のウルトラ小咲アタックを受け止めてくれるって雛菜ちゃんが言ってたもん」
あ、やっぱり雛菜経由か…どこのZ技だよ。ん?待てよ
「小咲ちゃん?雛菜直伝ならウルトラ雛菜アタックっていう名前じゃないの?」
「お兄ちゃん分かってないな~雛菜ちゃんが使う時にはウルトラ雛菜アタックでいいけど、私が使う以上はウルトラ小咲アタックじゃないと変でしょう?」
「あー…そうなの?」
「そうだよ!ここ大事だから覚えておいてね!」
よく分からないけどなんだか強いこだわりがあるみたいだ。
まぁ、キン○バスターも別の人が使ったら名称が変わるって聞いたことあるしそういうもんなのかな?
「分かったよ。これからは気を付ける」
「うん!よろしい!」
これで一件落着
「よろしい!…じゃない!」
な訳ないか
「もう!丈くん変な方向に話を逸らさないでよ!」
「別に逸らしたつもりはないんだけど」
「お姉ちゃん怖ーい」
「小咲!」
おーヒートアップしてきたな。
小糸って、俺たち特に妹の小咲ちゃんが何かやらかすと結構厳しくなる。だけど初対面の人たちの前だと見た目通りの小動物に変化する典型的な内弁慶なんだよね。
「小糸、落ち着いて。けが人も出なかったわけだし今日の所はこの辺でさ」
「駄目だよ!この子いっつも丈くんに甘えてばっかりなんだもん!しかも今日はこんなに人の多い所で危ないことしようとして!」
「ま、まぁ、それはそうだけどさ。…でも、ほら今回は俺みたいにきっちり受け止めることのできる人がいるからやっちゃったけど普段はしないだろう?ちゃんと危険があるってことは分かってるわけだし」
「そもそも丈くんが小咲の事甘やかしてばっかりだからいけないんだよ!」
「え?そうかな?」
「そうだよ!悪いことしたときにはちゃんと叱らないと甘やかしてばっかりじゃあ小咲の為にならないよ!」
「う、うーん」
ま、まずい…小糸の勢いがいつもより強い
「…なんかお母さんとお父さんに怒られてるみたい」
「「え」」
お母さんとお父さん?
「なんか~子供の教育方針について揉めてる夫婦みたいだったよ」
そう見えてのか?
うーん………ちょっと照れくさいけど悪い気はしないかな
「ぴぇっ!ふ、夫婦って……ち、ちが!」
「お姉ちゃんめっちゃ照れてる~」
「こ、小咲ーーーーーーーーーーーーーーー!」
「キャー♪お兄ちゃん助けて~」
うん、収拾がつかないな
***
小糸を落ち着かせ、ついでに小糸の小咲ちゃんへのお説教にかかること約20分
俺たちは一緒買い物を再開することにした。
「さて」
「「?」」
ここで2人に…いや、小咲ちゃんに会ってしまった以上やることがある。
「小咲ちゃん何か欲しいものない?」
「え、丈くん?急にどうしたの?」
「いや、そう言えば色々あって中学の入学祝い買ってあげてないなって思ってさ」
「わぁ!お兄ちゃん何か買ってくれるの!」
小咲ちゃんは今にも抱き着いてきそうな勢いで喜んでくれる。
こういう素直な所がやっぱり可愛いって思っちゃう。
「えっと…丈くん、さっきも言ったけど…」
「分かってる、分かってる」
俺だって無制限に何でも買い与えるつもりはない。
そんなに甘やかしても小咲ちゃんの為にならないことくらいは分かってるつもりだ!
「えへへお兄ちゃん大好きだよ~♡実はお兄ちゃんに買って欲しい物があったんだ~」
「なんでもどうぞ!」
俺に買えるものなら何でも買って見せる!
「……丈くん?」
「も、もちろん……常識の範囲内でだけどね」
「ふふふ、大丈夫だよ!ちょっと買いにくいだけでそんなには高くないから」
「「?」」
「じゃあ、行くよ~付いてきて」
買いにくい?何が欲しいんだ?
そのまま、小咲ちゃんについてエスカレーターで上の階へと移動していく。
しかし、何が欲しいんだ?洋服やらコスメやら女の子が欲しそうな物が買える階はもう通り過ぎちゃったけど
「ここだよ~」
そんな風に小咲ちゃんの欲しいものを予想していると小咲ちゃんはある階でエスカレーターから降りる。俺と小糸もそれに続いて降りるが、ここは…
「トレーナーズ・ショップ?ここに欲しいものがあるの?」
「うん!」
俺にとっては馴染みのある場所で色々買い物に来るけど、正直ここで買えるものでプレゼントになるものがあるとは思えないけど
「あった!これこれ!これが欲しいの!」
小咲ちゃんが少し興奮気味に見ているもの、それは…
「ゴージャスボール?」
「そう!これが欲しいの!」
ゴージャスボールは黒いボディに金色の上品なラインが特徴のモンスターボールの一種だ。捕獲性能よりも居住性に力を入れたのか、ポケモンにとってこのボールに収まると居心地がいいという評判のあるボールだ。
また珍しい物が欲しいんだな。おおよそ、女の子から強請られて買うものじゃないんだけど
「お兄ちゃんには言ってなかったよね?私ね、お父さんとお母さんからポケモンを持つ許可が貰えたんだ~」
「そうなのか!おめでとう!」
「えへへ~ありがとう~」
この国ではポケモンを持つことは10歳から許されている。ただし、成人するまでの間は親もしくは保護者からの許可を得ることが条件だ。
そのため、ポケモンを子供に持たせるかどうかは各家庭によって異なる。ポケモンの力や危険性などを考え成人するまで持たせない家もあれば幼い頃からポケモンに触れさせる家もある。これに関しては教育方針の違いとしか言えない。
それから、単純にポケモンの育成費用の問題などで持つことができない場合もある。
そして福丸家だが、今時珍しく両親ともにポケモンを持っていない上に教育に厳しい家だ。そのため、ポケモンを持つことを許すには学業で一定以上の成績を残すことを条件にしていると小糸から聞いたことがある。
「ここまで長かったな~私、勉強苦手だったから苦労したよ~」
「…うん。小咲、勉強頑張ってたもんね」
「えへへ~ありがとう!……でも不思議なんだよね~お姉ちゃんみたいに私立に合格した訳じゃないのになんで許してくれたんだろう?」
「それ私も気になってた。なんでだろうね?」
あー………その理由は多分、小糸の中学生の時の姿が原因だと思うけど……今は言わないでおくか
「何か心境の変化でもあったんだろ。勉強だけが全てじゃないしね」
「ふ~ん?まぁ、私はポケモンが貰えるならそれでいいけどね~」
「小咲はどんなポケモンが欲しいの?」
「まだ決めてないよ~でも、やっぱり可愛いポケモンがいいかな~あ、お姉ちゃんみたいにイーブイとか欲しいかも!」
「わぁ!本当に!」
「まぁ、その辺はゆっくり考えればいいと思うよ。ポケモンをゲットする時は呼んでくれれば俺が力になれるし」
勉強の事教えてとか言われても教えられること少ないし、ポケモンの事だったら教えてあげられるから力になってあげたい
「うん!あ、それでボールなんだけど~」
「ああ、勿論買ってあげるよ」
「やった~~お兄ちゃんありがとう!はぁ~良かった!お父さん達にゴージャスボールの事頼んでも『ボールなんてどれも同じだろう?』って言って買ってくれないんだもん」
「なんだ?おじさん達ボールに種類があることも知らないのか?」
「ま、まぁお父さんもお母さんも今までポケモンと全くかかわってこない人生だったから」
俺からすればポケモンと関わらない人生なんてありえないけどね。
「私ね~これから出会う未来のパートナーポケモンに最高のボールを用意してあげたいんだ~」
「成程ね、だからゴージャスボールが欲しいのか」
ゴージャスボールはゲットに向いているボールではない。だけど、その代わりゲットに成功さえすればポケモンにとって最高の住居となることは間違いない。小咲ちゃんは自分なりに色々、調べてこのボールの存在にたどり着いたんだろうな。
「よし!それじゃあ、取り合えずゴージャスボールを………50個位買ってこようか」
「……え?」
そうと決まれば早速会計だ!
「丈くん!!!!!!」
会計の為にレジに行こうとする俺を小糸が無理やり止めてくる
「小糸?どうかした?」
「どうかした?じゃないよ!さっきも甘やかさないで言ったばっかりでしょう!」
「いや、でも、いざ欲しいポケモンに出会えてもボール一個だけじゃゲットに失敗するかもしれないし」
「だからって50個なんていくらなんでも買いすぎだよ!」
「余ったら今後も使えばいいじゃん」
「お、お兄ちゃん?流石に50個は多いかなって…それにゴージャスボールって結構高いよ?お金大丈夫なの?」
「そんな心配は無用だ!お金はちゃんと持ってきてる!」
「それってポケモンたちへのご褒美を買うためのお金でしょう!」
「大丈夫だよ!俺のポケモンたちは自分たちの事より小咲ちゃんの事を優先していいって言うから」
「そんなの分からないでしょう!」
いや、俺には分かる!きっとそう言ってくれてるはずだ!
ポケットに入ってるボールが震えながら抗議してる様な気がするけど、きっと気のせいだ!
***
小糸との言い争いは、俺たちの姿を見て見かねた小咲ちゃんと店員さんによって止められた。結局、ゴージャスボールを5個購入しプレゼントするってことでお互い妥協した。
その後、小糸たちは買い物を終えたみたいなのでそのまま解散し、俺は本来の目的だったポケモンたちへのご褒美としてポケモン用のお菓子と木の実をいくつか購入して帰宅した。
しかし、改めて今日の俺の事を振り返ってみると
「…やっぱり、50個は多すぎだったか」
Prrrr....
うん?電話?…小糸か、もう反省したからお説教は勘弁して欲しいんだけど
「もしもし?」
『…あ、丈くん?』
「ん。どうした?」
『…え、えっとね……さっきはごめんね』
「………え?何の事?」
まじで心当たりないんだけど
『だ、だから……折角、小咲にプレゼント買ってくれたのに…私、あんな態度ばっかりで』
「あーそのことか…良いんだよ。どう考えても小糸の言ってることの方が正しかったから」
今になって考えてみれば、ゴージャスボール50個プレゼントはどう考えてもやりすぎだった。
あの時は、小咲ちゃんが運命的な出会いをしたポケモンをゲットできるように念のため念のためと考えすぎて、あんな行動を取ってしまったけど、あれは明らかに俺の方が悪い。気に入った人の事はとことん甘やかしてしまう俺の悪い癖だ。
『で、でも!』
「小糸」
『…う、うん』
「俺は本当に気にしてないよ。むしろ感謝してるんだ」
『…え?』
「小糸の言う通り、甘やかしてばかりだと小咲ちゃんの為にならない。分かってるんだけど、あの子を見ると無意識に甘やかしちゃいそうになるんだよ」
『知ってる…昔からずっとそうだもんね』
…そんな昔から甘やかしてましたっけ?
「と、とにかく俺がこれ以上、小咲ちゃんを甘やかすと本当に良くない影響を与えるかもしれないから小糸には俺が何か間違ってることをしてたら、止めてくれる存在でいて欲しいんだ」
『…丈くん、自分で治す気はないの』
「気負付けようとは思うけど、知っての通り俺は色々と欠点の多いやつだから、小糸に支えてもらわないと困るんだよ」
本当に俺はポケモン関連の事や体力勝負ならそこそこ自信あるけど、それ以外には出来ないことの方が多い。その位の自覚はある。
『…もう!本当に丈くんは私がいないとダメダメなんだから!』
「ああ、小糸がいないとほんとダメダメだわ」
『えへへ、そうでしょう!………え?うん分かった』
「小糸?」
『あ、ごめんね丈くん。小咲が今日のお礼言いたいって言ってるから代わるね」
お礼はさっき言ってもらったのに結構律儀だな
『お兄ちゃん!プレゼントありがとう!』
「うん。どういたしまして」
『ところで、お姉ちゃんとちゃんと仲直りできたの?お姉ちゃんってばお兄ちゃんと分かれてから、言いすぎちゃったかもとか怒ってないかな嫌われてないかなって泣きそうな顔でって…わ!お姉ちゃん!何するの…』
「…………」
『も、もしもし!丈くん!』
「えっと、小咲ちゃんは?」
『もう用は済んだから大丈夫みたいだよ!』
「そうか…ところでさっき小咲ちゃんが言ってたことなんだけど」
『な、何でもないから気にしないで!』
「…ふーん」
『…な、なに?』
「いや?俺に嫌われてないか泣くほど心配だったのかなって思って」
『な、泣いてなんかないもん!もう!丈くんの意地悪!』
小糸はそう言うと、電話を切ってしまった…暫くの間はこのことをネタにしてからかってみようかな?あんまり何度もやると本当に泣いちゃうからあくまで程ほどにね。
次回は来月中には更新したいですね。
感想お待ちしてます。