283プロには6つのアイドルユニットが存在する。
『illumination STARS(イルミネーションスターズ)』、『L'Antica(アンティーカ)』、『放課後クライマックスガールズ』、『ALSTROEMERIA(アルストロメリア)』、『Straylight(ストレイライト)』、そして俺の幼馴染み4人のユニット『noctchill(ノクチル)』だ。
そして、事務所に所属して約1か月、遂に『ノクチル』のCDデビューが決定した。
CDデビューが決定してから、彼女たちは事務所側の協力もあり、今まで以上にレッスンに力を入れるようになっていた。何事にも初めては肝心だ。283プロとしても『ノクチル』の初めてのCDデビューという事で優先的にレッスンを行えるように調整してくれたらしい。
さて、そんな中、俺はと言えば・・・
「よーし!水浴びはこんなもんでいいか」
「ミロー」、「ドラ!」、「シャワ」、「ルリ~」
CDデビューすると聞いた時に彼女たちの力になると一人誓ったわけなのだが、アイドルのレッスンで協力できることなど素人の俺には当然ある筈もない。
なので、彼女たちがレッスンで忙しい時には、俺がポケモンたちを預かり世話をすることにした。
といってもやっていることは、今やっていた水浴びをさせる以外だとこの子たちの好みに合わせてポケモンフーズの調合やポロック・ポフィンを作ってあげる程度のものだ。
「流石に住宅地だとできることが少ないな」
283プロが契約しているバトルスタジアム、あそこにはポケモンが自由に使用できるプールがある。俺がバトルの特訓で使用できるときには連れて行って遊ばせたり、少しだけトレーニングに付き合って新しい技の習得に協力したりもしたが、如何せんうちの自宅の庭では出来ることが少ない。
「ルリ、ルリ」
「うん?どした?」
「ルリリ~」
今後の事を考えていると、マリルリが左手でお腹を擦りながら右手で俺の服をつまんで何かを訴えかけてきていた。
…もしかして
「なんだ?お腹すいたのか?」
「ルリ~」
うーん、今はまだ4時か…夕食まで少し時間あるし、ちょっとだけならいいかな?
「ミロ~」、「ドラ~」、「シャワ~」
「あらら、君たちもなのね」
マリルリの行動を見た3匹は俺の近くまで来て物欲しそうな顔でこちらを見つめてくる。
「は~仕方ないな。まだポフィンが少し残ってるから、それで夕食までは我慢してくれよ」
「ミロ!」、「ドラ!」、「シャワ!」、「ルリ~!」
元気よく返事する4匹…本当に進化して体は大きくなったって言うのに甘えん坊な所は変わってないんだから
「ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うと、家に戻りキッチンに向かう。
キッチンに残ってるポフィンは全部で・・・5つか。本当は明日のおやつで上げようと思ってたけど、まぁいいか。足りない分は、今日の夜か明日の放課後にでも作れば問題ない。
俺は残りのポフィンの内4つを皿に盛りつけて、再び庭に向かう。
「ほい、お待たせ」
「ミロ~♪」、「ドラ!」、「シャワ」、「ルリ~!」
ポフィンを差し出すとそれぞれ、自分の好みのポフィンを迷うことなく選び食べ始める。
「…幸せそうに食べてくれるね~」
元々、この4匹の世話をかって出たのは、アイドルになった幼馴染み達の負担を少しでも減らすっていう目的があった。だけど、久しぶりにこの子たちと戯れたり作ったポフィンを食べてる姿を眺めてるのは思っていたよりも楽しい。
正直、ポケモンたちの世話を引き受ける程度では対して役に立てていないんじゃないかとか考えていたけど
「…ま、これはこれで楽しいからいいか」
「何が?」
「うわっ!」
考え事をしているときに背後から、声をかけられ思わず変な声を出してしまった。
振り返るとがそこにはレッスンを終えたのであろう円香が立っていた。
「…なに?どうしたの?」
「い、いや…何でもない、ただ驚いただけだよ」
「?…ならいいけど」
円香は訝し気な表情を浮かべるが、特に追及することなく一応納得する様子を見せる。
「円香、レッスンお疲れ。三人は?」
「ん…小糸は居残り練習、浅倉ももう少し付き合うって言ってた。雛菜はレッスンの後、買い物に行くって言ってそれっきり」
「そっか」
小糸の居残り練習と雛菜のレッスン後の自由行動、これはもはや恒例のパターンだな。
「円香」
「何?」
「まだ、少し早いし上がっていきなよ。お茶用意するから、あとポフィンが一つ残ってるから、食べるだろ?」
「…それじゃあ、遠慮なく」
***
「お待たせ」
キッチンで残っていた最後のポフィンと紅茶を入れて部屋に持っていくと、円香はテーブルの前に座りプリントに何かを記入しようとしていた。
「…ありがとう」
「あいよ、それ何のプリント?」
「進路調査票…この間配られたでしょう?」
「ああ、あれね」
うちの学校では1年から3年まで関係なく、この時期に進路調査票が配られている。
正直、2年や3年はともかく、1年には早すぎる気もするけど学校の方針だから、仕方ない。
「今週までに提出だけど、ちゃんと書いたの?」
「もちろん、ばっちりだよ」
「本当に?言っとくけど、去年みたいに適当に書いて先生に怒られても知らないから」
「…前回の事で流石に懲りたよ。でも、今回はちゃんと書いたから大丈夫!」
「で、なんて書いたの?」
「タマムシ大学」
タマムシ大学
東京都内にあり、広大な敷地と様々な学部を有している日本でも有数の大学だ。
大学内は豊かな自然に囲まれていて、本校舎以外にもグランド(サッカー場、野球場など)、体育館(アリーナ、武道場、プール)、図書館など様々な施設が配置されている。
そして、このタマムシ大学には大きい特徴がある。それはポケモンに関する研究・育成・バトルなどを本格的に学べる学部、通称『携帯獣学部』の存在だ。『携帯獣学部』がある大学はいくつか存在するが、環境・レベルにおいてタマムシ大学よりも上の大学はこの日本には存在しないとさえ言われている。
「ふーん、タマムシ大学ね」
「ああ、どうかな?」
「…いいんじゃない?あんたなら、ポケモンやバトル関連の事とか勉強できて楽しいだろうし」
「いや、バトル関連の学科は選ばないよ」
「…え?」
「俺が目指すのは携帯獣学部育成学科、そこを目指そうと思ってる」
育成学科、そこで4年間勉強をし必要な単位を取れれば国家試験を受けられ合格すればポケモンブリーダーの資格を貰うことができる。俺としては、出来るだけ早いうちにその資格を取っておきたい。
「育成学科?そこって、ブリーダーとか目指してる人が行く場所でしょう?あんたの事だからポケモンバトルの勉強するつもりだと思ったんだけど?」
「まぁ、それはそれで面白そうなんだけどね」
「じゃあ、どうして?」
「少し前まではバトルの事を学べる大学に行こうと思ってたよ。だけど、今は283プロに所属するプロのポケモントレーナーになって、バトルする機会はいくらでもある訳だから大学でまでバトルの事ばかり考える必要はないかなって」
「…そう」
「それにさ」
「?」
「俺の両親、口には出さないけど多分、ブリーダーの資格を取って欲しいって考えてると思うんだよね」
「…ちょっと分かるかも」
「それに心配なんだと思う。今はいいけど俺がバトルで勝てなくなってプロを引退しなくちゃいけなくなった時の事をさ」
「…それって、ポケモントレーナー雇用問題?」
ポケモントレーナー雇用問題
それは幼い頃から、プロのポケモントレーナーを目指していた人たちが義務教育を終えた後、進学せずにバトルの特訓ばかり行うもプロという狭い門に入れず磨き上げてきたポケモンとトレーナーとしての能力を生かせる仕事に就職できず、無職のまま過ごしてしまう。
近年、プロのポケモントレーナーによるバトルがブームとなり人気を集めているが、その陰で問題になっているのがこの問題だ。
「まぁ、子供のころからバトルしかしてこなかった連中がいきなり、他の仕事しろって言っても難しいよな」
ポケモンに関する仕事って言っても決して多くはない。中には大道芸をやりながら日銭を稼いでる人もいるらしいけど、それだって楽じゃないはずだ。
その点、ブリーダーの資格を持っておけば育て屋やポケモン専用のホテルなど就職先はいくらでも見つけられる。
「…以外」
「ん?」
「あんた、意外と将来の事考えてるんだ」
「ははは、考え出したのは割と最近だよ」
283プロに所属して高校生ではあるけど税金やら確定申告の事とか色々、面倒な手続きが増えた。
そうすると、嫌でも現実が見えて将来の事とか考えることが増えてくる。
「円香も一緒の大学にしない?タマムシ大学なら色んな学部があるから円香の気に入る学部もあると思うし、透も誘ってさ、3人でキャンパスライフを楽しむっていうのもいいと思うんだけど」
「…まぁ、考えておいてあげる」
俺としては、それが理想だな。
小糸や雛菜も俺たちがいれば多分、次の年に同じ大学に来るだろうしそうすれば、また5人で一緒だ。
「っと、長話しすぎたな。紅茶、さめる前にどうぞ」
「ん」
円香は紅茶をひとすすりした後、ポフィンを食べ始める。
「…おいしい」
「ははは、だろう?」
俺の作ったポフィンを一口食べると、円香は一言そう呟く。
ポロック、ポフィン作りについてはちょっと自信があるのだ。小学生の低学年の頃から、やり始めたこともあってそこらのトレーナーが作るものよりもいい出来であるという自負もある。
「はぁ、どうしてポロックやポフィンは得意なのに他の料理は全然できないの?」
「ぜ、全然ってことはないだろう!カレーだって作れるぞ!」
「それ以外は?」
「…………………」
「ほら、言い返せない」
…そうなんだよな。何故だか分からないけどポロック・ポフィン・カレーだけは人並み以上のものが作れるのに何故か、他の料理は一切できない。
例を出すとおにぎりを作ろうとしても、普通の手順で作ったはずなのに不思議な力が働いて最終的に見た目は普通なのに口に入れた瞬間、吐き出してしまいそうな程まずいものが出来上がってしまうのだ。
「はぁ~そんなことで大丈夫なの?」
「何が?」
「大学生活、タマムシ大学はここから少し離れてるし家を出たら一人暮らしになるでしょう?」
「あ」
完全に盲点だった。大学生になったら実家を出るのはほぼ確定してる。
特定の料理しか作れない俺じゃ、コンビニ弁当やスーパーの惣菜を買うしかなくなる。
「一応言っておくけど、コンビニ弁当だけじゃ健康に悪いからね」
ですよねー
しかし、そうなってくると
「…透に誘われたあの話、そろそろ真剣に考えてみるかな」
「浅倉に?」
「ああ、高校卒業したらシェアハウスしないかって誘われてるんだ」
「………………………………え?」
***
「ああ、高校卒業したらシェアハウスしないかって誘われてるんだ」
「………………………………え?」
…………え?シェアハウス?透と丈一郎が?一緒に暮らす?…………何で?待って…………何時の間にそんな事に?…………そんなの聞いてない
「円香?」
………駄目だ。頭の整理が追いつかない。
「おーい」
「……いつ」
「?」
「…いつの間に決めたの?と…浅倉とシェアハウスするって」
自分の声だけど、震えながら言っていることは自覚できた。
まさか、こんなに動揺するなって……透と丈一郎がそういう関係になるかもしれないってずっと分かっていた筈なのに
「あれ?透から聞いてない?」
「聞いてない」
「そっか…去年の進路指導の後だよ。二人で先生に怒られた帰りに卒業後どうしてるかなって話になって大学にしろ就職にしろ通う場所が近いなら一緒に暮らさないかって話しになったんだよ」
去年……そうか……そんなに前から
「まぁ、具体的には何にも決まってないけどね」
何も決まっていない……だけど、透は冗談で一緒に住もうなんて提案はしない筈だ。この2人には一緒の場所に暮らす意思は既にある。
あとは、住む場所や家具なんかを揃えれば特に問題なく一緒に生活を送るだろう。普段から部屋の中で抱き着いたり、外でも手をつないで歩いたり平気でする2人の事だ。一緒の家に住めば自然とそういう関係になっていくことは間違いないと思う。
「円香はどう思う?」
…なんで、そんなこと私に聞くんだろう。
これは、透と丈一郎の将来の問題……そこに、私の居場所なんてないのに
「…いいんじゃないの?2人で決めたことなんでしょう?…知らないけど」
そう、私は何も知らない。これだけ長い付き合いなのにそんな大事な事すら教えて貰えなかった。
ずっと…ずっと…一緒だった。子供の頃から一緒に過ごして、一緒に遊んで、これから先もずっと一緒に居られる。そう思っていたのに
「うん。俺と透はそれでいいから、円香はどうしたい?」
「…………え?」
どうしたいって?
「…どういうこと?」
「いや、だから円香はどんな所に住みたいかなって思ってさ?」
「……………」
……………………もしかして…………………こいつ
「…………私も一緒に暮らす事を前提に話しを進めていた?」
「うん?そうだよ。透もどうせシェアハウスするなら円香も一緒がいいって言ってたし」
「…………………」
…何だろう、この気持ち
透と丈一郎が私を置いて行かないことに対する安堵、中途半端な情報だけ先に言って不安にさせた目の前の馬鹿への怒り、人の意見を聞かないうちからシェアハウスすることを決めていた馬鹿たちへの怒り
色んな感情が混ざり合って、逆に頭がすっきりしてきたような気がする。
…取り合えず、私が今やらなくちゃ行けないことは一つだけだと思う。
「やっぱり、3人で住むってなると場所や広さも大事だと思うんだよね。それぞれ、希望もあるだろうから、その辺も考慮して物件選ばないと行けないし…って、あの円香?」
この言葉の足りない馬鹿に渾身の『からてチョップ』を落としてやったが、私は悪くない。
***
「…痛い」
会話の途中にいきなり立ち上がった円香は、俺の頭上に向かって思いっきり『からてチョップ』を放つと不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
「何で、『からてチョップ』すんのさ」
「自分で考えれば」
うーむ、円香がなんかいつもより冷たい。
また、何か怒らせることしちゃったかな?
「えーっと、そのー、で、シェアハウスの件なんですけど」
「………………」
「あ、はい。駄目ですよね」
はぁ、どうするかな?
透と二人でシェアハウスするか?いや、だけど円香一人だけ仲間外れっていうのも少し違う気がするし…一人暮らしも視野に入れておいた方がいいかもしれないな。
「ま、待って!」
俺がシェアハウスをあきらめかけると、円香は慌てた様子で待ったをかけてくる。
「…………い、言ってない」
「?」
「…だから……だ、だめとは言ってないから」
「…え?」
「だ、だから、シェアハウスのこと…だめとは言ってないから」
………………………………え?
「え、まじで?」
「あ、あんただけじゃ、浅倉の事とことん甘やかして駄目にしそうな気がするから仕方なく、本当に仕方なくだから!」
「それでもいいよ!やべぇ!めちゃくちゃ楽しみになってきた!」
そうなると、順調にいけば今から約2年後か
…ごめん、雛菜。やっぱり留年はなしの方向で行かせてください。
「…真田、言っとくけど私が一緒にいる以上、あんたにも浅倉にも自堕落な生活は遅らせないから」
「ああ、当然できることは手伝うよ」
「…そう、言質取ったから。ポケモンたちの世話以外にも掃除とかやってもらうから覚悟しておいて」
「お、おう」
手伝う気はちゃんとあるけど、言質取ったって実際に言われるとちょっと怖いな。
「それから、住む場所だけど、私たちが一緒に住むってなったら雛菜や小糸も来たいって言うの目に見えてるし、それも踏まえてしっかり場所決めないといけないから、今度1回全員で話し合う場を作る。真田も自分の意見纏めておいてよ」
「りょ、了解」
な、なんか次々と色々決まっていく。
さっきまでは、将来そうできたらいいね程度の話だったのに円香が仕切りだしてからなんか現実的な話になってきた。
…でも、なんか円香ってば生き生きしてるな。
シェアハウスは仕方なく引き受けるって言ってたのに、今じゃあ俺以上にノリノリで色々決めてる。
「真田!ちゃんと聞いてるの?」
「お、おう。もちろん、ちゃんと聞いてるよ」
「しっかりしてよ。後、真田の両親はともかく、私たちの両親…特にお父さんたちの説得には真田も協力してもらうから」
「…それ、一番難題だな」
2年後の将来への楽しみが一つ増えた。その代わりにとてつもない不安材料が一つ増えてしまった。
「ま、まぁ、おじさん達とも長い付き合いだし、最終的には許してくれる…よな?」
「…いきなりグーはないと思うから大丈夫」
「パーはあり得るってことかい!」
書いてるうちにだんだん最初の予定と違う内容になってしまったような気がしますが後悔はしてません。
感想お待ちしてます。