春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
既に四章の展開及び結末も構想としては完成しているというのに、それを文字に起こせないという……
「そうだ。この世に、ヒーローなんていない」
簪の叫びに同調するように、打ち捨てられた一夏が呟く。
「
それが真実、それが現実。
神ですらままならない残酷な法則。
「でも、だからこそ、誰もが前を見て歩かなきゃならないと思えるんだ」
その声は小さくかすれていたが、それでも響く何かがあった。
力を入れろ、足を動かせ。剣を握れ、前を向け。
震える体と奮える心を持ち合わせ、織斑一夏は立ち上がる。
「都合のいい
主人公とは、神の操り人形だと誰かが言った。
神の奇跡など、ただの舞台演出だと誰かが言った。
祈れば与えられる奇跡などいらない。
己の意思で立ち、前を見てこその人間だと。
しかし、織斑一夏は疑問を呈す。
神の玩具が悪い事か?
安易な奇跡が悪い事か?
奇跡に縋る弱い人間など、掃いて捨てるほどいるだろう。
彼らを批難し叱咤するのが、本当に正しい事なのか?
神に祈るのが悪い事か?
奇跡を求めるのが悪い事か?
「俺はそうは思わない」
弱者を守ろうとするならば、弱者を排他する者もいるだろう。
弱者を労ろうとするならば、それに甘える怠惰な者もいるだろう。
しかし善悪混合こそが世の摂理。
弱者を叱咤し導こうとする者も必ずいるだろう。
弱者でいる事に義憤し、上を目指す者も必ずいるだろう。
ならば、何も迷う事はない。
救済を求める者には救いの手を。
躍進を求める者には導きを。
甘やかし、慈しみ、それでも上を向く者には愛を――
「
女神の抱擁、その慈しみを讃えよう。
俺もまた、彼女に抱き締めて貰ったのだから。
「今度は、俺が抱き締めてやる番だ」
俺の
「いち、か……」
いま、一夏の声が聞こえた。
凰鈴音は、ボヤけた頭で思考を回す。
機体はボロボロ、体もボロボロ。
共に戦っていたセシリアは懐に入られて戦闘不能に。
鈴が今まで持ち堪えているのは、
力を振り絞って足掻いていたが、その抵抗もここまでだと。
そんな時に、思い人の声が聞こえた気がした。
いや、どんなに惚けていてもしっかりと聞いた。
(あれは、一夏の声だ)
抱き締めてやると。
祈りに応えたいと、言っていた。
一夏が抱き締めてくれる。
そう思っただけで、力尽きた右腕が拳を握った。
空中より見下してくる敵機を、立ち上がって睨み付ける。
(祈り……あたしの、祈り)
考える。考える。考える。
深く、深く――
天空より落下するような、深海に沈み往くような。
「
Schildkröten leben länger, aber immer noch gibt es Leben.」
凰鈴音という少女は、常より直情径行にある。
己を過剰に着飾らず、無為に心を隠さない。
織斑一夏の前ではそれが揺らぐのも、また直情型ゆえだろう。
「
Drache sagt der Tanz Werden Nebel, aber der letzte auf den Boden zurück」
彼女は理屈より直感を重んじる。
だからだろう、誰より早く一夏の壁に気付いていた。
出会った時期の差こそあれ、意識の壁に気付いた期間は最も短い。
「
Aber tit machen tausend Meilen, auch wenn alte Zhi ist drehend ein Chisato.」
それは慕情を抱く事で、より一層の厚みを増した。
手を伸ばすのに遮られ、追い縋っても高みにいる。
届かない、追いつけない。隣に立ちたいのに触れられない。
「
Der Mann ist nicht eine, die zu stoppen die heißen Gefühle, nur weil ältere Menschen ist.」
彼女は強さが欲しかった。
織斑一夏に近付いて、見えない壁を打ち壊す強さが。
彼女は強さが欲しかった。
織斑一夏に追い付いて、隣に立って背を守れる強さが。
「時節の満ち欠け 独り天に在らず
Zunehmen und Abnehmen der Saison ist nicht rau allein in den Himmel」
目標は高く、どこまでも遠く。
追いかけても近付いても、決して触れること叶わない。
心の奥深くで沈殿していた、積もり積もった無力感。
「心に喜神含まば 遂には長久せざるなし
Wenn auch die in den Sinn kommen,schließlich keine andere Wahl, Nagahisa」
あたしは弱い女だけれど、弱いままでいたくない。
連れて行ってくれ、とは言わない。
手を握ってくれ、とは言わない。
ただ、そこに至るための強さが欲しい。
「
それを許してくれるなら、どこまでもどこまでも歩き続ける。
諦めず歩き続けていれば、アナタが待っていると信じているから。
鈴の詠唱は、中国ということで曹操さんの歩出夏門行という詩から拝借しました。なお、螢のように創造は「そうぞう」読みです。
……これくらいなら、利用規約に反さないよね?