春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
――第一盧生、甘粕正彦。
審判を司る人類の敵対者にして、邯鄲を最初に踏破した最強の盧生。
そう、彼こそが最強なのだ。
そこに疑問の余地はなく、ゆえに誰もが認める問題児。
この男と一体一で戦っても、勝てる見込みなど最初からなかったのだ。
「不甲斐ないとは言わんよ。知っていれば対処が出来る。そこに生じる当然の余裕を、高慢などと卑下するな。知っていたからと踏破できるほど、知識があったからと踏み入る事が出来るほど、邯鄲の夢は甘くない。こうして成し遂げたお前は、なるほど素晴らしい漢なのだから」
故に、容赦なく全霊でもって滅ぼそう。
ギラつく眼光に緩みはなく、苛烈な意思を隠すことなくむしろ叩きつける光の魔王。
素晴らしいと認めたからこそ、その輝きを引き立てるべく暴威を振るう。
甘粕正彦という魔人はそういう男だ。
ああそうだとも。
俺はこの結末を知っていた。
ここにいる統合された柊四四八は、邯鄲に洗い流される前の一週目の俺は、この光景に至る事を理解していた。
最強の敗北という結末を知るからこそ、その道筋を辿るだけでは届かない。
前代未聞を打破するならば、それに匹敵する空前絶後を持ち出さなければ太刀打ちできない。
だから、俺は
俺という柊四四八は、俺自身の道を見つけ進まなくては。
しかし……。
「悩むがいい
「……ッ、このぉッ!」
甘粕の戯れ言に反論すら出来ないとは、我が事ながら無様なものだ。
だがそう。
奴の言う通り、事ここに至っても俺にはそれが掴めない。
悩んでいる。苦しんでいる。それは確かに成長の糧になるだろう。
だがそうじゃない。そうじゃないんだ。
勇気っていうのは溢れるもので、作り出す物なんかじゃ断じてない。
愛は育まれるもので、誰かが生み出す物じゃないんだ。
そんな事も分からないような男が人類の代表など認められない。
――けれど、それは俺も同じことで。
邯鄲という
衝突する他者を排除することしか出来ない狭量な器。
奉じる
柊四四八という立場がなければ、何を成す事も出来なかった小物。
惨めだ。惨めで醜い自分に腹が立つ。
これは義憤ではなくただの癇癪。
ああダメだ、俺はこんなにも脆く弱い。
こんな俺がどうして邯鄲を制覇出来たのか。
オカシイだろう。道理に反しているだろう。
盧生とは前傾思考の塊で、こんな女々しく悩むような輩じゃないだろう。
なぁダレカ、頼むから俺に教えてくれよ……。
『――教えてやるよ。それは、お前が独りじゃないからだ』
何処からともなく響いたのは幼馴染の声。
それを皮切りに、次々と大きな
『アンタって肝心な所で抜けてるのよね。しっかりしなさい柊、そんな様じゃ奴隷失格よ!』
俺はお前の奴隷じゃないよ。
しかも奴隷を失格って、いったいその下って何なんだよ。
『
俺とアイツが似てるって?
頭の良いバカとでも言いたいのかよ。
『間違ってないと思うぜ。だって四四八ってばお前、カッコ付けて大事なこと忘れてるじゃんよ』
よりによってお前にバカ呼ばわりされたくないぞ。
カッコ付けて大事なことを忘れてたのはお前だろうが。
『いくらホントの事だからって、そんなこと言ったら栄光くんが可哀想だよ。例えブーメランだとしても、今回は正しいこと言ってるんだから』
いや二度も追い打ち掛けてるのはお前だよ。
……でも、お前まで俺が抜けてると言うのか?
『だって柊くんてば本当に抜けてるし。んー、まだ分かんないかなぁ……』
だから何が言いたいんだよ皆して。
分からないんだからはっきりと教えてくれよ。
『このバカッ……』
晶が痺れを切らしたように声を漏らす。
そして続く親身な怒号が、曇りに曇った心の霧を晴らしてくれたんだ。
『――困ったことがあったら頼れって言ってるんだよ! あたしたちは仲間で、家族だろッ?!』
それは余りに当たり前のことで。
当たり前だからこそ忘れていて、当たり前だからこそ忘れてはならないことで……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――………………ああ、そうだったな。
そうだ、そうだった。
俺は小物なんだ。自分ひとりでラスボスとバトルなんか柄じゃない。
忘れていた当然の事を思い出し、
――第八層の試練を終了する。おめでとう柊四四八、君こそ盧生だ――
視界を開くと普遍無意識が語りかけてくる。
普通はそうでないのだろうが、俺としてはCV的な意味で非常に聞き覚えのある声だ。
そこは光の渦であり、意思そのものが空間と同義になっている。
即ち邯鄲の第八層イェホーシュアであった。
――君は自分に自信がなかった。偽りだと卑下し、醜いと憎悪し、見るに堪えないと直視しなかった。だがそれではいけない。君の
そうだ、だからこそ俺は盧生として至らなかった。
人類の代表者として、「継承」という賛歌を謳う者として、他者に誇れる己でなければ意味がない。
――では、
それが俺に架せられた試練。
曙光八百万という指針は構わないが、それが何処から来て何処へ向かう物なのか。
そういう己の真実を知った上で、その在り方を決めねばならない。
つまり偽物でも借り物でも芯を持って突き通せという事であり、これが悟りと言われればなるほど納得するしかない。
俺にとって真実など存在していなかったのだから、見つけ出すも何もない。
その考えがまず違っていたのだ。
俺自身が偽りならば、己の外に目を向ければ良かっただけなのだ。
柊四四八が第七天・天照に見ていたのは絆。
己をこそ絶対と定めた求道の神でありながら、他者と触れ合い繋がっているという事への羨望。
この大正から百年後の時代に生きていた者として、自分を定義せずとも生きていられたゆえに、強靭な個我と利他を共有し共存する姿が眩しかった。
それが起源。それが原点。
暗い微睡みの中でそれを思い出したからこそ、曙光曼荼羅は昇華した。
もはやあの終段は使えないし、それでいい。
俺の心に差す曙の光は、彼らに負けないと誇っているから。
さあ、夢から覚めて朝に帰ろう。今度こそ本当に。
眩しくて頼もしい仲間たちが待っているから。
邯鄲の第八層を思い返し、胸に宿った熱を滾らせる。
本当に向き合った現実の甘粕にそれをぶつけよう。
「
そうだ。俺では甘粕に勝てない。
分かりきっていた事なのだから、何を迷う必要があるものか。
俺とて一応は柊四四八。
仁義八行とは違えども、仲間との絆で立っているのだ。
ああ認めてやるよ甘粕。
俺は弱い。一人ではお前に太刀打ち出来ない。
だが――
「――終段・顕ッ、象ォォッ!」
印を結び夢を回し
思い描くのは曙光と同じく六名の英雄たち。
しかし先の六柱などよりよっぽど信頼している者たちだ。
等と呟く心情の何と厚かましいことか。勝手に引き合いに出しておいて、無礼にも程があるというものだ。
けれど、その本心は隠せないし隠さない。
変えられないし変えたくない。
これこそ俺の
紡ぐのは仁義八行の勇士たち。
顕われ出ずるは
それは最終最後の終段で、至上至高の顕象なのだと胸を張る。
「
(原作の)タイトル回収!
所詮は自己満足だけど、前の単体よりはマシになったと思いたい。