春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
魔術師とは何であるかと聞かれれば、俺が返す言葉は一つしかない。
即ち、魔術師とはどこまでも人間だということだ。
魔術とは神秘であり、神秘であるからこそ魔術である。
宇宙事象の始まりである根源の渦。
魔術師が魔術を学ぶのは根源に至るためであり、魔術こそがそれに最も近しい道であると信じるからこそ生涯を賭して学ぶのだ。
何代にも渡って到達出来るかも分からない苦行に取り組む求道者たち。
その為ならば如何なる犠牲をも支払うが故に、己だけでは飽き足らず子々孫々の後継たちをも魔道に捧げる信者たち。
愚かしい程に諦めが悪く、どこまでも我が強い科学者こそが魔術師。
その蛮勇、その愚行、まさに人間という種そのものではないか。
そんな極端な人間性を持て余す
かつて少年だった俺が、今や魔術師の端くれになるまで八年がかかった。
年老いてきた父より家督を継ぎ、名実ともに魔術師一族の当主になるとは、当時の俺からすれば夢のような出来事だろう。
ただし、夢は夢でも悪夢の類だ。
そうとも、俺は夢を見ている。
今も変わらずふわふわと舞う胡蝶の夢を。
――物心付く以前から、既に俺の自我は確立されていた。
俺には生まれる前の記憶がある。
生野健児として過ごした二十四年の歳月が、俺の人格には余すところなく記憶されている。
出産直後の記憶がある。
初めて父に抱き上げられた記憶がある。
一番目に発した言葉がケンちゃんという自身の愛称だという記憶がある。
例えば五歳の誕生日に両親が喧嘩した内容を覚えている。
例えば十歳のクリスマスに放送していたテレビ番組の内容を覚えている。
例えば最後の晩餐となった会社帰りのファーストフード店のメニューを隅々まで覚えている。
人間が普通に生きていて忘れているはずの事柄まで詳細に、明確に。
これは魂に刻まれたとかいう情報なのだろうと推察し、こうして記憶を保ったまま生まれ直した――生まれ変わった際にどこかしらのタガが外れたのだろうと納得しておく。
それが今生で生後十四日目の出来事。
肉体という器には不釣合いに育っている自我は、しかし実際の行動には影響しない。
いや、正確には全くしない訳ではないが、意識しない生理現象には現れない。
空腹になれば泣くし、尿意を我慢したりも出来ない。
だが右手を握って開けばその通りに動くし、自分の意志で泣くのを止めたりもできる。
要は自分という人格を持って生まれたこの赤ん坊は、己と同一でありながら別個体としての性も有しているという特異存在。
小難しい理屈を素通りしてその結論にたどり着き、不思議と疑いも躊躇いもなく得心がいった。
そういうものであると感じてしまったのだから、そういうことなのだろう。
――物心付いた時分から、俺の自我は両立していた。
不動克彦という器に生野健児以外の人格が生まれたのは、四歳の誕生日から半年ばかりが経過した頃だった。
幼稚園児そのものとして情緒を育んでいる克彦の人格。
それが健児の影響を受けていないかと言われれば、もちろんそんなことは有り得ない。
だが、克彦は健児を己であると忘我の領域で認識しており、健児もまた克彦を自分自身と認識していたことに変わりはない。
だからこそ二つの人格は交じり合って混ざり合い、二人の不動克彦として確立されていた。
成長した彼に両人格の区別はなく、精々が黒に近い灰色と白に近い灰色程度の差しかなく。
知識の棚と思考形態が二つある一人の人間として完結した。
そうして十歳の誕生日。
彼は魔術という神秘の存在を知らされる。
魔術師の直系として生まれたからには、同じように魔術師としての人生が決定づけられている。
それは先祖代々の妄執であり、呪いであり。
親から子へと託される悔恨を晴らして欲しいという願いだった。
不動の家系は魔道において新参で、克彦の父は二代目の当主であった。
始祖たる祖父が着想を得たのはとある地方都市で行われた魔術儀式。
聖杯戦争――今ではそう呼ばれている儀式の第二回目に、弟子入りした先の魔術師が参加したことに由来する。
英霊の座より招きし霊魂をサーヴァントという型に嵌め、人間に過ぎない魔術師が曲がりなりにも従えられるようにするという偉業を以て、魔術師と英霊の主従七組が聖杯を求める小規模な戦争儀式。
詳しい経緯は聞かされていないため不明だが、当時の戦争に参加した魔術師は須らく全滅し、勝者不在のまま終わってしまったらしい。
そんな中で生き延びた祖父は、サーヴァントシステムに秘められた真なる目的を知った。
降臨した英霊の魂が敗退し座に戻る瞬間、世界に空いた孔を固定して外側に飛び出し、根源に到達すること。
戦争などと銘打っているのは、孔を空けるに足る魂と魔力を収集するためなのだろう。
この真相を知った祖父は、憤るどころか感銘を受けたらしい。
独り立ちして魔術師の家を興した彼は、一族にこの事実を口伝として残し、とある指針を示した。
歴代当主の誰かが英霊の座に至り、外側から世界に穴を空けるべし。
座に登録された英雄は時間軸や世界線から切り離されるため、一人でも至る事ができたなら根源への道へ至る可能性が未来永劫に残されるだろうと。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある主張だが、馬鹿馬鹿しいなりに納得できる理屈でもある。
その主義主張を成すために祖父は父に家督を譲ってから一人立ち、海外に渡ってそのまま現地で息絶えたという。
他ならぬ父もそれに倣い、克彦を当主として育て上げた後に冒険に出るという。
恐らくは、世界に英雄と認められるような偉業を遂げに。
こうして不動克彦は魔術師になった。
英霊になるために魔術を使う異端の魔術師、その正統後継として。
夜中にFate/GOやっててふと書きたくなったネタ。
この主人公が何年もかけて魔術を学ぶ過程と、英雄になるべく聖杯戦争に参加する展開と、英霊兼魔法使いの過去から来た未来の主人公が書きたい。