春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
膨れ上がった夢の波動が、此処に七名を呼び集わせる。
「遅っせぇぞ四四八ァ!」
仲間たちの誰よりも臆病だからこそ、誰よりも真っ先に飛び出したのは我らが誇るムードメーカー、忠を司る大杉栄光。
愛用の風火輪が補助具として形を成し空を滑べる。
解法の怪物たる彼が駆けるという事は、即ち敵の防御が崩れるということに他ならず。
故に続くのは我堂鈴子。
甘粕正彦を捕らえるために、斬閃の檻を描いていく。
無論、それを黙って見ている甘粕ではない。
三日月を欠いた程度では止まらぬと、
「いいぞいいぞ吼えろよ新鋭! お前たちの愛と勇気を、俺に証明して見せてくれッ!」
「随分とご機嫌なようだが、俺の仲間たちを舐めるなよ」
忘れたのかよ大尉殿、
「我が槍を恐れるならば、この境界を越すこと許さぬ――なんてねっ。急段顕象ォ! 犬村大角・礼儀ィ!」
鈴子の配置した斬撃が問答無用の必殺性を帯びる。
彼女の夢は、人と獣とを分かつ空の境界。
斬撃により
本来ならば、相手が「自身が獣である」と認める事が条件付けられている急ノ段であるが、甘粕は愛も勇気も誇りも矜持も理解する男だ。
随分と型破りではた迷惑な存在なれど、彼は獣では有り得ない。
我も人なり、彼も人なり。
その標語を掲げし彼は、並外れているが人間だ。
なのに急段が成立したのは、今の戦真館の特異性ゆえに。
――相州戦神館學園八命陣。
恐れ多くも原作の名を冠する、俺という柊四四八の終段。
眷属である戦真館メンバーを召喚し、俺の深層に眠っている記憶から『正史』の彼らと合一させる夢。
八犬士という英雄の皮を、戦真館特科生たちに被せる昇華の御技。
この終段の恐ろしい所は、彼らを神格に仕立て上げているという点に尽きる。
眷属の軍勢を擬似的に神格へ押し上げるという、前代未聞の大偉業。
我が身の恥を晒すのは些か以上に不服だが、俺は弱い人間だ。
けれどだからこそ強くなれる。強く在ろうといられるのだ。
それは偽りなき俺の真で、それを承知しているから助けを求めれば応えてくれる。
そうして願い顕れた効果を『軍勢変生』と、そう呼ばう事に誰も異論はないだろう。
集合無意識の海より盧生に顕象された神格は、それが人の夢の集合体である故に
つまり鈴子だけでなく、歩美でも栄光でも。
それこそ、最高難度を誇る水希の急段ですら条件の達成を必要としない。
だけでなく、神格としてカンスト上限が外れている今のアイツ等は終段が使えないというだけで、カタログスペックに限って言えば盧生の領域に足を踏み入れている。
「ハァァアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!」
その高スペックを駆使して疾走するのは我らが才女、天衣無縫の世良水希。
瞳が開かんとしているバロールへ向けて一直線に進んでいく。
悌の八犬士たる淳士の急段、意識共有の夢により彼女も俺の考えが解かっているのだ。
軍勢変生という大技の弊害。
彼らを神格に押し上げているという事は、終段を休みなく使い続けていることに等しい。
――結論、今の俺に他の終段は使えない。
それが解かっているからこそ、今や神格たる水希が突っ込んだのだ。
見れば殺す絶対の瞳は、放置すれば諸共に死滅してしまうから。
そうはさせないと駆ける彼女の背中、戟法と楯法による高速移動はまるで直進する砲弾のよう。
向かい来る敵には目も呉れず、一気呵成に突っ込む姿は傍から見れば不安を煽る。
だが、アイツの心配など必要無いことを知っている。
なぜならば、答えは俺の隣に。
その道を作るべく露払いに勤しむのは、不動のスナイパー龍辺歩美。
「モード“ソロモン”より、アスタロス実行――
口は軽やかに引き金も軽く、しかし眼光は冷え切っている。
休む間もなくトリガーを連打しつつも、一発とて無闇に撃ち放っている訳ではない。
俺や鈴子、それに水希にさえ理解できない視点と思考で計算している。
動き回る仲間たちに被弾しないように気を付けながら、縦横無尽に戦場を奔る空間跳躍の絨毯爆撃。
飛び散る血肉を被りながらも水希は目標に到達した。
一撃で以て必殺とすべく、上段から咒法と解法による邪剣を振るう。
「堕ちろ堕ちろ――腐滅しろォッ!」
次々に出現する魔神の群れは発生源の消滅に伴って象が薄れる。
水希の一刀がバロールの邪眼を切り裂いたのだ。
と、同時に。
「いいぞ、素晴らしい。お前たちは輝きに満ちている。愛おしいぞ、狂おしいほどにィ! セージではないがな、俺はお前が羨ましいと、認める事に厭はないぞ。柊四四八ッ!」
故にもっと輝けとばかりに、
――
轟く詠唱は大黒天の真言であり、ならば来るのはヒンドゥー教の最高神。
彼の名高きシヴァ神が仏教に取り入れられた破壊の化身。
「終段・顕象――
それは本来、召喚された八犬士の半数をただの一撃で吹き飛ばす暴威であり。
展開を知る身としては無論、黙って見ている訳にはいかない。
ここで切るべき札はチートその1。
「やれぇ栄光ゥ――ッ!」
心から尊敬する漢の一人は、俺の合図に間髪入れず応えてくれた。
「急段顕象ォ――ッ!!」
自身の大切なものを対価として捧げ、それに見合ったものをこの世から消滅させる相殺の業。
ただしそれに見合う基準というものが、栄光個人の価値観に依存しているという壊れ性能。
それを条件付けが必要ない神格としての状態で使うとどうなるか。
答えは簡単、
全霊の投擲を無効化したその隙に、鈴子の薙刀が胴を一閃。
急段による追撃もあって無意識の海に戻っていった。
何を差し出す事もなく無に帰した
たとえ栄光の中の天秤が限界ギリギリまで傾いていたとしても、一部とは言え神格を対価なしに消滅させようというのだ。
その消耗は相当な負荷となって蓄積され、そうそう再使用とはいかないだろう。
図ってか図らずかは知らないが、これで甘粕には切り札を一枚奪われた形になる。
いや、やっぱり図ってはいないんだろうな。
たとえ図ってやったのだとしても、それがお前の限界ではないだろうとかほざいてまた使わせようという魂胆だろう。
奴の考えが想像できてしまう自分が憎い。
「少年よ、お前の忠心には胸を打たれる。故にもう一度、限界など決めるな魅せてくれえッ!」
ああ、本当に。
なまじ的中してしまうから始末に負えない。
だからこそ実現させるほど甘くはないのだ思い知れ。
アイコンタクトさえ送るまでもなく、悌の夢によって思考を共有する歩美が力を振るう。
これでも喰らえ、チートその2。
「終段・顕象ォ――!」
「急段顕象、犬阪毛野――胤智!」
甘粕が召喚した神格を、時間跳躍により顕象する前に撃ち抜いた。
いくら終段が強力無比とて効果が顕れるより先に対処してしまえば怖くない。
「ふふはははハハハハハハハハァッ! 諦めん。諦めんぞ見るがいい、俺の辞書にそんな言葉は存在せん! なぜなら誰でも、諦めなければ夢は必ず叶うと信じているのだァッ!」
水希VSヘルを見るために万仙陣を起動したら流れで最後までプレイして、そしたらまさに恥さらしだったネタの続きを書いてしまった恥ずかしい。