春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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「こんなフェイトゼロが書きたい。」の第四話です。
こんな感じのタイトルにしてみましたが、いかがでしょうか。



殺人鬼は蒼氷の瞳を見つめ4(こんなフェイトゼロ~)

 

 記憶の中で、幼い少女が微笑んでいる。

 それは自分が誤って皿を割ってしまったとき、飛び散った破片が少女の肌を傷付けてしまった場面。ポタポタと床に滴る赤い血を見つめる自分に何を思ったか、少女は大丈夫だよと頭を撫でて来る。怪我はなかったかと問うてくる少女を不思議そうに見つめた。

 どうしてこの少女は笑顔を浮かべているのだろうか。

 自分はそれが理解できなかった。血が流れている。傷を負っている。つまりそれは痛みを感じているはずで、それと笑顔がまるで結びつかなくて。目の前の少女は自分とは違うのだという事だけは、薄っすらと悟った。

 少女が成長して幼さが抜けて来た頃、ちょっとした事故に遭って腕を骨折した。少女は痛い痛いと言いつつも普通に生活を送り、自分が声を掛ければ笑顔で対応していた。

 この頃になると、自分も少女の笑顔の意味を察するようになっていた。

 ああ、この人は自分を気遣っているのだ。自分はやはり、それが不思議でならなかった。痛いと言っているのに、笑顔で大丈夫だとも言う。痛いなら痛いと正直に言えばいいものを。変な奴だと首を傾げた。

 少女は高校を卒業した。自分もその頃には声変りを終えて、少年から青年になろうとしていた。

 卒業式を終えて帰宅した少女を前に、いい機会だと自分は試してみる事にした。目の前でわざと皿を割る。飛び散った破片は少女の肌を掠め、ふくらはぎに赤い線を描く。それは幼き日の再現だった。

 少女は当然のように自分を気遣い、だから率直に聞いてみた。

 

『どうして俺を気遣うんだよ、怪我してるのは自分だろ?』

 

 質問の意図が掴めなかったのだろう。不思議そうに首を傾げながら、少女は当然のことを話すように答える。

 

『だって、家族でしょ? 龍ちゃんの事を大切にするのは当然じゃない』

 

 本当に自然に、当たり前のように()は述べた。

 ()ももう子供じゃなかったから、愛というものの概念くらいは知っていた。親愛、家族愛、姉は愛の深い女性だった。心優しく、朗らかな空気を纏い。とても。とても優しい、愛に溢れた人だった。

 それは俺にはないもので。愛というのを知ってはいても、それは本当に知っているだけで。分からなくて、分からなくて、知りたくて、だから知ろうとして、姉はそれを持っていて。

 

――だから殺してみた。

 

 包丁で心臓を一突き。笑顔のまま固まった姉の胸から溢れて来る鮮やかなソレ。床に押し倒した拍子に顔に飛んで、とても生温かかったのを覚えている。

 裾が捲れ上がって地肌を晒した腹を跨ぎ、柄を両手で握りしめて体重を掛ける。深く、深く、柄の奥まで押し込むように。

 力を入れるたびに勢いを増す赤色は、姉だけでなく自分の衣服も染め上げる。それは姉の命を自分が吸い上げているかのような錯覚を覚え、流れ出て来るのが収まっても気付かない程に興奮していた。

 

『あ、はははははははははあああああああああああああッ! あああああああああああああァッッ!!』

 

 笑い声なのか雄叫びなのか判別がつかない。

 荒い息を吐いて包丁から手を放す。ガタガタと震えていた両手は色鮮やかな真紅に染まって、綺麗な光沢を放っていた。

 再び下を見下ろすと、姉だったモノは同じ真紅に彩られている。なのに顔は微笑んだままで。

 即死だったのだろうか、それとも生きている間があったのだろうか。行為に夢中で意識に残っていなかったが、なんとなく生きていたような気もする。

 

――ごめんね。龍ちゃん、ごめんね。

 

 そんな幻聴を聞いたかもしれないから。

 

 

 

 聖杯戦争序盤、アヴェンジャーことジャック・ザ・リッパーは静観の構えを取っていた。

 何故なら彼女は殺人鬼。大衆、民衆、人間を殺すのはお手の物だが、英雄を殺す存在ではない。

 人間は怪物に勝てない。怪物は英雄に勝てない。そして、英雄は人間に勝利できない。反英雄たる彼女はこの三竦みにおける怪物に相当し、それゆえに人間に対しては無敵に近い復讐者。

 本来ならアサシンクラスにこそ相応しいジャックは、対マスター戦でこそ真価を発揮するのだ。

 だからこそ本格的な参戦は、戦争が中盤に差し掛かってからと決めている。自分以外の半数が脱落し、残るは優勝候補のみとなったその状況で、最も手強い相手を乱戦の中で始末する。たとえ失敗しても及び腰になるのは確実だろう。

 後は残る両者がぶつかるか、それともマスターの暗殺を警戒して膠着するかは運次第になるが、これが基本戦術と定めている。

 なのでそれまでは見つからないように潜伏しているのが一番なのだが、ここで問題がひとつある。

 深刻な魔力不足だ。

 幸いにもジャック自身は燃費が悪い方ではないし、マスターたる龍之介も素人ではあるが魔術回路は存在している。サーヴァントの召喚という刺激を受けて活性化しているいまなら、回路を開く事も不可能ではないだろう。知識のないジャックと龍之介では実行できないのが難点だが、見込みがあるだけ嬉しい状況である。

 しかし、それはあくまで未来でのこと。現状で魔力供給が不足しているのは純然たる事実で、彼女は魂喰いをしなければ現界そのものが危うくなってしまう。

 彼女自身のスキルで露見の可能性は格段に下がってはいるが、正体がバレなくても身辺の警戒意識を引き上げられては暗殺の成功率に支障が出る。そういう訳で、大人しく慎ましい殺人を心掛けている次第であった。

 

「だから、わるいひとを殺すの」

 

 そう述べるジャックの言に、龍之介は考える。

 曰く、悪人の魂の方がジャック自身と相性が良く、それゆえ魔力の補給効率も上がってくるのだとか。つまり数を少なくする分だけ質を求めようというのだ。その意味を正確に理解していた訳ではないが、悪人を殺して喰らうのだという行動方針自体は把握する。

 しかし一口に悪人を殺すと言っても、ジャックの糧として満足できる程の極悪人がそんじょそこらに転がっている訳もなし。裏路地のチンピラ程度では話にならず、殺人犯などそう多くはない。最も身近で凶悪な魂がマスターたる龍之介だというのだから皮肉なものだ。

 結論として、彼が捻り出した答えは簡単ながら的確なものであった。

 

「悪人ってことは犯罪者だろ? じゃあ探すまでもないじゃん」

 

 即ち、囚人である。

 法治国家である日本で、ただ極悪人というのならわざわざ探し出すまでもない。犯罪者は刑務所や拘置所にごまんと収容されており、数は少ないながら死刑囚とて――これはそれほどの凶悪犯が少ないという事でもあるため、むしろ日本国民にとっては良いことなのかも知れないが――収容している施設もあるのだ。

 そしてサーヴァントは霊体として物質を透過することができ、檻の中とて容易く出入り出来る。刑務所はジャックにとって、己の糧となる人間(タマシイ)を閉じ込めている生簀(いけす)であった。

 龍之介とジャックの行動は決まった。聖杯戦争の開催地たる冬木を離れ、近隣の刑務所を周る日々。戦争に関して情報を得にくくなるというのはかなりのハンデだったが、逆に自分たちの情報を相手に全く知られなくなるという利点でもあった。

 いくら探しても見当たらない謎のサーヴァントが、突如として現れマスターを暗殺していく。実現できれば悪くない展開である。

 

「行こうぜジャック! COOLな旅にしよう! おぉ――ッ!」

「おーっ!」

 

 そんなこんなで、殺人鬼コンビの刑務所(襲撃)巡り、ジャックちゃんの食べ歩きツアー~(首と心臓の)ポロリもあるよ!~が始まった。……始まって、しまった。

 

 





囚人の皆さん逃げて、超逃げて――ッ!
あ、でも逃げられないように檻の中なんですよね。ご愁傷さまです。

冒頭のあれは完全にねつ造なので、龍ちゃんの過去が原作とは別物かもしれませんがご容赦を。
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