春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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活動報告にも書きましたが、遂にジャックちゃんが召喚できました! 我が世の春が来たッ!! 書けば出るって本当だったのか。



殺人鬼は蒼氷の瞳を見つめ5

 

 

 ぴちゃっ。

 ぴちゃっ。

 暗い閉鎖空間の中で水音が反響する。水が重力に従って床に滴る様を連想させる規則正しいそれは、時折混ざる咀嚼(そしゃく)音と共に大きく乱れる。

 その暗闇に包まれた屋内、侵入不可能な独房の内側で囚人の死体に寄り添う影がひとつ。影は死体の傍に佇み、手に持った赤黒い肉塊に口を付けている。

 ぐじゅっ。

 にちゃっにちゃっ。

 喰っている。彼女が喰っているのは臓物だった。もはや死体と化した囚人の心臓だった。鼓動を止め、血液(イノチ)を循環させる事を止めてしまった心臓。それに口を付け、吸血鬼が如く血を啜り、悪鬼の如く肉を食す。

 当然だ。彼女もまさに人でなしの鬼。世に名高き殺人鬼、霧の街ロンドンを騒がせた正体不明の大悪人。切り裂きジャックその人なのであるからして。

 復讐者(アヴェンジャー)と呼ばれるその影は、自身を召喚した主の提案により刑務所に捕らえられている囚人を獲物と定め、襲っていた。

 悲鳴を上げる暇もなく心臓を抉り出し、一瞬にして命を刈り取る闇の死神。鉄格子に閉ざされた独房を傷つけることなく、しかし返り血に染め上げるロンドンの亡霊。

 血肉と共に魂を取り込んだ影は魔力不足(しょくよく)回復(みた)し、黒いながらも霞のように消え失せた。

 

「――ただいまっ」

 

 消えた影が再び姿を現したのは、同市内にあるとあるホテルの一室。

 黒い影は幼い少女の輪郭をあらわにし、美しい蒼氷(アイスブルー)の瞳を(しばた)かせた。

 

「りゅーのすけ?」

 

 男一名で取った部屋だったが、しかし肝心の青年がいない。

 そう広い部屋ではなかったので人がいるかどうかはすぐに分かる。物音ひとつしない室内には、ジャック・ザ・リッパーと呼ばれる少女以外には誰もいなかった。

 ほっぺを膨らませてむすっとした彼女は、ベッドに腰掛けて足をバタバタと暴れさせる。ひとしきり足を動かした後は、力を抜いて柔らかい布団に体を預けた。

 天井を見つめる瞳は焦点が合っておらず、どこか遠くを見つめている。

 

「おかあさん……」

 

 復讐者(アヴェンジャー)英霊(サーヴァント)として召喚された彼女、ジャック・ザ・リッパーは正規の英霊ではない。彼女は――彼女たち(・・・・)は当時のロンドン、延いてはイギリスに多くいた娼婦たちを母とする存在。ホワイトチャペルで堕胎され、生まれることすら拒まれた胎児たち。

 日本では水子(みずこ)と呼ばれる、出産に至らなかった胎児たちの霊がいるとされているが、彼女たちもその一種と言える。その数十万にも及ぶ水子の集合体こそが切り裂きジャック。

 此処に在る彼女は実のところ、反英雄どころか怨霊や亡霊の類に過ぎない。

 だからこそ、というべきだろうか。ジャックが聖杯に望むのは母体への回帰。自分たちを生むはずだった母親の胎内に帰り、きちんと産み落としてもらうこと。子供として、母親に愛情をもらうこと。それだけである。

 これだけ聞けば哀れな幼子の切実な悲願であるが、しかし忘れてはならない。

 

――彼女(・・)は殺人鬼である。

 

 自らの母親だったかもしれない女性を惨殺した、言い訳のしようもない加害者である。この世に生まれて来なかった彼女に人間社会の善悪を理解しろというのは酷かもしれない。だが、それでも、殺人は悪である。

 人間は動物を殺すのに、どうして人間を殺すのはいけないのか。そんな問い掛けを耳にする事がある。そこに倫理や良識、道徳といった物を差し挟まなければ、答えはごく単純な代物だ。

 現代社会で罪だと定められているから、これに尽きる。そこに感情や論理など存在しない。そういうものだとどこかの誰かが決めたから、そうとしか言いようがないだろう。

 殺人を悪である、罪であると定めることで、政治体制による平和を保っているのだ。極論、戦争中の殺人は悪ではない。何故か、政府が悪であると認知しないからだ。

 本質的に、人殺しは悪い事ではない。ただ、人によって嫌な事ではある。そしてある人にとっては良い事であったり、楽しい事であったりする。それだけのことだろう。

 この点に関して、ジャック・ザ・リッパーは上記のどれにも当てはまらない。

 彼女にとっての殺人は、生きるための糧であり母胎への回帰衝動の現れ。決して。そう、決して快楽ではないのだ。殺人による憂さ晴らしや、そこに生じる苦痛に対して暗い悦びを感じることもあるだろう。

 しかし、重ねて言おう。彼女は快楽殺人者ではない。殺人という行為は手段であり、過程であり、行為自体に何かしらの感慨を抱いている訳ではないのだ。目的さえ叶えばわざわざ人を殺す必要はないし、その気もない。殺人に及ぶのは、目的のための近道だからというだけなのだ。

 それは主たる龍之介もまた同じく。

 彼は死の追及、命の探求こそが目的。殺人行為はそのための手段に過ぎず、命を弄ぶのはあくまでそのための過程なのだ。この類稀なる殺人者でありながら、殺人行為そのものには感慨を抱いていないという点。この非常に近しい共通点があったからこそ、触媒なき召喚で彼と彼女は出会ったのかもしれない。

 

「……りゅーのすけ、りゅうのすけ。――龍之介」

 

 少女は虚ろな眼で召喚者の名前を呟く。

 彼は言った、おかあさんじゃないと。

 彼は言った、愛していると。

 ジャックはそれが分からない。

 彼女にとって、己に愛を注いでくれる存在はおかあさん(・・・・・)だ。根幹が胎児の亡霊である彼女は、自分以外の存在というのを母親しか知らない。彼女たちが初めて外に出るときは「堕胎」によるものなので、出産する「おかあさん」という概念はあるが、「おとうさん」と言う概念は存在しないのだ。

 当然ながら、その他の人間関係などなお知るよしもない。

 友人、恋人、主従――わけがわからない。英霊として既に完成した存在であるジャックは、成長する事がない。たとえ教え込んだとしても、理解することが出来ない。

 故に彼女は悩むのだ。母親ではないと否定した事と、愛していると言った事が繋がらない。愛をくれるのはおかあさんだけで、龍之介は愛をくれて、でもおかあさんじゃなくて。

 狂々(クルクル)狂々(クルクル)、考える。

 ジャック・ザ・リッパーは狂気の象徴。少女の幼い精神性は、狂気に汚染されている。筋道さえも狂った思考は、決して妥協点(こたえ)に辿り着けない。

 おかあさん以外の存在は、ジャック・ザ・リッパー(わたしたち)には必要ないし在り得ない。

 迷路の中で彷徨ったまま、ゴール出来ずに消えるのだろう。無知(しろ)くて、純粋(しろ)い、白無垢の少女。彼女が(むち)でなくなる未来は、きっとない。

 永遠に幼く、純粋なまま、彼女は人を殺し続ける。

 明けない夜はないかもしれないが、晴れない闇というのは存在するのだ。

 

 

 





勢いづいて書いたはいいけど、途中で殺人と悪の定義とか訳の分からない話になってしまった。本当にわけがわからないよ。
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