春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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邯鄲に差し込む朝日5

 

Eine Faust Finale(涅槃寂静・終曲)ッ!!」

 

 環境の操作に長けた界の創法に、事象の解体・解析を主とする解法の合わせ技。

 己自身を中心とした領域内の時間流を(とどこお)らせる凍結の夢。

 水希が成した斬首の覇道が、降下する神の杖を押し留める。

 

「今のうちに――みんな、お願い!」

「まかせてみっちゃん! 行くよ鳴滝くん!」

「おう、やれ龍辺ッ!」

 

 ここで遂に我らが重戦車(タンク)、鳴滝淳士が動き出す。

 最高値を誇る戟法の剛と楯法の堅。体躯の大きさから連想できる通り、ただ純粋に硬く力強い。

 奇を衒った特殊能力など要らぬ。

 ただ己の肉体さえあればそれで十分に事足りる。

 その自負ゆえか、至った破段は単純にして強力無比。

 

――曰く、重量操作。

 ただ重く。何より重く。世界の何より己は重い。

 字面だけ見れば自己中心ここに極まれりだが、それは自分を重んじるからこそきちんと他者に向き合えるのであり、また仲間に恥じない自分であろうとする意思の表れでもある。

 悌の急段もこの思想から発展を遂げた結果。何より重い自分を定義したことで、外に目を向ける段階になったということ。

 水希の創界に踏み入っても時間の流れが変わらないのはこの急段による彼我合一のためである。

 我も人、彼も人。

 確固たる己があるからこそ、仲間との繋がりが重いものだと証明するのだ。

 故に重力。重力。重力。質量が増大すらば攻撃も防御も飛躍的に上昇するため、ただ殴るだけでミサイルの衝突に等しい破壊をばら撒くことが出来る。

 しかし反面、重量が肥大化すればするほど、己の重さで移動そのものが困難になる。アイツ程の力と堅さを持っていなければ、そもそも指一本とて動かす事が出来なくなってしまうだろう。

 

――それを補うのが歩美の破段だ。

 物体を彼方へ飛ばす空間跳躍の夢により機動力の低さを補填(カバー)する。

 完全な時間停止ではないために裁きの軍勢は未だ降下をやめていないが、本来マッハの域にある移動速度が自動車程度にまで落ち込んでいるのだ。

 道路を走行する車くらいなら邯鄲などなくとも常人にだって目で追えるし、距離さえあれば避けることだって可能な域だ。

 それが邯鄲を制覇した盧生の眷属、それも終段顕象の後押しを受ける戦真館なら訳はない。

 尋常ならざる運動エネルギーを、同じく尋常ならざる重力質量によって相殺せしめる。

 

「おォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 墜落、墜落、墜落、剛力、剛力、剛力――――激突激突激突激突激突。

 

 右の拳を振るったら間髪入れず左の鉄拳。

 息つく暇もなく連打乱打と重戦車の主砲が絶えず火を噴く。

 傍から見ていれば縦横無尽に動き回っているような光景だが、本人からすれば自分は一歩とて動いていないにも関わらず、次から次へと相手が襲いかかって来ているに等しい。

 これに見られる主観と客観の差異は、超越者(ツァラトゥストラ)の求道創造のそれに良く似ている。

 もちろんそれは、更なる蚊帳の外にいる甘粕正彦が感じているものでもある。奴からすれば水希の破段が発動した瞬間、まさしく刹那の間隙で神の杖が撃墜されたように思っただろう。

 

「終わりだ……甘粕ゥゥ――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「高慢だな柊四四八、仲間を神と(あが)めるかよ」

 

 愉快そうに吐き捨てる甘粕に自慢する。

 

「ああ。彼らこそが俺の英雄。俺の理想。――俺の憧れだ。彼らの眩しさに焦がれるからこそ、俺もまたそう成りたいと願い、奮起する。それを勇気と言うんじゃないのか?」

「――――そうか、そうだな。それもまた勇気。それこそが勇気ッ! 友はいるし人は愛する。部下はいるし敵も愛する。だが、俺に仲間はいなかった。曰く、誰も信じていない男だからな。お前たちの愛と勇気に――その絆に胸を打たれたその時点で、俺は敗北していたということか」

 

 敗者は手足を放り出し、瞳を閉じて感慨に耽った。

 勢いだけの莫迦な男だが、しかし、きっとそれだけではないのだろうとも思う。この男にはこの男の物語があり、葛藤があり、苦難があってここにいる。思えば、続編の終盤でその恋愛観など垣間見る事ができたのだったか。詳しく知る気はもはやないが、やはり魔王もまた人間だったということだ。

 

「く、くくくっハハハハハハハハハハハッハハハハハァッ!」

 

 甘粕正彦は声を張り上げる。

 そうして豪笑をあげながらも、寂しげに感じるのは俺だけだろうか。

 別れを惜しみなどしない。俺たちはそんな関係では決してない。むしろ不倶戴天と称すべきであろうし、甘粕正彦は生きているべきでないと思っている。

 だからそう、いま互いの間にある静寂は、きっと達成感であり敗北感なのだ。

 

――前を向け、柊四四八。この男がそうであったように!!

 

 正面から見定めた甘粕の顔は、どこか安堵の表情にも見えた。

 

「ならば良し、是非はない! 俺の負けだァッ! この先の未来の行く末、後はお前たちに託すとしよう。さらばだ英雄! 魔王たる者、敗れれば散るが定めだが…………――なればこそ一つ置き土産と行こうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

「万歳ァァィ!、万歳ァァィ!、おおおぉぉォッ、万ッ、歳ァァァァィ!!」

 

 甘粕正彦は喝采と共に消え去った。

 最後の一言は、要するに第二第三の云々という奴なのだろうか。

 支離滅裂な発言だったが、残念極まる事に薄らと理解できてしまう。

 

「…………万仙陣もあるのかよ」

 

 少なくともあの甘粕は、未来の俺と対面した事があるようだ。

 緋衣征志郎の事は知っているが、実際に会ったわけでも悪徳の詳細を調べた訳でもないからだろうか。

 逆十字の(ヤミ)と邯鄲の(ユメ)は未だ根強く残っているらしい。

 阿片に塗れた未来を思い、陰鬱をため息と共に大きく吐き出す。

 

――悲報。

 どうやら俺の八層試練は、まだ終了していない模様。

 

 

 




_-)))コソコソ
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