春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
短編なら書けるかなと思ったけど、間の日常シーンが思いつかなくてあえなく断念。いつもの最初と最後を繋げたそれらしき不良品に……
あと、誰か感想くれたら嬉しいな[壁]_・)チラッ
これはありえない一幕。
何処かの誰かが思い描いた空想である。
本の隙間に挟まった、何の関係もない紙切れである。
「――先輩。先輩、起きて下さい」
「んん? ん~」
とあるマンションの一室に声が響く。そこに住む男の物ではない、透き通った少女の声音だ。
それに呼応するようにくぐもった声が上がる。この家の住人である男の声だ。男を眠りから覚まそうとする少女に抵抗している。呼びかけと抗議の唸りを幾度か繰り返して遂に嫌気が差したのか、少女は強硬手段へと移ることにした。
「もう、先輩ったら!」
「いてっ! なんだ!?」
夢見心地だった所に頭部への衝撃を受け、男は驚愕とともに目を開ける。
「なんだじゃありません。もう朝ですよ、学校に行かなきゃです」
「あーそうか。そんな時間なんだな。おはよう、南宮」
「おはようございます、暁先輩」
男の名は暁古城、第四真祖と呼ばれる吸血鬼。
少女の名は南宮那月、暁古城の監視役として派遣された攻魔師である。
その後古城宅で朝食を済ませた二人は、彩海学園へ向けて通学中であった。
「わざわざ起こしてくれなくても良かったのに、っていうかもうちょっと寝ていたかった」
「確かに吸血鬼に朝は辛いかもしれませんが、それだと私が学校に行けなくなってしまいます」
「じゃあそんな四六時中そばにいなくても……」
夢の世界に思いを馳せる古城と、それをバッサリ切り捨てる那月。
いつも通りの二人の姿だ。
「そんな訳には行きません。これでも私は、第四真祖たる先輩の監視役ですから」
「監視役なら大人しく影から見ててくれよ、生活に干渉するんじゃなくて」
己の役目を掲げる那月と、それに辟易する古城。
これもいつも通りの姿。
「影から見ていては咄嗟の事態に対応できません。それに、観賞はしていません。監視です」
「いや、そこまで上手く言えてないと思うぞ」
「先輩の名前も洒落てるようであまり上手くありません」
「人の名前をバカにすんなよ! ってか名前は俺のせいじゃないだろ!?」
打てば響くという言葉を体現するようにじゃれ合っている。
仲睦まじく登下校を繰り返す彼らは、自分たちがどう見られているかなど考えもしていない。
こんな日常が、いつまでも続くと思っていた―――
「南宮ぁ!」
「せん、ぱい……」
監獄として造られた人工島の砦、その内部に怒声が響き渡る。
血相を変えて乗り込んできた男、暁古城の声だ。
「いきなりいなくなったと思ったら。何だよ、監獄結界って」
「知って、しまったんですね」
監獄結界。
凶悪犯罪者たちを捕らえているこの島そのものを結界に取り込み、脱走不可能な異次元へと封印する魔法。
強力な術式故に扱える水準にある術者は限られており、現状でそれに最も適している者は、那月だ。
そしてこの魔法は使用者を中心として展開される永久術式。
つまり、これを発動すれば術者は――
「私は、あと半時間もすればこの玉座で眠りにつきます。それが、監獄結界の主たる者の役目」
「そんなことって」
「心配ありませんよ。逆に言えばこれほど安全な場所もありませんし、明日からまた学校で会えます」
「それはお前じゃないだろうっ!」
いや、その人格は南宮那月そのものなのだろう。
ただ、肉体が幻想に過ぎないというだけで。
「じゃあ、だったらどうすればいいんですか!」
古城の叫びを受けて、那月はタガが外れたように声を荒げる。
「監獄結界じゃなきゃもう犯罪者たちは抑え込めない!」
「それをしなきゃ近いうちにこの島は彼らによって壊滅する!」
「私しか出来る人がいないなら、私がやるしかないじゃないですかぁ!」
かける言葉を見失った古城と、音もなく涙を流す那月。
玉座の間が静寂に包まれて、どれほどの時間が経過しただろう。
それを破ったのは、古城の問いかけだった。
「俺は、お前を止められないんだな」
「……はい」
「俺は、お前を止めちゃいけないんだな」
「はい」
天を仰いだ古城は、強い意志を宿した瞳で少女を射抜く。
「分かった、もう引き止めないよ」
その言葉に安堵と寂しさを感じる那月だが、古城はその代わり、と言葉を続ける。
「俺はお前と一緒にいる。例え十年経とうと百年経とうと、お前の傍でずっと生き続けてやる」
「監獄結界で眠り続けても怖くないさ。夢の中でも、俺が那月を守るから」
「これでも俺は不老不死の吸血鬼、世界最強の第四真祖だからな」
呆れ、落胆、驚愕、羞恥、幸福、一度にいくつもの感情で胸が満たされ、那月は笑いがこみ上げてくる。
「今はまだ、私の方が強いですけどね」
「ひでぇ、俺だってもう何年かすれば眷獣を従えられるって」
「期待しないで待っていますよ」
それこそ、永遠にだって。
貴方を待ち続ける/お前を守り続ける。
二人の物語は、これから始まりを迎えるのだ。