ムラサメスピンオフ 仮面ライダーレンゲ   作:名もなきA・弐

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お待たせしました。今回は短いです。


第二頁[赤き巨蟹は問い掛ける]

某月某日、とある昼頃。

誰も来ない裏路地で、それは起こっていた。

 

「……痛ぇっ!」

 

壁に叩きつけられた男が目の前の人物を睨む

整髪剤で逆立てた金髪と派手なジャケットとズボンを装った、明らかにトラブルを招く側の人間だ。

当然、威圧的な外見に違わぬ粗野な態度を隠さずに自信を路地裏へと引きずり込んだ人物を睨む。

相手は至って普通の装いをした自分と同じぐらいの若い青年……身体を鍛えているようにも見えない。

 

「さてさて、ここで問題です!」

「はぁっ?」

 

突拍子もなく青年が口を開いた。

金髪の男性が苛立つよりも早く、事態は進んでいく。

 

「『俺は一体何者でしょう?』……お答えをどうぞっ!」

「知るわけねぇだろうがっ!!」

 

まるでクイズ番組の司会者のような底の抜けた明るさで問い掛ける青年に、男性の怒りが頂点に達した。

目の前にいる人物をとにかく殴り飛ばそうと握り締めた拳を振り下ろそうとした時、青年の提示した『回答』によって動きを止めてしまう。

それは彼にとって一番聞きたくなかったこと、一刻も早く忘れたかった忌まわしき出来事だ。

怒りは不安と恐れによって塗り潰される。

 

「ま、まさかお前……」

「回答拒否か。それじゃ、罰ゲームだ」

【キャンサー!】

 

音声が響いたそれを首筋に突き刺した瞬間、青年の身体が赤いインクへと塗り替えられていく。

同時に甲高い金属音が一定のタイミングで外に響き渡る。

 

「あっ、あぁ……!!」

 

男の方は顔や下半身から体液を漏らしながら、恐怖の表情で異形となった青年を見上げる。

赤い甲殻を全身に纏った化生は、右手に備わった巨大な鋏を開閉させながら嘲笑う。

 

『残念だったなぁ。正解すれば、苦しまないよう一瞬で色を抜き取ってやったのに……不正解じゃあ仕方ないよな。うん、仕方がない』

 

腰を抜かし、必死に逃げようとする男の眼前に異形となった鋏を突きつける。

 

『生き続ける苦しみを、永遠に味わえ』

 

開かれた鋏が閉じた瞬間、男の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

陽都市に数多く存在する学び舎の一つ『彩樹学園』。

刀夜と瑠璃の通うここは個性豊かな生徒や教師たちが多く在籍しており、穏やかな校風なども相まって人気な高校として選ばれるぐらいの知名度がある。

時刻は午前中の最後の授業が終わった直後……所謂昼休み。

 

「なぁなぁ、このキャラ超可愛くね?」

「エッッッ。マジマジ何のキャラッ!?」

「ラビットたんの擬人化」

「嘘だろっ!!?」

 

怪獣を擬人化したイラストで盛り上がったり。

 

「男の娘と女装男子の違いって何?どっちも可愛いし違いななんてなくない」

「ばっかお前っ!蕎麦とうどん並に違うに決まってるだろ!良いかお前、男の娘というのは無限の可能性をだな……」

 

妙な趣味嗜好を持つ男子生徒の地雷を踏んでしまった女子生徒など至って普通、と表現するには些か癖の強い光景が広がっている。

そんな中、刀夜はサンドウィッチを片手に大人気カードゲーム『ライドファイターズ』のカードリストをN‐フォンで流し見していた。

 

(めっちゃ会話に混ざりてぇ)

 

耳に入って来る楽しそうな会話に、そんな本音を心中で吐露する。

刀夜は別に人見知りな訳ではない。何だったら率先して声をかけることが出来るタイプの人間だ。

しかし、「学園の王子様」でイメージが通ってしまっている彼の前ではクラスメイトも漫画やゲームなどの当たり障りのない会話しかせず、女子に至っては大半がまともに話せていない。

瑠璃がいれば多少は盛り上がるのだが、生憎とLOT関連の仕事で学校に来ていない。

 

「普通の友達、欲しいなぁ」

 

何の気兼ねもなく普通に話せる親しい人物に会いたい、年相応の悩みが刀夜に溜め息を吐かせる。

誰にも聞こえずに一人呟きながら、サンドウィッチを平らげた時だ。

 

「黒道ー、いるかー?」

 

廊下から顔を覗かせたクラスの担任が自分を呼んでいた。

「はい」と返事をして廊下に出る。

 

「すぐに家に戻って欲しい、何でも仕事の手伝いとかで……」

「ありがとうございます」

 

爽やかな笑顔で感謝の意を告げ、すぐさま自分の仕事である封魔司書としての意識に切り替える。

校舎から外に出た彼の顔は、余計な思考を捨てた鋭い表情へと変わっていた。

歩きながら専用のインカムを装着し、応答する。

 

「こちら刀夜。聞こえるか瑠璃?」

『オッケー、通信に問題なし』

 

短いやり取りをしつつ、刀夜はカバンに忍ばせた護符を握り締める。

すると彼の着用していた学生服は黒い軍服へと変わり、顔には烏の黒い仮面が装着される……封魔司書としての装いへと自身を塗り替えた刀夜は状況を確認する。

 

「昼間からの調査ってことは、『例の噂話』と『色抜き事件』に繋がりがあったってことか」

『ええ。悪いことをする人の前に現れる赤い怪物……そんな都市伝説みたいな話が広まった直後からの戯我出現。偶然じゃないわね』

 

行き交う人たちの視線が向けられることなく、常人とはかけ離れた身体能力を持って高所からの調査を続ける刀夜。

彼らが追っているのは赤い怪人と色を半分だけ抜き取られた人間の事件。

前者は所謂発祥元が不明の都市伝説で、悪いことをしていた人間の前に赤い怪人が現れるという話だ。

それだけならば単なる噂として終わっていたのだが、それからしばらくして別の事件が起こる。

ゴミ捨て場などから『半分だけ色を抜き取られた人間』が発見されたのだ。

被害者たちは命に別状はないのだが、透明になった自分の半身を直視して発狂してしまっており、まともな聴取すらも実質不可能となっている。

当然、こういった芸当が出来るのは戯我もしくは魔術師のような神秘を知る者しか在り得ない。だが、街に張られている結界が破れていないことから、その線は限りなく低い。

 

「また、モンストリキッドで変異した人間の戯我か」

『餌として襲っているというより、わざと食い尽くさないでいる感じよね。快楽目的なのかしら?』

「どちらにせよ、このまま野放しにするつもりはない」

 

戯我の力は人間が簡単に扱って良いモノではない。

人食いの性質を秘めた魔のインクは、それ相応の鍛錬や技術がなければやがて破滅してしまうだろう。

それは、人の時代が終わることを意味する。

 

「今ある景色を汚すことはさせない。そうだろ、瑠璃」

『分かってる。そのための私たちでしょ?』

 

通信越しでも、二人の距離は変わらない。

本当の姿を知っている者同士、それも幼い頃から一緒だった彼らだからこそ見える色がある。

互いに短く笑うと、瑠璃の気配が変わった。

 

「っ、見つけたか?」

『座標を送る、注意して!」

 

N-フォンから送られた位置情報を確認し、ビルとビルの間を駆ける。

宛らパルクールのような身軽な動きを持って飛び移っていくと、裏路地に二人の人物が見つかった。

 

「最後の一人、見ーつけた♪」

【キャンサー!】

 

赤いモンストリキッドを首筋に差し込んだ青年が、流し込まれたインクによって肉体を変異させる。

最初の印象は、右手に巨大な鋏を生やした異形で、所々敗れた作務衣のような黒い和服を羽織っている。

その下にある全身は赤い甲殻に覆われており、両肩には筋脚が三本生えている。

胸元に彫り込まれた紋様はまるで、怒りや恨みに彩られた人間の形相のようだった。

 

「蟹坊主……いや『キャンサー』か」

 

刀夜が苦虫を嚙み潰したような表情で戯我を睨んだ。

世界の伝承で似たような名前や容姿を持つ幻獣や妖怪が数多く存在するように、戯我にも色や名前が微妙に異なる個体が確認されている。

そして、その中にはハウンドやトータス、オニといった種族全体の名を指す個体も僅かながらいる。

目の前にいる戯我は日本地方の伝承に登場する『化け蟹』や怨霊『平家蟹』、そしてギリシャ神話においてヘラクレスを暗殺するために送り込まれた刺客……近年では『カルキノス』の名で知られている巨蟹の種となる存在。

『死』と深い繋がりを持った蟹の伝承たる『キャンサー・ギガ』は巨大な鋏を開閉させて男性を威嚇しながら問い掛ける。

 

『さてさて問題。俺は一体何者でしょーか?制限時間は特別サービスで十秒!シンキングタイムスタートッ!』

「し、知らないっ!あんたみたいな化け物は知らないっ!!」

 

大仰な動作と声で問い掛けをする戯我に男性が叫ぶ。

あまりにも必死で情けない態度に嗤いながら、腕を交差させて不正解を提示する。

 

『ブッブー!残念、正解は……』

 

屈んだキャンサーに耳打ちされた瞬間、男性の顔が変わった。

恐怖の表情は変わらなかったが、より深い絶望の色が身体を震わせる。

 

「な、何でこんなところに……!」

『逃げていた奴らは、これでお前だけだ。んじゃ、生きる苦しみを味わいな』

 

キャンサーが鋏を大きく開く。

その間にも、刀夜は既に走り出していた。

レリックドライバーにセット済みのレリックライザーのスロットに、メタリックシルバーとシアンのモンストリキッドを起動し装填。

 

【スレイプニル!】

【スプラッシュ!】

Loading Color(ローディング・カラー)! HYBRID(ハイブリッド)!】

 

手すりを足場替わりにして高く跳躍。

自由落下しながらも、標的の戯我から目を離すことなくグリップのトリガーを弾いて叫んだ。

 

「変身!」

 

上下に出現するメタリックシルバーとシアンの五芒星。

二色のインクが刀夜を包み込んだ瞬間、音声が鳴り響いた。

 

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!交わる双つの色彩!ハイブリッドカラー!】

「ふっ!」

 

変身したレンゲの姿はカラスを模した黒のフロックコートではなく、光輝く銀色の羽織と重々しい甲冑に鉢金を装備した姿でシアンカラーの装甲が差し込まれている。

ハイブリッドカラー……所謂亜種形態に変身したレンゲはすぐさまスプラッシュの能力を発動。

激流の柱が牽制するようにキャンサーの周囲へ落ちると同時に、着地したレンゲはAウェポンSRによる居合を放つ。

しかし、少し動揺しただけの巨蟹は重い抜刀を鋏で防ぐと強引に押し返そうと右手に力を込める。

 

『お前が霊装使いって奴?話は聞いているよ、俺の邪魔をしてくれちゃうってね』

「ならついでに教えてくれよ。お前の使っているインクは誰からもらった?」

『質問するのは好きだけど、質問されるのは好きじゃないなーっと!』

 

右手の鋏を思い切り振るい、無理やり距離を開けた瞬間に鋏がレンゲの顔面に迫る。

身を捻って躱すと今度は鋭い膝蹴りが襲い、それをドッジロールでどうにか回避する。

 

「蟹が蹴り技なんてありかよ」

『十本や八本もあるんだぜ?いくらでも使って良いのさ!』

 

皮肉に気にすることなく、キャンサーは人面が浮き上がった鬼火を全身から放出する。

怨めしげな呻きと共に迫る鬼火をレンゲは斬り払うも、防戦一方の状況に舌打ちした。

明らかに力を使いこなしている……モンストリキッドで人間が変異した戯我の厄介な点はそこだ。

封魔霊装はリキッドの使用者が持つ想像力と創造力によって姿と力を変えるが、何も仮面ライダーの専売特許ではない。

本来の戯我は各々の思想や人格を持つが、古くから生きる者であるが故に己の姿や能力が固定されてしまっている。進化や成長はあっても根本的な性質が変わることはない。

そして魔術師や神の信者など、神秘を知る者も同様に古くから伝わる伝承のイメージに引っ張られる。

しかしキャンサーのような、『伝承に詳しくない者』はイメージに囚われず、独自の解釈で絵図を描き始める。

より自分に適した容姿へ、より自分に適した能力へと完成されていくのだ。

 

「長引けば不利かっ!」

【スレイプニル!】

「急々如律令!」

【Calling!】

 

日本刀を鞘に納めずにレリックドライバーの操作をすると、空いた左手で握り締めた拳を振り被る。

馬鹿の一つ覚えのような軌道に呆れた溜息を吐いたキャンサーが再び防御すべく、鋏を持った腕を構える。

単純なストレートパンチは強靭な甲殻で受け止められる……そのはずだった。

 

『っ!?な、あぁっ!』

「スレイプニルの馬力、嘗めんなよ」

 

しかし、結果はレンゲの拳による鋏の粉砕だ。

甲殻の赤い破片とインクを撒き散らしながら、火花を散らす腕を抑えて初めての動揺を見せる戯我に、仮面の下でほくそ笑むと勢いが乗った斬撃を浴びせる。

斬る、というよりは叩き割るといった表現に相応しい一撃がキャンサーの甲殻を抉った。

 

『ちぃっ!ならっ』

 

再び人面を妖しく光らせると、鬼火がゆっくりと全身を包み込む。やがて脱皮するかのように、人を象った巨蟹から蟹型の戯我が這い出てきた。

見た目は似ているが、落ち武者のような垂れ下がった黒髪が身体中に張り付いた存在……キャンサー・ギガの分身体である『ヘイケガニ・ギガ』だ。

 

『シュシュシュウウウウウウウッッ!!!』

 

口元から奇声と強酸性の泡を吹き零しながら、両腕に生やした鋏を構えて突撃してくるヘイケガニをレンゲは難なく抑え込む。

明らかな劣化版だが、キャンサーの目的は手数を増やすことではない。

 

『そんじゃ、タラバ……じゃない、さらばっ!!』

 

勝ち目なしと判断した彼は、すぐさま変異を解除して元の姿に戻ると瞬く間に逃走。

当然、レンゲも追跡しようとするがヘイケガニが吐き出した泡によって押し戻されてしまう。

本体を守るように立ちはだかる戯我が再び泡による攻撃を行おうとするが、それよりも早く動いたのはレンゲだった。

 

「邪魔だぁっ!!」

【スプラッシュ!ヤタガラス!Charging Color(チャージング・カラー)!】

 

Rモードに切り替えたAウェポンに二色のモンストリキッドをそれぞれリードし、音声を鳴らす。

本能による警報が響いたのか、慌ててヘイケガニが眼前にいる霊装使いを溶かそうと動く。

しかし、その攻撃が届くことはなかった。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)!バイカラー・クロマティックショット!】

「くたばれえええええええっ!!」

 

鋭い爪を象った激流が戯我の全身を呑み込み、高圧水流による斬撃を連続して受ける。

まともな防御すら取ることも出来ず、やがて。

 

『シュシュウウウウウウウウウウウッッ!?』

 

切り刻まれたヘイカガニ・ギガは悲鳴と共に爆散。

すぐさま変身を解除しながら全力疾走してキャンサー・ギガだった青年を探すべく、裏路地へと出るが時既に遅し。

 

『反応がない。逃げられたわ』

「くそっ」

 

拳を握り締めるが、手掛かりがないわけではない。

今回の被害者は色を抜かれていないため、事情を聞くことは可能だし変異していた人物の顔は覚えた。

後はこの支部にいるLOTや魔祓課の捜査で絞り込める。

思考を切り替えた刀夜は、瑠璃に応援を要請するべくインカムに手を当てた。

 

 

 

 

 

少し離れた場所で『彼ら』はいた。

一人は上等な白いスーツに藍色のネクタイを身に着けた端正な顔立ちの男性、もう一人は黒いローブで全身を隠した人物だ。

 

「あれが仮面ライダー、か……」

『噂に違わない強さだ。如何致しますか?』

 

先ほどの戦闘を観ていた彼らは興味深そうに思案にふけり、警戒の色を強くしている。

黒いローブの問いに、男性はやがて口を開く。

 

「気にすることはないさ。見ればただの少年、必要以上に警戒する必要もないだろう」

 

それは驕りなどではなく、圧倒的な実力に裏付けされた余裕だ。

しかし、その目は注意深く観察を続けており、油断している様子はない。

故に黒いフードは何も言わずに従うだけだ。

 

『では、しばらくは静観すると』

「私の邪魔をするなら、容赦はしないがね」

 

そう薄く微笑む。

男性の右手には藍色のモンストリキッドが握られており、三つ首を持つ巨大な犬の絵柄が彫り込まれている。

まるで獲物を見つけたかのように、一瞬だけ鈍く輝いた。




付録ノ弐[ヤタガラス]
日本神話に登場する烏で賀茂氏の祖神とされている霊鳥。暗い道を案内すべく、かつての天皇を大和へと導いたとされる。
また、中国神話には「火烏」と呼ばれる三本足の烏がおり、こちらは太陽と縁が深い。
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