エアが必死になって探そうとしてすぐ、無傷のルフィが意識の無いおばさんを林の奥から引きずってきた。
「あー、びっくりした。エア、突然離すなよ!」
「ごめんなさい! ……それで、その方は……生きてる、よね?」
「ああ。気絶してるだけだぞ」
一安心。事故で人を殺してしまいましたなどシャレにならない。
次に、おばさんの取り巻きらしい人に謝ろうとして──気付く。
「あれ? さっきの人達どこ行ったの?」
周囲の人影は眼鏡の地味な少年一人分だけで、さっきまで居た男達など影も形もなかった。ルフィも首を傾げている。すると、一人残っていた少年が喋り出す。
「アイツらなら逃げましたよ。僕も、アルビダも置いて」
「アルビダ? その名前、どこかで……っと、ごめんね。先に君の名前を聞いてもいいかな」
「コビーです。金棒のアルビダはこの海域じゃそれなりに有名な海賊で……」
「あー、そうだ。プリンプリン准将が追いかけてた人だ。確かそんな名前を言ってた」
思い出した、と言わんばかりに頷くエアへ、プリンプリンを知っていたコビーが泡を食ったように話しかける。
話についていけないルフィは相変わらず首を傾げていた。
「もしかして、エアさん達は海軍の方なんですか!? でしたら、お願いします! 僕を海軍に入れてください!」
「俺たちは海賊だぞ」
「なんで海賊が東の海の守護神と知り合いなんですか!?」
「いや海賊なのは彼だけね。私は違うから。ていうか、あの人そんな大層な異名があったのね」
「では、なぜ彼と一緒に……」
「なぁエア、おれ腹減ったぞ」
「あぁ、もう! 順番にやるから待って!」
◇
「じゃあ、コビーくんは海釣りに出たとこをアルビダに捕まって、そっからはずっと雑用をさせられてたと」
「エアさんはシェルズタウンへの運送の途中で渦潮に飲まれかけたルフィさんを見つけて、助けてからこの島に来たと」
「このメシうめぇな! エア、おかわり頼む!」
3人はアルビダ海賊団が残していったアジト、そこにあった食材をエアが調理したものを食べながらお互いの情報交換を済ませていた。一名は食事に夢中なので話はあんまり聞いていない。
「はい、お代わりね。……ひとまず、私とコビーくんはシェルズタウンに行きたくて、ルフィくんは船が欲しいと。各々の目的はそんなところで合ってる?」
「はい」「あと、エアを仲間にすることだな! お代わり!」
「それは却下。お代わりはこっち。問題はどうやってシェルズタウンに行くのか、ね」
「僕が作った小舟なら、そこに浮かべてますが……」
三回目のお代わりを要求したルフィにもう切り分けないまま焼いた肉を手渡し、コビーが作ったという船を見に行ったのだが。
「なんだこれ、棺桶か?」
「あ、ここ釘が取れかけ……もう、木片の集まりね」
流石にこの船で海に出るのは……というレベルの代物でしかなかった。
アジトを探し回っても、小舟などは無い。
──だからこれは、どうしようもないことなのだ。人助けなのだ。ルフィくんはともかく、コビーくんを置き去りにするわけにはいかないから。
「あの、すみません……流石に重い、ですよね。あ、多分あっちに飛ぶと島が見えてくると思います」
「うっひょー! やっぱ空を飛ぶのって気持ちいいなぁ! エア、さっきのばびゅん! ってなる奴はやらねーのか?」
「やらないよ……」
コビーの案内のもと、男二人を掴みながら空を飛んでいるエアは、酷く憂鬱だった。
まず街に入れば奇異の目で見られることは確定であるし、自由奔放なルフィに至っては何をしでかすか分からない。まかり間違って海賊仲間とでも見られようものなら──
『海賊に情けなど要らん!』
──大将赤犬を思い浮かべてしまってかなり気分が悪くなる。やっぱりルフィだけでも捨てていこうか。
「あ、エアさん、ルフィさん! 見えてきましたよ! あれがシェルズタウンです!」
つられて視線を向けると、一際高い海軍支部が目立つ街並みが見えてくる。
ようやく終わるのか。さっさと人が居なさそうなとこに二人を下ろして、依頼を終わらせて、帰ろう。
──後年、麦わらの一味との出逢いについて聞かれたエアは、毎回決まってこう答える。
『“人が居なくて海軍支部からも離れた空き地”なんて怪しい場所に、なんで降りたんだろう』と。
「──おい、なんだありゃあ。俺ぁ、あの処刑場には立ち入り禁止って言ったよな?」
「はっ」
海軍支部の司令室で、処刑場の上空を飛ぶエアと二人を見てしまった男が椅子に座ったまま、敬礼をする海兵へ指令を出す。
「──撃ち落とせ」
「はっ? ですが、まだ彼らが賊かどうかは──ぐわぁっ!」
海兵がその続きを言い切る前に崩れ落ちる。
指示を出した男の右腕──その代わりのように生えている斧からは、鮮血が滴っていた。
「俺の命令に従えない奴は要らん。
──さっきの命令を聞いた奴は、今すぐ屋上に行って奴らを撃て」
人の近寄らない広場を見つけたエアが“これで醜態を晒さずに済む”といった心地で緩やかに地上へ降りていく最中──保護者に鍛えられた感覚が、敵意を感じ取った。
「っ、離すよ!」
「えっ?」
「コビー、捕まれ!」
エアがルフィとコビーの手を離した瞬間、3発の銃弾が身体を掠める。
咄嗟に身を捩って傷は避けたものの、明らかに敵意を持っていた。
撃たれた方向は、支部。
「突然撃ってくるなんて正気じゃないでしょ……! っ、また!」
滞空しているエアに向けて、それなりの精度で弾丸が迫ってくる。今度は余裕があったために問題なく躱すが、穏やかではいられない。
(目立つ空中ではこのまま狙われ続ける、か)
ひとまずは銃撃を避けるため、ルフィとコビーを落とした場所に自分も降りたのだが──明らかに捕まっているっぽい人が一人いて、ルフィが話している。
「……おい、なんだお前ら。突然落ちてきやがったが……」
「お前、なんで縛られてんだ?」
「ルフィさん! そいつ、海賊狩りのゾロです! 聞いてた特徴が一致します……!」
「そのゾロとやらがなんで縛られてるのかとかなんで普通に話してるのとか聞きたいけど、狙われてるっぽいから──」
「そこまでだ!」
エアの台詞が終わらないうちに、基地の方向から海兵が迫ってくる。
全員、銃を装備して。
「お、海軍か。やんのか?」
「あーもう、どうしてこうなったかなぁ……!」
「海軍さん! 僕たちは一般人で……あ、ルフィさんは違うのか」
「お前ら本当になんなんだ?」
ルフィとエア、コビー、そしてゾロが思い思いの反応を繰り広げているなか、銃口を向けていた海軍達の奥から一人の巨漢が姿を現した。
「テメェら……海軍大佐であるモーガン様の命令に従わないって事は、死んでもいいって事だよな?」
明らかに海軍としては失格な事を言いながら右腕の斧に触れる男に、エアは絶望した。
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※モーガンが名乗りをあげるよう一部修正しました。