アルバーナ近郊の砂漠で墜落させられたエアは、クロコダイルに捕まったまま、抱え込まれるようにして運ばれていた。
「……それで、これはどこに続いてるんです?」
羽を生やせば拘束からは脱出できるだろうが、追撃から逃れられる状況ではない。
そのため大人しく連れられていたエアだったが、行く先がいかにもな隠し扉の先となると流石に躊躇があった。
「アラバスタ王国が秘密裏に守ってきた場所さ。後を追ってきた海軍を始末するだけのつもりが、まさか上空でお前を見つけられるとは。クハハ、運が悪かったな」
慌てて周囲を見れば、近くの芝生に見知ったジャケットの男が転がっている。スモーカーはクロコダイルに挑んで負けた後のようだった。
「王国最強の兵士も既に沈んだ。麦わらはお前が頼りにするのも分かる良いルーキーだったが……干からびた今、砂に紛れて風化していくだけだ」
そう言うクロコダイルにも、やはり消耗が見られた。湿った髪、口元の血、微かに傾いた体幹……多少のダメージは受けたようだったが、それだけのようだった。
そのままカツ、カツと石階段を降りていった先には、墓室のような空間が広がっていた。
血まみれで座り込んでいた男──コブラ王が真っ先にこちらに気付く。
「きみは……っ! クロコダイル、なぜその子を……!」
「コブラ、お前は王の鑑だが……頭は微妙だな。この海だらけの世界でコイツほど恐ろしい能力者はいない。……想像したことはあるか? コイツが荷物などではなく、兵器を飛ばしたらどうなるか」
「……まさか貴様、プルトンを」
「残念なことに、手がかりとなるポーネグリフはそこの女が上手く隠蔽したようだがな。まァ、それ以外にも利用価値は数えきれないほどあるのが分かっただろう?」
クロコダイルが顎でしゃくった先には、秘書として見覚えのある女性がこれまた血塗れで倒れていた。
「従わない奴に価値は無い」と続けた言葉はきっと自分への脅迫も兼ねたのだろうが、不敵に笑って返してみせる。
「……別に、私は協力しないって手もあるんだよ?」
「残念だが、そのためにビビを生かしてある。お前が頷かないとなりゃ、周囲から拷問にでも掛けていくさ。……クハハ、尤も、その顔を見りゃそこまでする必要も無さそうだが」
一瞬で表情を青ざめさせたエアに対し、勝ち誇ったような笑みを見せるクロコダイル。
くつくつと喉の奥で笑いながら、ポーネグリフの周りに手を付き、周囲を砂に変える。当然、後にはゴトンと音を立てて砂に埋もれたポーネグリフだけが残った。
「……早速仕事だ。これに羽を生やして、地上まで──」
そこまで言ったところで、何かに気付いたらしく、階段をギロリと睨む。舌打ちすら漏れ出た。
「チッ……スモーカーにさっきの男はまだいいが…………あの麦わら、まだ生きてやがったか」
「おい押すな、ここ階段だぞ!」
「転がっても俺はゴムだから効かねぇ!」
「お前が大丈夫でも俺達が……うおっ!?」
言い合いをしながら、一纏めになって転がり落ちてきた3人組に対し、黙って……いや、少し面白そうな表情で葉巻をふかすクロコダイル。
「ワニ〜! 殴りに来たぞ〜! ……って、あり? なんでエアがいるんだ?」
真っ先に姿勢を立て直したルフィが威勢よく吠える。
「俺が捕まえたのさ。……にしても、麦わら。お前のタフさは認めてやるが……全員、戦力差がまだ分からないか?」
「うるせぇ! 俺が勝つ!」
「そこであっさりダウンしてるうちの社長を放っちゃいけませんしね」
「麦わらと共闘も腹が立つが、今はお前を倒す方が先決だ」
「よく分かった。……お前ら全員、砂に還してやろう」
フックを黒く染めるクロコダイルに、血濡れの拳を構えたルフィがまず躍りかかった。
全身の砂を流動させてあっさりと避けられるが、クロコダイルが反撃に移る前にスモーカーの十手が文字通り飛ぶ。
「ホワイト・ブロー!」
「小賢しい!」
擦りでもすれば他の攻撃を喰らいかねない十手は流石に面倒なのか、クロコダイルもフックを使って慎重に弾く。
スモーカーとルフィがそのまま連撃を続けるが、フックで防御、流動で回避をしながらにもクロコダイルにはまだ余裕があった。
背後に回って攻撃を仕掛けてきたシュライヤの足刀をノールックで放った
「グッ……テメェ、覇気使いか」
「未熟だがね。アンタに通用するようでよかったよ、っとォ!」
三方向からの同時攻撃にクロコダイルが選んだのは、全身を砂に変えての消失。
「その程度で良い気になられちゃ困るなァ……」
三者の攻撃が空振ったタイミングで再び姿を現し、狙ったのは──スモーカー。
「戦場では一番弱い奴を狙う……定石だよなァ」
「……っ!!」
黒く染まった
元からのダメージもあったのか、倒れ込んだスモーカーは苦しげに呻くだけで起き上がらない。
「ケムリン!」
「麦わら、目ぇ離すな!」
「
大地を枯らす一撃が大理石を伝い、3人に伸びていく。
が、寸前で全員の身体が浮き上がった。
小さな羽が勝手に羽ばたき、コブラとニコ・ロビン含めた全員を浮かして渇きの力から逃がしていた。当人であるエアは、クロコダイルが全身を砂に変えた隙に階段近くまで逃げ切っている。
「チッ、ハネハネか……ッ!?」
「──
舌打ちを一つして苛立ちを露わにするクロコダイルが、エアに気を取られた瞬間だった。
体技“剃”で一瞬で距離を詰めたシュライヤが、目を見開いたクロコダイルがアクションを取るより早く、
堪らず膝を突いたクロコダイルへ追撃をしようとするが、すぐに立て直しての
「ナイス援護」
「うん。でも、私ここで……」
「おう、後は任しとけ」
戦闘の場ではあまり力になれない、というか、できれば居たくない。
シュライヤとこつんと拳を合わせて、自らに生やした羽で階段のあった空間を駆け上っていく。
背後からクロコダイルの怒声が聞こえた気がしたが、努めて無視して地下室を抜け出した。
「向かう場所は……えっと、ビビの手助けかな?」
クロコダイルがああやってコブラ王まで誘拐しているのに国王軍が動いてないということは、今まさに反乱の真っ只中ということになる。
ミキータかビビ、もしくは他の麦わらの一味との合流を目指し、エアは広場の方へと飛んでいった。