やっほー、ニュース・クー!   作:スイヨウ

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ウォーターセブン

 水の都、ウォーターセブン。

 普段から騒がしさが絶えないこの街だが、今日は一際賑わっていた。

 それもそのはず。アイスバーグ自らが手掛けた海軍専用の超巨大護送艦が完成しようとしているのだ。我らが市長の作品をひと目見ようとする人間が殺到していて、それに人員の半分ほどを割かなければいけなくなってしまっていることも含め、あちこちがてんやわんやだった。

 

 しかしアイスバーグに不安はない。こうなることを見越した秘書──カリファの助言で、最後の運搬を手伝うとびっきりの人員を雇い入れていたからだ。

 

 ただ、誤算が一つ。いや、嬉しい誤算ではあるのだが。

 雇い入れた少女──エアの能力を認めてはいたが、アイスバーグも「デカめの家具とか大砲を空輸してくれたら助かるな」くらいの印象であり、建設レベルで必要な物は大人しくクレーンを使う予定だった、のだが。

 

「んぎぎ……流石に錨は重いですね……」

「ンマー……凄い力だな。いや、ほんとに。どういうパワーしてんだ」

 

 まさかの重量物取り付けまで行うものだから、アイスバーグもンマーと開いた口が塞がらなかった。横のカリファも流石に唖然としている。

 

「ありゃあ、確実にワシらよりパワーはあるが……その重量を支えられるほどの羽というのも中々不思議じゃぞ」

「確かにな。普段見てるのの倍は大きくなってるってのは能力だとしても、羽っつーのは羽ばたいて浮くためのもんだ。なのにアレ、普段より少し早いレベルの羽ばたきしかしてねーぞ」

 

 カクとパウリーは驚きながらも、その分析に熱中していた。まぁ、結論は“分からない”となってしまうのだが。

 結局、最後の作業まで手伝いきったエアを皆で胴上げするなんて騒ぎを迎えつつ、船は無事完成。市民全員のアイスバーグコールも受け終えたところで、ようやく解散の流れになったのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「はー、働いた後の冷たい水はいいですねえ……」

「嬢ちゃん、ビールはもっと良いぜ? ほら、一口やるよ」

「パウリー、アルハラです。やるならアイスバーグさんにしなさい」

「ンマー……もう結構飲んだんだが?」

 

 当然のように行われた打ち上げ。会場はブルーノの酒場だったのだが、表に出してないだけでかなり喜んでいたメンツが早々に泥酔。酒を遠慮しているエアやカリファ、飲み過ぎないようにしているアイスバーグへ我先にと絡み出すなんともカオスな場所と化していた。

 

「なぁ嬢ちゃん! あの錨、浮力考えたら絶対持ち上がらねえと思ったんだが……一体どうしたんだ!?」

「タイルストンさん顔近い! 酒臭い!」

 

 ぶつかる勢いで突っ込んでいったタイルストンを手で押し留めるエアに、視線が集中する。原理としては役に立たないのかもしれないが、物作りを生業としている彼らにとって是非とも解き明かしたい謎ではあったのだ。

 無言の視線に気付いたエアが困ったように笑ってから口を開く。

 

「えっと、私のハネハネの実は羽を生やす能力です」

「ンマー、そう聞いてるな。随分デカい羽が生えてた」

「はい。私に接してるものなら何にでも羽を生やせます。上限はありますけどね」

 

 その言葉に、ほぼ全員が謎が解けたといったような表情になる。タイルストンは分からなかったようだが。

 

「それじゃあ、エアさんは錨にも羽を生やしてたと?」

「はい。大きい羽だと目立っちゃうし、ぶつかっちゃうかもしれないので。極小の羽を大量に生やすことで結構楽してました。それでも重かったし、全部動かす分精神的には疲れたんですけどね」

 

 ちなみに人にも生やせますよ、などと言いながら指先から二対の羽を生やし、パタパタと羽ばたかせるエアに熱い視線を送るカリファは見ないようにしたパウリーは、思った疑問を口に出す。

 

「んじゃ、なんで羽穴から羽生やしてるんだ? 服から生やせばいいだろ」

「そうすると、バランスが取りにくいんですよね。服で引っ張る分はどうしても伸びちゃいますし」

『クルッポー。やはりパウリーは馬鹿だな。そんな事にも気付かないなんて』

「なんだとテメェ!」

 

 ルッチとパウリーが乱闘を始め、ルルとタイルストンが野次を飛ばす。

 カリファは辛抱たまらないといったようにエアの羽を触り、予想通りのフワフワさに顔を緩ませ、エアはくすぐったそうに身を捩り。アイスバーグは店主のブルーノと雑談で盛り上がっている。

 

 それらを少し離れたところで眺めながら、絡もうとしていた一般客があまりの乱雑さに退避していくのを呆れた目で見ていたカクだったが──ふと、疑念が浮かぶ。

 

(他の物にすら影響を及ぼす能力──超人系(パラミシア)で?)

 

 そうだ。そもそも、悪魔の実の能力で“人”に影響を及ぼすものは少ない。諸事情で能力を調べたハナハナの実などは当てはまるが、あれは“生やす”という能力に特化しているからである。ハネハネはそもそも人を対象とする能力ではないし、過去の能力保持者がそうであった記録も残っていない。あくまで、自分に羽を生やすだけの能力であったはず。

 

 “覚醒”。

 CP9として長らく活動してきたカクは、極めた能力者だけが至れるその領域を知っている。

 彼女の能力が、おそらくそれに分類されることも。

 

(念のため、報告しておいた方がいいかのう)

 

 海軍に協力していることの多い立場であるゆえ、危険性は低い。

 しかし、覚醒した能力者の戦闘力は総じて高い傾向にあるのだ。彼女の戦闘力は未知数だが、警戒はしておく必要があるだろう。

 

(…難儀なものじゃな)

 

 任務となれば感情を排して動くカクだが、決して良心を捨てているわけではない。

 むしろ世界の為にやっているという意識、大義のために小義を切り捨てるといった多大な良心があるからこそ、非道な内容ですらも顔色を変えずできると言っていい。

 しかし、それでも──友人を警戒対象として報告するというのは、気分がいいものではない。

 

「──杞憂であって欲しいのう」

 

 ぽつりと溢した言葉は誰に聞かれるでもなく、カクと共に夜の闇に溶けて消えた。

 




[いつもの紹介]

・タイルストンとルル
ガレーラカンパニー所属の結構強い船大工。
ロープを使うパウリーが突出して有名なので忘れられがち。
謎の毛をニュッと潰しては生やしてるのがルル、暑苦しい大男で竜骨折りとかいうベアハッグしてたのがタイルストン。

・カク
CP9の中では一番人間味があると勝手に思っている。
おそらく情には厚いが、任務のために押し殺せるタイプ。ワンピースキャラの中でも凄い好きです。

※タイトルを一部変更しました。

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