やっほー、ニュース・クー!   作:スイヨウ

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過去一原作から遠ざかりました。
少し短めです。


→スカイピア

 

 ジャヤの真上に存在する、幻の島──空島。

 地名としてはスカイピアと呼ぶそこでは、“神”と崇められる男が居た。

 故郷を焼き滅ぼして来たらしいこの男は、スカイピアを統治していた神と交戦しかけ──何者かの介入により、一時撤退。次にスカイピアへやってきた時には、交戦ではなく対話という形で神──ガン・フォールを納得させ、まさかまさかのシャンディアとの交渉役に。

 しかも今度はその足でシャンディアと交渉し、“大地”の分割統治を認めさせる大偉業を達成。その功績と、介入した何者か──ここまで来たらお気付きだろうが、エアもドン引きする有能さを発揮し、僅か2ヶ月で正式な神の座を手に入れたこの男こそが、神・エネルであった。

 

「ふむ……やはり本という文化は青海の足元にも及ばんな。特に思想や帝王学の本だが……ああ、ご苦労。対価はこやつらに用意させてある。ヤマ」

「エア様、こちらの箱にお納めしております」

 

 ヤマと呼ばれた巨漢が、ガシャリと音を立てて木箱を並べる。

 それをエアが軽く検分し、頷いた。

 

衝撃貝(インパクトダイアル)斬撃貝(アックスダイアル)炎貝(フレイムダイアル)水貝(ウォーターダイアル)音貝(トーンダイアル)映像貝(ビジョンダイアル)熱貝(ヒートダイアル)──はい、全部ありますね」

「ヤハハハハハ! 神たる私自ら揃えたのだ! 手抜かりなどあるまいよ!」

 

 高らかに笑うエネルに、エアが苦笑で返す。

 最初、彼と遭遇した時に満ち溢れていた傲慢さは既に薄く、今は各国の王にも負けぬ王気を放つ男となっていた。その変わりようには、彼の部下すら何があったかと原因であるエアに問い詰めるほどであったのだが──

 

『えっと、君主論を渡しただけなんですが……』

 

 という、あんまりな返答だったために部下一同がずっこけたという。

 しかし、エアもその気持ちがわからないわけではない。さる冒険家との縁で空島の様子を見に来て出会った神、ガン・フォール。彼に頼まれた地上の書物を運びに来た際、運悪く(むしろスカイピアの民からすれば幸運だったのだが)エネルに出くわした。

 最初は雷などというふざけた相手に即撤退を決めたのだが、彼曰く『その翼は、空島に住むに相応しい』と興味を持たれた事でタイミングを逃し。物珍しかったのだろう、そのまま手持ちの物を一つ一つ確認され──エネルがその本に出逢ってしまったのだ。

 

 “民と国”。著者は第12代アラバスタ国王であるネフェルタリ・コブラ。

 地上でも類を見ない名君が書き起こした政治論を、圧倒的なまでの頭脳で余さず理解しきり──その思想に、感銘を受けた。受けてしまった。

 

 後は簡単だ。神(空島では王の事を神と呼ぶ)になるという目的はそのままに、良い神とは何かを追い求めるようになったエネルは、ひとまず武力的抗争を捨て、平和的手段で神の座を取りに行ったのだ。

 

『さて、手始めに無為な争いを終わらせてやるとするか。いずれこのエネルが統治する土地が戦火に包まれているなど、笑い話にもならんからな! ヤハハハハハ!」

 

 その過程でシャンディアとの和平を結ぶ──エネルからすれば手に入れようと思えば交易でいくらでも手に入りそうな大地に神側が拘る必要は無いと思っただけなのだが──お互いが納得できるラインを完璧に突いたことで、長く続いた因縁を軽く終わらせてしまったのだ。これにはガン・フォールもにっこり。笑顔で神の座を渡し、かぼちゃジュースを作りに隠居老人である。

 

 何はともあれ、生来の傍若無人さを王の気まぐれ程度へと緩和させたエネルに最早障害など存在しない。

 スカイピアを始めとした空島のいくつかをその能力でもって繋げ、名実共に“神”エネルの称号を手に入れたのである。

 では、そんな彼が今何をしているかというと。

 

「ふむ、エアよ。この書簡を世界政府とやらに届けてくれ」

「え……クザンさんからなら届くのかな……ちなみに、内容をお聞きしても?」

「加盟国とやらへの参加申請だ。天上金とやらを払うのは業腹だが……足がかり的にはやるべきだと考えてな」

「えっ」

 

 丁度いい友人をパイプ役にし、地上に対してある程度の権力を持とうとしていた。

 エネル、地上進出である。

 

「いや、あの……それ返事を持ってくるのも私になりますよね?」

「ヤハハ、もちろん」

「……電伝虫を持ってきますね」

 

 電伝虫……音貝より便利だがどうも慣れぬのよな、などと渋い表情になっているエネルを放置して、帰り支度を始めるエア。彼のことが嫌いなわけではないが、苦手ではあった。だって、近くに居たら確実に何か巻き込まれるから。

 

「エアよ、次は二ヶ月後だ。その時までに貝は用意しておく」

「分かりましたよ……では、失礼します」

 

 ぺこりとお辞儀をして、空島の出口へと飛んでいくエアを見送っているエネルだったが、不意にポンと手を打ち、残念そうに俯く。おそるおそる、ヤマが声を掛けた。

 

「エネル様、どうかなされましたか……?」

「いや、私としたことが、エアにもう一つ頼み忘れていてな……一度、著者たるコブラ殿と対談をしてみたかったのだが。まァ、次来た時に頼めばよいか」

 

 “神”や“天”の文字に拘るせいで天竜人に目を付けられたり、世界政府に困られたりしながらも自らの信じる方向へ進むエネル。

 いずれ“空神”の名を持つことになる彼の偉大な日々は、これからも続いていく。

 





次回から本編に入っていくので、少し投稿が送れます。

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