多分短めのをちらほら上げていく形になります。
→フーシャ村近海→
“運び屋”の異名を持つ少女の名はエア。
『
「うーん、やっぱりこの辺りは迷うなぁ……」
つい数時間前に運悪く嵐に巻き込まれてしまったのだが、その際に地図の入った袋を失くしてしまったようなのだ。仕事と自宅の都合からマリンフォードへの永久指針を所持しているため、帰りに困ることはないのだが……荷物を運びきれないというのは、どうにも気分が悪い。ましてや今回の依頼は海兵として前線で働く父親から、息子への誕生日プレゼントである。まだ一週間ほど猶予があるとはいえ、早めに届けてあげたかったのだ。
そういう理由で、記憶を頼りに海上を彷徨っていたのだが……
「うーむ、どうすっかなー」
「!?」
上空からでも見えるほど大きな渦潮が発生していたと思ったら、それに小舟が飲まれてかけているのを発見してしまった。幸いにも乗っているのは一人だったため、自分でも運んであげられそうなことに安心しつつ、舟へと近付く。
「すげー! お前、なんで羽生えてんだ!?」
「悪魔の実だけど……えっ君なんでそんなお気楽なの? 今飲まれかけてるよね!?」
小舟の主であったらしい麦わら帽子の青年が、目をきらきらとさせながら羽へ伸ばしてくる手を慌てて避けつつ、腕をひょいと掴む。
「ほら、行くよ!」
「うひょーっ! 飛んでるーっ!」
瞬間、激しい水飛沫と共に小舟が波へ飲まれていった。間一髪間に合ったことにホッと胸を撫で下ろしていると、下の青年が快活に笑う。
「いやー、助かったぞ! 泳げねーのに溺れるとこだった!」
「どういたしまして。君はもっと危機感持った方がいいかもね……それで、どこに行く予定だったの?」
どうやら、今死にかけていたことを全く気にしていないようだった。なんとも既視感のある図太さである。
何はともあれ、ここで放置するわけにもいかない。ひとまず、彼の行き先を尋ねてみたのだが。
「考えてねぇ!」
「えー……なんで海漂ってたの?」
この有様である。
「そりゃあ、おれは海賊だからな!」
「海賊? えー、私海賊助けちゃったの? このまま捨てた方がいい?」
「それは困るっ!」
「冗談だよ。はぁ……全く、今日は運がないなぁ……君、名前は?」
「モンキー・D・ルフィ! お前は?」
「エアだけど、待って? モンキー・D…………えっ」
思わず、ルフィを二度見するエア。よくよく考えれば、確かに血の繋がりを感じる。行動とか発言とかアホっぽさとかetc……とにかく、既視感の正体が判明した。マリンフォードで「孫が海賊になるなどと言っておって……」などと愚痴っていたガープに「海軍の良さを説き続けたら分かってくれるんじゃないですか?」なんて言ったことも思い出す。ガープさん、もう手遅れみたい。
「じゃあ、一番近くの島まで運ぶから……暴れないでね。暴れたら落とすよ」
「おう! ……で、エア。その羽も悪魔の実なのか?」
「ん? そうだよ。ハネハネの実」
「へぇー! それがあれば船が壊れても安心だな! なぁ、エア……」
ここで、とんでもなく嫌な予感がしたエア。具体的には仕事とセンゴクから逃げてきたガープに押しかけられた時とか、怒りのあまりマグマをゴポゴポ言わせながらクザンを探してる赤犬大将を見てしまった時とか、それくらいに。
だから続きの言葉を聞きたくなかったが、両の手は塞がっているので、彼の言葉を止める手段はない。
「お前、俺の仲間になれよ!」
「嫌ですっ!」
「えー」
そもそも、どうしてその結論になったのか、とか色々言いたいことはある。が、ひとまずは彼に効きそうな言葉を選ぶことにした。
「それに、私を仲間にしたら、多分ガープさんが怒るよ」
「げっ、じいちゃんと知り合いなのか!? それはこえーな……でもよぉ……」
効果はあったらしいが、諦めてはいない。
あの羽は魅力的だもんなぁ……などと頭を悩ませてるルフィを掴んでいるのが、もうアホらしくなってくる。
──もう、さっさと島に着いて放り出すか。
そんな結論と共に、もう一対の翼を腰から生やす。
「ルフィくん」
「ん?」
「舌、噛まないようにね」
返答は待たず、合計四つの翼で大きく羽ばたく。同時に空を足で蹴り、加速。二秒後には到達した最高速度で、瞬く間に宙を駆けていく。すると、十秒も経たずに島が見えてくる。
後は彼を放り出すだけだが……ガープ中将の孫だというし、多少雑でも問題ないだろう。そう思いながらチラっと下を見て──急ブレーキ。
「いや何その腕!?」
10mほど伸びた腕の先で、空気抵抗を受けてとんでもない顔をしているルフィの姿に一瞬思考と動きが止まる。しかしルフィの方は急には止まれない。慣性の法則が働いたまま、とんでもないスピードで島へと突っ込んでいき──なぜか金棒を振り上げていた女へ、衝突。思わずエアが手を離したのもあり、一緒になって森へと突っ込んでいった。
「…………ル、ルフィくーん!?」
一瞬理解が追いつかなかったのだろう。自分の手と森を交互に2回ほど眺めた後、慌ててルフィが消えていった方向に飛んでいくエアを見送る男達──アルビダ海賊団の心は一つだった。
──なんか、ヤベー奴らが来た。
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