コルダストンは友達がいっぱい! 作:石のように冷たく
──源石を食べる
硬い、黒い石だ。よく見れば向かいの壁が透けて見える程には半透明だ。
飴玉サイズまで小さくしたそれを手元で少し転がした後は、ゆっくりと口に持っていく。
「あーむ」
──バリ、ボリ、ギシ
硬いものが割れる時とは、案外見た目に反して高い軽音を鳴らすものである。
「うーん、ウルサスの、凍原の鉱山のね。今日のはイマイチかな?やっぱり、食べるなら女の子のがいいな。特にウルサスの女の子だよね。栄養もあるし、甘いし、美味しい」
天然も決して悪くはないのだが、あのウルサスの枯れた土地のものでは中々に雑な味である。言うならば、ファーストフード。美味しくはあるが、毎日食べるには少しキツイ味の偏りである。
一人きりの室内で、細かくなった源石を飲み込みながら、舌を打つ。
やはり、食事のときは誰かと一緒に食べたいものだが、生憎と食堂のメニューには好みに合うものがない。というか、普通は源石は食べ物に売られてない。
おかげで毎回申請を出さないといけず、外でも仕事しながら現地調達して食べ歩きが日課になっていた。
もっとも、最近はそれさえも控えるように言われる始末なのだから、困ったものである。
「あれ?もうなくなっちゃった………うーん……補充はできてるから食べる必要はないんだけど、なんだか物足りないなー」
座っているソファに背を任せて、天井を見上げる。
──暇だなぁ。どっか適当なところ行ってみようかな?
暫くの間、そのまま放心していると、扉の方からノックがした。
「ハーイ!どうぞ、入っておいで!」
白い扉が開くと、そこから茶色の兎の耳が見えた。コータスの少女だ。
小柄な体にロドスのコートを着ている茶色の長髪の可愛い少女。
「あ、突然すみません。コルダさん、次の任務のことでお話があって」
この子は俺が今お世話になっている自称民間製薬企業実質軍事派遣会社、ロドスアイランドの若い、というか小さいCEOのアーミヤちゃん。小さい体に見合わず、強い信念と綺麗な心が宿った蒼い瞳がチャームポイントの可愛い子。是非とも機会があれば、この子の石も食べてみたい。
「やあやあ!アーミヤちゃん!わざわざ来てくれてありがとね!ささ!座って座って!」
「はい、それでは、お言葉に甘えて……」
アーミヤちゃんは少し遠慮気味に俺の向かいにあるもう一つのソファに座る。
「それでそれで!任務っていつだい?誰と一緒なの?」
「ええと、一週間後にスカジさんと一緒に、感染生物の駆除をお願いします。こちらに資料置いときますね」
「分かったよ!あとで見ておくね!」
そう言うと、アーミヤちゃんは紙束を間にあるテーブルの上に置く。
小さくて、けれど傷が多い手。この子が皆の未来の為に戦ってきた証。美味しそうだなぁ。やっぱりちょっとでもいいから源石を食べさせてくれないかな?ほんの少し血をくれたらいいんだけどな。細かい石の入った血って美味しいんだよなぁ。
「いや!それにしてもスカジちゃんと一緒かぁ!あの子はパワフルだけど、それと同じぐらい優しいから、俺は好きだなんだよなぁ!楽しみだ!」
「ええ!スカジさんと仲が良かったんですか!?」
「勿論!俺とスカジちゃんは大の親友さ!あの子が来てすぐに、仲良く戦闘シュミレーションをしたんだ!お互いの身体を仲良くぶつけあったのさ!」
「ちょ!コルダさん!その言い方は……!?」
「あれれ?アーミヤちゃんどうしたの?顔を赤くなんかして」
「だって、それはコルダさんが……!」
アーミヤちゃんの顔はまるで熟れた林檎みたいだ。両手の人差し指はツンツンと合わせて、口元をゴニョゴニョとしてる。一体、何を考えていることやら。まだまだ乙女だねぇ。
「もうー、そんなことじゃ、ドクターを他の子に取られちゃうよ?」
「なななななななな!!!コルダさんは一体何を言って!」
「えーっと、ケルシーちゃん、チェンちゃん、テキサスちゃんにエクシアちゃん……そういえば、スカジちゃんもだ!安心しておくれ!俺は皆と友達だから、誰か一人を贔屓するようなことはしないぜ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
わあ、アーミヤちゃんすごい顔だなぁ。ドクターが羨ましいよ。俺の傍にもこんな可愛くて美味しそうな子がいたら、毎日美味しい石入りの血が飲み放題だろうなぁ。いいなぁ。
「書類渡して、任務の事前報告するだけなら、わざわざ来る必要はなかっただろうしね。恋のお悩み相談ならお任せあれ!」
「うう……でしたら、ほ、ほんの少し……」
そう言うと、アーミヤちゃんはうさ耳を力なく垂れさせながらおずおずと話し出した。
さて、ここからは俺の本職だ。
ここはロドス相談室。
今日も個性豊かなオペレーターや職員たちが、大小様々な物を抱えてやってくる。
迷える可哀そうな子羊を導くことに面倒は感じない。
なんせ、それが俺の役目なのだから。
──────chapter1 スカジ
「いや!本当に今日はいい日だよ!最高だね!スカジちゃん!」
「……………」
暗い洞窟の中を歩きながら、横にいる銀髪の美しいアビサルハンターに話しかける。返答はない。
女の子が持つには余りに大きく重量のある大剣を背にドンドン先へと黙って進んでいく。勘違いだろうか。話しかける前より少し歩く速度が上がった気がする。
「ちょっとちょっと、まさか他の皆みたいに俺まで置いていく気かな?もう!スカジちゃんは相変わらず、人見知りなんだね!まさか、任務が始まって早々に1人でこんな奥まで来ちゃって。皆が皆、俺ほど動ける訳じゃないんだから、ちゃんと気をつけないとさ」
「……………」
後ろから声をかけるが、返事はない。振り返ってもくれないから、その紅くて宝石のように綺麗な瞳も見れない。残念だなー。
「そういえば、今日はドクターがいなくて残念だったね!まあ、あの人も仕事やらなんやら忙しいから、全ての任務に参加できるわけじゃないし仕方ないか!」
「……喋る暇があるなら、早く任務を終わらす努力をして」
「うわぁ!やっと喋ってくれたね!俺は嬉しいぜ!うんうん!そうだね!確かに言う通りだ!スカジちゃんはせっかくドクターとの時間が作れるかと思ったのに、突然予定が変わって来れなくなっちゃったのが悲しいだね!その気持ちはよく分かるよ!」
心なしか、スカジちゃんの雰囲気が変わっていってるような気がする。きっと、ドクターとの楽しい思い出を想起して、気分が良くなっているのかな?
「でもさ!でもさ!こうも考えられるんじゃないかな?ドクターは俺とスカジなら自分がいなくても大丈夫だって思ってるってさ!」
「は?」
「そう考えたら、この時間も悪くはないんじゃないかな?なんせ、俺たちは大親友だ!その二人の仲がスカジちゃんの大好きな人にも理解してもらえている!スカジちゃんとドクターも以心伝心!俺とスカジちゃんも以心伝心!良かったじゃないか!実に健全!また、ドクターの恋人まで一歩前進だ!」
「ねえ、少し黙ってくれな」
「ははは!それ照れるなって!安心してよ!もう皆、スカジちゃんがドクター大好きっ子だって気づいてるからさ!」
「いい加減にしなさい。さもないと斬るわよ」
スカジちゃんはそう言うと、やっとこちらを振り向いてくれた。絹のように触りがよくて見る人の意識を奪いそうな銀髪が宙を舞い、その奥からは脳に焼き付けてくるほど強烈で、しかし繊細な紅の瞳がこちらを覗く。
傷一つなく滑らかな肌と幼さと女性らしさを両立する整った顔立ち。そして溢れるばかりの生命力。顔は無表情、いや、少々苛立っている様子だが、それもよく似合う。この子が感染者じゃないのが残念でならない。もし、この子が感染していたら、その源石は、忘れられない程に美味だったろうに。
「おおっと!そんな怖いこと言わないでおくれよ!俺は戦士でもなければ、軍人でもない。争いごとは好きじゃないんだ」
「じゃあ、何でそんなことを言うのが私に着いてこれたのかしら?」
「はは!そりゃもちろん友情パワーのおかげ!」
「私がいつ、どこで、あなたを友人だなんて言った?」
「真の友情に言葉は要らないんだぜ!スカジちゃん!もう!人付き合いが少ないんだから、そんな事言っちゃうんだぜ?」
「余計なお世話よ」
「いやいや、これは大親友としての立派なアドバイスだぜ?なんせ、何時までもスタンスじゃあ、俺以外の友達もできないし、ドクターとも接しづらいだろう?」
そう言うと、スカジちゃんは少し黙った。
「別……そんなことないわ……」
どうやら、本人も少し心配してはいるらしい。よし、ならばここは大親友の俺がしっかりと言って、背中を押してあげよう!
俺は出来る限り彼女が傷付かずに受け止められるように満面の笑顔で言った。
「ええ?本当かなぁ?好きな人がいるならしっかり手に入れないと、お父さんとお母さんに紹介もできな」
次の瞬間、俺の視界を黒い影が覆った。
その重圧から影の正体に気づいた俺は、即座に自身の武器を影の前、頭上に置く。
影と俺の距離がゼロになり、一つになったと同時に辺りには轟音が響き、地面が揺れ、天井からも石が落ち、周りの岩は風圧で罅も入った。いや、正しくは罅だけで済んだ。なんせ、彼女の本気の一撃がモロに大地に入ったならば、その衝撃で岩は粉々に壊れているはずだ。
「うーん!あの時と同じですごい威力だ!やっぱりスカジちゃんは凄いね!」
頭に振り下ろされた大剣を閉じられた黒扇で下から止めて、俺は笑う。
「あなた、やっぱり一回締めとくべきね」
こちらは睨むアビサルハンターは、冷えきった声でそう言った。その目は、かつて海の怪物を前にした時と同じだ。
「あはは!いいよ!害虫退治だけじゃ物足りないと思ってたんだ!久しぶりの運動だ!楽しもうね!」
こちらに向かって身の丈を超える大剣を振るう少女を前に、俺はそう言うと、両手に持った黒扇を開いて遊び始めた。
─────side スカジ
それと出会ったのは、出会ってしまったのは、私がロドスに来て、施設の案内を受けていた時のことだった。
初めて見るものも多く、それについて聞いていたら大分、時間がかかった。
「ええと、ここが最後ですね。こちらはロドスで相談室を開いているコルダストンさんです。もし何か個人的なお悩みがあったら、いつでもこの人に相談してください!」
ロドスのリーダー、ウサギの少女がそう言って、私にそれを紹介した。
「やあやあ!君はスカジちゃんか!見た通り本当に綺麗な子だなぁ!俺はこのロドスでお悩み相談をしてるコルダストンだよ!気軽にコルダと呼んでいいよ!何かあったら何でも言っておくれ!なんせ、困っている人を助けてあげるのが俺の務めだからさ!」
それはそう言いながら、私に手を差し伸べて話しかけた。
短くも長くもない程度の混じり気のない純粋な黒髮に、光を一切反射し映すこともない奈落の底を覗いているような気分になる黒い瞳。
外見に合わせてなのだろうか、服装も上下黒一色で極東とかのあたりにありそうな和服に似ている。筒状の袖からは手が出ているがとてもぶかぶかしている。
そして、何よりもその笑顔と声。人懐こくて接しやすそうな朗らかな、けれどどこか現実味のない軽薄な笑み。声もハキハキとして聞きやすく明るいものではあるが、虚ろで感情が乗ってなように思える話しぶり。まるで大袈裟な演技を見ているようだ。
そして、色んなものが混ざっているようなそれの匂いの中に僅かに漂う海の香り。
懐かしさを感じたが、それと同時にまるで全身の血が拒むように、私はどうしてもその態度を、それの接し方を素直に受け入れられなかった。
「………特によろしくする必要はないわ」
「え?スカジさん?」
ウサギの少女もさすがにここまで明確に拒絶されるとは思わなかったのか、少し驚いていた。
「ありゃありゃ!どうやらすぐには仲良くなればそうだね!気にしないでアーミヤちゃん!すぐにまた別の機会が来るさ!」
「そうですか………」
私の言葉にも、それは特に気にした様子はなかった。
「あ、そうそう!体調のことでも話づらかったら、俺に話しておくれよ!混ざりものにも詳しいからさ!俺は!」
「ッ!あなた、それはどういう!?」
「おっと!そろそろ時間だ!悪いけどこれから他の子の相談があるんだ!また今度ね!」
そう言うと、それはまるで嵐のようにすぐに居なくなった。
「……………」
後にはウサギの少女と私、そして妙に嫌な沈黙が残った。
──それからしばらくの間、私はそれについて周りに聞いてみた
『え、コルダさんですか?優しい人ですよ?この間も報告書の作成を手伝ってくれましたし』
職員に聞いてみたり。
『え、コルダ?あの人はすごいよ!この間も一緒に任務に行ったんだけど、援護するつもりが逆に助けられちゃったし!小さい頃からずっとお世話になりっぱなしだよ!』
黒髮の妙に熱いフェリーンに聞いてみたり。
『コルダはめちゃくちゃ料理が美味い!一番はもちろんアップルパイ!いつも仕事終わりに作ってくれるんだけど、いつもそれが楽しみなんだ!』
赤髪のトランスポーターに聞いてみたり。
『コルダさんにはいつもお世話になっています……患者さんのメンタルケアをして下さって、取り乱したりしてしまう患者さんもあの人がいるとすぐに落ち着いて……ええ、本当にすごい人ですよ。流石は宗教のリーダーをやっているだけありますよ』
医療スタッフは皆、同じようなことを言っていた。
聞いてみても良い評判ばかりだった。
「………遠回りしても仕方ないわね。私らしくない」
それだけ、それの存在は私にとって近づき難いものだった。
「でも、もう決めたわ」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、私はそれがいるという部屋に歩き出した。
「おお!これはスカジちゃん!いや、嬉しいな!わざわざ来てくれてありがとね!さあ、どうぞ座ってくれたまえ!」
広い一室、その奥にある大きめのソファに座って、それは私に手招きをする。
「ねえ、あなた?早速だけど、一つお願いがあるの」
「そうかい、そうかい!何が望みなんだい?何でも言っておくれよ!」
それは初めて会ったときと同じで満面の笑みを浮かべたまま。気味が悪い。
これなら、顔を隠してるドクターのほうがよっぽどいい。ま、まぁ、別にドクターが比較的マシなだけというわけでもないのだけれど。ドクターは私にも優しくしてくれたし、そういう意味では彼自身が特別に、その、す、好きということで───
「おーい、スカジちゃん?」
しまった。意識が海に行っていた。
今は、やるべきことがある。
そう気持ちを入れ替えると、私はそれにお願いを言った。
「ねえ、あなた。少し私と付き合ってくれないかしら?」
「ええ!わーい!スカジちゃんみたいな可愛い子にそんな事言ってもらえるなんて、俺はうれ」
「シュミレーションルームに」
「え?」
最悪のことを考えると、ここでは狭すぎる。
「それでそれで!来たはいいけど、俺はどうしたら良いのかな?」
目の前のそれは、初めて会った時と変わらず黒の和服のようなものに身を包んでいる。
袖がゆらゆらと揺れていく様はそれの飄々とした態度を表している。
「ねえ、私はあなたに聞きたいことがあるの」
「おお!そうかい?何が聞きたいんだい?遠慮なく言っておくれ!」
「そう。じゃあ遠慮なく聞くわ。あなた、初めて私と会った時、最後に『混ざりものには詳しい』って言っていたわね。アレってどういうこと?」
「ああ!それのことか!いやはや、実は君たちがどういう存在かは結構前から知っていたんだ!ほら、俺って実はとある宗教の頭をやっててね?君も皆からそれはもう聞いただろう?まあ、その立場上、色んな情報が入って来るんだよ!君はバウンティ・ハンターとしても有名だったからそれで流れてきた写真を見て、綺麗な子だなっとも思ったし!」
それは笑顔で答えた。確か、感染者の擁護もしているこっちでは珍しい宗教だったか。あまり詳しくはないが、こっちでそんな宗教を続けられているとは凄いことなのだろう。
「あら、そうだったのね。色々あなたがどこからそれを知ったのか気になるけど、ひとまずそれはいいわ。ありがとう」
「あはは!どういたしまして!こちらこそ、役に立ててよかったよ!それじゃあ、俺はこの後、他の子の相談があるから、失礼させ」
「待って」
私は背負っていた大剣を手に持つ。
「どうしたの?」
それはそう言いながら懐から二つの黒い扇を両手に持ち出す。
「最後に聞きたいことがもう一つあったわ」
「え?なになに?どうぞ聞いておくれ!」
それはそう言ったので、わたしは最初に会ったときに感じた疑問を口に出した。
「あなた、どうして私の名前を知っていたの?」
瞬間、それの目が僅かに細くなった。
「ああ、それ?それなら、アーミヤちゃんが俺に事前に話してくれ」
「嘘。だって、わたしはあの時、ここの案内を受けていたけど、みんな、わたしの名前は知らなかったわ」
「それは俺がここのお悩み相談をやっているからさ!アーミヤちゃんも俺のことを信頼してくれてて嬉しいばかりさ!」
「それも嘘。だって、あの後、私は聞いたの」
『え、コルダさんにスカジさんのプロファイルは見せたかですか?いいえ。あの時はスカジさんも来てすぐだったので完成してませんでしたので。そういえば、コルダさんはスカジさんのことを知っているようでしたけど、二人はお知り合いだったのでは?』
「………」
「あの子は私のことは名前まで、あなたに教えてなかった」
「ありゃりゃ………」
「ねえ、あなた、初めて会った時に私が『混ざりもの』って言ってたけど、『混ざりもの』自体は知っていても、どうして私が『それ』だと分かったの?まさか初対面で、持っていた情報から推測してとか言わないわよね?」
「脳筋だと思っていたけど、君って意外と頭が回るんだね。まあ、内容が内容だし、頭もちゃんと使うかぁ」
「それとね、あなたはやっぱり変なの」
「懐かしい海の匂いね。それも私が直接嗅いだことのある人の匂い。それがたくさんの匂いに混ざってる」
「ねえ、あなたは何をそんなに入れているのかしら?」
「人じゃないあなたは、海の怪物でもないあなたは──」
──どんな化け物かしら?
「………」
「黙ってないで答えて」
「どうしてあなたから、
大剣を目の前のそれに向けた。
「うん。そうだね。ああ!これは言っておくべきか!」
「………?」
「君の仲間のアビサルハンターだったコーラルちゃんだっけ?」
「………!?」
「あの子の死体からできた源石──」
──すごく美味しかったよ
「死になさい」
いつの間にか私はそう言って、目の前の化け物に大剣を振り下ろしていた。
─────time back
「初めて遊んだ時からから、もう大分経つね!」
「嫌なことを思い出させないで」
「ええ、先に遊んでもらいたいって構ってきたのは君の方だろう?」
「あなたのあの言い方はとても紛らわしかったわ!」
「そうかな?」
目の前の美しい少女が手に持った大剣を容易く振るう。その重さは並の大人では持ち上げることさえ出来ないだろうに。
「あはは!いやぁ、スカジちゃんは相変わらずの戦い方だね!やっぱり大きい化け物を相手にしているとそんな大振りになっちゃうんだね!」
横なぎの一線を後ろに避けながら話しかけるが、残念なことに目の前の少女は気にも止めない。
「ねえねえ!どうして俺と話してくれないんだい?せっかくの機会さ!今度こそお互いじっくり話し合って仲良くなろ」
「いいから一回斬られて」
「うわ!」
先ほどまで離れていたはずのスカジちゃんに一気に距離を詰められ、大剣が真上から迫ってくる。
「そうれ!」
「チッ………」
とは言っても、それぐらいの身体能力はコーラルちゃんの記憶から何度も見てきた。今更驚くほどでもない。
俺は上から迫ってきた大剣に、最初に防いだ時と同じように右手の黒扇を当てて跳ね返すと、もう片方の黒扇で無防備になったスカジちゃんの胴を切り裂こうと振るう。
「甘いのよ!」
しかし、それは跳ね返された衝撃を物ともしない大剣の二度目の振りの前に防がれた。
「うわぁ、今のも防ぐのかぁ。流石の血だね。体幹までよろしいようで」
「パワーが上の相手なんて、海にはたくさんいたわよ。その程度の肉体で勝った気にならないことね」
「ええ?そうかな?コーラルちゃんの記憶を見る限りだと、俺より上の力持ちはそんないなかった気がするなぁ」
「相変わらず悪趣味ね!」
「あはは!情報は武器だからね!珍しい子がいたら、ちゃんとその子が死んじゃったときにその死体に源石を生やしてあげて食べるんだ。そうすれば、その子の記憶は俺の中に蓄えられる。人を苦しめる悪夢の石が、俺と皆を死後も繋いでくれる橋になるのさ!死んだ子も貴重な記憶となって俺の中で永遠に生き続ける。感動だろ?」
「私にそんなこと聞かないで!」
また大剣がこちらに勢いよく迫る。
うーん。スカジちゃんには俺の考えは気に入られなかったみたいだ。残念だなぁ。せっかく、記憶をもとにコーラルちゃんの口調でも真似て喜ばせたかったんだけど、この様子じゃあ気に入られないよなぁ。
「ねえねえ!やっぱり俺たちって仲良くなれないかな?なんだか君たちには親近感が湧くんだよね!俺は死んだ可哀想な子たちの記憶!君たちはその化け物の血肉!同じ混ざりもの同士、絶対にお似合いの友達だと思うんだよね!」
「ふざけないで!」
横、上、下、突き。あらゆる方向から来る、一撃で建物を倒壊させるほどの威力の剣撃。よほど上位の実力者でも受け止めるなんて絶対無理だろう。
「うーん、そっかー。ダメかぁ」
まあ、俺は別だけど。色んな方向から来るって言っても大振りだから反応は容易いし、威力にしたってスカジちゃんの売りの身体能力は俺よりは劣るし。
「そもそもケルシーちゃんには、源石を食べてることは絶対言うなって、言われちゃってたしね。せっかく似たもの同士だから教えてあげたんだよ!」
「あの戦闘シュミレーションのあと、一晩中部屋に閉じ込められて散々説明やらを聞かされたわ!」
「それは災難!」
「誰のせいよ!」
「おっとっと!」
いや、本当にスカジちゃんは強いなぁ。うん。なんだか、気が乗ってきたぞ!
───周りに見てる人もいないし、使っちゃっていっか!
「ねえねえ!スカジちゃん!」
「……………」
反応はなし。残念だね。こんな可愛い子なのに。
「
大剣を片手の黒扇で跳ね返すと、さっきと同じようにもう片方で胴に向けて一線。今度は明らかに距離が足りておらず届かないが、別に構わない。
「黒水平」
その言葉と共に振った黒扇から、
「ッ!」
それを見て、少女は顔をしかめた。
なにせ、それの存在はいくら世間とズレている少女であっても、明らかに悍ましいものであったからだ。
「ハァッ!」
大剣の、おそらく全力の大振り。その衝撃で結晶は砕けた。
「いや!さすがスカジちゃん!お見事だね!心配して損した!」
けれど、目の前の少女は俺の喜びの声も気にしてないようで、ただこちらを睨んでいた。
「あなた、本当に嫌な性格してるわ。その能力もあなたによく似てる」
───源石操作
俺が食べた、そして取り込んだ源石を体外に自在に放出、操作するアーツ。
スカジちゃんは源石にも耐性あるだろうし、これぐらいなら大丈夫だからいいよね。俺も思い切り遊べて楽しいよ。
「いや痛いところをつくね!実際、ケルシーちゃんには人前では絶対に使うなって念押しされちゃってるしね!やっぱり使う相手は考えないといけなんだよね」
「そうだったわね………」
「さーってと!もっと楽しもうか!」
「上等よ、一回は沈んでもらうからね………」
「ようし!それじゃあ、いっくぞー!」
俺は両手の黒扇をゆらゆらと揺らして、黒の結晶と粒子を、世界を蝕む病魔を支配する。
目の前の可愛い少女は幾つもの厄災を退け、切り裂いてきた狩人の大剣を臆することなく、こちらに向ける。
二つの災厄が衝突する。
「スカジさーん!!!コルダさーん!!!」
「あれれ?」
「なに?」
まさにその瞬間だった。
視線は一つの方向に向かった。スカジちゃんも同じだ。
「そこにいるんですかーーー!?」
どうやら時間切れみたいだ。他のオペレーターが追いついたようだ。
「残念。また今度だね!スカジちゃん!」
大剣を向けるアビサルハンターは不服そうな表情だが、静かにその大剣を背負った。
「別に謝らないわよ。あれはあなたが悪い。その口の悪さは直しなさい。もう一度叩き斬られたくなければ」
「?よく分からないけど善処するよ!大親友の言葉だからね!」
結局、今日もスカジちゃんとは会話が続かなかった。残念だなぁ。早く任務を終わらせて帰ろ。
「うーん。今日は久しぶりに楽しめたかな?」
「うわ!なんですかそのグチャグチャの肉片!いつの間に任務の感染生物倒してたんですか!?」
あれ?夢中になっちゃってたけど、いつの間に。運悪く俺とスカジちゃんの戦闘に巻き込まれてたか。可哀想に。
─────side コルダストン&ケルシー
「任務中のオペレータースカジとの戦闘に加え、他のオペレーターも近くにいた状況でのアーツの使用。何か言うことはあるか?コルダストン」
「あはは!ごめんね!ケルシーちゃん!でも安心しておくれよ!彼女にはほんのちょっとしかドクターとのことでアドバイスはしてないからさ!」
「………コルダストン、私はそのことについて聞いているわけでは」
「確かにケルシーちゃんは俺ほどじゃなくても大分歳をとってるからね!ドクターの周りが若い子たちで心中穏やかじゃないことだろう!でも、いつまでもそんなしかめっ面じゃあダメだぜ?シワができてし」
「やれ、Mon3tr」
「あれ?どうしたのケル」
■コルダストン
ロドス相談室の自称カウンセラー。
誰に対しても優しいが、距離感の近い相手に対しては常に一言余計で毎度地雷を踏み抜く。
基本的に誰に対しても君かちゃん付けで呼ぶ。
とある宗教の頭らしい。
■スカジ
今日の被害者。
得体の知れないものが気になって踏み込んだら、目をつけられてしまった可哀そうな子。