ガイア連合武器密輸課職員の日常   作:ブロウタス

12 / 24
某所での雑談内容と被ってしまったが気にせず投稿。
ある意味1番ネタかぶりが心配な話です。


夢と希望と絶望の塊

 一時的に仕事量の減っていた武器密輸課。一時的ということはそれを過ぎると仕事量が増えるということでもある。

 2つの原因で武器密輸課への依頼が爆増するのであった。

 1つ目は『武器携帯許可』の実態が周知されたことである。ガイア連合としては大手を振って武器を持ち歩けるぜと喜んでいたのだが、大きな落とし穴があった。『武器携帯許可』はあくまでも『警察に捕まらない権利』であり、『何のトラブルもなく武器を持ち歩ける権利』ではなかったのである。

 つまり偽装せずに武器を携帯すれば通報されるし、捕まることはなくとも質問してきた警察には対応せねばならないのである。これは根がコミュ障気質な転生者たちには面倒であった。

 だがせっかく買った武器を使いたいのもまた人情。武器密輸課への依頼が殺到することとなる。ふぁっきん。

 2つ目はとあるコスプレイヤー転生者からガイア連合へと苦情が届けられたことである。曰く、「最近コス界隈の治安が悪い。会場外や公共交通機関でのコスプレが目立つ。ガイア連合が堂々とやってる以上、注意しても効果が薄い。オタクとしてのマナーを守れ」とのことである。ぐうの音も出ねぇ。

 基本的にコスプレはイベント会場の更衣室で着換え、会場内の広場で完結するものである。しかし外で「コレはコスプレだから」と武器や式神の姿を強引に誤魔化す慣例が続いた結果、それを見ていた外野のコスプレイヤーが真似してしまったのだ。

 これにはガイア連合も大慌て。まずはコスプレと称して誤魔化す事を一時的に禁じ、政治家オレたちに働きかけて誤魔化すための公式路上コスプレイベントなどをねじ込めるように動いた。

 では一時的にコスプレと誤魔化せなくなった人たちはどうするか。武器密輸課に依頼するのである。がっでむ。

 

 これでは仕事がまわらんと武器密輸課課長おしょうニキがガイア連合へのデモを扇動する。式神が手に入らない時代に魔力を通した長ネギを武器に悪魔と戦ってきた最古参の一人である。五寸釘ニキと並び称されるおしょうニキの言葉に多くの人は賛同し、労働環境の改善を迫った。

 ボク? 「お前が働くと前提条件が崩れるからコレ持って遊んでなさい」とプラカードを渡されたのでデモに混じってわっしょいわっしょいしてた。正直楽しかった。

 結果、武器密輸課への依頼料を跳ね上げながら黒札割と称して大幅割引することで密輸は実質的に黒札限定サービスとなった。そして通常輸送課による人員輸送サービスを開設することによりガイア連合は上記のトラブルから解放されたのだ。

 

 

「というわけで天誅! ラビットビンタをくらえ自衛官ニキ!」

「うわ! ダメージないけどモフッとしてる!?」

 ダメージは0だがペットに拒絶された感覚を与える技である。単なるイナバシロウサギによるビンタとも言う。

「今回の件、俺は悪くなくね?」

「武器携帯許可の件だけならそうだけどね。問題は銃の販売のキッカケになったことのほうが大きいかな」

 車のハンドルを持つと性格が変わると言われる人がいるように、銃というわかりやすい力を手に入れることで無意識に態度が大きくなる人間も多いということだ。

 武器密輸課という『金を持ってるが戦闘力は微妙』な人間に対して特に態度の変化が顕著になる。何かやらかせば契約式神によって即座に爆殺されるので実害は少ないが、トラブルの後処理で5分ほど時間を拘束されてしまう。客の確認がスムーズならその間に10件ほど片付けられることを考えればやはり害悪である。

「あれ? それなら今殴られたのに契約式神作動してなくないか」

「ダメージない程度になら殴っていいように受付で書き換えてもらったからね」

 逆に「腕の一本くらいならよし」「死んでなければよし」「蘇生すれば1度くらい死んでもよし」と発想が過激になっていく受付の姉さんたちをなだめるのが大変だったくらいだ。なんせ銃で態度が大きくなったアホの1番の被害者は受付である。アホがそれぞれの支部の強者に鼻っ柱を折られて正常になるまで相手していたのだ。さらには未覚醒なのに銃を売れとゴネるものまでいたという。ホントにお疲れさまです。

「今度ガイア連合に顔出すときは菓子折り配るべきかね」

「ちなみにおしょうニキから『次に会ったら自衛官ニキの穴という穴にネギをブチ込んで奥歯ガタガタ言わせてやる』と伝言を頼まれてるよ」

 トラブル対応は上司の仕事なので仕事量増加+トラブル対応案件増加がデモの引き金だったりする。

 

 それはそれとして仕事である。今回は自衛隊に渡す武器のサンプル紹介のために来たのだ。自衛官ニキを殴るのはそのついでである。

 自衛官ニキがなにやら悩んでいる間に武器紹介の準備をしていると部屋の外から視線を感じる。陸将殿だ。転生者にはゴトウといったほうがわかりやすいか。視線を向けると人差し指を口先に立てる『ナイショで』のジェスチャーが返ってきた。ならばよし。陸将殿は放置だ。

 

「ハイでは紹介始めます。サンプル貰いに行った全員から原理やら思い入れやらをさんざん聞かされたボクに感謝するように。こちらアシスタントのスタンドくん」

「ジョーズマンじゃないんだな」

「奴は今モルモットニキが改造手術中よ。チェーンソーを内蔵型にするのと、オルギア発動時の熱を背ビレに集めてヒートカッターにするらしいよ」

 デモニカのテスト中の自衛隊員たちに敵と間違えられそうなので置いてきた面もある。

 

「まず紹介するのは式神の兵独楽(ベイゴマ)。祈りながら独楽を巻き、回すことで仕込まれた式神が展開して即席の仲魔となる道具。スキルは無く、素手だけどガイア連合の式神端材を利用してるからなかなかの強さだよ」

 モーターや水車のように回転というのは力の発生、増幅、伝達と相性がいい。バトル漫画でも技に回転を加えれば威力アップの証である。祈りによる僅かなマグネタイトの方向性を整え増幅することで誰でも式神を操れるのだ。

「いきなりコレ強すぎないか?」

「動力源を回転に依存してるからうまく回しても数分持たないし、独楽に衝撃が伝わると倒れるから攻撃にも防御にも向いてないのが欠点かな」

「産廃じゃねえか」

 1動作が限界だと思うのでパンチ一発か一撃分の壁にはなる。ちなみに祈りながら巻くのは術式的に必須なので接敵前に予め巻いて保存する事はできない仕様である。

 

「お次は霊剣PAY−ブレード。サムライが悪霊を斬る前に九字切りをしたり『南無八幡大菩薩この一撃に加護を与え給え』と念じる動作を売買契約で済ませることができるよ。柄にクレカを挿し込んだ状態でトリガー引くと支払われる」

 金額設定画面やクレカ用スロットがゴテゴテ付いてるのでニチアサの玩具感のある剣だ。

「金とんのかよ。金額と威力はどんなもんだ」

「最高額が一振り1000万円で、野良レベル1覚醒者が百均包丁を振るうのと同等の威力かな」

「ボッタクリ過ぎやしないか。いくらなんでもよ」

 支払い音の『シャキーン!』はけっこう好きなので一度試してほしい。ほらここに自衛官ニキのクレカ挿してみて。断固拒否? そうかしゃーない。

 

「霊剣の次は遠距離攻撃。このミニ怨苦(おんく)は使用者の怨念によって敵を追尾して攻撃する自走式呪詛爆弾だね。ミニの名の通り携帯性に優れているのが特徴だ」

「で、欠点は?」

 自衛官ニキが先読みし始めてツラいです。欠点がある前提で話すのはやめていただきたい。まあ、欠点あるんですが。

「『子供の頃からの夢だった店の開店資金を結婚資金ごと婚約者に持ち逃げ高飛びされた』恨みでだいたい野良レベル1覚醒者の『エイハ』の半分の威力なのが欠点かな」

「変換効率がクソすぎる」

 

「今回の目玉商品、〈Project(プロジェクト) Instant(インスタント) Arms(アームズ)NIne(ナイン) CAll(コール)〉。通称〈PIANICA(ピアニカ)〉だよ」

 和太鼓による清めの音やロックバンドによる悪魔崇拝に代表されるように、音楽という物はオカルト的に強い意味を持っている。息吹によって生まれた魔力を特定の旋律と組み合わせることで9つの魔法を使用することができる代物だ。威力はもちろんショボい。

「あー、たぶんイナバニキが気付いてないから言うけど、デモニカはフルフェイスだぞ」

 あ……。ドリンク類を飲むための機能が付いているとはいえ、デモニカの元になったのは宇宙服である。吹き口を咥えることはできないし、ヘルメットを外せば悪魔を認識することもできない。

 

お次は……………

………………

…………

 

「どれもこれも使いにくい奴ばかりだな」

 自衛官ニキが今回のアイテムの評価を総括する。イナバシロウサギもそう思います。

 しかしガイア連合以外ならどうか。陸将殿、そのへんどう思います?

「うむ! 話は聞かせてもらった!」

 ガラッと扉を開けて陸将殿が入室。完全に油断してた自衛官ニキが取り乱す。ドッキリ成功、イエーイ!

「うむイエーイ!」

 入口まで少し遠かったのでペルソナを出して陸将殿とハイタッチをする。陸将殿は自分から悪ノリするタイプではないが求めれば応じてくれる人なのだ。

「さて、今回のアイテムであるが、よくぞここまで我々の求めていた物を選んでくれたと感謝するべきところだぞ自衛官ニキ」

「あ、ゴトウ部隊長もそう呼ぶんすね。で、この欠陥品の山がですか?」

「悪魔退治で重要なのは相手の耐性を知ることだと聞く。悪魔の中には銃撃や炎が無効、反射や吸収するものもいるのだろう。

 その穴を埋める攻撃方法を未覚醒の者が使えるという点が大きいのだ」

 デモニカで悪魔を認識することで攻撃が通るようになっても、中身が未覚醒の人間であることに変わりはない。必然、自衛隊の攻撃方法は銃撃と火炎瓶程度である。

「未覚醒で悪魔を攻撃できる道具。その制作経緯と種類の多さを考えるに彼らの情熱を感じるな」

「?? どういう事ですか?」

「えっとね自衛官ニキ。未覚醒者に悪魔退治させて覚醒させたいってのはガイア連合で制作班に入った者の共通の夢なんだよ」

 

 ショタオジによる覚醒修行で覚醒できた者が考えることの中で共通してるのが、家族、友人、恋人といった身近な人を覚醒させたいということだ。

 しかし覚醒修行(人間卒業試験)を受けさせればそのまま絶縁されてもおかしくない。そこで大抵の人が思いつくのが『悪魔を倒せるアイテムを作って、自分が弱らせた悪魔のトドメを刺してもらって覚醒させる』方法である。

 アギラオストーンなどの呪石は未覚醒では使えない。手榴弾で言えば未覚醒ではピンを認識して抜くことができないのだ。ならば自分たちで作ればいい。

 その結果が『使用者のMAGに頼らず悪魔に攻撃するアイテム』の作成だ。ある程度形にはなっているが、未覚醒者の身の安全を確保できないという点で頓挫している。

 つまりこのアイテムたちは制作班による夢と希望と絶望の塊なのである。

 

「そういった点ではデモニカと自衛隊に期待して応援してる奴らもけっこういるんだよ。わざわざ口に出さないだけで」

「それなら俺も許されていいんじゃないかねイナバニキ」

「それはそれ。これはこれという便利な言葉があってだね」

「どうして……どうして……」

 嘆く自衛官ニキを放置して陸将殿に声をかける。

「注文は自衛官ニキを通せばいいですよ。トラポートですぐに配達することもできますから」

「おお、それはありがたい。しかし安易に使っては負担も大きいのでは?」

「ボクはトラポートの負荷が軽いので気にしなくてもいいですよ」

「ふむ?」

 陸将殿が怪訝な顔をする。気になり聞いてみる。

「俺はオカルト方面は浅学の身であるが、君のペルソナが『因幡の白兎』であるということは推測できる」

 当たりである。『イナバニキ』と言われるウサギのペルソナ使いの時点でほぼ答えを言ってるようなものではあるが。

「そうなると遠距離テレポートの『トラポート』は『因幡の島渡り』の逸話を元にしている物だと考えた。

 島渡り自体には成功しているが結果サメまたはワニに皮を剥がれている。つまり遠距離に移動できるが負荷や代償が大きいものだと検討をつけていたので気になったのだ」

 ふむ? 言われてみればそのとおりである。そこんところどうなのとペルソナに視線を向けると野生のウサギのふりをしてすっとぼけている。コイツ何か知ってるな。

 人間が体内で起こっていることを完全に知覚していないように、ペルソナ使いも自分の精神で何か起こっても表面化するまで知覚することはない。今度有識者に相談してみよう。陸将殿に礼を言う。

 

「あ、まだ渡しそこねている物あったわ」

「まだよくわからんアイテムあるのかよ」

「ハイ、モルモットニキからの差し入れ『飲むと身体が蛍光色に光る薬』2ダースぶん」

「んなもんいるか」

 

 

 

TSJK:1番評判が高いのがモルモットニキの薬な件

ウサギ:どういう……ことなの……

TSJK:飲んで発光すると大抵の悪魔は距離を取って慎重になるから仕切り直しに良いらしい

ウサギ:自衛隊でヤクが流行ってると

TSJK:おいバカやめろ




おしょうニキ:相棒は怪鳥型式神の『ひきゃく』。おもにカントー地方をメインに飛び回っている武器密輸課の課長。
ウサモル印の『ガマの軟膏』:霊障にも効く軟膏として個人販売。売り切れてから数日後にある購入者が効能一覧に『毛生え』の文字を発見。掲示板に書き込み。
 効能が確認されたので調べたところ商品はもう出回り済。販売者も(打ち上げ終わったので)解散済みだった。
 研究結果としてガイア連合に送ったサンプルと常備薬としてウサモルそれぞれの家に1つ転がっているらしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。