ガイア連合武器密輸課職員の日常   作:ブロウタス

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命の洗濯

「正面3体、20。右1体、30。左2体、25」

「右だけ電撃無効であります」

 『警戒』スキル及び『マッパー』スキルとリンクした簡易レーダー『スカウター』からの情報を伝え、アイギスが情報を補足する。

「右を10秒足止め。頼んだよイナバニキ」

「へーい」

 右の通路を単身駆ける。巨人型のシャドウの攻撃を躱し、背面に抜ける。シャドウが振り向くと同時にペルソナを使う。

『トラフーリ』

 振り向いたシャドウの背面、つまり元いた場所に瞬間移動する。『トラフーリ』の処理は戦闘離脱だがその方法は個人差がある。ボクの『イナバシロウサギ』の場合は短距離瞬間移動+瞬間的な認識阻害である。「コップ持って台所来たけど何しに来たんだっけ」と同じ現象を一瞬だけ引き起こすのだ。

 わざとドタバタと足音をたてながらハム子ネキに合流する。

「いらっしゃーい」

 既に他のシャドウは蹴散らされ、にこやかに薙刀を構えたハム子ネキが巨人型シャドウを歓迎する。あっ、クリティカルした。

「総攻撃チャンスだよハム子ネキ!」

「袋だたき始めっ!」

「うりゃうりゃ」「やっちまうであります」「突撃です」

 ハム子ネキのシキガミたちとジョーズマンやイナバシロウサギと共に倒れたシャドウを袋だたきにしてトドメをさす。

「あ、次来た。正面2体、25。左2体、40」

「全員火炎弱点であります」

「左を引っ張ってきて。まとめて焼くよ」

「はいよー」

 相手に見つかるようにペタペタ近付き、シャドウたちの攻撃範囲に一瞬入ってから引き返す。よしよし食いついた。

 速に特化しているとはいえ、ふたまわり以上レベル差のある相手だ。昔のスパロボのように運動性だけで回避し続けられるものではない。回避が続けば隙もできるし、敵も威力を下げて確実に当てに来たり範囲攻撃で避けづらくしたり連続攻撃のコンビネーションを仕掛けてきたりする。初撃は確実に回避できるが、それ以降を打たせない立ち回りが重要なのである。

 ボクの方法は単純だ。初撃を避ける際に相手の攻撃射程から一歩外へ抜け出すことで物理的に当たらないように立ち回っている。今回はその応用でシャドウの射程の一歩先を維持することでシャドウに追わせ、もう片方のグループと同時にハム子ネキの元に着くように調整するのである。

 ササッとハム子ネキの背中に隠れて2グループ分の敵を迎撃する。ハム子ネキ、あんな奴らやっちまってくだせえ。

「タナトス!」

『マハラギダイン』

 敵、一掃。すごい。お疲れ様でした。帰還しますか?

「周囲に敵影無いなら前進よー」

「そんなー」

 

 

「と、この3日間大変だったんですよ」

 プンスコ怒りながらシャンプーを泡だて頭から背中へと広げていく。愚痴を聞いてくれている木刀侍ニキが呆れた顔をする。

「いや、そんだけレベル離れたパーティとか普通は死と同義だからな? 生き残ってるオメーもおかしいが。

 生き残れるなら小判鮫作戦したほうがレベル上がりそうだが」

「ラッキーパンチ1つで命が散る環境は勘弁な」

 速運特化の欠点である。レベル不相応な場所についていけるが油断や不運1つで全てが終わる。当たったら死ぬ宝くじとか引きたくはないのだ。ボクは手頃な悪魔を狩って安全に出世(レベルアップ)したいんだよ。

 泡を前足後ろ足に広げ、ひっくり返して腹も洗う。

「というわけで誰かタルタロス行けそうな人いませんかね?」

「いねぇなぁ。というか死地(タルタロス)行かせるくらいなら手元で育てるかスライムニキのとこに預けるわ」

「ですよねー」

 ザアーとシャワーを浴びせて泡を流していく。毛元に残らないようにワシワシと毛に指を絡める。

「何でお前は自分のペルソナ洗ってんだ」

「ほら、風呂は命の洗濯って言いますし」

「自分の精神取り外して丸洗いしてんのはミサトさんも想定してねえよ」

 ハッハッハ、そんなバカな……。

 

 温泉からあがり、木刀侍ニキと雑談を続ける。

「未だに散髪に来たのにマッカ貰うのは慣れんよな」

「わかるー。各種素材に使うらしいけど」

「下手に地元で切って変なところに流されても困るからガイア連合でしか切れないのがマジ不便」

 木刀侍ニキは妙な縁からとある地方支部を担当している男である。消滅寸前の地元霊能組織を救ったこともあり、なかなか徳の高い男と言えなくもない。敬意から地元組織に変な暴走される可能性も否定できないのだ。

「定番はあれね。クローンとして産まれた木刀侍ツーの逆襲」

「誰が産んでくれと頼んだ」

「もしくは数年後に見知らぬ少女による『ゆーあーまいふぁーざー』」

「ノオオオォォッ!」

 互いにゲラゲラ笑う。メシア教じゃあるまいしクローンはねえよ。いやもしかしたら? あったら鼻からパスタ食ってやるわ。

 そんな話を続けながら木刀侍ニキのレベリング(コソ練)に付き合う男女一組のチームを待つ。ちなみに散髪で得たマッカはお弟子さんへの土産に使うそうな。

 そういやお弟子さんの連絡先知ってるわ。

 

ウサギ:木刀侍師匠とたまたま会ってるなう

お弟子:師匠の様子はどうですか?

 

 ふむ。師匠なら体を売ってお弟子さんへの土産を買おうとしてるよっと、痛い痛いなぜアイアンクロー(プロレス技のほう)をかけてくるんだ木刀侍ニキ!

「内容が口から漏れてるんだよなぁ、オイ」

「誓って嘘はついてないよ」

「四の五の言わず消せ」

「ハイ」

 送信前に渋々消す。アイアンクローが解かれる。頭蓋骨が変形したらどうするんだまったく。

 しょうがないので別の内容を送る。

 えーと、木刀侍ニキなら激しい運動をするために女の人と待ち合わせして痛い痛い何をするんだ!

「本当に変形させたろうかオメー」

「…………男の人と待ち合わせのほうが良かった?」

「よっし。思いっきりいくからなー」

 ギリギリと力を強めてくる。なんてことだ。木刀侍ニキが暗黒面に堕ちてしまった。

 だが捨てる神あれば拾う神あり。助けの手が現れた。

「何やってるのさふたりとも」

「あんまり支部内で暴れないようにね」

 今回木刀侍ニキと組むコンビ。デモニカドラゴンニキと事務スナイパーネキだ。タスケテー。

「こんなJCに背を抜かれる小さい子を虐めちゃ駄目だよ」

「そうだよこんな貧弱な子に何するんですか」

 オイ援護射撃がボクの背中に当たってんぞ。

「しっかり、自分が苦しいときは相手も苦しいんだ」

「女の子に腕力で負けてるからって諦めないで」

 お前ら男の泣き顔そんなに見たいのか。思いっきり泣いてやろうか。

 

 メンバーが集まったからには遊んでいる暇はないと解放される。木刀侍ニキは地方を拠点にしてるのであまり時間に余裕がないのだ。やめろよオメー絶対に変なこと書くなよやるなよ絶対やるなよと念押しをしながら木刀侍ニキが去る。ガンバレー。

 

ウサギ:木刀侍師匠に見つかってあれ書くなよこれ書くなよと叱られてた

ウサギ:弟子の前ではカッコつけたいんだねぇ

お弟子:師匠……

 

 嘘はついてない。個人の感想です。




スカウター:レベル30で爆発しかねないのでアナライズ機能はついていない。
ジョーズマン:レベルが違いすぎるので後衛にまわった。
デモニカドラゴンニキ:オートマッピングでエネミーサーチとアナライズと簡易即死対策でデモニカを愛用している。本気出す時には脱ぐ。
事務スナイパーネキ:普段は事務員だが銃が手に入りやすくなったためスナイパーに。犬型式神のガルク(♀)に先に彼氏を作られる。

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