「シールダー忍法
式神が大盾を投げ、天使たちを薙ぎ払う。私はその隙をついて天使の脇腹に左拳を叩き込み右手で肩を掴んで位置調整して他の天使たちに蹴り出す。これで何体かバランスを崩した。左手首に仕込まれたホルダーからカードを引き抜いて握り潰す。
「頼んだよペルソナァ!」
私のペルソナ『シャーロック・ホームズ』が右手の杖で『デスバウンド』を天使のグループに叩き込む。
次の獲物を探して視線をずらすとジョーズマンが赤熱化した背ビレで大型の天使を切り裂いていた。シールダーと呼ばれていた式神が投擲した大盾を空中でキャッチしてそのまま攻撃に移る。
なおそのマスターたちはというと、一人はデビルスリープのカードを握ってソワソワと見守りもう一人は完全に観戦のノリである。
視線を戻すとマグネタイト不足でスライムと化した天使がこちらに向かってくる。頭の中でスイッチをバリツから教会式戦闘術に切り替える。
護身術バリツに限らず武術は基本的に人間に対して最適化と研鑽をされている。虎だの大蛇を相手にできるのは応用が効くからに過ぎない。まあ、虎専用対処法や対巨人秘奥義などを伝えられても使い所がなくて困るだけだろう。
だが視線によるフェイントや錯覚を利用した攻撃、人体の急所への的確な攻撃は悪魔に対して必ずしも有効という訳では無い。概念的に人間を模した天使や悪魔ならば効きやすいが、有効打のつもりで打った手が有効でなかった場合、それは致命的な隙となってしまう。
そこで私がかじったのが教会式戦闘術である。教会式戦闘術は攻撃すべき場所を見極める観察眼と一撃の威力に全振りの豪快な攻撃が特徴だ。人間相手には原始的な技術だが悪魔に対しての汎用性ではこちらが上だ。
「シャオラッ!」
スライムのマグネタイトの流れを見ることで核となる部分を見極め貫き手でぶち抜く。スライムになった時点で動きが鈍かったのですんなりと倒せた。
ジョーズマンの口から放たれた熱線が横薙ぎに払われ天使を一掃する。
「戦闘終了です。お怪我はありませんかマスター」
式神たちがマスターと合流する。私はパンパンと手を叩き手を組んで一礼する。
「アーメン」
「前々から思ってたけどホントにロックはメシアン?」
「どこに疑問に思う点が?」
「二拍一礼と混ぜてる時点で怪しいかな。あと天使相手でも躊躇しないしね」
「どんなに可愛がってるぬいぐるみでも『ニンゲン、コロス』ってなったら壊すのに迷いはないですよ?」
変なことを聞くイナバさんだなぁ。一般人の仏教への関心と同じくらいの信仰心はありますよ。
突然だがこの世界の日本に神はいない。いや神は死んだとかその辺の話ではなくただの事実である。
正確には人を助けられるほどの神は現在メシア教によって封印されてしまっている。大戦時にアメリカの要人を呪殺したことで戦争にオカルトが介入しない紳士協定に違反したとみなされ、報復に霊能者の処刑と日本神の封印をされたと某ネコマタから聞いた。
個人的には超遠距離ピンポイント呪殺『TATARI』にびびった米国が口実付けて徹底的に潰した説を推している。紳士協定と言っても国が滅びるかどうかの時にオカルト業界のみが不介入でいられるとは思わないからだ。
事実ちょび髭さん達が大戦末期にオカルトに手を出していたことは表社会にすら認知されているがスルーされている。
太平洋越しに呪殺してくるのは普通に怖いもんな。わかるよ。
ちなみに日本神が封印されたことによる表社会への影響は、実のところそんなに無かったりする。
元々日本は八百万の神の国でありその全てを封印することは難しく、プラモが世にでればプラモの神が生まれ暴走族が流行れば
そのうえ元々神無月で神々が地元を離れる関係上神の留守を前提としたシステムとなっている。さらに言えばトップ二柱が神話的引きこもりと神話的空気な存在である。
ただしその反面、裏社会、オカルト業界は悲惨であったらしい。
無才の者だけが残され神々の留守電システムを頼りにだましだまし何とかやっていき、もう限界もうダメだサヨウナラというタイミングで突如発生した謎の武装霊能集団によって救われることになる。ガイア連合っていう怪しい連中らしいですよ?
何故そんなことを言い出したかというと、今回はその封印を自衛隊(というかゴトウ部隊)と共同で攻略するための前線基地となる霊地を確保するのが目的だからだ。
なんでも管理していたメシア教天使が謀さ――ゲフン天にお帰りになる前にセキュリティを起動していたそうな。余計な真似を。
この話を持ち込んできたロックとたまたま近くにいた本物マスターニキとで攻略することになった。
セキュリティとして扉を開ける際にメシア教に関する問いかけがあり、それに間違えると霊脈を使って天使を大量召喚してくる仕掛けだそうだ。何度も間違えていくとその分霊脈は消耗し、前線基地として使えなくなってしまう。
しかし正解した人はメシア教徒として認定されていきコントロールルームに入る際一定以上正解していた者には祝福がされるそうだ。ホントろくでもない。
一応メシアンのロックに回答させ他は問いかけを聞かないように耳栓をするプランになり、知識の怪しいロックをサポートするために通信でモルモットニキの式神のタキオンがホワイトボードで正解を教える完璧なプラン……のはずだった。
「なのに何で天使が召喚されたんですかね?」
「いやこの画面見てくださいよ。ワタシワルクナイネ」
本物マスターニキと共にロックの端末を覗き込むとドヤ顔でホワイトボードをこちらに向けるタキオンと袖で擦れてグチャグチャになった文字。
「勝負服のあの萌え袖で書けば、まぁそうなりますよね」
その袖引きちぎってしまえ。もしくは星1時代の勝負服に着替えてこい。
『しょうがないなぁイナバニキは』
「ドラちゃん方面に寄せるんじゃありません」
着替えるために画面外にタキオンが出ていく。
「ちなみにどんな問題だったんですか?」
「えーと、四大天使の名を挙げよ、でしたね」
最初の扉だからかやたらと簡単な問題である。あれ? 天使出てきたってことは不正解?
「文字が読めなかったので自力で答えたんですけどねぇ。
ミカエル、ルシフェル、ルシファー、ベリアルって。
どれが間違いだったんでしょうね」
「それの不正解が1つだと疑ってないのが凄いですね」
真っ当な天使のほうが少ない件。
「でも仏教徒の一般人は四天王の名前を答えられないじゃないですか。それと同じですよ」
ちなみにロックのペルソナ『シャーロック・ホームズ』も神学には疎かったりする。ホームズの場合要らない知識は邪魔になるのですぐに忘れて必要なときに調べなおすスタイルだからだ。
汎用勝負服に着替えたタキオンによってサクサクと探索が進む。あくまでもメシア教以外に対してのセキュリティなのでメシアンで日本支部からの正式な許可を得ているロックがいれば問題ないのだ。初手が例外案件だった。
コントロールルームの扉が開き、何やら祝福の光がロックを包む。中に入りロックが権限を書き換えセキュリティを正常に戻す。
「へいパース」
パースパース。
ロックが放り投げてきたカギを本物マスターニキに投げ渡す。
「何ですこの鍵」
「この霊地の管理証ですね。ガイア連合さんが持ってる方が面倒がないので」
持って帰ると管理責任がある代わりに報酬に色がつくよ。
そうささやくと本物マスターニキは葛藤し、最終的に持つことに決めた。
「ところであの祝福ってどんな効果だった?」
「魔のステータスの上昇の祝福でしたね」
「あれ、ロックさんって魔法使いましたっけ」
「ほぼ物理オンリーですがなにか?」
一応オートカジャ系に効果はあるし魔法防御も高くなるので無駄ではない。無駄ではないけとコレジャナイ。
「
「何言ってるかわかんないですね」
なんて言ってるか分かっても意味のあること言ってないから安心しな。
ガイア系列の覚醒者向け飲み屋『バーボンハウス』で打ち上げ会である。未成年の本物マスターニキはノンアルだがその分食べていってくれ。会計はロックがもつ。正確にはメシア教日本支部に接待費として請求するらしい。メシア教のサイフポイントにダイレクトアタックすると思って食え食え。
さっそく浴びるように呑み、できあがってしまったロックの独り言だかこっちへの会話だかわからない物を聞き流しながらじゃんじゃん注文する。
しばらく飲み食いし、そろそろ解散を視野に入れた頃に注文したイワクラの水を飲み干したロックが真面目な顔をする。
「実はイナバさんに頼みがあります。
日本神の封印異界攻略にイナバさんに参戦してもらいたいんですよ」
うん? 元々空いた時間に顔だそうとは思ってたけど、メインで入れって話?
「順を追って説明しますね。
まず、日本神解放の許可って正式にはおりてないんですよ」
施された封印を解くには相応の理由が必要である。憲法や制度と同じで変えるための名目、話を通すだけの政治力があって初めて行えるのだ。
封印を管理しているメシア教米国支部(の過激派)の勢力を説くには日本支部では力不足だ。メシア教から見れば日本支部は僻地の左遷先もいいとこである。
そこで日本支部は封印異界の難易度について挑発し、「やれるもんならやってみろ(意訳)」という言葉を引き出したのだ。
「で、向こうの政局なんかを計算したところ向こうが様子を見に来るまで最短で一月。
この先を4パターンに分けて話しますね。攻略の目処が立たない場合、目処が立ったが攻略途中の場合、1つクリアして次の封印異界に挑んでいる場合、複数クリアしている場合です。
目処が立たない場合、これは話から除外していいでしょう。この段階で燻るなら封印解放は諦めたほうがいいです。
攻略途中の場合、過激派が途中で見に来てこのまま行くと解放されるぞと判断した場合、過激派はどうアクションするでしょう?
ハイ本物マスターさん」
「え? えーと、妨害する?」
「正解です。花丸あげちゃいます」
本来は日本神の封印はメシア教の他国制圧のモデルケースとなる予定だったそうだ。成果があがらず封印にかかるコストの大きさから本流からは外れたものの封印の強固さは過激派自慢の逸品。
そんなものが僻地のローカル組織に解放されたとなればメンツが潰れる。直接間接表裏どう妨害してくるかはわからないが面倒なことになるのは確かだ。
「よほど下手打って遅れなければこの2つは無いでしょう。
さて、1つクリアしている場合です。
この場合はどうアクションするでしょう?」
「攻略されたから諦めるか他の封印に手を回す?」
「いえいえ、政敵に責任を押し付ける、ですよ。
向こうからすれば『解かれそう』なら止めに入りますが『既に解かれた』ならその事実を利用するだけの話です」
日本神の封印は日本からすれば現在進行系の問題でも封印し終えたメシア教から見れば過去の話である。封印自体に固執するほどの執着は無いわけか。
「そして複数クリアしている場合。これはイナバさんが頑張った場合ですね。
この場合は政争に利用する以前に疑心暗鬼になる案件です。
ガイア連合の能力を知らない向こうの過激派からすれば、封印の詳細を知っている過激派の一握りの中に日本支部に情報を売ってるやつがいるようにしか見えませんからね」
向こうから見て有り得ない速度で封印を解かれた場合、突然霊能の天才集団が生えてきたと考えるより封印の詳細を誰かが流したという方が自然な考えだろう。
神々を封じるレベルの封印術の詳細を教えるということはメシア教の技術のキモを教えるのに等しいレベルの裏切りである。
とはいえボク関係なくない?
「いえ、嫌なヤツを存在しない犯人を求めて右往左往させるというイタズラに参加しませんかってお誘いです」
オイオイ、日本神の救出ともなれば日本男子の誉れ。我こそはと名乗りを上げるのもやぶさかでないじゃないか。なぁ本物マスターニキ。
「イナバさんのそのノリ好きですよ」
「よくそんなポンポン言葉が出てきますね」
会計を済ませ、ロックと別れる。一応生物的には女なのでスタンドくんにこっそり護衛させる。何事もなければ帰っておいで。
「大丈夫なんですかイナバニキ」
「見ての通り余裕よ」
「見ての通りだと塀に体重預けて60度ほど傾いてるんですが」
まだまだ大丈夫大丈夫。
「聞いたのはメシア教と仲よくしたら危険ってほうです」
「ああそっちね」
ロックはメシア教というよりメシア教とコネのある外部協力者に近い扱いだ。そしてもうひとつ。
「日本支部はガイア連合の損になる行動はしないし、紛らわしい動きもしないよ。李下に冠を正さずってね」
色々と恨まれている立場のメシア教日本支部がガイア連合と手を組めているのはガイア連合の利になる行動をしているだけでなく切られる理由を作らないように立ち回っているというのが大きい。
もしもガイア連合、特に黒札に害をなすようなことがあればたちまち日本支部の立場は悪くなり排斥されるだろう。しかしそんなマヌケな真似をする連中ではないし、そういった案件もなしに一方的に日本支部を切ればガイア連合の政治的立場が厳しくなる。ならば利用するだけ利用した方がお得だ。
「でも身内がメシア教に取り込まれたって話も聞きますよ」
「それは身内にちゃんと説明してないことによるピタゴラスイッチだね」
同盟者の身内の安全を確保する。安全を確保するためには親しくあったほうが動きやすい。有事があったときの備えにオカルト業界の状況を『自分の情報で』教える。
つまりはメシア教のフィルターをかけた状態でオカルト業界の事を知るわけだ。教えに感化されても仕方ないと思うよ。
覚醒者ならば自分のスキルを見せたり式神を操ったりと超常現象をおこして身内に説明するくらいならできるんだし、ガイア連合にはそれ用のサービスもある。それを怠ったツケがまわったわけだ。
ちなみにメシア教やその他の教えに染まった人間をなんとかするカウンセリングサービスもガイア連合にはあるのでもしも身内が染まったら放り込むといい。成功率は今のところ百パーセントだ。
「それじゃ本物マスターニキおやすみー」
「あ、はい。また会いましょう」
『トラポート』
本物マスターニキに別れを告げて自宅のベッド上10センチの場所に転移する。ジョーズマンあと任せた。
靴を引っこ抜かれる感覚と共に眠気が襲ってくる。
バカな……頭痛がする……は、吐き気もだ……。立ち上がることもできないだと……。
しょうがないのでペルソナにアムリタストロングソーダを持ってこさせる。
グイッと一口、ゴフッ、炭酸つえぇ。
効果と共に炭酸まで強くなったせいで戦闘中に飲むのは無理と判断された開発品である。二日酔いにはバッチリだ。
ロック:メシア教日本支部に3度呼び出されるも引かず、ついに接待費で落とすことに成功。会計を見たその瞬間からこの身この心既に不退転。
メシア教日本支部:テンプルナイトまで出張ったが結局折れる。既にあるコネと新しいコネを持ってくれたのは戦果だが代償は大きかった。
バーボンハウス:やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この飲み屋を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この飲み屋を立てたんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。