ガイア連合武器密輸課職員の日常   作:プルータス

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昔ばなしと新スキル

 前世の記憶を思い出したのは子どもの頃。積もった雪をダンボールをソリ代わりにして滑っていた時にふと(なんか昔にもやったな?)と思い出したのだ。ロマンもドラマも欠片もない話である。

 そこからも普通に人生をエンジョイしていた。効率的な人生だとか稼ぎとかには興味がなかったし、こちとら人生2周目のエンジョイ勢である。そんな物はもっと人生の周回プレイを重ねた人に任せておこう。

 そのうち同じような立場の転生者たちの集う掲示板と出会い、この世界がメガテンという事を知り、星霊神社に向かう事になった。初回オフ会の直前に金欠になったせいで数回機会を逃したのは誤算だったが。

 転生者たちの集まりが長い長い階段を各々のペースで登っていく。体力のある若い人や既に覚醒した人はすいすいと。出不精だったり歳をとった人はゆっくりと。

 掲示板で募集されていた嗜好品を多めに入れたリュックを背負ってサクサクと登っていく。肝心なのは足を止めない事だ。

 

 階段を登りきり、初めて見た星霊神社の光景をボクは忘れないだろう。

 

 大量の怪しげな道具を運ぶ紙の悪魔、まんじゅうを咥えて歩く猫妖怪、自分の手から放った火が服に引火して慌てる人間。

 ボクの知らない楽しそうな光景に、笑いがこみあげてくる。

 自分の中で何かが外れる音がする。

 

 すばらしい。

 世界にはきっと、ボクの知らない楽しいことが(あふ)れている。

 

「えーと、キミ?」

 背後から声をかけられる。

 あ、ごめんなさい。いくら後続が来てなかったとはいえ入口を塞ぐのはよろしくない。

「いや、それはいいんだけど。横、横」

 よこ? 言われるままに隣に顔を向けると同じようにこちらを向くボクと同等のサイズのウサギ。首をかしげるとウサギも首をかしげる。

 はて? ()()()()()()()()

 鏡にうつった自分を見るように、アルバムで昔の自分がすぐわかるように、目の前にいるのが自分だと当然のように確信する。

 両腕を広げて威嚇する。同じようにウサギも威嚇を返す。

 両手を組み合わせ、ヘビの口を模して威嚇する。それに応じてウサギは腰を落として両腕を上下に広げる。これは、カバっ!

 その巨体はヘビの締めつけが通じにくく、分厚い皮膚は毒牙が刺さりにくい。この即応性、やはりこのウサギはボクだな。

「俺はいったい何を見せられてるんだ」

 それはボクも知りたい。

「おっ、キミ覚醒できたね。ペルソナかな? おめでとう。今回の追加組?」

 これが長い付き合いとなるショタオジ、当時で言えば神主またはイッチもしくは名無しのデビルサマナーさんとの出会いであった。

 

 

「イナバニキ? 居眠り運転は危ないよ」

 声をかけられて目を覚ます。懐かしい夢を見たもんだ。モフモフ移動するイナバシロウサギに乗ったまま片手を上げてハム子ネキに返事をする。

 だが待ってほしい。たしかに眠たくなったからペルソナに移動を任せて眠っていたが、ペルソナはボクの意識なのだからペルソナが動いている以上ボクの意識の一部も覚醒状態であるわけだ。つまり居眠り運転にはあたらないのでは?

「そんな事は後ろについてきてる動物愛好家の連中をどうにかしてから言うべきじゃない」

 一理ある。『ハリボテダイマックス』の四分の一ほどのMAGをイナバシロウサギに注ぎ込み、4メートル大のヌシサイズにする。遠巻きにモフるチャンスを狙っていた飢えた亡者どもに声をかける。

 モフっていいぞお前たち!

「さっすが〜、イナバニキ! 話がわかる〜!」

 元気のいいモフリストだな。

「うん、動物が大好きなんだ」

 不安が残るがモフるだけなら良し。

「兎やネズミのような小動物は少量の食事で生きられる燃費と食事の回数を多くする必要のある燃料タンクの狭さという弱点のトレードオフ。この大きさの兎はすなわち維持に必要な食事量を増やしてでも燃料タンクを増やす必要があったという事。隠れ潜みながら食べ歩く従来の生存戦略と真逆の生存戦略ということは食以外にも変更する必要がある。この大きさの兎を本来の兎と同じペースで出産していけばすぐに食料となる草を食い尽くして共倒れだ。つまり少数の仔を守る戦略が必要となるな」

 コイツはボクの精神(ペルソナ)なんだから真面目に考えるだけ損だぞ。

「フワフワを、だせっ!」

 癒やしを求めるテンションじゃないんだよなぁ。

 

 

 というわけで覚醒当時の夢を見たんだよ。懐かしいなぁ。

 覚醒した後は山梨観光して帰ってきたら家の近所にタルタロス。シャドウに怯えながら暮らしたもんだ。

「私がイナバニキを最初に見たのは影時間に暗幕を被って一輪車でシャドウと追いかけっこしてる光景なんですが、これを怯えながら暮らすと表現するのはどうかと思うの」

 何言ってるんだ。逃走するためには相手がどんな物に反応するのかを調べる必要があるだろう。例えば熱源探知できる蛇相手には隠れるのは悪手といった情報だ。余裕があるうちに調べておけば後々楽になる。

「一輪車のコーナーリングでシャドウに差をつけていた件は?」

 影時間で機械が止まるってのがどこまで影響あるのかを知りたくてね。極論を言えば足漕ぎのアヒルボートも機械と言えば機械だ。

 どの程度なら動くのか。止まるとしたらどんなふうに止まるのかを知っておきたかった。

 バネ式やねじりゴム、火薬発破式までは動いたもののエンジンを積んだ原動力付きスケートボードは起動しなかった。こういった細かい情報を知っておくといざという時の生存率はグッと上がる。

 

 そうそう聞いて聞いて。半終末に突入してとうとうボクのペルソナも戦闘時にも使えるスキルを2つも使えるようになったんだよ。

「ほほう、で、どんなスキル?」

 1つ目は『リベラマ』。敵との遭遇率を上げる魔法だね。『エストマ』の真逆である。

 検証に付き合ってくれたデビルウーマンネキいわく「ダイエット中の深夜に漂う豚骨バターコーンラーメンみたいな意識の引き寄せ」だそうな。

「つまり美味しそうな気配を漂わせると。被捕食者としての性質でも出てるのかね」

 戦闘中でも加減次第ではタゲ集中に使えそうな感じ。イビルジョーの如く乱入してくる悪魔が出てきそうなのはナイショ。

「うーん。よし、私にいい考えがある」

 却下で。

「早くない? まあ聞くだけ聞いてみてよ。

 目的の階層でイナバニキが『リベラマ』を使ってシャドウを引き付けながら逃げる。

 イナバニキを追うシャドウのぶん敵の少なくなった階層を私が駆け抜けて可能な限り登ってポータルの起動をする。

 これをラビット作戦と名付けよう」

 要は囮作戦だけどそのラビット最終的に生きてる?

 あと敵寄せ能力はニュータイプネキの悲劇を思い出してよろしくない。

 ニュータイプネキの悲劇とはニュータイプネキが好奇心から敵寄せアイテムを一度に大量に使用してしまったことから始まった悲劇である。

 大量に押し寄せてくる悪魔にレスキュー要請したものの、やってきたショタオジ(レスキュー)が「これはニュータイプネキの回避の訓練になりそうだから様子見してみる」とサボり始めた。

 実は回避の訓練というのは一定以上のレベルになると難しい。特に1手間違えれば死ぬ、死中に活を見出すといったギリギリの判断は追い詰められた時の経験からしか得られない。

 そこでニュータイプネキの悲劇。現場はショタオジの管理する異界で管理人も傍にいるので万が一のリカバリーができる。悪魔の質は高くないが物量によって常にギリギリの判断をし続ける事で勘が研ぎ澄まされるという判断のもと戦略的放置がされた。けしてサボりの口実に使われた訳では無いとはショタオジの主張だ。

 騒ぎが続いたことで高レベル黒札の野次馬も現れる。最初はみんなして腕を組んでベガ立ちで見物していたがいつしかブルーシートを敷いて座り、歩き売りされるビールを片手に観戦し始める。人の心とか無いんか。

 粘りに粘ったニュータイプネキが数時間かけて効果切れまで耐え、悪魔を追い払いきった時には会場はスタンディングオベーションであった。

 Congratulations(コングラッチュレーション) Congratulations(コングラッチュレーション) おめでとう おめでとうと讃える声が絶えなかった。その後ニュータイプネキは何故か我々に襲いかかってきた。おそらくは長時間の戦闘によるストレスと興奮による錯乱でもしてたんだろう。

 しばらくの間ニュータイプネキにさんざん追いかけ回された挙げ句に席代とビールの売り上げの半分をむしられてしまった。理不尽で恐ろしい話である。

 

 ラビット作戦は闇に葬るとして、2つ目の新スキルはこれ! 『アナライズ』だよ。

「今さら!?」

 うん。ホントに今さらよ。どれくらい今さらかというとデモニカに標準装備されてるうえにスキルカードでも余りまくってる状況である。

「とはいえほら、霊視ニキみたいに詳細まで解るとかそんな評価点もありえるし」

 体力と耐性と好きな惣菜くらいならなんとか。

 霊視ニキの凄い所は『アナライズ』の性能そのものよりも必要な情報だけを選り分ける能力である。何でもかんでも視ていたら脳のほうが耐えられないので不要な情報をシャットアウトするフィルター能力の活用が大事というわけだ。

 だが、物は使いようである。ハム子ネキ、ちょっと『アナライズ』するよ。

「うん? どうぞ」

 こちらに用意したるは売店で買ってきた種も仕掛けもない未使用の手帳。そしてこの人畜無害なペルソナの前足を乗っけまして。いざ『アナライズ』!

ピーガガガキュゥンキュゥンフィフィフィファーオンファーオンユーゴッタパワー

「何か変な音がするんだけど?」

 幻聴だから気にしないで。

キュッキュッキュッニャーチャップトードチャップトードドアノソトウルトラジョーズニヤケマシター

 プシューと煙を吐きながら『アナライズ』が完了する。

 はい、どうぞ。

「変な煙を吐いてた物体を手渡すのはどうかと思うよ。

 これは……コミュ進行帳?」

 ハム子ネキのコミュランクと周辺情報を手帳に焼き付けて印刷してみた。ボクの頭を介さずに自動書記方式で『アナライズ』された情報を焼き付けるなら大量の情報も無理なく処理できるわけだ。

 ちなみに使われなかったジャンクデータが放出される際に世界と衝突、その情報を何かの形として認識しようとして煙や幻聴として処理されている。天井のシミが顔に見えるやつの変形のような事象だ。

 データの正確性は先に試したショタオジが保証してるよ。更新は手動で、手帳本体は無料だけど更新料は100マッカね。

「どんどんイナバニキがシステム側に手を出してきてる。

 あ、コミュ関係者のプロフィールなんかもある。ふむふむ……。

 イナバニキ、これおかしいよ。誤植だよ。

 私の属性が(ニュートラル)じゃなくて(カオス)になってる」

 妥当では?

「あっ、イナバニキも(カオス)だ」

 おかしいな。誤植かな?

 うーん、理屈を考えると本来よほど偏った人間でなければだいたいの人間は(ニュートラル)属性である。狂信者レベルでなければ(ロウ)(カオス)にはならない。

 だがそれではプロフィールで紹介される人物が全員(ニュートラル)になってしまう。属性を紹介する際にある程度の幅がなければ書く意味がない。だからあえて(ニュートラル)の幅を小さくして(カオス)(ロウ)に振り分けるようになってるんだろう。あ、スライムニキは(ロウ)だ。

 最近話題になってる(デモニカ)レベル問題と根は同じ話である。単位が大きくて使えないから細分化した単位を使う。でもそれならもっとわかりやすく間違えにくい表記をしてくれという話だ。

「わりとメガテンの属性ってアバウトだしね」

 ペルソナシリーズに導入すると全員(カオス)扱いされそうなくらいにはね。

 結局ペルソナのスキルが増えても戦闘能力は据え置きだし、半終末に突入しても一般ペルソナ使い黒札としては日常に劇的な変化は無いのであった。




イナバ∶これまで明記していなかったし気付いてない人もおそらくいただろうけど普通に(カオス)属性の男
ショタオジ∶仕事をサボったぶんだけ溜まった仕事に後でサボった自分を呪いたくなる。そんな事にも気付かなかったなんて、あたしってほんとバカ
ニュータイプネキ∶クダ、ドス、チャカで悪魔を討つ昔ながらの(オールド)サマナー。回避能力は高いが火力はそこまででもない。続き待ってます
ヒーホー∶楽しいこと優先の属性。本来は黒札の大半がこれに属するが(ニュートラル)属性の範囲と同じ理由で今回は除外された
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