ありがとうございます。ヤッター!
『トラポート』によってトラックと一緒に予定の倉庫へと跳び、閉じた倉庫の扉に近づく。時間もちょうどいい。
懐から簡易インターフォンを取り出して扉にペタリと貼って鳴らす。すみませーん、ガイア連合の方から来たものですけどぉ。
返事がない。居留守か? 再び鳴らす。
いや、人の気配はある。これは持久戦だな。もう一つ簡易インターフォンを扉に貼り、双方のインターフォンをリズムよく鳴らす。
重要なのは知名度だ。世界的に人気なヒゲの配管工のステージ曲を演奏する。ようし気分が乗ってきたぞぅ。
「やかましい!」
理不尽にも怒られてしまった。だが密輸しに来たのに居留守を使うほうが悪いのでは?
「付けた覚えの無い呼び出し音が鳴るってのは反応したらダメなタイプの悪魔の常套手段だから普通は警戒するだろ」
でも前にキミたちの談笑中にコッソリ紛れ込んでたら烈火のごとく怒ったじゃないか。ボクは悪くないと思います。
半終末に突入し、メシア教の世界侵攻はますます活発になってきている。ガイア連合としてはメシア教と正面切って戦うのはイヤだがこのまま世界征服されるのは論外という見解。
という訳で現状でメシア教に対抗している『多神連合』に消耗品を格安で売る形で支援する事となったのだ。弾薬、安価な霊薬、食料水日用品といった物が主な支援物資であり、それに加えて黒札が趣味で作ったトンチキ装備の輸出もやっている。量を運ぶ関係上で通常輸送課の船便がメインで武器密輸課は内陸部や緊急時に密輸している。
消耗品をメインで売ると聞いてショボい支援と思うかもしれない。しかし実際は影響の大きな支援だったりする。
例えば1000人の部隊を作るとする。3食食べるので1日に必要な食料は3000食。それに加えて嗜好品や衣類、飲料以外にも洗濯や入浴に使う水、医薬品、更に戦闘で使用した弾薬や武器の手入れ道具。それらを全て1000人分揃えてようやく部隊は完全なパフォーマンスで動くことができる。
そういった補給の煩わしさをガイア連合が引き受ける代わりに前線で戦ってもらうのだ。
ウイィンとトラックを開け、トラックの壁紙として張り付いていた式神に依頼の品の荷おろしをしてもらう。一応悪魔扱いなので現地民の指示を受けやすいのが利点だ。
そしてリーダーくん、チューニング依頼していたギターアックス持ってきたから受け取ってね。
「ありがたい。ちょっと試させてもらうぞ」
どうぞどうぞ。
渡したギターアックスをテロテロと弾くとリーダーくんの周囲に魔力の炎が浮かび上がる。しばらく曲を弾きながら魔力炎を旋回させるとギターアックスの仕掛けを作動させ、斧へと変形させる。何度か振った後に再びギターに変形させる。
「うん、いい感じだ。追加機能もつけてもらったんだったか?」
そうそう。属性変化機能もつけてたよ。
元々は炎のギター、衝撃のベース、雷のドラムで属性分けて売ってたんだけど、ギター以外が恐ろしく売れなかったのでもう機能をギターに集約させようという話になったのだ。
「そりゃあ、持ち運んで使うのにドラムほど適していない楽器も珍しいだろうよ」
一理ある。我々はグランドピアノを背負って戦う愛の勇者ニキの姿に慣れて感覚が麻痺していたのかもしれない。
「Fコードで挫折してたギターがこんなとこで役に立つとはな。わかんねぇもんだな人生って奴は」
並んでダベりながら荷おろしが終わるのを待つ。あれ? もしかしてリーダー、ボクの監視要員か?
「なぁ、オレたち多神連合とメシア教。これからどうなるかねぇ」
うーん。残酷な事を言えば状況はあまり良くないかな。
連合軍というのは頭数が多くなるという利点とそれぞれが自分の都合を抱えているという弱点を持っている。連合軍が1番機能するのは人数差で圧倒できる時であって、同格や格上の組織と戦う際には脆さがあるのだ。
わかりやすいのは以前エジプトとメシア教が戦っていた時だろう。まだ勢力が大きくなかったメシア教を叩き潰すチャンスであったにも関わらず自軍の消耗を避けて消極的な支援でお茶を濁していた。その結果、機を逃してしまったわけだ。
神話間で上下関係を作れないという問題を抱えているため、「お前ちょっと突っ込んでこい」と上から命令することが出来ないのだ。
それぞれが自分の都合を優先する組織など規模の大きいだけの烏合の衆である。良くも悪くも思想が統一されているメシア教と同じ規模で戦うには分が悪い。
ここから巻き返すならば圧倒的なカリスマで組織間を纏め上げる超人的なリーダーが何処かから生えてこないと難しいだろう。それも神話の都合に振り回されない人間であることが求められる。
「やっぱりそうだよなぁ。
劣勢の時は纏まって押し返すけど、優勢になると途端にガタガタでなぁ。
どこかに圧倒的な影響力と戦闘力を兼ね備えた組織とかいねぇかなぁ」
チラッ、チラッとわざとらしくコチラを見てくる。
言っとくがボクらほど戦争に向いてない組織も珍しいぞ。根本的にメンタルが平和ボケしている上に圧倒的なリーダーが纏めているだけで抱えている問題は多神連合とそう変わらない。幹部級は特に自分の都合で動いているからな。
リーダーくんも本気ではなかったようで軽く流す。
「平和ボケしているかぁ。平和ボケ
ポロロンとギターアックスを弾く。ちょうど荷おろしも終わった。
受領証のサインは紙にする? それとも電子?
「デジタルの領域じゃ今はガイア連合一強だから紙にする。
意味がないとはいえできるだけそっちの土俵にサインを残したくない」
サラサラさらり。うむ。読めない。
あくまでもペルソナを介して意味を翻訳して会話していたのであって、ボク自身は現地の言葉を知らないからな。
こんな時はDDSの翻訳機能だ。まだ蓄積が足りないのでリアルタイム翻訳しようとすると「オレサマ、オマエ、マルカジリ」レベルの会話になるがサインを読み取るくらいなら問題ない。
サイン確認ヨシッ!
では、またね〜。今後ともヨロシク!
トラックの運転席に乗り込むとペルソナの『トラポート』によってトラックごとガイア連合の倉庫に着く。運転席に乗った意味よ。
リーダーくん∶あんな子供なのに意識しなければ
イナバ∶輸送費と特急代金がマルっとそのまま懐に入るのでホクホク
式神∶かさばらない上に力持ちという運送業の強い味方なふんどし悪魔。知らない組織からすれば戦慄する使い方