過保護な怪獣王とオカン雲が居る泊地   作:東部雲

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昨夜から続いての投稿です。書き溜めはこれで打ち止めなので、その次は急いで書き上げます。


第2話 過保護司令官

 

 雪風に拒絶され、精神的に追い詰められていた初風の嘆きを叢雲が一身に受け止めてから数十分程経った後。一頻り泣き続けてからようやく泣き止んだ頃。

 

「ご、ごめんなさい、叢雲秘書艦。迷惑をお掛けして……」

「良いわよ、別に。我慢せずによく吐き出してくれたわ」

 

 ようやく落ち着いたことで申し訳無さそうに頭を下げた。

 迷惑と言うのは、初風の嘆きを受け止めることで叢雲の艤装服を涙で汚してしまったことだった。

 その事を叢雲は心から気にしてないように言い、ただ労った。

 

「それで、もう頑張れそう?」

「……はい。何時までも嘆いてばかりではいられないから」

 

 本当はまだ、辛くないと言えば嘘になる。

 

 今までは雪風の事が気がかりで、陽炎型の姉妹達が居てくれたから心強かった。

 だが、姉妹の多くが所属した*1第二水雷戦隊は壊滅してしまった。最期を見届けてしまった姉妹達も多くて、ここでは初対面の艦娘ばかりだ。

 

 頼れる相手はいなくて、守りたいと思った雪風には拒絶されてしまった。心の拠り所がなくて心細い気持ちで一杯だった。

 

「……雪風については、私に任せてちょうだい」

「叢雲さん……?」

 

 肩に手を置かれて、言われた言葉に初風は戸惑う。

 

「今、あの娘は不安定よ。変な気を起こさないよう、うまく導いてみるわ」

「……それなら、私が───」

「貴女ではダメよ」

 

 叢雲は強く拒否した。

 

「……でも、私は」

「貴女も、まだちゃんと吹っ切れてないでしょう? そんな精神状態で、今のあの娘と話しても良い結果にはならないわ」

 

 諭すような、或いは気遣ってくれているのか。優しい口調でそう言ってから、

 

「だから、今は私に任せなさい。少なくとも、この泊地にいる間は貴女達を悪いようにはしないから」

 

 頼もしい言葉を掛けながら、安心させるような優しい手付きで頭を撫でてきた。

 

 優しく頭を撫でられることで心が温まるような心地好さを感じながら、目の前の駆逐艦娘の人となりが分かってきたように思った。

 

「……お母さん」

「お母さんじゃないわよっ?」

 

 言われてから気付く。

 自分が今、なんと言ったのか。意識せず口から出た言葉の意味するところを自覚して、

 

「ち、ちがっ……! 今のは言葉の綾で」

 

 慌てて弁明した。

 頬が熱くなるのを感じる。羞恥に悶えるあまり、穴があったら入りたい衝動に駆られる。

 

「……もういいわよ」

「え、それって……」

「此処に来る娘ってみんな、私と会うと大体そう呼ぶのよ。流石に慣れたし、諦めてるわ」

 

 疲れたように溜め息を吐く。

 叢雲の言った通りなら初風も含めて、何度も繰り返されてきたことなのかもしれない。

 

「……ごめんなさい」

「急にどうしたの?」

「不本意な呼ばれ方をして、迷惑だったかなって。だから……」

 

 恐らくだが、自分でも自覚してないだけで叢雲に心を許してきているのかもしれない。

 

「何よ、そんなことくらい。別に良いわよ」

「でも……」

「私が良いと言ったら良いのよ。嬉しい気持ちがないわけではないし」

「……分かりました」

 

 初風は躊躇いながらも頷いた。

 

 それに、叢雲の言葉は本音でもあるのだろう。

 駆逐艦ながら、相手を選ばないその包容力で本音を引き出し、意識してるかは分からないが甘えさせる彼女は心のどこかで望んでいることなのかもしれない。

 

「よし! それじゃこの話はもうお仕舞い。早速泊地を案内して───ちょっと待ってて」

 

 不意に、電子音が鳴り始める。

 それに気付いた叢雲は通信端末を取り出した。

 

「叢雲よ。どうしたの? ……なんですって? 解ったわ、すぐに向かう」

「何かあったんですか?」

「泊地の最高責任者が問題を起こして騒ぎになってる。急いで来て欲しいって」

「……大丈夫なんですか、それって?」

 

 ショートランド泊地は非常事態下にあるのに、その最高指揮官が問題行動するとは。初風は早速不安になった。

 

「悪いけど、一緒に来て。ついでに、アイツとの顔合わせもするから」

「分かりました」

 

 

 叢雲に先導され辿り着いたのは、最初に初風が寝かされていた医療棟や宿舎と似た建物だった。

 

「ここは出撃ドックよ。抜錨の直前まで点検などをして艦娘を送り出す場所」

「舞鶴にもありました。ショートランドの土地柄に合わせてあるんですね」

 

 少し前までいた母港の鎮守府を思い返す。

 舞鶴には通常戦力のミサイル護衛艦も配備されていた為、正面にあった沖合いの海域は頻繁に大型船舶が行き交っていた。

 

 そんな事を考えていると、建物の奥から言い争う声が聞こえてきた。

 

「もう辛抱ならない! 俺は出撃するぞ!」

「落ち着いてください、中條中尉! 一人でなんて無茶です!」

「榛名の言う通りだ。もう少ししたら私が出る。だから貴方は此処にいるんだ」

「何を言うんだ長門! ヤツら相手に対空装備が貧弱なお前が行っても勝機は殆ど無いぞ!」

「……何とか間に合ったようね」

 

 溜め息を吐いた叢雲と共に出撃ドック内部へと入っていく。

 

 その直後、叢雲は猛然と駆け出した。

 

「叢雲秘書艦!?」

 

 突然走り出した彼女に対し叫ぶが、それに構わず叢雲は、

 

「何やってんのよアンタはぁ!!」

「───叢雲、ぐは!?」

 

 怒鳴り込みと同時に助走を付けた、強烈なタイキックをお見舞いした。恐らく中條と呼ばれていただろう男性が派手に吹き飛び、室内に積まれていた資材の山をも崩しながら壁に激突する。

 

「叢雲!? 今来たのか」

「よく来てくれました! 榛名、感激です!」

 

 派手な登場をして来た叢雲に、戦艦娘らしい二人がそう言って出迎えた。

 

 

「こっちが初風のケアをしていたところだったというのに、これはどう言うことかしら。中條中尉」

「……む、叢雲。しかし、さっき連絡があったからそれで」

 

 腕を組んで詰問する叢雲に、中條と呼ばれた男性は正座をした状態でしどろもどろに答える。

 

 そんな彼を見下ろしながら、叢雲は溜め息を一つ吐いた。

 

「良いわよ。後で改めて聞くから。それより、この娘が起きたから連れてきたわ」

「初風です。叢雲秘書艦に救出されてからは、この泊地にお世話になっています」

 

 一歩前に歩み出て、敬礼とともに挨拶した。

 

「ご丁寧にどうも。俺は中條 義人(ちゅうじょうよしと)だ。階級は中尉だが、非常時なので俺が代理で最高責任者を務めている」

 

 そう言って答礼してきたが、気になる発言があった。

 

「中尉? 他の最先任は……」

「全滅よ。残ったのは中條だけだった」

 

 叢雲が答えた。

 状況は思っていたより深刻だった。中尉が最先任ともなれば、本来の泊地司令官を含めた高官は戦死かM I A(戦闘中行方不明)だろう。ここまで来ると、指揮系統は壊滅的だ。

 

「……大丈夫、なんですよね」

「この馬鹿が頼りないと思うなら、心配いらないわ。私や他の艦娘もいるし」

「駆逐隊も十四駆しか残っていないし軽巡も居ないが、重巡と戦艦は残っている。空母はいないのが問題ではあるが」

「叢雲さんと中條中尉が居るなら大丈夫です!」

 

 榛名は何故か自信満々にそう言い切った。

 叢雲はともかく、一見すると人間にしか見えない中條が戦力として頼れるとは初風には思えないが。

 

「緊急なんですよね。状況は」

「今から数十分程前、偵察に出ていた艦隊から連絡があった。第十四駆逐隊が壊滅したと言う第二水雷戦隊の生き残りを発見したらしい」

 

 初風の言葉に被せるように、戦艦娘の一人が教えてきた。

 

「それ、本当なんですか!」

「本当だ。発見されたのは第十七駆逐隊らしい」

 

 十七駆が、谷風達が生きてる……!

 壊滅したと思っていた第二水雷戦隊に、生き残りがまだ居てくれた。その報せに初風は視界が滲んだ。

 

「……先に述べた通りだ。泊地に所属している駆逐隊が周辺海域を偵察中に第二水雷戦隊の生き残りを発見し、それを報告してきた。だが、良くない情報もある」

 

 戦艦娘――長門が事細かに状況を説明してくれた。

 

 敗走時に重傷を負った初風と雪風が、ショートランド泊地に収容されたのが二日前。それからすぐ、他に生き残りが居ないかを確認するため捜索を開始した。

 対象は予想より早く見付かっていた。捜索に参加していた重巡洋艦娘の偵察機が移動する有翼の怪物の一群を捕捉し、追跡した先で駆逐隊の一隊を発見したという。

 

「これから増援を出して救助しようという事になったんだが」

ヤツら(・・・)が出没してるのよね?」

 

 その通りだ、と長門が簡潔に答えた。ヤツらとは、2日前まで自分が交戦していた有翼の怪物だろうと、初風には察せられた。

 

 2日前のあの時、初風は有翼の怪物相手に全く歯が立たなかった。

 撃ち放った砲弾は掠りもせず、死角から光線を撃ち込まれて重傷を負わされた。既存の艦娘の戦術ドクトリンが相手であるのは確実で、叢雲が間に合っていなかったら雪風諸共ヤツらのエサになっていたに違いない。

 

「長門さんは、中條中尉が出ていくのは反対なんですよね」

 

 生身の人間が何か出来るとも思えないが、少なくともその様に察することが出来た。

 

「あぁ。ここの最専任は彼だからな、軽はずみな行動はして欲しくはない」

「でも、長門さんの装備では歯が立たないから中條中尉としては反対。多分ですけど、榛名さんも同様に」

 

 指摘すると長門は苦い表情になった。榛名も事情は同じなのか、申し訳なさそうに眉を下げている。

 

「私が行きます」

「何?」

「えっ!?」

「……」

 

 初風が短く告げると、三者三様の反応が返ってきた。

 長門は厳しい視線を向けてくる。榛名は純粋に驚いたような表情を見せる。叢雲は特に動揺した様子ではないが、代わりに溜め息をひとつ吐いていた。

 

「他に向かえる戦力が居るなら考えますが、それを抜きにしても、十七駆は私の姉妹達です。助けに行きます」

「危険すぎる!」

「そうです。初風さんは、ヤツらから受けた攻撃で危なかったんですから!」

 

 戦艦娘二人から強く反対してくる。ヤツらに手も足も出せず、撃沈寸前まで追い込まれた自分が名乗り出たなら当然の反応だろう。

 

「二人の言う通り、初風だけで行かせるのは賛成できないわ」

 

 叢雲もそう言って引き留める。それに反発して口を開こうとした時だった。

 

「行くのなら、私が同行するわ」

「叢雲!?」

「叢雲さん!?」

 

 まさかの申し出に、戦艦娘二人から驚愕の声が上がる。

 

「叢雲秘書艦……?」

「ヤツらに沈められそうになったとは言え、それでも生き延びた事に変わりはないわ。あの神通の指揮下にあったなら素質もあると思うし」

 

 「それに、」と叢雲は前置きして。

 

「止めても行く気でしょう?」

「はい!」

 

 投げ掛けられた問いに初風は即答した。

*1
初風と雪風の原隊。旗艦である神通を始め、陽炎型駆逐艦を多数が配属していた

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