真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

102 / 112
第百二話

「――で、あの男って下心見え見えでホンッッット最悪」

 千花が言葉とは裏腹に満更でもなさそうにつぶやくと、真代が相槌を打った。

「千花ちゃんはモテますから大変ですね」

「わふー、私はダンベルが持てるほうが幸せだわー」

「さすが一子だな。言葉遊びは脳に良いことだ。筋肉を鍛えるほど脳は活性するし、運動によって記憶力もアップする。魅力的な女になるために、実に合理的な答えだ。嫁にはやらんけどな」と慶一が発すると、「ちょっと、前口君うるさい」と千花が睨み、一瞬空気が止まったが、またすぐに時間は動きだし、ガールズトークが始まった。

「そういえば千花ちゃん痩せましたか?」

「マジ? わかる?」

「ダイエット成功ですね」

「今流行の糖質制限ダイエットが効いてるのかも」

「わふー、私はご飯を食べないとエネルギーが保たないわ」

「さすが一子だな。目先の餌に釣られない思慮深い考察だ。糖質を取ることにより、トレーニングに必要なエネルギー源となるグリコーゲンの量を高めておけるから、長い練習時間でもスタミナが持続しやすくなって、運動強度が高いトレーニングもこなしやすくなる。そして、筋肉が付けば太りにくくなって、魅力的な女性になるってもんだ。まぁ、嫁にはやらんけどな」

 慶一が強い口調で言うと、それ以上に強い口調で千花が「前口君……マジでうるさい」と睨みつけた。

「なんだよ。オレがここにいちゃダメなのか?」

「いろいろな意味でうるさいのよ。現実的な意見とか、贔屓的な意見とか――あと、画面的にとか」

 千花は一子の顔を見てから、慶一の顔を見た。

 一子はまだ子供化したままで、慶一の膝の上に乗っていた。

 顔を見られた一子は「わふ?」と、なにもわかっていない顔で慶一の顔を見上げた。

「オレたちのことはいいから、若い者は話を続けてくれ。ほら、ダイエットに成功したんだろう。たとえ脂肪が減ったんじゃなくて、体の水分が抜けただけだとしても、それは素晴らしいことだ。むくみは健康の敵だからな」

「超話しにくいんですけど……」と千花は呆れたが、急に思いついた顔で慶一の目を見た。「ねぇ、慶一くぅん」と甘ったるい声で呼ぶと「食べるだけで痩せるレシピとかないの?」と上目使いで聞いた。

「ある」

「ほんと!?」

「この一子の顔を見てるだけで、オレはなにも食べる気がしない。幸せのレシピイコール痩せるということだ」

 慶一は興味のない話題に一瞬のうちに寝た一子の頭を撫でながら、この上なく幸せな顔で言った。

「前口君に聞いた私がバカだったわ……」

「前口ちゃんはワン子ちゃんにメロメロですね。お姉さんとして気持ちはとてもわかります」

「委員長も一子可愛さがわかるか。だけど可愛いだけに困ったこともある……。見ろ、あの有害指定人物共を」

 慶一は教室の入口に向かって指を差した。子供化した一子をひと目見ようとする野次馬と、ロリコンが集まっていた。

「今の一子ちゃんを、邪な目で見る人はお姉さんとして許せません。ちょっと中止してきます」

「真代も面倒見が良すぎるんだから……。それで、前口君はどうするの? 一生そのままの格好でいるつもり?」

 千花は一子のよだれだらけの慶一の制服を見た。話している今も、寝息と共に慶一の胸元に顔を埋めてて制服を涎で汚していた。

「……一生このまま?」

「そうよ。結局昼休みになってもそのままなんだから、少しは危機感を――」

「そんな幸せなことがあっていいのか!? オレは一子を世界一幸せの女の子に育てるぞ!」

「はぁ……なんだかんだ、前口君もしっかり風間ファミリーよね。個性が強いというか……はっきり言って変わり者」

「変わり者の称号一つで、一子の親という称号を得られるなら、オレは世界一の変わり者だ」

 慶一は曇りなき眼で言い切ると、一子の頭を撫でた。一子は起きることなく、静かに寝息を吐くだけだ。

「ワン子も苦労しそうね……将来と言うか、近い未来に色々と……」

「なになに、苦労をさせないためにオレがいるんだ」

「そうじゃないわよ。ワン子に対して恋愛感情がないなら、前口君は将来ワン子の彼氏や旦那と顔を合わせることになるのよ。こんな口うるさい親がいたら絶対苦労するって」

「一子に見合った男なら、オレは一言も文句は言わんぞ。ただそんな男がいるかどうか……」

 なぜか誇らしげに笑みを浮かべる慶一に、千花は別の意味の笑みを浮かべた。

 千花は「それじゃあ、お手並み拝見」と慶一の後ろを見た。

 慶一の後ろでは、真代が少し困って眉を寄せながら立っていた。

「どうした? 委員長」

「あの……またお客さんです」

「お客さんっていうのは、ロリ化した一子をどうにか口説こうとする、田んぼの側溝に張り付くタニシの卵以上にうざったい男達の事を言っているのか? だとしたら、三つの単語で済む。尻の穴、ライター、ロケット花火だ」

 慶一が真面目な顔をして言うと、真代は涙目になって「あわわ……違います」と首を横に振った。「どうやら、ワン子ちゃではなく、慶一ちゃんに話があるようなので」

 真代の後ろには百九十センチはあろうという大型の男が立っていた。

 その男は慶一と目が合うと「一年C組の佐々木健二郎です」と自己紹介と、慶一に合って話したかった理由を述べた。

「なるほどね……」と慶一は男を親の敵のように睨みつけた。「一子に好意的な感情を抱いていて、それを本人に伝える前に。父親のオレと話をしたいと。……オレを父親と呼んだことは及第点だ。だが、誰がお義父さんだ……オマエにそう呼ばれる謂れはない!」

 慶一が机を叩くと、膝に座って眠る一子はビクッと体を震わせたが、慶一に撫でられると再び何事もなかったかのように寝息を立て始めた。

「前口君……矛盾しまくりよ……」と呆れつつも、面白そうだと思った千花は一年生に「ほら、自分をアピールしなくちゃ。特技とか趣味とか、経歴とか、年収とか」と囃し立てた。

「中学の頃は野球部で全国大会に出場しました。川神学園に入学しても野球部に入ろうと思っていたのですが、ここはスポーツ以上に武道が有名でしょう?」

 一年生の言葉に慶一は「知らん」と冷たく返した。

「そうですか、ははは……」と一年生は乾いた笑いをすると、咳払いをして気持ちを取り直し「僕もここでは武道をやろうと空手部に入ったところ、レギュラーに選べれた次第です」

「おぉ、なるほど」と慶一は声を高くするが「……飽き性ね。仕事が続かないタイプ。将来性は見込めないっと」と、どこからか取り出したノートに記入をし始めた。

「あの……それは……」

「気にするな。ところで、佐々木健二郎って名前は聞いたことがあるな」

「実は中学一年で百二十キロ出したと新聞になったことがあります」

「いいや、それじゃないな」

「エレガンテ・クアットロの最有力候補だったとか」

「いいや、それでもない」

「まさか……先日捕まった下着泥棒の名前と似ているからとか……」

「それだ。まぁ、深い意味はないから気にするな。で、中学時代のポジションは?」

「えっと……一応エースで四番でした」

「なるほど、一応ね。受け答えが曖昧……流されて浮気するタイプと。それで、ここにはなにをしに?」

「川神先輩にアプローチを掛ける前に、前口先輩に一言断っておくのが礼儀だと思いまして」

 一年生は誠意を見せようと、慶一の目を真っ直ぐに見て言った。

「アプローチってのは、口説くってのを気取った言い方にしたのだろう?」

「えぇ……まぁ、そうかもしれません……」

「なるほど……気取り屋と」慶一はしっかりノートに書き込むと、わざと音を立たせて閉じた。「お越しくださってどうも。もう二度と来ないように、お帰りはあちら。一年の教室と同じ構造だ。バカじゃないなら、真っ直ぐ歩いて出口へ向かえ。わからないならハッキリ言おう。来た道を戻って、オマエの地図からは消しとけ。じゃないと、一生消えない贅肉をオマエの腹に残すぞ。わかったら消えろ。ダッシュだ!」

 妙な慶一の気迫に気圧された一年生は、慶一の言葉通りダッシュで教室を後にした。

「まったく……一年が色気付くなんて五十年は早い。そう思うだろう? 千花ちゃんも」

 慶一が横を向くと千花と真代の姿はなかった。慶一に呆れてさっさと帰宅してしまったのだ。

 そして、慶一が再び前を向くと、誰もいなかったはずの椅子に英雄が座っていた。

「一子殿と交際をするための試練を受ける場とはここか!」

「帰れよ……」

 

 

「ってことがあったんだ、モロ。大変だっただろう」

 放課後、慶一は教室で深い溜め息をついた。

「まぁ、ワン子はあれで結構モテるからね」

「違う! 世はロリコンの巣窟となったんだ。だからオレが守る必要がある」

「認めようよ。ワン子は意外にモテるってことを」

「なにが意外だ! 健康、素直、愛らしい顔に、ときおり見せる自慢げな笑顔、おひさまの匂いに、突然映える犬耳、幸せそうに食べる顔。それがオレの膝に上で寝てるんだ、そりゃ……父親になるだろう」

 慶一は膝に座って眠る一子の頭を撫でてていった。

「その光景。今日一日中見ていた気がするよ。うちのクラスだけ、父兄参観をしてたみたいだもん」

「父と兄。合わせて父兄か……モロ……オマエは天才的な言葉を生み出したかもしれないぞ」

「元からある言葉だよ! それで、どうするのさ。この貢ぎ物の山を」

 慶一の隣には、一子を落とすにはまず慶一からという噂を信じたものから、各々の故郷の名産品を渡しに来ていた。

「食うに決まってんだろう。ありがたく色々作るよ。だいたいなんで今日なんだよ。ロリコンどもめ」

 

 

~一方、葵ファミリーの帰り道~

「ん? ユキ呼んだか?」

「ハゲのことは呼んでないのだー。それより早く帰ろー」

 

 

「あれでしょ、慶一の膝の上で寝ているワン子に、あわよくば聞こえてればってアピールも兼ねてるんでしょ。みんなチャンスを狙ってたんだと思うよ。前も九鬼君にケーキを奢られたとかあったでしょ」

「ロリ化した一子を見て頬を緩める変態共に、一子をやるかってんだ。ロリコンめ」

 

 

~一方、葵ファミリーの帰り道~

「若? 今呼んだだろう」

「いいえ、呼んでませんよ。早く帰りましょう」

「なんでユキも若も早く帰らそうとするんだ? なにかあったか」

「そういう契約なので」

「契約?」

「はい」

 

 

「慶一以上に頬が緩んでる人はいないと思うけどね。そんなにお父さんて呼んでもらいたいの?」

「モロ……見くびるな。それは違うぞ」

「さすがにそうだよね」

「オレはパパと呼んでもらいたいんだ!」

 慶一が人目もはばからず大声で言うと、一子がもぞもぞと動き「パパ……?」とつぶやいた。

「そうだ、オレがパパだ」

「パパ……? なに言ってるの? ……慶一」

 一子はあくび混じりに、起き抜けの疑問を慶一にぶつけた。

「オレは一子にパパって呼ばれたら幸せだって話をしてたんだ」

「わう!? 慶一は慶一でしょ。そんな恥ずかしいこと言えないわよ……」

「頼む! 一回でいいから、オレをパパと呼んでくれ! 子供化してるうちに……頼む!」

 慶一が両手を合わせて必死に頼み込むと、一子は「しょうがないわねぇ……。子供に戻ってる今だけよ」と前を置きを置いて、慶一を「パパ」と呼んで甘えた。

 慶一はこれ以上にない至福の笑顔を浮かべて「見たか!? モロ? オレをパパと呼んだぞ」と自慢気に言った。

「見たよ。不憫すぎて誰も言わなかったか、自然すぎて気付かなかったかはわからないけど、ワン子のロリ化は昼休みが終わるのと同時に治ってたよ……」

「なに!?」と慶一が驚くと、一子も「わう!? 気付かなかったわぁ」と驚いた。

「二人は満足そうだけど、僕は不満なんだからね。……ワン子が僕をママと呼んでくれないから……」

「京!?」

「心の声をアテレコしてみました」

「それはアテレコじゃなくて捏造だよ!」

 

 

~一方、葵ファミリーの帰り道~

「若ぁ……オレ、なんか大事なイベントをスルーした気分なんだが。例えるなら同人末期のヒロインのロリ化ネタに混ざれなかった気分だ」

「とても具体的ですね、準。ですが、登場人物はみんな十八歳以上のはずですよ」

「メタ発言禁止なのだ」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。