真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第百十話

 宇佐美との近々の約束を取り付けた帰り道。慶一は学校の階段で、ヨンパチに呼び止められていた。

「おい、慶一! パンツの話はどこにいったんだよ!」

「……いいか? ヨンパチ。朝の挨拶はおはようで、帰りの挨拶はさよならだ。日常的にパンツの話なんてのはしねぇんだ」

「オレはするぜ」

「なら、そのファンタジーに世界にオレを引き込むな……」

「慶一が言ったんだろ。中華娘達の蒸し蒸しパンツを手に入れてくるって」

 ヨンパチは忘れたのかと慶一の肩に手を置いて、細く長いため息をついた。

「言ったか? 本当にオレが?」

「確かに言ったぜ。オレの妄想の中での慶一がな」

「……じゃあ、妄想の中のオレに伝えてくれ、頼むから表舞台には出てくるなってよ……」

「慶一! すましてんじゃねぇよ! これは大問題なんだぜ。日本に現れた中華娘達。これはもう新たな三国志の幕開けと言っても過言じゃねぇ! 三国志イコール三つ巴。三つ巴イコール三角形。底辺×高さ÷2=無限大だぜ」

「一番無意味な三角形の面積の求め方だな……」

 慶一が呆れて帰ろうとすると、突然井上が現れて慶一の肩を掴んだ。

「おい、今誰かロリコニアの話をしなかったか?」

「してねぇよ……」

「でも、みつどもえって言っただろ?」

「言った。だからなんだよ」

「みつどもえとパンツの話でオレを呼ばないってことあるか? みつどもえ+パンツ=ロリコニアだぞ。ロリコニア王国の上級国民のオレがいないでどうする気だったんだ」

 井上は自分がここにいることに感謝しろとでも言いたげに頭を振った。

 ヨンパチに右肩を、井上に左肩を掴まれた慶一に逃げ場はなかった。階段を降りてくる生徒達に怪訝な目を向けられるもなすすべはない。

「いいか……よく聞け、バカとバカ。オレを巻き込むな……オレまでバカって呼ばれたら、三バカって呼ばれちまうだろ。そんなユニットは組みたくねぇんだよ、オレは」

「慶一……」と井上は真面目な表情で詰め寄った。「オレは情報を共有しろって言ってんだ。もし、公孫勝の湯上がり髪フキフキとか、体フキフキとか、大事なとこフキフキとかしてたら……てめェの頭ぁ……潰れたトマトみてーにしてくれんゾ……」

 井上は頭に血管を浮かべて慶一を睨みつけた。

「井上……オマエは発言に気をつけろよ……。明日の朝刊載るぞテメー。……まじで。ここで人生終わらせたいのか?」

「人生は始まったんだよ。まるで三国志に転生したような気分だ。御主人様と呼ばれるもよし、種馬と呼ばれるもよし、隊長と呼ばれるもよしだ。どこにいてもロリはいる、素晴らしき世界だ。オレはこの小さな街を出て世界を旅するのさ」

「オマエはどっちかと言うと戦国時代だろ。いいか、いくら金を積まれても、パンツなんか持ってこねぇぞ」

「なんだよ、国際問題を恐れてるのか? 男らしくないぞ」

 ヨンパチは煽るように言うが、慶一がそれに乗ることはなかった。国際問題よりなにより、百代が恐ろしいからだ。もし、他の女の下着をどうこうしようものなら、なにが起こるかわかったのものではない。

「とにかく、中国かしまし娘達のことは諦めろ。どうしても、どうにかしたいならオレを頼るな。名探偵と万事屋に頼め。こっちは今日の晩飯のことを考えるのに忙しいんだ」

 

 

 残暑の厳しい、生ぬるい風が肌を撫でていく晩。

 ネギにショウガにミョウガ。薬味の匂いが湿った空気で色濃く広がっている。

 慶一は首にかけたタオルで額から流れる汗拭きながら台所に立っていた。

 洗った大葉をキッチンペーパーで包み、蚊でも潰すように乱暴に三回叩く。キッチンペーパーを広げると、ほんわりと大葉の香りが漂ってきた。大葉を海苔巻き状に丸め千切りにしていく。太い葉脈が切れる音は、なんとも心地よいものだ。

 次に、持ちやすい大きさに切った大根に切れ込みを入れて、間に種を取り水でふやかしておいた鷹の爪を挟み込む。後は中の鷹の爪が飛び出てこないようにしっかりと握り、目の細かいおろし金でひたすらおろしていく。それをザルで軽く水気を切れば、ニンジンをすりおろしたかのような綺麗なオレンジ色をした紅葉おろしが完成する。

 あらかた薬味の準備を終えると、水を張った鍋と空の鍋二つを火にかけて、空の鍋は弱火で胡麻を炒る。

 水の入った鍋は沸騰したらそうめんを入れて茹でていく。

 グツグツと煮え立つ大鍋は地獄の釜のように思える。中では細い絹糸が飲み込まれていくように、そうめんが踊っていた。

 胡麻から油が滲み出て、香りが高くなりはじけだすと、匂いに釣られたのか一子がやってきた。

「お風呂に入った後は、ちゃんと乾かさないと風邪を引くわよ」

「……今のオレに冗談を言うと、晩飯に影響するぞ。一人だけ鍋そうめんは食いたくねぇだろ」

「あわわ……怒んないでよぉ」

 川神院人数分のそうめんを茹でると、台所の湿度はピークに達する。服を着てサウナに入っているようなものだ。

「もう少しでできるから、おとなしく待ってろ」

「はーい」と返事をしたものの、一子は何か言いたそうに、そうめんが茹でられている鍋を見つめていた。

「また、そうめんか……」

 一子の思いを代弁したのは、涼しいところを求めてウロウロしていた百代だった。

「だから、気を使って三日に一回にしてるだろ」

「それでも多いぞ」

「文句があるなら、思考停止でそうめんを送りつけてくる奴に言え。なにがお中元だ。んなもん送ってくるなら、百円でもいいから金を寄越せってんだ」

 慶一は止めどなく流れてくる汗をタオルで拭きながら言った。

「やさぐれてるわねぇ」

「こんなのは、そうめん会社の陰謀だ。恵方巻きもバレンタインも全部な。踊らされてんじゃねぇよ、日本人」

「昔の大和みたくなってるぞ。普段はそういうのに乗っかって商売するくせに」

「グチってのは自分のことは棚に上げるからいいんだよ。そっちこそ、少しは一緒に苦しもうとか思わねぇのか」

 百代も一子も台所の中には入ろうとせず、入り口から遠巻きに慶一に話しかけていた。

「ちゃんと苦しむぞ。この後は飽きたそうめんを食べるんだからな」

「いっそのこと、流しそうめんにしたらどうかしら。楽しいし、日本の夏と言えばやっぱり流しそうめんよ」

「いいな。キャップに頼めば流し台も作ってくれるだろうし。ウチのそうめんもなくなって一石二鳥だな」

 百代と一子の二人は、あーでもないこーでもないと楽しそうに流しそうめんの計画を立て始めた。

「おもしろいうこと言う」慶一は感情のない笑いを響かせた。「結局茹でるのはオレじゃねぇか」

「そうだぞ。私達は今、どうやって飽きたそうめんを食べようか話していただけだからな」

「飽きたそうめんが、不味いそうめんに変わる前に手伝ったほうが身のためだぞ……」

 慶一は湯気の中から不気味な笑顔を覗かせた。

「この中に入るのは勇気がいるわね……」

「伸びに伸びきったそうめんを食いたくなけりゃ、地獄へ来い一子」

「よしきた! 勇往邁進よ!」

 台所に足を踏み入れた一子。一歩進むごとに顔に湯気がまとわりつく、慶一のもとに辿り着くろこには、運動で一汗流したような状態になっていた。

 そして、慶一なら苦労して持ち上げる大鍋を軽々と持ち上げてザルにあげる。

 その間、慶一は炒り上がった胡麻を皿に移していた。

「よし、盛りつけるぞ。やり方は簡単だ」

 慶一は冷水で洗ったそうめんを人差し指で引っ掛けるようにつまみ上げると、上から蛇口の水を当ててた。水圧で真っ直ぐに整列したそうめんを人差し指に巻く。巻き終えると芯にしていた人差し指を抜き、一口分に丸まったそうめんを皿に持った。

「おぉ、上手いもんだな」

 相変わらず入り口にいる百代が呑気に拍手を送る。

「眺めてねぇで、百代もやるんだよ。台所を覗いた者は、無条件でオレを手伝うってルールができたんだ」

「慶一もやれよー」

 百代は一子に任せて別のことをし始めた慶一を非難する。

「オレは次の分のそうめんを茹でるんだ。見ろよ、腹をすかせた狼が集まってきた」

 いつの間にか台所の入り口には、トレーを持った修行僧が並んでいた。

 川神院はうどんやそばなどの麺料理を出す時は、伸びるの防ぐためにセルフサービスになっている。

 茹でたてを食べられるし、ツユも薬味も好きな様にできるので好評だった。――茹でる慶一以外には。

「なんか、納得いかんぞ……私も食べるために台所に来たのに」

「暇な奴は台所に様子を見に来るからな。呪うなら暇な自分を呪え。立ってる者は親でも使えって言うだろ。オレは学長だって使うぞ」

「そういえば先週くらい、じいちゃん汗だくで歩いてたわ」

「あれから寄り付かなくなっちまった。麺を茹でてる時はな」

「台所にトラップを置くのは反則よぉ……。絶対に誰でも引っ掛かるわ」

 

 そして、全員分の麺を茹で上げる頃には、三人は汗だくになっていた。

「暑いし、お腹が空いて限界よぉ……」

 一子はその場で崩れるように座り込んだ。

「これで、残り物を食わされるんじゃ割にあわないぞ」

 百代も一子の横に腰を下ろした。

 慶一だけはまだコンロの前に立っていた。

「残り物には福があるって言うだろ」

 そう言った慶一の手元からはジュウジュウ弾ける音が聞こえる。

「おぉ、天ぷらの匂い。春夏秋冬どの季節でも、この匂いは素敵だわぁ」

「春夏秋冬どの季節でも、余ったものを処理できる天ぷらはいいぞ。油の処理だけ面倒だけどな」

「というか、ワン子の為のような気がするぞ……」

「そりゃ一子の為だからな」

「なにをー! ワン子じゃこんなことできないだろ」

 百代は慶一の口にキスすると、甘噛するように唇を動かす。濡れた唇は艶めかしい水音を奏でる。

 慶一は百代の唇を深く貪ろうと、頬に手を付けて、撫でるように横髪を持ち上げる。そこには蒸れた匂いが濃く沿みついていた。

 

 

「ということがあったんだけどよ」

 慶一は秘密基地で、ガクトとモロの二人に昨日の晩の話をしていた。

「……自慢か? ノロケか? 拷問か? どれにしても、オレ様の腹の虫は収まらねぇぞ」

「食いたけりゃ勝手に食いに来いよ。余って困ってんだ、そうめん」

「そっちの話じゃねぇよ!」

「そっちの話をしてんだよ。捨てるわけにもいかねぇし、残ったら来年の分も合わせって物すげえ量になるしな」

 そう言って慶一はソファーに深く腰掛け直す。顔の位置が高くなると、生ぬるい風が頬をなでた。

「僕も最後の部分はいらなかったと思うけどね……。無理に今食べなくても、冬に食べればいいんじゃないの。僕は温かいそうめんも好きだよ」

「冬といえばうどんだろ。冬に食べるそうめんはそうめんじゃねぇよ。なにになるかわからねぇが、そうめんではねぇ」

「僕もわからないけど、慶一がただ難癖つけたがってるだけっていうのはわかったよ」

 モロの冷ややかな視線が、慶一に突き刺さる。

「そんなことよりだ! オレ様達はこうやって秘密基地にこもってるから、出会いがないんじゃと思うわけだが」

 ガクトがテーブルを叩いて立ち上がった。

「過去何回も議題に出て、答えがでないもんを今更どうしろってんだよ。人の体から湧き出る汗が、湿気となって蔓延してる街を歩きに行く気か?」

「嫌な例えをすんじゃねぇよ……。いっそ汗をかきにジムに行くってのはどうだ?」

「おい、筋肉ダルマ。メンツをよく確かめろよ。モヤシ二人がジムに行ってみろ。筋肉の熱気であっという間に茹で上がるぞ。モヤシってのはサッと茹でるのがいいんだ。サッとな。なっ、モロ」

「その言い方だと、あんまり同意したくないんだけど……。でも、どうせここにいても暑いんだし、思い切って外に出てみるっていうのもありかな」

「そうだな……。この部屋は扇風機すらないからな。あっても電気引いてねぇから動かねぇし。川沿いでも歩けば、少しは涼めるだろ」

 慶一は少しでも夜風に当たろうと、窓に身を乗り出した。

「つーかよ、慶一ののろけ話を聞いて思ったんだけどよ。ワン子はともかく、モモ先輩って慶一に甘えすぎじゃねぇか?」

 ガクトは今までのことを思い出しながら言った。百代が慶一に甘えているところはよく見るが、慶一がモモヨに甘えているところは見ていないからだ。

「それがなんだってんだよ」

「慶一がモモ先輩に甘えてるところを見てみたいってことだ。暇つぶしにいいだろ? あわよくば、ベタベタし過ぎだって殴られてこっちの世界に来るまでを見届けたい」

「後半はどうかと思うけど……前半は興味あるね」とモロは乗り気だった。「慶一が甘えたら、どんな反応するんだろうモモ先輩って。僕達風間ファミリーの時は、やっぱりひとつ年上の余裕を見せるけど、慶一にみたいに恋人だとまた違う反応をするんだろうなーって」

「んな、恥ずかしいことするかよ」

「するんだよ」とガクトは携帯を慶一に見せた。

 そこにはキャップに送った。今週の金曜集会の議題についての内容が書かれていた。慶一が百代に甘えたらどうなるかというドッキリをする。

 キャップにとっては恋人のことなどどうでもよかったが、ただ一言ドッキリという言葉にだけ惹かれて、もうすでに決定事項になっていた。

 

 

 

 

 




※パロディ元
疾風伝説 特攻の拓
カメレオン
素晴らしき哉、人生!
無双シリーズ
銀魂
名探偵コナン

実は一話から最新話まで、毎話毎話まじこいらしくいくつかパロディネタを入れているんですが
元ネタ知りたい人がいるかもと、テストで今回だけ元のタイトルを載せてみました
超暇な人は色々探してみてください
もし全てを見つけたら、超絶暇人でどうしようもない奴だけどオレのベストフレンドの称号を授けます
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