真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第十二話

 不思議なものでコンビニの中をぐるりと一週回ると、当初の目的以外のものが買い物カゴに入っていたりする。

 398円の海苔弁に105円の1リットルの紙パックのお茶。

 ここまではいいのだが、適当なコンビニコミックスに少し割高な季節限定のデザート。500円くらいで収めようとしていたものが気付けば倍近くの値段になってしまっていた。

 レジの横にあるホットスナックのコーナーもなかなか魅力的だが、これ以上コンビニの策略に嵌ると財布の中にある野口英世を二人出さなければいかなくなりそうなので止めておく。

 紙幣は硬貨に崩すとなぜか財布の紐がゆるくなってしまうからだ。壱万円札が五千円札に、五千円札が千円札に、千円札なんていうのはあっという間に小銭に化けてしまう。

 会計を済ませ自動ドアの電子音と共に外に出ると、二つに結った髪を風になびかせながら独り言を呟く少女の後姿が見えた。

 叩きたくなるような堂々と張った尻だが、流石に尻を叩くほど勇気もないので肩を叩く。

「よう、まゆっち」

「け、慶一さんこんにちは!」

 物腰は柔らかいが、まだ少しぎこちなさの残る挨拶を返してくれる。下手糞な笑顔が少し怖い。

 この少女は黛由紀江と言い。今年入学してきた一年生だ。長い黒髪を二つに結っていて、顔立ちは可愛いでも美人でもなく凛々しいという言葉がぴたりと合う。

 ふと視線を下ろすと大事そうに胸に何かを抱いている。

「買い物帰り?」

「はい。料理の幅を広げようとレシピ本を」

「まゆっちってば研究熱心だからなー」

 馬のストラップもとい松風との絡みが始まる。最早独り言ではなく一人会話だった。

「レパートリーが増えた方が作るのも楽しいしな」

「そうですよね。慶一さんは何がお得意なんですか?」

「オレはお菓子作りかな」

「慶一って女子力たけー!」

「そんじゃ、男らしくナッツ入りチョコでも作るか」

「おいおいセクハラだぜ、まゆっちってば純情なんだから勘弁してくれよー」

 松風が隠語に反応するということは、意外にまゆっちは耳年増なのかもしれない。

「そ、そういえば慶一さんも何処かに行った帰りですか?」

「そうそう。すぐそこのコンビニで遅めの昼食を」

「料理上手なのにコンビニ弁当なんて怠慢だぞー」

 本人とは違い流れるように言葉が出てくる松風。

「体に悪いものを食べたくなるのが人間なんだよ。秘密基地で食おうと思うんだけどまゆっちも来る?」

「はい! ご一緒させていただきます!」

「まゆっちを誘うなんて見る目あるぜ」

 馬のストラップと会話する姿を他人が見れば慶一も間違いなく変人の一人に仲間入りだろう。 

 

 

 秘密基地でコンビニの弁当の袋を破く。

 白身魚のフライにタルタルソースがかかっている。蓋にソースが付かないようにとビニールを一枚タルタルソースの上にのせて工夫されているが。これがなかなかの曲者であり、そのビニールにソースがこびりつくもんだから、結局は箸でこそぎ落とさなければならない。

 それに鶏の唐揚げ一個に、半分に切られたコロッケと揚げ物が続く。それにレンコンとごぼうの金平に申し訳程度のポテトサラダが付け合せに入っていた。

 食べやすいように海苔を箸で切っているところで思い出した。

「もう一週間経つんだな、まゆっちとクリスが京達に怒られてから」

「あわわ、その節はご迷惑をおかけして申し訳ございません!」

 元はクリスの一言が原因だが、新メンバーのクリスとまゆっちがファミリーと衝突してしまったのが先週の秘密基地での出来事。衝突と言うにはあまりに一方的だったが……。

 簡単に言えば価値観と価値観のぶつかり合い。

 慶一から見れば両方の言い分に理解出来るところも出来ないところもある。 むしろファミリーの大人気なさの方が目立ったと感じると同時に、秘密基地を思う慶一とファミリーとの温度差に少し溝を感じるくらいだった。

 たまにこの一歩引いた物の考え方が嫌になる。中にいても外から漫然と眺めているようだ。そんなんだから適切な言葉が浮かんでこない。

 そんなことを考えながらキャップが来るまでは無言で過ごしていた。

 ……だからだろう。

 前よりも意識して秘密基地に足を運ぶようになっていた。

 思い出しながら弁当を食べていると、揚げ物の多さのせいかやたらと喉が渇く。一緒に買ったお茶をコップに注いでいると、レシピ本を見ていたまゆっちに話しかけられる。

「友達ってなんなんでしょうか?」

 答えが有るようで無い質問を大真面目な顔で投げかけてくる。

「とんちは苦手なんだけどな」

「そんな難しい話じゃないです。慶一さんの価値観でいいですから」

 慶一は顎に手をつけて考える。ポーズ自体には意味はないのだが、この方が考えがまとまる気がするからだ。

 友達とはなにかなんてことを考えるのは小学校の授業以来だろう。

 一緒に遊ぶ、あだ名で呼び合う。崇高な答えを求めているわけではないのだろうが、どうも浅いことしか浮かんでこず口から言葉が出ない。

「そんなに見つめても出てこないぞ」

 なかなか一言目が出ないので心配になったのかまゆっちは心配そうに慶一の顔を覗いていた。

「そうですよね! すいませんすいません! ゆくっり考えてくださって大丈夫なので!」

「ゆっくり考えても出なさそうだ、大和辺りに聞いてみるのがいいんじゃないか?」

「そうですか……」

 悲しげに当惑した顔を見ると、何か言ってあげなければという気持ちになる。

「まぁ友達に当てはまるかわからんけど、無言の心地良さかなぁ」

「無言ですか?」

「無言の時間が苦にならないっていうか。もちろん一緒に何かする楽しさって大事だと思うけどな」

「難しいですね」

 いつの間にか外では雨が降っており、窓ガラスに叩き付けられている雨粒が音を奏でていた。

 慶一は食べ終えた弁当の空き箱をコンビニのビニール袋に入れて縛る。

「少なくともまゆっちを含めてファミリーのメンバーは苦にならんよ。大抵皆騒がしくしてるけどな」

「はい! 松風、友達っていいものですね!」

「この調子でもっと友達増やして行こうぜ」

 意味は違うが人馬一体という言葉がぴったりだ。

 まゆっちの掌に乗せられた松風は表情こそ変わらないが、何故か楽しそうにしているように見えた。

「話は戻るけど、ああいう場は大切だと思うぞ」

「こないだの秘密基地のことですよね」

「そうそう。クリスじゃないけど、意見のぶつかり合いってのは友達として大事」

「……意見ですか?」

「どっちか片方が飲み込んでばかりじゃ不公平だからな。飲み込まなければいけない意見ってのもあるけど、友達いなかったんだしそういう微妙なところわかんないじゃないか? 喧嘩とかしたことある?」

「妹の沙也佳とはあります」

「家族と友達じゃまた違うからな。相手を怒らせて、自分が傷つけられて人の沸点とか触れられたくないとことか学んでいくんじゃねぇか?」

「うぅ……。難しすぎて挫折しそうです」

「まぁ、偉そうなこと言ってるオレでも何気ない一言で人を傷つけることもあるからな。難しく考えるのは、そういうケースにあってからでいいと思うぞ」

「慶一さんって大人なんですね。こんなちゃんとした考えをお持ちなんて」

「見直したぜ!」

 おそらくまゆっちの本音の一端担っている松風だが、それに見直されると言うことは頼りなく見られていたらしい。

「今度友達が出来た時は、もうちょっと答えやすい質問をすることを進めるぞ」

「は、はい! そうですよね。慶一さんが話しやすいからつい」

 なんとなく嫌な予感がする。言われなれているが許容したくないあの一言。

「もしかして爺さんに似てるとかじゃないよな?」

「それです! なんとなく雰囲気が似てるので話しやすいのでしょうか」

 やっぱりと思うのと同時に体の力が抜けた。後頭部をソファーの背もたれに乗せ、腕を身体の流れに任せてだらんと遊ばせる。

「慶一さん! いったいどうしたんですか!?」

「……いや、シュークリームも買ってきたから一緒に食おうや」

 二つ入りのシュークリームを小皿に載せ二つに分ける。春らしい苺のシュークリームはクリームの色だけではなく輪切りにされた苺も入っていた。

「いただきます。のんびりしてますけど川神院のお食事はいいんですか?」

「毎日作ってるわけじゃないからな、今日は別の人の番」

「当番制なんですね」

「そういうわけじゃないんだけどな。学生だし遊ぶことも大事って休みをくれるんだよ」

「ちなみに川神院でお世話になった経緯というのは?」

「ずいぶん質問するなぁ」

「すいませんすいません! せっかくお友達になったので色々知りたくて。慶一さんは寮生でもないのでなかなか話す機会もないので――」

 癖と言うのはなかなか直すことは出来ない。あやまり癖って言うのも珍しいと思うが、とにかく頭を勢い良く下げている。

「大丈夫大丈夫、怒ってるわけじゃないから。簡単に言うと学費の肩代わりだな。オレの知り合いと学長が知り合いなんで頼んでもらった。で、無期限で支払い待って貰ってる代わりに台所を預かってる感じだな」

「いつもだらだらしてるから知らなかったけど、慶一って結構苦労人なんだなー」

「こら、松風! 一言多いですよ!」

 まゆっちは松風を叱っているが、結局は自分の意見だし二度手間な気もする。が、松風を挟んだ方が会話がスムーズにいくので不思議なものだ。手間をかけるって大事なことだと変なことに納得してしまう。

「まぁ、質問の答えとしてはこんな感じでいいか?」

「は、はい。でも、本当に私ばかり質問して……慶一さんは何か質問ありますか?」

「……ないかな」

「はう! そんなに私に興味がないなんて……」

「質問してやってよー、今ならまゆっちは何でも答えるぜ」

「と、言ってもなー。質問って苦手なんだよな」

「私のことを知ってもらう為にも是非!」

「会話の中で拾ってくタイプだからあんまり改まって質問しないんだよ。現に質問しなくても、まゆっちに妹がいるってことわかったし」

「な、なるほど! 高度な会話術ですね」

「けいいっつぁんってすげー。まゆっちにはとても真似できないぜ」

 このどうでもいいことに感心するのを見ると、本当に人との会話が苦手なのが見て取れる。

 苦手じゃなければ、そもそもストラップと会話しないのだろうが……。

 まゆっちとは別に松風は松風で新しい友達が出来たと錯覚するほど存在感を放っているので、普通に会話してしまう。

 腹話術もここまでくれば芸術である。

 

 

「いやー、突然雨降ってきたから漫画も濡れちゃったよ」

 雨に打たれたモロは足早に扉を開けて入ってくる。

「こんにちはモロロさん」

「慶一とまゆっちは何してたの?」

「哲学のち談話のち賞賛」

「は? なにそれ?」

 モロの疑問ももっともだが、思い返してみると良くわからないことばかりを話していた気がする。

 でも、これが友達同士の会話と言うものだろう。

 

 

 

 

 




原作の最初の盛り上がり所であろう秘密基地のいざこざと旅行の話は、原作の台詞をかなり流用してしまいそうで、二次小説の醍醐味がなくなってしまうのでカットしています。
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