真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第十三話

「ストーカー?」

「いやいや確証があるってわけじゃなくて、その可能性があるってだけらしいぜ」

 キャップが久々の依頼を受けてきたので秘密基地に集まっている。依頼人は女生徒で、どうも元カレにつけられているような気がするということらしい。

「ある程度の物的証拠みたいのないの?」

 慎重派の大和が、動くには正当な理由が必要だとキャップに問いかける。

「それがないんだってよ」

「それじゃ、ファミリーで動くにはちょっとな……」

 キャップの答えを聞いた大和がやはり難色を示す。

「まぁ、今回はその元カレを捕まえるってわけじゃなくて、彼氏のふりをして一日デートしてほしいんだってよ。それで残った奴が後を付けて怪しい奴がいないか確認してほしいんだと」

「それなら大丈夫かな。で、彼氏役はキャップがやるの?」

「やだよ、めんどくせー。大和頼んだぜ!」

 キャップが人差し指を大和に向け言い放つ。びしっと大和に向けられたはずの人差し指は、突然生え出たように現れた京により遮断される。

「夫の不倫は許さない」

「浮気を通り越して不倫って、オレは京と結婚したつもりはないぞ」

「しゃーねぇな……。じゃあ慶一だな!」

 突き出したままの人差し指をぐるりと慶一に向ける。

「オレもパス。痴情のもつれの成れの果てに直接関わりたくない」

「どうすんだよ。今更断れってのか?」

 キャップが珍しく腕を組み悩んでいる。

「モロはともかく、どうしてオレ様に矛先が向かないんだ!」

「モロはともかくって、ガクトも変わんないでしょ!」

「だってモロは初対面の女子と話せないだろ」

「うぅ……。それはそうだけど……」

 こっちでも珍しくモロがガクトに言い負かされていた。

「この二人には無理ねぇ。お姉さまが男装するってのはどう?」

「んんー面白そうだが、私だと胸が収まりきらないからな」

 胸を持ち上げ一子に胸の大きさをアピールする。

 それに素早く反応したのはガクトで、勢いで告白し瞬殺される。

「そんじゃ一子なら男装でいけるか?」

「どーいう意味よ! 私だって直ぐお姉さまみたいにバインバインになるんだから!」

 無言で慶一が一子の頭を撫でる。その意味を知らない一子は気持ち良さそうにごろごろしだす。

「育って欲しいような欲しくないような。これは恋心なのだろうか、なぁモロ」

「僕に聞いてどうするのさ。ていうかそれは親心だと思うよ」

「なごんでどうすんだよ! まず、依頼の話だろ――」

「情けないぞ! 困ってる人を助けるのは当然だ! それなのに男達ときたら」

 クリスが立ち上がりまくしたてる。そしておもむろに拳を突き上げた。

「男らしくキャップと大和と慶一でじゃんけんだ!」

「じゃんけんねぇ、キャップが有利な気もするけど」

「だよなぁ」

 大和の言葉に慶一が同調する。天に愛された男に運要素が絡んだ勝負は流石に分が悪い。じゃんけんなら大和のイカサマも通じないだろうし打つ手無しだ。

「なんでだよ、じゃんけんなんて運だろ?」

「知らずは本人ばかりってか。このままじゃ埒があかないしやるか」

 慶一は指を組み腕を伸ばす。キャップと大和も思い思いに体を動かしたり、指を鳴らしたりして準備をする。

 そしてキャップの掛け声と共にじゃんけんの体制へと入った。

「よし! いくぜ!」

「「「じゃんけん――ほい」」」

 渋っていたわりには特に盛り上がりどころは無く、皆が見守る中あっさりと勝敗は決した。

「大和に決定だな」

「まぁ、しょうがないか」

「京も文句ないな?」

「……あるけど受け入れるよ。……もしなんらかのアクションがあれば相手の女の頭を射ることになるけどね。くっくっくっ」

 京は受容しているようでしてなかった。どこの馬の骨ともわからない女の子に大和を取られるのはやはり嫌なのだろう。涼しい顔をしているが目の奥が見て取れる程ぎらついており、頭を射るという言葉もあながち冗談ではなさそうだ。

(キャップのデートってのも見てみたかったけどな)

 恋のにおいどころか性のにおいすら感じさせないキャップのデートなんて想像出来ない。当然ファミリーやクラスの女の子といるときは雰囲気が違うのだろうが、まずその違いが想像出来ない。それともこのままの雰囲気なのだろうか……。その方がしっくりくるかもしれない。

 いや、でも――

 キャップに対してこういう考えをするのもいけない気がしてきて頭を抱える。

「どうした? 慶一」

「いや、なんか踏み絵した気分」

「ふみえ? あぁ、あの巨乳グラビアアイドルの」

 眼帯ブラなんてもう誰も知らないだろうに、ふみえ違いをするガクト。本人はそれを気にする様子もなく、Fカップがどうとかギルガメがどうとかぶつぶつと話している。

「とにかく明後日は頼んだぜ大和!」

「明後日って急すぎるだろ」

「こういうのは早いほうがいいんだって」

「それにしても用意とかあるんだから」

「用意も何もフリなんだから、いつも通りでいいだろ」

「キャップの言う通り、変に気合入れたら不自然だしいいんじゃねぇか」

「キャップも慶一も他人事だと思って……」

 それでも大和は携帯を弄り誰かに連絡を取っている。出来る範囲では用意をしとくつもりだろう。

「大和は彼氏役として、残りはどうするんだ? 全員でぞろぞろついて行くわけにもいかんだろ」

「直接後をつけるのは、念のために気配の消せる女子連中の誰かだな。残った奴は二つくらいのグループに分かれて、デートコースに先回りってのはどうだ」

「それなら万が一の見落としもないかもね」

「で、誰がやるかだが――」

「はいはーい! 私やるわ!」

 一子がソファーからぴょんと飛び降り元気に手を上げる。その際にテーブルにぶつけて倒れそうになったコップを支えながら京も続く。

「私も、ワン子が暴走した時に止める役が必要だし。それに大和の後ろにぴったりくっついて、間違いが無いように監視しなくては……ね?」

 京は意味有り有りとした含み笑いを大和に向けた。

「京さんや。監視するのはオレじゃなくて、オレ達を監視する何者かを監視するのが役目ですよ」

 流石に大和の後ろにぴったりと張り付くことは無いだろうが、やはり目に付くところには居て欲しいらしい。

「お次はグループ分けだな。とりあえずモモ先輩のストッパー役に慶一だろ」

「おいおいキャップ。私をなんだと思ってる。心配しなくても暴れないぞー」

「えー、だってモモ先輩って大和のことになると結構無茶なことしたりするじゃん。後はクリスはどうよ?」

「自分か? かまわないぞ」

「じゃあ、残りは僕を含めてキャップ組みだね」

「まぁ、オレとモモ先輩は別々の方が何かあった時に動けるからいいけどよ。そうなると二つにしか分けてないけど大丈夫か?」

「モモ先輩と同じでキャップにもある程度ストッパーの役目がいないとダメそうだし。僕とガクトで止められなかった場合はまゆっちに力づくで止めてもらわないと」

「そんな躾のなってない子供みたいな扱い、ひどいぞモロ!」

 多少の不平不満はあったが大体の流れは決まったので、後は大和がデートコースを決めるだけだ。

「何はともあれこれで食券ゲットね!」

「依頼を持ってきたオレに感謝しろよワン子。まっ今回は個人的な依頼だからほとんど取り分は無いけどな」

「それにしてもストーカーなんて、しょーもないことする男もいるんだね」

「京がそれ言うか? 大和のストーカーみたいなもんだろう」

「私のは純愛。その違いがわからないからガクトはモテないんだよ」

「ふふーん、わかってたさ。京を試しただけだからな」

「……ガクト騙されてるよ」

 京に遊ばれてるガクトにモロが呆れている。

「本当にストーカーだったら怖いですね、松風」

「そんなストーカーには茄子投下。なんちってー」

「まゆっちやっと喋ったと思ったらそれか」

「はう!?」

「慶一のつこっみは本当の意味で切れ味抜群だぜ。まゆっちの心はズタズタにされちまったよ」

 いつも通り松風が流暢に戯け話をしていると、百代がまゆっちの細い体を抱き寄せて引っ付きだした。

「本当まゆっちはおもしろカワユイな」

「メーデーメーデー! まゆっちが食われちまう!」

「なっはっは! まるでカク猿か狒々だな」

「オマエは笑いすぎだ!」

 まゆっちに抱きつきながら器用に拳を繰り出してくる。

「最近特に暴力的になった気がするな」

 じんわりと痛みが広がる肩をさする。痛みと言っても軽いもので、いつものじゃれあいの範疇を越えてはいない。

 

 

 秘密基地を出るとすっかり辺りは暗くなっていた。皆に別れを告げた三つの影が電灯に照らされ伸びている。

「それにしても大和がデートねぇ、なんか変な感じだわ」

「人付き合いはいいけど、ファミリー意外とはあんま深く関わらないタイプだしな。どんなデートするかは興味あるな。な、モモ」

「どうして私に聞くんだ」

「愛しの弟のデートだろ。やきもち妬かないのか?」

「ふんっ、デートと言ってもフリだろ。そんなんでいちいち妬くか」

 口ではそう言ってるが、どこか落ち着かないようにそわそわしていた。

「ねえねえ慶一。デートってなにするのかしら」

 言葉に出来ない感情でモヤモヤしている百代とは裏腹に一子は無邪気な質問をしてくる。

「映画、ゲーセン、カラオケ、家でまったり、なんでもいいんじゃね?」

「それじゃあ、ファミリーと遊ぶのと変わらないわよ」

「……変わらないな。まぁ、百聞は一見にしかずって言うしその時まで楽しみとっとけ」

「暴れられる依頼だったら良かったんだけどな。明後日も、女の勘違いだったとかつまらないことにならないといいが」

 百代が退屈そうに道端の小石を蹴飛ばす。

「彼氏役にキャップを指名しなかったってことは、ある程度信憑性はあるんじゃね?」

「口実だったらキャップを指名するだろうしな。慶一はそんな心配いらないな」

 百代は口元を吊り上げニヤニヤとからかう。

「一子にはモテてるからいいんだよ。なー、一子」

「そうねぇ、慶一は美味しそうで好きだわ」

「本当に一子は可愛いなぁ」

 慶一は一子を抱き締め頭を撫でる。

「いやいや、それでいいのか」

「わふー。慶一のこういうスキンシップの取り方はお姉さまとそっくりよね」

「んー、モモと一緒ってのは納得いかないが一子を甘やかす気持ちはわかる」

「私は慶一ほど甘やかしてないけどな。修行に関しては妥協は許さないぞ」

「修行に関しては一子自身が妥協しないだろ。どっちかと言うとオーバーワーク気味じゃないのか」

「ルー師範代も気にしてるみたいだけどな。体を動かした分は休憩もとってるし、今のところは大丈夫だろって」

「念のためにサラダにはトマト多目に入れとくかな」

「この時期のトマトは味が凝縮されてて美味しいのよねぇ」

「夏のトマトだと少し水っぽくなるからな」

 左に百代、右に慶一の影。そして真ん中には一子の影。三人の長さの違う影が電灯の光を浸している。歩く度に揺れる腕の影は、時折三人が手を繋いでるように重なって見える。

 一子はその影を眺めながら一人思っていた。

(……なんかだか親子みたい)

 

 

 

 

(あれ? そしたらお姉さまがお父さんで、慶一がお母さん? なんだかややこしいわぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

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