真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第二話

 とんかつ定食をトレイに乗せて空いてる席を見渡す。初めて学食に来たが値段の割には随分と量があり、トレイを持つ手がおぼつかない。

 他の人のメニューを横目に大盛りを頼まなくて良かったと安堵していると、風間と大和を発見する。知らない奴に囲まれて食べるよりは知ってる奴ら。そんな心持ちで慶一は声をかける。

「隣いいか?」

「どうぞどうぞ」

 そう言うと、大和が隣の椅子を少し引いて座るように促してくれた。

「弁当派の慶一が来るなんてよぉ、珍しいこともあるもんだな。早弁か?」

「早弁は正解。食べたのは川神先輩」

 その言葉を聞いて楽しそうに笑う風間と、迷惑をかけたと謝る大和。二人の対比がおもしろい。

「ずいぶん姉さんと仲いいよな。男で珍しいよね。学校以外じゃ名前で呼んでるし」

「仲が良かったら、学校でも名前で呼ぶと思うけどな。最初は川神先輩だったんだけど。あからさまに興味ないって態度したからな、せめてもの反抗で呼び捨てにすることにした。まぁ、何回か生意気だってぶっ飛ばされてるけど」

「……姉さんにぶっ飛ばされて、よく懲りないな」

 自己紹介のときの無関心の瞳を思い出す。癪に障ったのか、悲しかったのかはわからない。その日のうちに、力で敵わないなら口で勝負と勝手に結論付けた。口喧嘩の最中。自然とタメ口に呼び捨てにとなっていた。何故百代に対して喧嘩腰になるかはわからなかったが、この関係に満足はしている。

「そんな慶一に朗報だぜ!! 金曜集会に顔出してみねぇか?」

 そんなってどんなだよと言いたくなるが、突っ込みは心の中に留めて置く。風間の脈絡のない話題振りには慣れた……。というよりは、諦めている。いちいち突っ込んでいたら話が進まないし、突っ込んだところで気にせず話を進めてくるからだ。その証拠に大和も気に留めていない。

「悪いけど断る」

 慶一はそう言って何回目か分からない勧誘を断り、とんかつにソースをかける。

「なんでだよー。入れよー。おもしれぇぞ」

「キャップ…こういうのは無理に誘っても意味ないんだから」

 こういうとき、場の空気を察してくれる大和は助かる。思えば最初の勧誘の時から風間の無理強いを窘めてくれいる。

「まぁ、楽しそうだと思うよ。風間ファミリーの奴らとは気も合うしな。でも、今日は暇でも毎回金曜には顔だすの無理だからなー」

 というのは建前で、百代と一子は毎日川神院で顔を合せているし、モロとガクトともよく遊ぶ。まぁ、ガクトがいるとヨンパチも加わり猥談になることが多いが、男としてはそういう空気もとても楽しい。無口な京だが、大和と話してれば会話に混ざってくる。クラスの中では京との会話も多いほうだろう。風間に至っては何故か自分を気に入ってくれてるので、結構遊んだりしている。というか、食材取りに付き合わされることが多い。思いつきで振り回されるのはたまったもんじゃないが、結局最後は「あー楽しかった」と言ってしまうのは、なぜなんだろうか。

 今更というか、今のままで充分仲が良いと思う。特に不自由もなく遊びたいときに遊び、朝に会えば「おはよう」の挨拶。別れるときは「またね」の挨拶。友達とファミリー何が違うのだろう。だからだろうか、ファミリーの枠の中に入るということが理解できなかった。

「しかし、こう天気が良いとフラッとどっか遊びに行きたくなるぜ!」

「たしかに釣りでもしてぇな」

「釣り?」

「この時期は、メタボアジって言われるくらい脂が乗ってるアジが釣れるらしいからな」

 昔漁師をしていると言っていた人に聞いた事がある。マアジがシマアジくらいの大きさになっていて美味らしい。

「じゃあ、決まりだな!」

「あん?」

 強引に引っ張られた腕に続くように、両足が不規則に前に出る。外れそうな肩の関節よりも、かんだ舌の方が痛む……。

「ちょっ! キャップ! 慶一を連れてどこに行くつもりだ!?」

「釣りに決まってるだろ! ついでにファミリー入りの説得してくるぜー!!」

 大和がなにか言っているが、どんどん声が小さくなる。聞こえないはずの溜息が、何故か耳元で聞こえたような気がした。

 

 

 砂浜と海面の日差しの照り返しが肌を焦がしていく。緑々しい木々の隙間をぬって吹く風のおかげでそれさえも気持ちいい。ウミネコの群れが堂々と翼をはためせている。それよりも高くそびえる厚い雲は、風に揺れる度に自由に形を変えていく。

「おっ! 今度はダブルだぜ!」

 船に寝転び夏の青空を満喫しているが、魚臭いのが難点だ。

 クーラボックスに鯵が詰め込まれていく。息がいいのでピチピトはねる度に壁にぶつかり鱗が飛び散る。

「よく釣るねぇ」

「慶一もう飽きたのか? 言いだしっぺの癖によー」

 船に揺られて2時間。慶一は2,3匹釣っただけなのだが、風間は昼間を過ぎたと言うのにポンポン魚を釣り上げていく。釣り師さながらの腕前は見事しか言いようがない。

 風間は楽しそうに釣っているが慶一の竿には当りが来ない。

 そもそも天気がいいとしたくなることを談笑の話題に出しただけで、本当に釣りがしたかったわけではないし、百歩譲って言いだしっぺは慶一だとしても、風間を誘った覚えは一度もない。おかしい……。いままで慶一は自分は順応力が高いと自負していたが、ただ流されやすいだけらしい。

「風間は釣り過ぎだ。そんな釣ってどうすんだよ」

「食うに決まってるだろ! 余ったら川神院にわけてやるからよー」

「川神院用じゃ、二人で持てる分じゃ全然足りねぇよ」

 それもそうだなと言って笑ったが、気にする様子もなく次々糸を垂らしていく。

 やめる様子のない風間に呆れつつも、慶一は慶一で久しぶりにゆったりとした時間を楽しむことにした。といっても、やることはアジの下処理なのでいつもと変らない気もする。

 頭、内臓、エラ、皮、ゼイゴ、腹ビレ、尾ビレを取り、三枚におろしていく。歯ブラシを買い忘れたので、血合いを取るのに少し苦労する。

 何故、魚はさばくとこんなに美味そうに見えるのだろうか。

 それを醤油、みりん、酒、おろし生姜を混ぜ合わせた漬けダレに漬け込んでいく。タッパーに入れ、蓋をしたら別のクーラーボックスに入れて冷やす。

 お次は刺身で食べるために準備する。中骨を毛抜きで抜けば楽なのだが、歯ブラシ同様買い忘れてしまった。切りすぎて背身と腹身に分かれてしまわないよう慎重に、両端からV字に包丁をいれて身ごと骨を抜くことにする。背身と腹身に分けてから切ってもいいのだが、せっかくの大きい鯵なので刺身も大きく切りたい。後は、余った鯵をたたきにして、つみれ汁を作ればいいだろう。

 風間が竿を下ろし飽きたの見計らい、鯵のつみれ汁と刺身を勧める。いくら保存技術が進んだとしても、採れ立ての新鮮さには敵うまい。美味いと言い、どんどん胃に入れてく風間を見て満足する。どんなに綺麗な言葉で飾れた台詞より、美味いの一言の方が嬉しいのは何故なんだろうか。

 腹も満たされ惰性で釣りを続けるが、メインは子供の頃見ていたヒーロー番組の話や、そろそろ始まる体育祭の話になっていた。

 が、また唐突に釣りの話に戻る。

「どうせなら、鯵より大物が釣りたいぜ!!」

「……もう、この時間じゃ無理だろ。朝早くにでも来りゃ別だろうけどな」

「それもそうだなー。明日の朝4時でいいか?」

「行かねぇよ!」

 お決まりの効果音がつきそうなほど、見事に突っ込んでしまった。大和とモロの気持ちが少し分かった。ただ、振り回されのもなかなか悪くないと思えた。

「あー、楽しかった。」と独り言を言う自分に気付く。

 

 

 風間が釣りを終え、ファミリーが集まる廃ビルに付く頃にはすっかり日が落ちていた。

「よう! みんな集まってるかー!」

「……キャップ以外はね」

 いつもより遅い風間をファミリーが首を長くして待っていた。

「遅いわキャップ! お腹ぺこぺこよー」

「慶一がいないってことは、説得に失敗したんだね」

 昼間に慶一を連れ去って行ったのを見ている大和は、慶一を連れて来ていないのを確認するとそう決定付けた。

「あー、楽しくてすっかり忘れてたぜ」

 すっかり釣りを堪能し、目的が遊ぶだけになってしまっていた。満足気な顔を見ると、それで良かったのだろうと大和は思った。そもそも、楽しく遊べるための仲間が風間ファミリーなのであって、少なくとも風間と慶一の間では、それは満たされているのだから。

「ずるいわキャップ! 一人だけ美味しいものを食べて!」

「多彩な料理法で舌鼓、日本の味を堪能! ってやつだな」

 風間は昼間に食べたもの思い出したのか、お腹をポンと軽くさする。

 一子がそれを見て、今にも噛み付きそうな唸り声をあげ睨み付けている。

「まぁ、待てワン子! これを見よ! 慶一が飯の上に乗せて冷たいお茶をかけて食えってさ。白飯はオレの奢りだぜ! まぁ、コンビニのだけどな」

 鯵の冷や茶漬けをかっ込むと、生姜の風味が鼻の奥に絡みつく。慶一の料理に感心するメンバーと、それ見て何故か自慢そうにする一子。それにつっこみながら、大和が慶一にお礼のメールを送っている。

「ねえさんって、慶一になにかした?」

 メールの送信完了を確認した後、思い立ったように大和が百代に質問を投げかけた。

 思い思いに他の事をしていたメンバーも、興味があるらしく話しに加わってくる。

「慶一かぁ、おもしれーよなあいつ」

 なにかを思い出しながら風間が楽しそうに言う。

「だって、モモ先輩に喧嘩売るなんて武道やってる奴か不良くらいのもんだろ?」

「あれは喧嘩を売ってるんじゃなくって、口が悪いだけなんじゃ?」

 珍しく京もファミリー以外の人物の話題に入ってくる。

「大方、美少女に構ってほしいんだろう? 私は美少女~愛でる子も美少女♪ 歌とか歌っちゃったりして」

「姉さんご機嫌だね」

「分かるか、おとうと~♪ 明日はじじいが挑戦者を連れてくるらしくてな」

 いつもと変わらないファミリー。いつもと変わらない金曜集会。嬉々たる瞳に隠れる、百代の僅かな瞳孔の開きに気付く者はいなかった。

 

 

 昼間の鯵で拵えたなめろうを肴に酒を飲んでいる。もちろん慶一ではなく学長がだ。

 何が悲しくて学長の酒に付き合わなくてはいけないのか疑問に思うが、開けた襖から覗く月を見ると悪くはないとも思える。少し潰れた様な丸い月が満月になるには2、3日後だろう。

「ほっほっほ。こりゃいい、酒が進むわい」

 なめろうを箸の先で少し取り口に運ぶ。そして日本酒をちびちびと飲む。……羨ましい。酒を飲めない自分の年齢を少し恨む。

「どうじゃ、ここの生活もだいぶ慣れたかのぉ?」

「思ったよりも早く慣れましたよ」

「大変じゃったら、言ってくれもいいんじゃぞ」 

「まぁ、休みたいとき休ませてもらってるし。それに好きなんですよ」

「なにがじゃ?」

「美味しそうに食べてる姿を見るのが」

「……お主じじくさいのー」

 じじいに言われてしまった。

 

 

 

 

 

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